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予告なしで全国各地の中古ショップに完全新作ゲームのカセットを流通させて、クリアできた人数を当てる←(?)「水曜日のダウンタウン」「クイズ☆正解は一年後」藤井健太郎が仕掛けた一年がかりの謎解きゲーム『あつしの名探偵』とは

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まず、今回のインタビューを読んでもらうにあたって、いくつか説明しなければいけないことがある。

今回のインタビューの主題になっているのは、『クイズ☆正解は一年後 presents あつしの名探偵』というタイトルである。

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端的に言えば、これは「2023年、全国各地の中古ショップにこっそり流通させられていた、完全新作ゲームのFC互換機用カセット」なのだ。多分、読者の大半は「どういうこと?」と思うだろう。

本当に文字通り、我々一般人には何の予告もなく、全国各地の中古ショップに誰も知らない新作ゲームのカセットがこっそり配置されていたのだ。実際に手に取った人間からすると、もはや一種のホラーである。ネットにも載っていない謎のカセットが、実は我々の身近なところに存在していたという……。

そしてこのタイトルの大本になっている番組、それが「クイズ☆正解は一年後」

「水曜日のダウンタウン」「クイズ☆正解は一年後」藤井健太郎が仕掛けた謎解きゲーム『あつしの名探偵』とは_002
公式サイトより

TBS系列にて毎年放送されている年末特番であり、ロンドンブーツ1号2号や有吉弘行といった人気芸能人が「その年に起きることを予想する」クイズ番組でもある。

その最大の特徴は、「年始に出題を行い、年末に答え合わせをする」こと。つまり、年始に言っていたことが1年後の年末には本当になっているかもしれないし、年始に出題されたクイズが年末にはとんでもないことになっているかもしれない。

そしてこの「1年間」という余白の大きさを使った企画が、この番組の魅力でもある。

たとえば、昨年度は「都内に住む謎の女性が1年間番組インスタグラムを運用し、定期的にアップする写真をヒントに居場所を特定し捕まえる」というクイズが実施されていた。演者も視聴者も巻き込み、1年かけて展開される誰にも予想できないクイズ番組……それが「クイズ☆正解は一年後」。

さて、ここまで説明してようやく本題に入る!

さきほど紹介した謎のカセットこと『あつしの名探偵』は、この番組の企画の一環である。つまり、この1年間秘密裏に「新規のカセットをこっそり中古に流通させ、1年間でそのゲームをクリアできる人数を当てる」というクイズが進行していたのだ!!

初めてこの企画を聞いた時、流石に耳を疑った……と同時に、いち番組ファンとして「やりそ~~!!」という嬉しさを抑えきれなかった。

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藤井健太郎氏。

そこでお話をうかがうのは、「クイズ☆正解は一年後」プロデューサーである藤井健太郎氏。

まず、この「新規のカセットを中古に流通させる」企画はどう生まれたのか? 現在発売中のNintendo Switch版を含め、このゲームはどう作られていったのか? そして、全国にばら撒かれた『あつしの名探偵』が産んだドラマとは……?

さらに、「水曜日のダウンタウン」「オールスター後夜祭」などの人気番組も制作している藤井氏の番組作りにも迫ったインタビューとなっている。ゲーム好きも、お笑い好きも、ぜひこの「1年がかりの謎解き」を楽しんでほしい。

※今回のインタビューは「2023年12月上旬」に収録が行われたものです。本放送時とは、一部状況などが変わっている箇所があると思われます。あらかじめご了承ください。

聞き手/ジスマロック・実存
編集/実存
カメラマン/佐々木秀二


予告なしで全国各地の中古ショップに完全新作ゲームのカセットを流通させて、クリアできた人数を当てる?

──本日はよろしくお願いします。まず、今回の「新規のカセットを中古に流通させ、1年間の間にそのゲームをクリアできる人数を当てる」という企画(クイズ)は、一体どこからアイデアが出てきたのでしょうか?

藤井健太郎氏(以下、藤井氏):
実は以前にも「クイズ☆正解は一年後」内で「1年かけて、物の売れ行きを見てみる」という企画をやっていたんです。それこそ昨年も、「実は芸人が歌っているブルーハーツのカバーアルバムを、よくある謎のカバーCDとして高速のパーキングエリアで売る」という企画を行っていました。

そして、細かい時系列は忘れてしまったのですが、「ブルーハーツ問題」と同じ時期に今回のカセットを使った企画も思いついてはいました。

ただ、こちらは商品自体の開発にどうしても時間がかかってしまうから、「今年はカバーCDをやって、カセットは来年やろう」という形に落ち着きました。なので、今回の企画も2年くらい前には思いついてはいたんですよね。

──なるほど、あのブルーハーツ問題の系譜だったんですね。ということは、今回の企画と『あつしの名探偵』はかなり準備に時間をかけたものなのでしょうか?

藤井氏:
そうですね。ゲーム制作に関しては完全に素人だったのですが、それでも素人ながらに「そんなにすぐは作れないだろうな」とは思っていました。なので、結構早い段階から「来年はこんなことをやりたい」という話をゲーム業界の方たちに相談していました。

最初の段階で「この規模のゲームは、どれくらいで作れますか?」というスケジュール感を確認して、そこから開発会社を探す形だったと思います。2022年の前半くらいにはもう開発会社の方に話をしていたはずなので、ゲームの開発期間は大体1年半くらいですかね。

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公式サイトより

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──今回のクイズは「中古に流通させたカセットを、最終的に何人がクリアできるのか」ということが出題内容になっています。藤井さんは、具体的に何人くらいがクリアできると予想されていますか?

藤井氏:
やっぱり、「0人」で終わってしまうより1人くらいはクリアできた方が番組としては面白いじゃないですか。だから当初は「何人かはクリアしてほしい」という気持ちで作っていたんですが……いざ作り始めてみると「中身を面白くしよう」という思いが先行して、結構難しい部分も出てきてしまって(笑)。

結果として「誰とも情報を共有できない状況でクリアできるような内容か」と言われると……ちょっと怪しいですね。

──私もSwitch版『あつしの名探偵』は事前にプレイさせていただいたのですが、かなり難しかったですね。ある程度ヒントをいただかないと、それこそすぐに詰まってしまうくらいでした。

藤井氏:
あぁ、やっぱりそうですか(笑)。
しかも、最後にもかなりの難関があるんですよね……。

──ちなみに、現時点でのクリア人数はどのくらいなのでしょうか?

藤井氏:
まだ0人ですね。ただ、ひとりだけ結構いいところまで進んでいる人がいるのはわかっていて。実はゲーム内のある仕掛けで、その箇所を通ることで一応こちら側も「あそこまで到達したんだ」とわかるような部分があるんです。

その方は北海道の地方都市のレトロゲームショップで『あつしの名探偵』を購入した方だっていうのも一応把握はしていて。

多分、ご本人は相当テンションが上がったんじゃないですかね。なんとなく自分の街のレトロゲームショップに行ったら、謎のカセットが置かれていて、気になって買ってみたら、どうやら番組の企画っぽいぞ……っていう。

しかも、番組のことを調べたら、クリアすることで賞金とか何か良いことがありそうなことにも気づけるとは思うんですよね。さらに、世の中には全く情報が出回っていないので、限られた人間だけが挑戦してることにも気づける気がします(笑)。

──すごいドラマですね(笑)。なんだか『幽☆遊☆白書』の魔界統一トーナメントを思い出します。「地方にとんでもない化け物が隠れていた」とでも言いますか。

藤井氏:
そんな感じですかね(笑)。

それ以外にも某県で購入された方は、ちょっとしたジョークグッズか何かだと思って購入したら、まさかの本当に中身が入っていた……」ってパターンだったみたいなんですが、少しプレイしたところで、常連だったそのお店に戻って「このゲームをクリアするのは勤め人には無理だ」と、報告されたそうです。

一同:
(笑)。

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──ということは、現在中古市場に流通している『あつしの名探偵』は全部売れているのでしょうか? このお話を最初に聞いた時、「もし売れなかったらどうするのだろう?」と思ったりしたのですが。

藤井氏:
流通させたのは10本なのですが、すぐに全部売れましたね。事前に中古カセット市場の状況はある程度把握していたので、なんとなく「売れるんじゃないかな」とは思っていました。ただ、逆に言うと「マニアではない、一般の方に手に入れてほしい」とは考えていたんです。

だから置く場所を都内やマニアの集まる店舗に偏らせず、全国に散らすような形で置いています。

──たしかにこれがSNSで広まってしまうと、企画倒れもいいところですよね。ちなみに、実際に購入された方に「これはネットに書かないでください」といった注意などは行われているのですか?

藤井氏:
いえ、それは別にしていないです。

おそらく、プレイした瞬間に「これがどんなものであるか」は理解できると思うので、ゲーム内の舞台となっている「クイズ☆正解は一年後」という番組名をネットで検索すれば、番組を知らない方でもある程度趣旨などは把握できるはずですから。その辺は、割と性善説に基づいていますね。

「番組ありきでゲームを作ってしまう」面白さとは

──少し気になっていたのですが、そもそも藤井さんは「ゲーム」がお好きだったりするのでしょうか? 以前「水曜日のダウンタウン」にて「名探偵津田」【※1】が放送された際、ご自身のアカウントで「ここは『桃太郎伝説』を意識しました」といったことを投稿されていました。

藤井氏:
極端にやり込んでいたわけではないのですが、人並みに好きだとは思います。ただ、たしかにゲームそのもの以上に「ゲーム的なもの」は好きなのかもしれないですね。番組の企画を考える時に、ゲームやそれに近いようなところから着想することは、言われてみれば多い気がします。

そして「名探偵津田」に関しては、「名探偵」というコンセプトよりも「RPG的な要素を現実に落とし込む」というイメージの方が先にあったと思います。たとえば、「何度話しかけても登場人物の言っていることが変わらない」とか。

段取りを踏まないと目の前の人の発言が変わらないし、何を聞いても答えてくれない……そういうゲームみたいなことを現実でやられたら腹が立つし、そんな状況がダイアンの津田さんに降りかかったら、バラエティ的にも面白くなりそうだな、と。

「名探偵津田」はそういう「RPGみたいなことが現実に起きたら面白いだろう」的なアイデアが、探偵や謎解きといった要素よりも先にあったはずです。

※1「名探偵津田」
「水曜日のダウンタウン」にて行われた、「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」という企画。芸人のダイアン・津田氏が探偵役として難事件を解決するミステリー風ドッキリとなっており、SNSなどで大きな話題を呼んだ。

「水曜日のダウンタウン」「クイズ☆正解は一年後」藤井健太郎が仕掛けた謎解きゲーム『あつしの名探偵』とは_007
YouTubeより

──やはり、番組制作の中でゲーム的なものを意識されることがあるのですね。特に思い出深いゲームタイトルなどはありますでしょうか?

藤井氏:
『桃太郎伝説』はかなり好きだった記憶がありますね。あのゲームのラスボス「閻魔大王」がめちゃくちゃ強かった印象があって、しかも「攻撃が凄い」とかではなく、とにかくタフだっていう……異常にHPが高かったと思うんですよね。

レベルも最高近くまで上げて、装備も最強のを揃えて挑んだ気がするんですけど、「え、これ攻撃効いてる?」「もう30分くらい戦ってない?」っていう(笑)。

セリフで体力が表現されていた気がするんですけど「これが愛というものなのか…」みたいに弱ったかと思ったら、また「ええい、こわっぱめ!」みたいに謎に復活してきた気もして……。いつ終わるのかもわからない、ひたすら長い戦いだった思い出です。途中で親に呼ばれて晩ごはん挟んだ気がします(笑)。

そんな原体験もあって、今回の『あつしの名探偵』にも、そういう昔のゲームにあったような程よい「なんだそれ!?」的な要素は詰め込みたいと思ってましたね。あまり理不尽すぎるのは好きじゃないんですけど、「大して強くないのにとにかく硬い」みたいな敵が出てきたりするのは面白いかな、とか。

──藤井さんは、以前から「ゲームを企画に組み込んでみたい」というアイデアはお考えになられていたのでしょうか? というのも、『あつしの名探偵』もただの一発ネタで作られた訳ではなく、しっかり「ゲーム」として作られたものが出てきたことに驚きを感じていまして。

藤井氏:
「ゲームを作ってみたい」的な気持ちは、そこまでなかったですね。『あつしの名探偵』も、あくまで「番組ありき」のものです。「ひとつの番組の中での面白要素として、実際にゲームを作ってしまう」ということそのものが面白いんじゃないかと考えたのがスタートですね。

ただ、その前段には、2020年の「クイズ☆正解は一年後」で行った『蹴りジャンプ』【※2】というアプリゲームを扱った企画があって。

そのときは「スマホの不人気ゲームだったら、番組の出演者が1年間頑張って取り組めば、年末には世界ランキングの上位を独占できるんじゃないか?」という企画で、結果、横並びの状況を見ながらで競うことで、忙しい芸人さんたちもみんな必死になって、年末には予定通りランキング上位を独占することができました。

※2「蹴りジャンプ」
2020年の「クイズ☆正解は一年後」にて出題された、「2020年の1年間、あるスマホゲームを全員でプレイ」というクイズ……にて使われたアプリゲーム。ゲーム内の世界ランキングに応じて、番組内ポイントを獲得することができた。年末の放送で「1年間、実際に配信されている人気のないアプリゲームを番組の演者が遊び続けていた」ことが明かされる仕組みとなっていた。

──あのジャンプするだけのゲームですね!

藤井氏:
昔、芸人さんたちが『LINE ポコパン』にめちゃくちゃハマっていた時期があって。あれって、LINEと連携してるから実際に連絡先を知っている友達間でのランキングが見られるんですよね。

その「知人の間でのランキング」の白熱を見て、これは番組企画になるなと思いました。1年間を通して、番組出演者の間でのランキングが見えていれば、芸人さんたちも頑張ってくれるかなと。そして『蹴りジャンプ』は年末でのオンエア後にスマホゲームのDLランキングで、一時的に1位を獲ったりしました。

あの時に「ゲームを使った企画はこういう熱を産めるのか」と思ったし、だから、今回の『あつしの名探偵』を使った企画は、それも頭の片隅にはありましたね。今度は、自前でゲームを作ってみて、1年後に発売するのも面白いかなと。

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Google Playストアより

──今回の企画や『蹴りジャンプ』などもそうですが、藤井さんの企画は視聴者の「巻き込み方」が上手いと感じています。視聴者にとって「他人事だと感じさせない」ような作りになっていることが多いですよね。

藤井氏:
「クイズ☆正解は一年後」での、今回のような1年をかけた企画は「どう巻き込むか」をメインに考えていることが多いですかね。昔には「番組が制作したTシャツを、名前を出さずに1年間こっそり販売して、年末の生放送時に呼びかけたらTシャツ購入者は何人TBSに来るのか?」という企画もやりました。

そういう「偶然そこに触れた人がびっくりするような仕掛け」は好きですね。必ずしもテレビの中だけの出来事ってわけではなく、視聴者の方には「1年間、自分の近くで何かが起きているかもしれない」ということを是非意識して暮らしてもらいたいです(笑)。

ふと手にしたCDが番組の企画かもしれないし、ふと手にしたカセットが番組の企画かもしれない。そういう、いい意味で「巻き込まれる可能性がある番組」にしようとは思っています。年明けから年末までの1年間、ちょっとだけ、そんなことも楽しみにして過ごしてくれたら嬉しいですね。

実は鬼越トマホークも制作に参加……?『あつしの名探偵』の舞台裏

──根本的な質問になってしまうのですが、この『あつしの名探偵』というゲームに藤井さんはどんな形で関わっているのでしょうか?

藤井氏:
当然、発案者ではあるので、まず『あつしの名探偵』というタイトルと、ファミコン時代の名作ゲームをオマージュした全体のパッケージをこちらで決めました。

そこから「番組の出演者がゲーム内にキャラクターとして登場する」という大枠だったり、具体的なゲーム内の仕掛けなどもこちらで考えました。あんまりネタバレを含む中身のことには触れづらいですけれど、「主人公が●●●」とか「途中でゲームの●●●●が●●●」などの大きな展開や仕掛けの部分はこちらからですね。

そういった仕掛けの部分や大枠のアイデアをこちらから提案しつつ、具体的にゲームとしてまとまったプロットにしていただくのは、ゲーム開発のプロの方たちにお願いしました。そして最終的な仕上げとして、細かいセリフ回しなどはこちらで直したりしていましたね。

──クレジットに「脚本:藤井健太郎」と書かれていましたが、今作のセリフやシナリオなどは藤井さんが大部分を担当されているということでしょうか?

藤井氏:
セリフに関しては、たたきを作っていただいた上で「出演者本人っぽいしゃべり方」に直す作業や、会話にオモシロのエッセンスを加えたりする作業を僕が行いました。この辺は普段番組で台本を書いている時と同じ感覚で作業できましたね。

なので、基本は芸人さんたちの関係性も踏まえた、ある程度ナチュラルでリアルなセリフになっているかと思いますが、「ぐへぐへ……」と変な笑い方をする有吉さんのように、ゲームキャラとしてある程度キャラクター化されていた部分は、そのまま残してあったりもしますね。

「水曜日のダウンタウン」「クイズ☆正解は一年後」藤井健太郎が仕掛けた謎解きゲーム『あつしの名探偵』とは_009

──個人的にはゲーム内に登場する鬼越トマホークのネタが、かなり精度が高くて驚きました。あれ、すごく再現度高いですよね!?

藤井氏:
あのネタは、何も伝えずに鬼越の2人に書いてもらってるんですよ(笑)。
だから本人たちもどこでどう利用されるのかもわからず、いつもの喧嘩仲裁ネタを書いてくれています。

──そうだったんですね(笑)。やはり『あつしの名探偵』はファミコン風の表現でありながらも、テキストで芸人さんたちの「らしさ」を表現できているのがすごいところだと思います。

藤井氏:
番組の企画だけでなく、ゲーム側にも僕が主体的に関わっているから実現できた部分ではあるかもしれないですね。あくまで「番組のゲーム化」ではあるのですが、完全に開発会社さんにおまかせしたのではなく、こちらとの協業で作ったからこその出来栄えかもしれません。

確かに、ゲーム内の登場人物のセリフに関しては、開発会社による通常のゲーム作りではなかなか表現されづらい部分だったかもしれないですね。

──ちなみに普段、藤井さんは本作で行われた「シナリオ制作」のようなことはされるのでしょうか? やはり番組制作の中では、こういった作業をする機会は少ないのではないかと思うのですが。

藤井氏:
少ないとは思うのですが……構成を考えたり、台本やナレーションを書いたりするのはいつも通りの作業なので、『あつしの名探偵』に関しても、「普段の仕事と違うことをしている」という感覚はあまりなかったですね。

もちろん、『あつしの名探偵』のベースがアクションゲームだったとしたらまた全然違った形にはなっていたと思うので、アドベンチャーゲームだからこそ、普段の仕事に近い領域で作れたところはあるのかなと。

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──普段の番組制作の中でも、台本の段階で段取りなどはどれくらい決められているのでしょうか? それこそ「名探偵津田」などは台本もアドベンチャーゲームの制作に近そうだなと感じました。

藤井氏:
たしかに、名探偵津田は「この要素に気がついたら警察が入ってくる」など、基本的には段取りが全て決まっている企画ですよね。

ただ、それほど段取りをカッチリ決めている企画ばかりではないというか……たまたま「名探偵津田」が番組とゲームの中間みたいなことをやっていて、それが『あつしの名探偵』と近いタイミングだったという。

──余談なのですが、藤井さんの個人アカウントで「2023年は名探偵の年」といったことを書かれていました。「名探偵津田」と『あつしの名探偵』で探偵かぶりなのは、たまたまなのでしょうか。

藤井氏:
それはたまたまです(笑)。

そもそも、あの企画は当初から「名探偵津田」というタイトルで動いていたわけではないですから。実は現場で「名探偵」というワードは出ていなくて、編集している時に「これは“名探偵津田”って呼んだ方が面白いな」と思って、あとから「これに気づいた名探偵津田は……」みたいな感じで、ナレーションなどに「名探偵」というワードを足していきました。

なので、最近放送された第2弾では、あの世界の中で「名探偵津田」の存在は認知されていて、最初から「名探偵」であることが前提となっていましたが、第1弾の時は後付けでしたね。

でも、このふたつの企画が動いていた時期にはかぶりがあるので、もしかしたら頭のどこかには「名探偵」というワードが残っていたのかもしれませんね。

──先ほどから何度か「ナレーションを書いている」というお話が出ていますが、そこにも驚きました。ナレーションも藤井さんが書かれていたんですね。

藤井氏:
ナレーションは自分で書かないと気が済まない性分なので……担当のディレクターに第一稿を書いてもらうことが基本なのですが、最終的なナレーションは僕が手を入れていない部分はほとんどないような状況になってしまいます。

──やはりそれは上がってきたものに対して、藤井さんが「自分で書いた方がいい」と思うことが多いのでしょうか?

藤井氏:
自分の中に「僕としてはこの方が面白い」と思う基準はあるので、そこは自分で直したくなってしまいますね。もちろんナレーションだけでなく、映像も含め編集に関しては、なるべく自分が面白いと思えるような形にするために、最終的には自分で調整します。

やはり、ある程度個性的であったりカラーがしっかりしている番組は最終的に誰かがひとりで決定して、作業していることが多いんだと思います。合議制でやっていると、カラーは統一されづらいし、個性的な番組にはなりづらいですよね。

「水曜日のダウンタウン」なども番組の内容が面白いかどうかは人それぞれですが、少なくとも個性はしっかり出ている番組になっているはずですよね。たぶん、一般的なテレビディレクターよりも深めにコミットしてしまうタイプの人間なんだとは思います。

そういう意味では、『あつしの名探偵』も普段の番組に似た作り方ができたと思うので、僕の色が出ている感じのゲームにはなっている気がします。

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「○○なもの」として、カセットを中古に流通させた

──さきほど少し『あつしの名探偵』の開発期間のお話はしていただきましたが、もう少し具体的な開発体制やタイムラインなどをお聞きしてみたいです。

藤井氏:
基本的に僕は開発側のトップのふたりとお話するだけだったのですが、あちら側のメンバーはプログラマーやグラフィックの担当者なども含めて6人くらいだったと聞いています。

そして期間に関してですが、そもそもこの企画をやろうと言い出したのが2022年の春くらいで、そこから秋には『あつしの名探偵』というタイトルとキービジュアルが決まっていました。まず「2023年の年始の収録に間に合わせる」ことが最優先だったので、年始にはなんとかゲーム画面を用意する形で進めていました。

ただ、年始の段階ではあくまで「グラフィック」しか完成していなかったので、そこからしっかりシナリオなどがついたゲームとして完成したのは……今年の夏くらいだったと思います。

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──そもそも、2023年に「新規のカセットを作ること」自体が難しいのではないかと思います。この「カセットとして作る」にあたって、なにか苦労されたことなどはありましたか?

藤井氏:
僕の直接の苦労ではないですけれど、「開発会社がいない」ことは大変だったようですね。今回はたまたま運よく巡り合うことができましたが、その「どこに開発をお願いするのか」の調整にはかなり時間がかかったと思います。

そして、カセットとして作ることになると、容量の問題があったとは聞きました。やはりテキストなども1文字違うだけでバイト数の制限などに影響があり、キャラクターの髪の色などもカセット版にはかなり制限がかかっています。「この3色しか使えない」みたいな制限の中で、いろいろな調整を行ってもらいました。

──カセット版とSwitch版とでは、いくつか違いがあったりするんですね。

藤井氏:
容量の関係で、Switch版のみに盛り込まれている要素はいくつかあります。あとは、カセット版には「セーブ機能」がないですね。昔ながらのパスワード方式にしているので。

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──ちなみに、「FC互換機用カセットとして作る」こと自体は企画の初期で決まっていたのでしょうか?

藤井氏:
昨年のブルーハーツのCDもそうだったのですが、「謎の怪しいアイテム」が企画の主軸になっているので、今回も、一般の方から見た時に「謎の中古ソフト」であること……つまり「なんだこれ?」と思える入り口が重要で。

たとえば最初からSwitchのソフトとして出してしまうと、検索すればその正体はわかってしまうし、「得体の知れないもの」ではないですよね。だから現代のゲームではなく、時代の流れで埋もれていそうだったり、「こんなのあったんだっけ?」と思えるようなファミコンのソフトじゃなきゃそこはダメでした。

──なるほど、「謎の物」というフレーバーが重要だったんですね。

藤井氏:
まぁ、この理屈でいえば、ファミコンじゃなくてNEOGEO【※3】とかメガドライブのソフトとして作って、よりニッチな方向に行くのもアリだったんですけどね(笑)。「なんだこれ?」のインパクトに全振りするパターンで。

一同:
(笑)。

※3「NEOGEO」
SNKが開発・販売を行っていた家庭用及び業務用ゲーム機。「アーケードゲームと互換性のある家庭用ゲーム機」というコンセプトで作られている。

藤井氏:
とはいえファミコンの方が間口も広いし、「1年あればゲームとして形になりそう」という開発的なメリットもありました。そういった諸々を含めて、「レトロなゲームの方が面白そうだな」というイメージでした。その上で、ちょっと理不尽な難易度もある種の「ファミコンならでは」の要素として表現できそうだなと。

──そう考えると、いろいろな要素が上手くかみ合っていますね。謎のカセットにすることで「得体の知れないもの」をクリアしつつ、「簡単にはクリアできない」という番組的な面白さも引き立たせることができると言いますか。

藤井氏:
「クリアできないほど難しいアドベンチャーゲーム」って、今だとそこまで多くはないと思うので、そこもある意味僕らみたいな門外漢がやる上で、いい感じの特徴付けになるかとは思いました。

でも、年末の放送後に発売されてからは、インターネットの集合知で最終的にはみんなが解けるようになるはずなので。そこも含めて「難しすぎてほったらかし」にはならないだろうなと思っています。ネットで攻略が進めば「どうにも進めない」ってことにはならず、いい感じに遊んでもらえるだろうし、全体的にちょうどいいかなと。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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