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『サイレントヒル:ザ ショートメッセージ』は「シリーズの新時代」を宣言する作品だ。恐怖を駆使して社会問題を描き、当事者に寄り添う「ホラーなのに優しい」ユニークな魅力

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『サイレントヒル』シリーズといえば、じんわりと浸透するような「恐怖」を駆使し「心の闇」や「狂気」といった人の暴力性を描くストーリーが印象的だ。この要素は同時代のサバイバルホラーゲームとは異なる「シリーズならではの魅力(サイコロジカルホラー)」を形作る要素のひとつだと思う。

今回電ファミ編集部はシリーズ最新作となる『サイレントヒル:ザ ショートメッセージ』の先行プレイの機会をいただいたのだが、本作はそうした「サイレントヒルらしさ」をより現代に即した形で、その魅力を存分に拡張する仕上がりとなっていた。

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その点で特筆すべきなのは、「現代の社会問題」をじつに丁寧に描いたそのストーリーだ。

作中では社会構造などにより抑圧された少女たちがメインキャラクターとして描かれており、ネグレクトや性加害を伴う家庭内暴力、貧困、いじめ、それらによる自殺が核となるモチーフとして登場する。

つまるところ本作における「恐怖」は、恐ろしい体験であるだけでなく、主人公が抱える生きづらさのメタファーとして駆動しており、まさに同時代に共有されるべきテーマを提示する作品となっているのだ。

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『サイレントヒル』シリーズに関しては、2022年10月にリメイクを含む新作ゲーム3本にインタラクティブストリーミングシリーズとして展開する『サイレントヒル: アセンション』、そして新作の映画作品が一挙に発表されている。
本作『サイレントヒル:ザ ショートメッセージ』はいわば「シリーズの大々的な再始動」にファンの期待が集まる中、突如PS5向けに配信された作品となる。

そういった中で「現代の社会問題を真正面から描く」というシリーズにとって挑戦的なテーマを携えながら手に取りやすい無料の短編ホラーゲームとしてリリースされた本作は「シリーズの新時代」を宣言する作品であるかのようにも思える。

それでは、フレッシュな魅力に溢れた『サイレントヒル:ザ ショートメッセージ』の魅力を具体的に紹介していこう。

文/りつこ

※本稿では作品の性質上、自殺や自傷といったトピックを取り扱います。あらかじめご注意ください。

ストーリードリブンな「探索」と「逃走」を軸にした、とにかく遊びやすいモダンなホラゲー。終盤は歯ごたえもある

『サイレントヒル:ザ ショートメッセージ』は2月1日にサプライズで配信を開始した『サイレントヒル』シリーズの最新作だ。プレイヤーは学生の主人公・アニタとなり、迷い込んだ不可思議な廃墟のマンションから脱出を目指すこととなる。

廃墟のマンションは主人公・アニタや彼女をマンションに呼び出した友人のマヤ、親友であるアメリの記憶にちなんだ異形の空間となっており、アニタの命を狙う「桜」をモチーフにしたクリーチャーも登場。ゲームプレイは隠されたメインキャラクターの記憶や思いと対峙する「探索」とクリーチャーから逃走する「逃走」を主体とした2つのパートの形式を取っている。

構成としては探索をとおして「ストーリー」を楽しみながら、随所で「逃走」を行うストーリードリブンな設計になっている。

なお、本作は音楽に関しては山岡晃氏が、クリーチャーや裏世界のデザインに関しては伊藤暢達氏が手掛けている。『サイレントヒル』シリーズのプロデューサーである岡本基氏も本作ではディレクターを兼任してしっかりと開発に携わっている

さらにネタバレになるため明言を出来ないが、本作のシナリオや随所の演出などには『サイレントヒル』シリーズのファンであればニヤリとする要素が存在することから、短編作品ながら充分に“シリーズの最新作である”と感じられるだろう。

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ここで、本作のテーマ性を掘り下げる前にひとつお伝えしたいのが、『サイレントヒル:ザ ショートメッセージ』は非常に「遊びやすい」作品であることだ。

まず基本情報として、本作は2〜3時間ほどでクリアできる無料の短編作品である。ゲームプレイもモダンな作りとなっており、たとえば主人公の生死を隔てる「逃走」の場面においてゲームオーバーになっても「逃走」がはじまる直前の部屋でリスポーンするためサクサクと遊びやすい。

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▲シンプルなパズル要素もひとつ用意されている。

逃走の難度に関しても終盤以外はカジュアルな塩梅であり、中盤に登場するパズル要素も含めて「苦痛ではないが、歯ごたえもある」調整を採用。恐怖演出に関しても、いわゆる「ジャンプスケア」のような演出は少なく、むしろ通奏低音のような陰鬱さ、じんわりとした不気味さの演出が印象的であった。

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▲とはいえ、逃走で倒されてしまうシーンはちゃんと恐ろしい。
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▲いわゆる“死に戻り”のような力でスムーズに復活可能だ。

くわえて、前述のとおりにストーリードリブンな設計を採用しており、上記の要素と相まって「話が面白くて短いゲームが好き」なモダンなゲーマーや「難しい操作が苦手」であったり「ホラーゲーム」そのものが苦手なユーザーであってもストレスなく遊びやすい、手に取りやすい作品となっているのだ。

詳細は後述するがホラージャンルのポテンシャルを活かしたシナリオも展開され、「シリーズらしさ」も用意されている。なので『サイレントヒル』シリーズおよび「ホラーゲーム」の入門としてもおすすめできる。

「ラジオ」から「スマホ」。実写フッテージや「謎が明かされていく」形式で 引き込むドラマ

また、本作の遊びやすさは、「現代」にちなんだ演出や、シナリオの形式にもマッチしている。

例えば『サイレントヒル』といえば「ラジオ」を駆使した探索要素だが、本作においては「スマートフォン」が探索における同様のポジションを担っている。

たとえば逃走パートにおいては敵が接近するとスマートフォンの画面がノイジーに点滅したり、重要なオブジェクトに接近すると「オブジェクトにちなんだイメージ」を表示するといった演出が登場し、まさに『ザ ショートメッセージ』における重要なアイテムとして活躍してくれる。

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さらに、本作のストーリーは友人でありグラフィティアーティストのマヤから送られてきた「見せたいものがある」というメッセージから開幕するように、本作の物語は主人公アニタと友人であるマヤやアメリとのチャットを通じて進行する。

そのため、本作における「スマホ」は探索における便利アイテムではなく、作品を駆動させ、時に隠された真実を暴く「作品の核」のようなモチーフとして機能している。

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くわえて、本作には随所で「実写フッテージ」が使われ、主人公の過去を“今っぽい”キャスト陣で描写していたり、フレーバーテキストをとおして「作品の世界がコロナ禍以降」の世界であることが明かされたりと、さまざまな要素を設定にともなって刷新している。

このように、作品の設定やシナリオを描く際に多彩な演出を駆使することで、視覚的な新鮮さを獲得し、同時に「サクサクと進められる」テンポを維持して「物語」をしっかりと描写できているように感じた。

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また、肝心のシナリオは「隠された真実」が探索やゲームの進行に応じて徐々に明かされていく形式となっており、彼女が自分自身や現実と向き合う様が描かれる。

舞台となる「自殺の名所/グラフィティの聖地」である廃墟になぜアニタは呼び出されたのか。マヤはどこにいるのか、主人公たちはどのような関係性なのか。そういった情報が次第に明かされていくさまはシンプルに「先が気になる」ようなドライブ感を作品に与えていた。

なので、本作のシナリオは主人公・アニタがマヤやアメリ、自身の過去に纏わる悲痛な現実に向き合っていく様を描いているが、新鮮でテンポの良い演出と相まって、「引き込む力」を有したドラマも充分に楽しめるだろう。

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少女たちが苛まれる現代の病理。「ホラーゲーム」として“抑圧される者たち”をエンパワメントするユニークなシナリオ

ゲームはグラフィティアーティストである「マヤ」から送られてくるメッセージや彼女の残したグラフィティを辿りながら進行していくが、探索を進めていくうちにアニタ自身が忘れていた記憶やメインキャラクターたちが経験した“忌まわしい事物”や“悲痛な現実”と対峙する。

メインキャラクターたちの“忌まわしい事物”や“記憶”は、記事の冒頭で触れたようなネグレクトの記憶や、家人から性的な悪戯をされたこと、「個性がある」ことを理由にいじめにあったことなどのトラウマを示唆する。また、トラウマに起因する後ろめたい過去や、インターネットに偏在するグロテスクな視線、貧困といった問題であり、いずれも現代において偏在していると言って過言ではない病理が「彼女たちの経験」として描かれている。

そして、「彼女たちの経験」はしばしば舞台となる廃墟にて具現化し、主人公の前に「おぞましい異空間」や命を狙う「クリーチャー」として立ちはだかるのだ。

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▲チャプターごとにセンシティブなテーマを扱う警告と、自殺や自傷を行うリスクがあれば助けることを促すテキストが表示される

つまり、本作において描かれる恐怖の殆どは、メインキャラクターである少女たちの苦悩や生きづらさであり、同時に現代の社会が抱える社会問題や、それらが有する暴力性そのものである。

本作においてプレイヤーは「ホラーゲームの恐怖」としてそれらを“体感”するため、疑似的に「暴力に苛まれる当事者」の視点を得ることとなる。いわば本作は「ホラーゲーム」としてプレイヤーにスリルや緊張と緩和による快楽を与えることに留まらず、「社会問題の当事者の視点」を共有するという報道的な意義を有した作品でもあると言えるだろう。

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ネタバレになるため詳細は避けるが、シリアスなテーマを伴う少女たちのドラマからは、きっと暗黒の絶望に抗い、抵抗する光も垣間見えるはずだ。個人主義的な価値観が力を持つ昨今だからこそ、社会構造により苦しむ人々に寄り添う本作の物語は、作中に登場するような「少女たち」をはじめ、今を生きるプレイヤーたちに希望的な力を与えてくれるだろう。

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そもそも「ホラー」作品における恐怖は、現実に存在する暴力的な事象や「うしろめたいもの」のメタファーとして扱われ、物語を伴う作品においては「それらの不快さ、恐ろしさ」や耽美性を表現する作品が多い。

いっぽう、本作においては「恐ろしさ/不快さ」を提示するだけではなく、それらに苛まれる者たちに焦点を当て、エンパワメントをするに至っている。字面を見ると不思議だが、本作が「恐怖」を用いて社会問題を描き、さらにはポジティブな提案をするに至っている点は、「物語」を重視した作品だから可能な表現であり、本作のユニークな魅力である言えるはずだ。


このように、本作は「恐怖」と「物語」が並走する『サイレントヒル』“シリーズらしさ”が持っていたポテンシャルを更に引き出し、同時代性のあるテーマを誠実に描くという「新たな挑戦」に踏み切った作品だ。

そこにはリブート作品に散見される「ノスタルジーに依存した作風」は見られず、シリーズが達成しうる新たな未来を模索するリバイバルの在るべき姿も垣間見える。

なにより、お手軽に無料で遊べる短編作品となっているため、『サイレントヒル』シリーズのファンは勿論のこと、「ホラーが苦手」でも本作のテーマやシナリオに興味を持った方は、ぜひ本作をプレイしてみてはいかがだろうか。

©Konami Digital Entertainment

ライター
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。

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