インディーズゲームの魅力のひとつは、作者の「好き」がこれでもかというほどに濃密に表現されていることだろう。インディーズゲームは大作とは違う輝きを放つ。グラフィックはもちろん、ゲームプレイにまで「好き」が反映されていたり、ビジュアルとシステムが一貫した美学で製作されている作品を通して、作者のマニアックな理想に触れることができる。
本稿で紹介する『DRINKRIME』は、『逆転裁判』と「人外」というふたつの軸で構成された、まさにゲームの端々にまで作者の「好き」が詰まったタイトルだ。
「『ジンモン』で人外キャラを自白させるアドベンチャーゲーム」というピーキーな設定ながら、ゲームボーイ風のグラフィックやチップチューンはパッと目と引くキャッチーな魅力にあふれているし、ゲームプレイ中もプレイヤーが飽きない仕掛けが施されている。
今回は、本作を「TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2024」にて試遊することができたので詳しい内容などを紹介する。なお、本作はPC(Steam)向けに体験版を配信中だ。
文/anymo
魔界の厄介者が「タマシイ」を集めるために人間界へ降臨
物語は、「壊し屋」を名乗り、かつての魔王を「亡きもの」としたという「ジン」が現魔王に「人間界で悪魔の材料になる罪人」を集めてくることを命じられるシーンから始まる。
能力を使える程度の姿──スキットルになってしまったジンは、人間界に飛ばされ、偶然彼を拾ってしまった主人公を巻き込んで、罪人を集めるというミッションをこなしはじめる。
プロローグでは、プレイヤーが「ジンモン」に辿り着くまでのプロローグもガッチリと練られていることが印象的だった。
また、ジンは魔王を倒していたり、後述する本作の目玉「ジンモン」では自白を促す「ジンモンスペース」を展開できるなど、なかなかのやり手なようだ。字面だけ見ると強敵にも思えるが、人間の手に収まるスキットルに姿を変えていることでコミカルなキャラクターに仕上がっているのもユニークだ。
特に最初の「ジンモン」を終えてから、自身に課せられたミッションとノルマについて語る言葉には自業自得にも関わらず哀愁が漂っており、つい彼の話を聞いてしまいたくなるような不思議な魅力がある。
ウソを追求したり、話を聞き出して罪人を自白させる「ジンモン」フェーズ
本作のメインとなるのが、「ジンモン」フェーズだ。画面上部に表示された「罪状」は一部が伏字となっているので、罪人のセリフの気になるところを問い詰めたり自白させたりしながら、この伏字部分をすべて明らかにして罪人の口からその罪を告白させる。
『逆転裁判』へのリスペクトを明示してるだけあって、罪人のセリフを軸にしたゲームシステムが構築されている。罪人のセリフの一部には下線が引かれており、この中から伏字に当てはまる単語を探していく。
また、より詳しく話を聞き出す「ひきだす」のコマンドでは、罪人が話している話題をより深掘りすることができるので、伏字部分の答えが見つからない場合はこれを駆使しよう。
伏字部分を見つけた場合は、「ココだ!」というコマンドで単語を指定することで追求できるが、罪人もそう簡単に口を割るわけではない。
保身に走る罪人の嘘を見破ったり、焦るあまり繰り出した攻撃を避けたりといったミニゲームのようなものが用意されており、これらをクリアすることで伏字部分がオープンになる。また、このミニゲームがテキスト主体のプレイにほどよくバラエティ豊かな楽しさを添えている。
そうして罪状が完成し、罪人の口から罪のすべてを自白させると、「ジン」が魂を回収して「ジンモン」は完了。この魂の回収も、ボタンを連打するとジンの中に罪人が吸い込まれていくというユニークな演出で描かれている。
テキスト主体なのに画面が楽しい!ワクワクするたくさんの仕掛けとゲームボーイ風グラフィックだからこそのポップさ
本作のすごいところは、テキスト主体のシステムでありながらプレイ中常にワクワクできるところだ。ゲームへの没入とはまた別の「今すごく楽しい!」という感覚を、このゲームではプレイ中、とりわけジンモン中にはとても強く感じた。
それは、ジンモン中にミニゲームが挟まったり、罪人であるボテロウの表情が状況によって変わったりといった演出で画面全体が常に「楽しい」からだろう。
ミニゲームの前には『メインドインワリオ』のように「外に逃すな!」などのシンプルな指示が大きく表示されたり、ボテロウのカットインが入ったりと画面全体がにぎやかに動く。プレイヤーの操作に対してのレスポンスのひとつひとつが大きく、テキストを軸にしながらも「触ったら反応がある」というゲームの面白さを常に感じることができるのだ。
また、ダイアログに表示されるテキストの一文はそこまで長くないためとっつきやすいというのもポイントだ。見た目の小難しさはなく、ゲームボーイ風の正方形の小さな画面にドット絵のキャラクターやセリフ、コマンドなどがギュッと配置されたポップな「ゲーム感」が漂う画面は見ているだけで楽しい。
筆者は今回の試遊で「スーファミ」風のコントローラーを使用したことも相まって、ミニチュア的なかわいらしさを感じた。
さらに、「ジンモン」フェーズと通常の会話パートでは画面のカラートーンが異なっている。例えばジンモン中は紫とオレンジ、主人公の暮らす街の屋外では水色と紫、自宅ではピンクとオレンジなど、それぞれのシーンの空気感を感じられるようなカラーがチョイスされている。
ひとつひとつのシーンごとには少ないカラーで画面を表現しているもののトーンが異なることで、ストーリーパートでもプレイヤーの視覚的な満足度を高めてくれる。無機物に姿を変えたはずにも関わらず、どこか愛嬌のある「ジン」の豊かな表情もユニークだ。訳アリっぽい彼の背景とあわせて、「はやく先を知りたい!」と思わせてくれる。
今回の試遊は15分と時間が決まっていたため、ゲームプレイの楽しさは存分に楽しめたものの、序盤のすべての物語をプレイすることはできなかった。時間が来るとゲームが強制的に終了するのだが、「あああ……もっとプレイしたかった……」と心から消えゆく画面を惜しんだ。
本作のポップな魅力というのは画面を見てもらえれば存分に伝わると思うのだが、それにくわえて感じられる手触りの楽しさが少しでも伝わっていれば幸いだ。
また、冒頭で記したとおり本作は体験版が配信中だ。少なくとも序盤ではテキスト主体ゆえに操作のシビアさはなく、プレイを進めている間常に「楽しい!」を感じられるような比較的カジュアルなタイトルなので、「人外」好きならもちろん、すこしでも興味があればぜひプレイしてほしい。