好きなゲームジャンルはアドベンチャー……というか、「ゲームで選択肢を選ぶ」という行為が好きだ。私は選択肢を選ぶ楽しみを味わうためにアドベンチャーをプレイしている。
著名なビッグタイトルでいえば『デトロイト ビカム ヒューマン』や『ディスコ エリジウム』、直近の傑作では『The Cosmic Wheel Sisterhood』など、おびただしいシナリオの分岐によるインタラクティブなナラティブ(物語性)を感じるタイトルは枚挙にいとまがない。
プレイヤーたる自分自身がシナリオに介入するという感覚はゲームならではのものだ。そういう体験をしたくて、私はアドベンチャーゲームをプレイしている。
『Refind Self: 性格診断ゲーム』もそれらの系譜に属する、選択肢を選ぶことが重要なゲームだ。プレイヤーの行動や選択によって、語られるシナリオが大きく変化する。
本作のメインテーマは「性格診断」。プレイ内容に応じて、プレイヤーの内に秘めた性格を証明してくれるとのこと。
でも実のところ、本作において「性格分析」はあくまで要素のうちのひとつでしかない。
選択肢を選ぶこと、ひいては「選択」と「結果」をめぐる物語こそが本質だ。
文/波木銅
※本稿では、『Refind Self: 性格診断ゲーム』のネタバレ及び結末に触れる内容が含まれております。あらかじめご了承ください。
ゲームなんかで性格が分かってたまるか
『Refind Self』は、2023年に個人製作者Lizardry氏により開発されたタイトルだ。PC(Steam)のほか、iOSとAndroidでも遊べて、1回のプレイ時間は30分から1時間くらい。ミニゲーム感覚でお手軽に周回することができる。
Lizardry氏の前作には名作アドベンチャー『7 Days to End With You』がある。架空の言語を解読して物語の真相を暴く、ユニークな謎解きやフレッシュなゲームシステムが魅力的なタイトルだった。
『7 Days to End With You』は、簡潔に言えば「他者とのコミュニケーション」にまつわる作品だったと思う。相手の話している言葉を少しずつ理解していくプロセスは言語学習にも似ていて、相手の話している言葉の意味を理解できたときの感動はひとしおだった。
同氏の続編となる本作『Refind Self』だが、そもそも「性格診断」というトピックにノレるか、という点でいささか不安だった。あの『7 Days to End With You』のクリエイターの新作、というフックがなければ手に取らなかったかもしれない。
そもそも自分の性格がどうとかなんて別に興味ないし……。
私は基本的には腰抜けの小心者だと自覚しているが、たとえば対戦格闘ゲームでは強力な突進技を持つキャラなどを選んで積極的に責め立てる戦い方が好きだし、基本的にリスキーな選択肢を選びがちだ。ゲームではたいてい、リスクを取ったほうが面白い結果が得られることのほうが多い気がするからだ。もし取り返しがつかなくなったらロードしてやり直せばいいし。
だからといって、実際の私は臆病で自分の能力にも自信がないので、実生活であえて危険な方の道を選んだりはしない。
ゲームの遊び方やプレイスタイルは千差万別だろうが、あくまでそれは「ゲーム用の人格」による選択にすぎない。たとえば堅実なスタイルでゲームをプレイするからといって、そのプレイヤーがそういう人柄であるとは限らないはずだ。
でも、『7 Days to End With You』のLizardry氏がただの心理テストゲームみたいな単純な作品をリリースすることはないはず。前作のように、なにか特殊な仕掛けがあるはずだ。……という、ある種の打算というか、バイアスを抱いたうえでプレイに臨んだ。
プレイヤーは「博士」と呼ばれる人物が大昔に作った性格診断ゲームをプレイすることになる。ゲームの中でゲームをするゲームだ。博士が作ったゲームは、主人公のロボットを操ってマップを散策したり、会話やミニゲームなどを楽しみながら自由に過ごすというもの。取った行動や選んだ選択肢によって内部で「性格」が診断され、プレイヤーの性格を分析するとのことだ。
たとえば、マップには落ちている「花」や「スクラップ」といった回収可能なアイテムがいくつも落ちている。収集に手間がかかるものではないが、使い道はさほどない。拾うか無視するかはプレイヤー次第だ。テキストによる選択肢以外にも、そういったささいな選択も分析の対象となっている。
主人公を含む人型ロボットは、人間のように意思や感情を持つほか食事や睡眠などの有機物的な行動をする。とくに必須の目的はないので、好きに探索することができる。クリアすると「冒険家」「哲学者」「道化師」など23個の性格のうちから自分にもっとも近いものが診断されるらしい。
画面左上のUIにはハート型のゲージがある。なにか行動するたびにパーセンテージがたまっていき、100%になるとその時点でゲーム終了となる。
わりとすぐにマックスになるので、一度のプレイでマップのすべてを回ることはできない。ひととおりイベントを回収してストーリーの結末に到達するためには、少なくとも3周以上のプレイが必要だ。性格診断も、3回プレイすることでより正確なものとなるらしい。
気の向くままにプレイした最初の結果は「コレクター」。べつに収集要素にこだわるタイプではないので、あまりしっくりこなかった。
いや、ジョハリの窓でいう「盲点の窓」的な感じで、自覚していないだけで、自分の中にコレクター気質が潜在しているのだろうか。たしかにTシャツやステッカーを集めるのは好きだけど、あくまで一般的な範疇だ。そんなに執着はしていない。
診断のアルゴリズムはまだわからないが、所詮小規模なインディーゲーム。1000円以下のフレンドリーなプライスと、数十分ほどのお手軽なプレイ時間で本性を暴かれてたまるか!
周回プレイをすると、前回とはすこし違ったストーリーを見ることができる。同じように行動してもいいし、選ばなかった別パターンを回収してみてもいい。
貴方の秘められた性格
2度目のプレイでは、前回とは異なる行動をとってみることにした。性格がどのように分析されるかは肌感覚でなんとなくわかってきたので、やろうと思えば診断をある程度操作して「なりたい性格」になることもできるはずだ。
……もっともその仕様は意図的で、そのことをプレイヤーが勘づくことも本作のストーリーテリングのうちだ。
初見プレイを通じて、ゲーム内でのお金「コイン」はさほど重要ではないことに気づく。コインが必要となるケースはほとんどないし、もし必要であれば稼ぐのも難しくない。というわけで、気兼ねなくギャンブルに没頭してみることにした。
2回目のプレイでは「秘められた性格」を診断されるらしい。今回は「ランナー」だった。前回のプレイで見たイベントや手に入れたアイテムはスルーして、まだ発見していない要素をプレイすることを重視したことが理由だろうか。結果を見比べてみると、一周目プレイのものとグラフが似ている。「道徳」以外の項目は優秀だ。平均的なステータスのキャラクターより、尖った性能のピーキーなもののほうが優れているはずだ。これでいい。
ほとんど前回と違う選択肢を選んだのだけど、根本的なプレイスタイルが共通しているらしい。
3回目でのプレイではプレイヤーの「最も遠い性格」が分析される。私は「聖職者」にはなれないらしい。何度プレイしても、「道徳」のパラメータがいっこうに上がらない。意図的にそういう、「道徳」要素だけは上がらない仕様になっているのかと思ってSteamのコミュニティを覗いてみたが、そんなことはないらしい。ただ私に道徳がないだけだった。別にウケを狙って露悪的にふるまったりはしてない。NPCには親切に接したし、それなりに人助けとかもしたのに……。
はじめは全然ノレなかった「性格診断」もだんだん楽しくなってきた。自分の選んだ選択肢や取った行動が結果として反映されるのにはえもしれない喜びがある。
3周もすると、ストーリーの根幹に関わる真のエンディングに辿り着くことができる。要するに「性格診断ゲーム」はあくまで足掛かりにすぎず、本作の本質は「過程」と「結果」をめぐるプロセスをプレイヤーに追体験させることにある。
作中作のゲームをプレイするスタイルや、セピア調のノスタルジックなピクセルアートやサウンド、主人公をはじめとするロボットのキャラクターなどがストーリーを進めるたびに意味を帯びてくる。
結果と過程、好きなのはどっち?
前述のとおり、「性格診断」は本作の主題ではなく、あくまで要素のうちのひとつだ。行動や選択肢をほかのプレイヤーと比べたりといったお楽しみ要素はそれなりに面白いのだが、あくまで本質は「性格診断ゲーム」を通じてのストーリーテリングだ。
むしろ「性格診断」というものに懐疑的なスタンスで望んでこそ、本作のシナリオの本質を味わえる……と私は解釈している。
いわゆる「MBTI診断」のようなものとはちょっと違う。あるいは『The Stanley Parable』や『Doki Doki Literature Club!』のようなメタ的にギョッとするギミックが仕掛けられているわけでもなくて、本作のトーンはあくまで終始淡々と落ち着いている。
本作のストーリーは入れ子構造となっている。
主人公を含め、キャラクターたちはみな作中作の登場人物にすぎないし、博士が作ったという作中作のゲームは100年前のものであることが冒頭で語られる。
主人公のデフォルトネームは「うつわ」という。変更可能で、これを変えたかそのままにしたか、あるいはどのような名前にしたかも診断材料となる。
作者の博士自身が登場する作中作は、創作物というよりどこか私小説的で、ゲームの形をとった自伝やエッセイのようにも感じる。マップ上に散りばめられたフレーバーやシナリオを読み進めると、世界観を憶測することができるはずだ。
ストーリードリブンのゲームではないのでシナリオの根本的な部分を詳細に明かすことはしないが、本作の雰囲気やテーマは「ゲームをプレイする」という行為でしか表現し得ないものとなっていると思う。
博士は100年前に自らの半生を記録する媒体として、テキストやビデオではなくビデオゲームを選んだ。ゲームを作るのは日記に文章を書いたり映像や音声を記録するよりもずっと大変な気がするが、あえてこのような手段を用いたのは「結果」と「過程」のプロセスを残すためなのだろう。
キャラクターを動かして選択肢を選ぶビデオゲーム、ひいてはアドベンチャーゲームは非常に能動的なものだ。ゲーム内で博士のゲームを手に取った主人公(ロボの「うつわ」ではなくて、ゲーム内で作中作をプレイする人物≒プレイヤーのこと!)に、自分が行った選択と、その結果を追体験させることを目的としている。
幸いなことにゲームは望んだ結果が出るまで何回もやりなおすことができる。博士はゲームを通じて、成就しなかった自分の切実な希望を第三者に託そうとした。自分にはなし得なかったハッピーエンドを、自分のかわりに誰かにたどり着いてほしかったのだろう。
文学のジャンルのひとつに「オートフィクション」がある。私小説やノンフィクションのように著者本人(あるいは類似した人物)が語り手となるが、必ずしも事実に基づいているとは限らない。当事者性と創作性が混在していることを特徴とするジャンルだ。
「性格診断ゲーム」はプレイアブルなオートフィクションのように思える。選択肢を与えてプレイヤーを葛藤させ、魅力的な登場人物に感情移入させることが目的だ。
『Refind Self』がゲーム内でゲームをプレイするという語り方を取っているのは、本作が「過程」と「結果」をめぐる物語であるからだ。簡潔に言えば、選択式アドベンチャーゲームの楽しみやエモーションの詰まった、しみじみと良いタイトルだ。
実のところ、あなたの性格がどうであれなんだっていい。愛すべきなのは、そこに至るまでの過程なのだ。思う存分、あなたの信じる選択肢を選ぼう。