そもそも「クイズ☆正解は一年後」って、どう作られた?
──そもそもの質問になってしまうのですが、「クイズ☆正解は一年後」という番組自体はどこからアイデアが出てきたのでしょう? 「年始に出題し、年末に答え合わせを行う」という仕組みがどのように作り上げられたのかをお聞きしてみたいです。
藤井氏:
番組そのもののアイデアは年末に思いつきました。年末だったから、テレビで「1年の総決算番組」みたいなものが流れていたんです。それを見て、「1年間の振り返りをする番組に、“予想”の要素があったら面白いな」と。
「翌週のことを予想する」という深夜番組が昔あったので、その要素をかけ合わせて。ただ、その「予想」のストロークが1年間だったら、今までにないし、面白そうだと思いました。
それに、突拍子のない予想をしても、答え合わせをするのは1年後だからどうなっているかはわからないですよね。「合法的にふざけたことを言える」というわけではないですけど、その「勝手なことを言う」ことに口実があるというか。
ですが……このアイデアを思いついたのは年末だったので、すぐ年始に収録を行わなければオンエアは2年後になってしまう状況でした。
──それはすごいスピード感で作る必要がありますね(笑)。
藤井氏:
だから、編成という番組表案を決める部署の人に「この企画をやらせてほしい。今すぐオッケーを出してくれたら来年の今頃に出ますけど、遅れると最短で2年後になります」という話をして……(笑)。
そこで早めのジャッジをしてもらって、その翌年の年始に収録を行いました。1回目の収録は本当に得体の知れない番組でしたし、スタッフも演者も上がりの形がよく見えていなかったと思います。あのスピードでOKを出してくれた当時の担当には感謝していますね。
──まず「予想をする番組」というアイデアが先にあり、そこに「1年かける」要素がかけ合わさったのがベースになっているんですね。
藤井氏:
当初は「年末の振り返り特番」としてのイメージが強かったんですが、今はその要素はだいぶ薄くなっちゃったかもしれないですね。番組を続けていくうちに「笑い」の分量が増えてしまったけれど、企画を考えていた時は「今年起きたことを確認する」要素をもっとメインに考えていました。
──「クイズ☆正解は一年後」で行われる企画などは普段どのように作られているのでしょうか? 今回の企画も含め、ある程度大がかりな企画が行われることもあり、どんな風に番組が作られているのか気になります。
藤井氏:
やはり「年始に予想したものが、年末にどうなっているかわからない面白さ」を意識することが企画の基本になっているので、「予想できるもの」もあるし「意外なこと」も起きる「芸能人の離婚、結婚クイズ」辺りは定番になっていますね。ああいう「ちゃんと当たりも出つつ、予想外の当たりも出る問題」は良いですよね。
あとは、芸人さんたちが多く出演しているからこその「大喜利」的なノリもあるので、「ふざけやすいお題」も大事にしていますね。ただ、ふざけて答えていたつもりが、1年後には真実になっちゃうこともよくあって。
先ほども少し触れましたが、そこの「ふざけてると思うかもしれないけど、意外とわかんないぞ」という不確定な部分があるのがいいなと思っています。ただふざけてるだけじゃないというか……めちゃくちゃなことを言っているように見えて、1年後には現実がそれを超えてきたりする瞬間がありますよね。
──「もしかしたら当たりが出るかもしれない」というラインはかなり意識されているんですね。
藤井氏:
やっぱり当たりが全然出ないと面白くはないですよね。もちろん、クイズごとに「当たりが見たいクイズ」と「おふざけが見たいクイズ」のグラデーションはあります。ただ、「当たるわけがないものばっかりやってるのは違うな」とは思っています。
──いち視聴者としても、そこの「もしかしたら当たるかもしれない」瞬間が面白く感じることが多いです。1年分の余白があるからこそ、偶発的な面白さが生まれると言いますか。
藤井氏:
2020年には、EXITの兼近さんが年始の収録で「東京オリンピックが中止になります」と答えていて。年始の段階では当然そんなことが起こるわけがないと誰もが思っていたんですが、本当にその年は東京オリンピックが延期でなくなりました。年始はまだコロナ禍前だったから、まさにあれは「現実が超えてきた」瞬間でしたね。
今年だって、鬼越トマホークの金ちゃんが「ジャニーズ事務所からの退所が相次ぐ」という予想をしていましたが、もうそれは本人が当時イメージしたであろうこととは、全く別次元の話になりましたよね。
──別の番組の話になってしまうのですが、それこそ「オールスター後夜祭」【※4】などでも「理不尽なように見えるけど、意外と当たるクイズ」があったりしますよね。
藤井氏:
やっぱり、あんまり理不尽すぎるものは好きじゃないんですよね。「オールスター後夜祭」でも、難問であっても「知るわけがないし、当たるわけがない問題」は基本的に出さないようにしています。一応考える余地があったり、時間をかけさえすれば理屈でたどり着けるものだったりしないと、良いクイズではないな、と。
もちろん意地悪だったり難解な部分はあったりするんですけど、「あまりにも取っ掛かりがない、ただただ理不尽」になってしまうクイズは避けるようにしていますね。
※4「オールスター後夜祭」
TBSで放送されている大型クイズバラエティ番組「オールスター感謝祭」の、生放送スピンオフ番組。藤井氏が総合演出を担当しており、本家の「感謝祭」では見られないような際どい問題やマニアックな問題が多く出題される。
──個人的に、藤井さんが制作される番組の「意地悪な部分」をお聞きしたいと思っていました。「水曜日のダウンタウン」などもそうですが、もちろん意地悪であったり理不尽な部分はありつつ、そこがしっかり「面白さ」に昇華されているのが藤井さんの手腕なのではないかと感じています。
藤井氏:
そこは、自分の感覚でしかないので何とも言えないですが、やはり番組の目的としては「視聴者に面白がってもらう」ことが最優先なので、番組の要素として意地悪な部分があったとしても、ただ芸人さんに嫌がらせがしたいわけでもないし、ゲームでもプレイヤーに嫌がらせをしたいわけではありません。
その先に「面白い」と思ってもらいたい何かが当然あるわけです。ただ、そこのラインに関しては、「自分だったらこれくらいが面白いかな」という感覚的な部分が大きいですかね。
単刀直入に聞きたい、藤井健太郎の面白い番組づくり
──「クイズ☆正解は一年後」なども含め、藤井さんが普段番組を制作される際は、「こういう番組にしたい」という番組の大枠のイメージが先にあるのでしょうか? それとも、「こんなコーナーがやりたい」という細部のアイデアなどから固めていくのでしょうか。
藤井氏:
特番に関しては、その大枠の形がありきかとは思いますけれど、レギュラー番組に関しては、「水曜日のダウンタウン」が現状なんでも入る枠になっているように、僕はあまりカッチリとした枠を設けない方がよいかなとは思っていますね。
「水曜日のダウンタウン」では、自分がやりたかったり、面白いと感じるものをその都度表現している状況なので、「番組らしさ」みたいなことを考えることは基本的にはないです。だから、番組初期とは内容も結構変わっていると思います。
──先ほどの「予想に1年の余白があった方が面白い」などもそうなのですが、藤井さんが企画を制作される中で、「この企画は面白い、面白くない」という判断基準はどこにあるのでしょうか?
藤井氏:
そこも基本的には感覚でしかないとは思いますが、「取っ掛かりは面白いけど、これは多分中身を作っていくうちにこんな風に詰まるだろうな」などというように、明らかに失敗するものは、これまでの経験である程度分かったりはしますかね。
それと、「あまり他で見たことがないものにしたい」という気持ちは強いですかね。面白そうな企画でも、どこかの番組で先に同じようなことをやっていたら、基本的にはナシかと。
もちろん、完全に新しいものを作るのはそう簡単ではないので、ある程度世の中に形が認知されているものを踏まえつつ、その枠組みの中で何かしら新しいポイントがあったり、見たことのない要素をどこかに入れるようにしたいとは思っていますね。
──ちなみに番組の企画会議をされる際、藤井さんはどのような立場なのでしょうか?
藤井氏:
基本は、放送作家の人たちが出してくれるアイデアを基に企画や構成を考えていく立場ですかね。
最初のアイデアがそのままの形でオンエアに出ることはほとんどなくて、もちろんそのゼロイチのアイデアもとても大事なんですが、出てきたアイデアが何も手を加える部分がない状態ってことはないので、そこから「このアイデアに何を足せば、あるいは引けばいいのか」「今この紙面にある面白さを実現するには、どういうルールでやれば上手く実現するのか」といったことを考えていきます。
なので、最終的に入口のアイデアとは全く違うものになることもよくあります。
──出てきた企画から、具体的な撮り方やイメージを膨らませていくような感じなんですね。
藤井氏:
たとえば、「こういう時の、この人の顔って面白そう」というイメージがあったとして、それはドッキリを仕掛けてみた方がいいのか、それとも事前に説明した上でチャレンジ的に行ってもらった方がいいのか、そんなことを考えたりします。
芸人相手にやるのか、一般人相手にやるのか、それとも企画全体を大会にしちゃうのか……。などなど、その「面白い企画」をどうやって表現するのかを練っていく感じですかね。
──番組作りでは当然かもしれないのですが、やはり「芸人さんがどんな反応をするか」を想定しながら進めるパターンもあるんですね。
藤井氏:
「名探偵津田」でいえば、「RPGみたいなことを現実でやる」が企画のベースにあって、そこから「何をゴールにするのか」「誰がやったら面白いのか」などを決めていく感じですよね。
たとえば「ナダルも探偵やれそうだけど……でも津田さんだな」みたいな(笑)。
一同:
(笑)。
藤井氏:
たしかにナダルも文句ばかり言うタイプではあるんだけど……ちょっと違うなと。この企画の場合は津田さんの方が面白いだろうな……と、そういうのは経験則で判断している感じですね。
基本はこの「企画→演者」の順ですが、「この人のこういうところが面白いから、どうしたらそこを引き出せるか」という、人から逆算で企画を立てることもあります。クロちゃんの企画なんかは、割とそのパターンが多いですね。
藤井健太郎は、「ルールづくり」の天才?
──個人的な感覚ではあるのですが、藤井さんが立てられた企画はいつも「ルール」の部分が面白くなっているような気がします。たとえば以前の「説教中に曲の歌詞、自然に盛り込むこと可能説」も、「説教中に歌詞を折り込んだ分だけポイントを獲得できる」という骨格のルール自体がもう面白いですよね。
藤井氏:
たしかに、ルールは好きかもしれないですけれど、それ以上に「ルールに穴がある」のが嫌なんだと思います。だから、普段の番組制作でも、ルール作りに限らず、かなり整合性の部分を気にしちゃいますね。
「これはそもそも何のためにやってるんだっけ?」「この人のモチベーションはなんなんだっけ?」というような部分がふわっとしているのがあんまり好きじゃないんですよね。
──そこの「ルール作り」がしっかりしているから、企画の中で予想外の面白さが生まれる偶発性があるような気がしています。それこそ心理戦のようなゲーム性が生まれたり、ちょいちょい『HUNTER×HUNTER』のバトルみたいになってたり……。
藤井氏:
冨樫喩え多いですね(笑)。
最近「水曜日のダウンタウン」で放送された「スベリ-1グランプリ」という企画があって。簡単に言うと「面白くない芸人がネタで勝負して、より面白くない方が勝ち上がっていく」というトーナメント形式の賞レースなんですが、そこではネタを披露している芸人も、投票するお客さんも「面白くない方が勝ち上がる」という本当のルールを知らされていないことがポイントになっていて。
ネタを披露した芸人に対して「面白かった方に投票してください」と言われているのに、なぜか明らかにウケていなかった方が勝ち上がる。だから、「勝者はこの人です!」と言われた時に、ネタを披露した本人もお客さんも「あれ?」と思ってしまうはずなんですね。
その疑問を解消するために「特別審査員」というポジションを設けて、ウエストランドのふたりに担当してもらいました。
面白くないネタが披露されたあと、現役M-1チャンピオンのウエストランドが「客ウケは悪かったかもしれないけど、プロの目線から見るとこういう理由でこっちの方がよかったんです」と、芸人とお客さんへのフォローを入れる形にしています。
それによって、両者の疑問を解消しつつ、ウエストランドが無理やり理由をつけて「僕ら的にはこっちですね」と言わされることで、その「苦しい言い訳」という別要素の面白さを足すことができます。
藤井氏:
これって2回しかネタの披露がないトーナメントなので、勝った方が普通に勝ち上がって「負けた方に敗者復活戦とし2回目のネタ披露をしてもらう」形にすれば、特別審査員なんて立場を用意しなくても普通にもっとスッキリしたルールでできるんですけれど、そこをあえて「スベった方を勝ちにする」ことで場の空気をおかしくさせて、ウエストランドにそれを解消させる……という要素がひとつ足せるわけです。
──ちょうど今お話しいただいた「スベリ-1グランプリ」や、今回の企画など、藤井さんの企画は「一見複雑なようで、いざ見始めると直感的な面白さがある」ところがすごいと感じています。「企画をわかりやすく伝える」ことに関して、なにか明確な手法があったりするのでしょうか?
藤井氏:
多分、テレビ番組を作る人たちが最初に学ぶことって、とにかく「わかりやすく伝えること」だと思います。マスメディアのテレビにおいては、どんな人が見ても意味がわかるようなものを作るのが基本です。テレビ番組を見て意味がわからないことって、基本ないじゃないですか。
そういう作業を長年続けているから、自ずと身についているのだと思っています。そして僕の番組の場合、他より少しひねった企画をやることも多いので、より「わかりやすく伝える」能力が鍛えられているのかもしれません。
──それこそ「水曜日のダウンタウン」の「説」というフォーマットも、わかりやすく伝えることの発明でもありますよね。複雑な企画も「説」と括ってしまえば、理解しやすい気がします。
藤井氏:
「説」の文言なども、それを一目見ただけでどこに面白さがあるのかがわかるようにはしています。
やはりテレビは、大前提として多くの人々に伝えることを想定しているメディアなので、多少ひねった内容であったとしても、意図や構造などはちゃんと理解できるようなものであるべきだし、それこそ「水曜日のダウンタウン」の場合は、説の文言を聞いただけで「面白そうだな」と思わせる必要があります。そして、それと同時に「何をやるか」の想像がなんとなくできるようにもしなきゃいけない。
つまり、その説の文言を聞いた時になんとなく脳内で画が浮かび、かつそれが面白そうだと感じられるものであるべきなので、そこの説明的な要素と面白さの要素がちゃんと入るようには意識しています。
──普段から複雑な企画をわかりやすく見せる必要があるからこそ、そこのなんとなく絵が浮かんでくるような面白さが際立っているのでしょうか。
藤井氏:
そこまで説明の必要がない番組であれば、また話は違うと思うんですけどね。たとえばシンプルなトーク番組だったら、別に「こういう人たちが集まってトークをします」と説明をする必要はないわけで。
でも、僕の場合は「説明の必要があるもの」をやることが多いですし、それがちょっとややこしかったとしても視聴者に伝わるような説明をしているつもりです。
──なんとなく、「説の文言だけでオチがついてる」ものに藤井さんのセンスが詰まっているような気がします。個人的には、以前の「Toshlの“i→l”表記に親しんでるXファンなら、“Hotel”を“ホテイ”と読む可能性も僅かながらある説」が好きでした。
藤井氏:
あぁ、たしかにこの「僅かながらある」みたいな言い回しは自分が好きそうですね……(笑)。こういう「好きな言い回し」みたいなものはあると思います。
そして「布袋の説」に関しては、番組を長く見ている人へのお約束の要素として入れているものなので、その「お約束」みたいな要素も、好きっちゃ好きかもしれないですね。
──まさか最後に「布袋説」の謎が判明するとは(笑)。(了)
自分だって布袋説でオチがつくとは思ってなかった。
さて、『クイズ☆正解は一年後 presents あつしの名探偵』及び今回の企画の舞台裏、楽しんでいただけただろうか。楽しみでもあり、心配でもあるのが……「本当に年末にどうなっているかこちらもわからない」ところ。要は、『あつしの名探偵』のクリア者が出ているか、記事執筆時の現時点でもわかっていないのだ!
一応インタビューは12月の上旬に実施されたのだが、その時点でもクリアしたプレイヤーは「0人」だったらしい。頑張れ! 10人のプレイヤー!! 多分、この記事が出るころにはすべての結果が出ているはず。もうこっちも年末まで何もわからないドキドキ感を背負わされている!
そして『クイズ☆正解は一年後 presents あつしの名探偵』は、番組内で発表された通り本日よりNintendo eShopでの配信が開始されている。1年間全国各地に置かれていた謎のカセットが……今度はあなたの手に。この理不尽な難事件を、あなたは解き明かせるだろうか?
オリジナルグッズがもらえる最速クリアキャンペーンなども開催中とのことなので、公式サイトを確認のうえ、ぜひ挑戦してみてほしい。年末年始は、2024年度の「クイズ☆正解は一年後」を楽しみにしつつ、「名探偵」になってみよう!