『東京サイコデミック ~公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿~』というものすごーく長いタイトルのゲームを遊ぶ機会を頂いた。
ゲームのジャンルは「2D×シネマティック・リアル科学捜査シミュレーションゲーム」というこれまた長いジャンル名である。
プレイ前の私は、このジャンル名に対して「推理アドベンチャーゲーム」の呼び方を小粋にいじった程度のものだろうと考えていた(超爽快剣戟アクションとか、ドタバタ超次元恋愛シミュレーションとか)。
だが、その予想は裏切られることとなった。このゲームは薄暗い建物の一室で証拠品をひたすら地道に分析や解析を行い手がかりを集めるという、「リアルな科学捜査を体験できるゲーム」だったのである。
一般的に、「特殊捜査」や「事件簿」といった単語から想像するのは、テキスト主体の「推理アドベンチャーゲーム」である。証拠品を集めながら登場人物に聞き込みを行い、犯人を見つけ出して事件を解決……これが王道だろう。
しかし、このゲームにそのような華々しい推理要素はほとんど用意されていない。
結論から言わせてもらおう。このゲームで体験できるのは、「監視カメラの映像を何度もズームしたり巻き戻したりしながらモニターとにらめっこする体験」や「専門家の資料をくまなく読みながら科学的事実について考察していく」という、率直に言ってしまえば地味~~~な体験である。
だが、これもあえて言わせてもらおう。それがいいんだと。科学的事実のみによって進む捜査はリアルさに溢れていてどんどん引き込まれていく。
『東京サイコデミック』の謳う「リアル科学捜査シミュレーション」とはいったい何なのか? 少しながら紹介していきたい。
※この記事は『東京サイコデミック』の魅力をもっと知ってもらいたいグラビティゲームアライズさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
科学を用いた硬派すぎる推理体験
このゲームでは、探偵事務所に所属する主人公として事件の調査と推理を行うことになるわけだが……事件現場で捜査をしない。この時点でもう異色である。
事件現場を駆けずり回って、証拠集めをする。これらは推理ゲームのお約束だが、本作にはそのようなフェイズは用意されていない。
証拠品は全て公安調査庁に所属する「杵島・ローレンス・ユイカ」さんという人物が、然るべき機関から横流ししてくれることになっている。
事件に関わる登場人物に聞き込みをしたり、証言してもらうというのも一部を除いてほとんどない。証言は全て、警察や公安のものを「杵島・ローレンス・ユイカ」さんから拝借するのみである。
では、プレイヤーは何をするのか?
このゲームでプレイヤーが行うのは「薄暗い建物の一室で証拠品を地道に分析していく」、この一点に尽きる。
分析については、実際にゲーム内容を例に出したほうが早い。ここでは実質的に本作のゲームプレイの根幹となっている3つの調査方法を紹介しよう。
1.画像・動画解析
ひとつ目は、証拠品となる画像や5分程度の動画を専用の機械で解析し、あらたな情報を引き出していく「画像・動画解析」。
2枚のディスプレイにひとつずつ証拠品を映し、拡大や縮小、早送りや巻き戻しを用いながら、「事件の重要な人・もの」や「決定的な瞬間」を切り取って証拠として残すことができる。
特徴的なのは、これらの解析にAIの力を使うことができるということ(ゲーム内の設定上のAI)。たとえば、「特定の人物の写真」を右のモニターに、「監視カメラの映像」を左モニターに映して、両者の顔の一致度を照合することなんかもできる。
これは人だけでなくモノにも有効。映像に映っている物的証拠が写真のものと同一かどうかもAIが解析してくれる。
2.音声解析
画像や動画だけでなく、音声からも解析を行っていく。こちらも画像や動画と同様、証拠品となる音声記録を読み込ませることでAIによる詳細な解析が可能になっている。
画面に映っている波形を下のスライダーで帯域ごとに増幅させることができ、人の声の裏で流れている音楽や環境音、細かな衝撃音まで詳細に聞き分けることができる。
「画像・動画解析」と「音声解析」に共通している点だが、ふたつの証拠品を比較照合できるということが、ゲームプレイにおいて非常に大きなキーになっている。
たとえば、監視カメラの映像から「同時刻に別々の場所で何が起こったのかを比較する」ことができたり、音声であっても、同じ場所で録音された複数の音声を比較することで「それぞれの記録の間にある矛盾を明らかにする」ことができる。
プレイヤーはこれらの違いをつぶさに観察し、分析していくことで推理を進めていくというわけだ。
3.ダークウェブ調査
「画像・動画解析」「音声解析」で得られた証拠品は、ダークウェブ(通常の方法ではアクセスできないWEBサイト)に提出することで専門家たちによる詳細な検討にかけることができる。
ダークウェブでは、化学や工学、オカルトに至るまで、専門的な知識を有する仲間たちが調査に協力してくれ、調査の中で得た仮説や科学的な推論を立証するための資料や情報を送ってくれる。
また、ダークウェブで得た資料や、証拠品となる新聞記事などの文面から特定のキーワードを選べば、仲間たちにさらなる情報提供を依頼することができる。
そこで得られる情報は多岐にわたり、体内に含まれる化学成分の性質についてや土地の地理的特徴についてなど、かなりハイレベルな学術的知識が飛び交う。
さて、これら捜査を重ねていくことで、ゲームは進行していくわけだが、その過程はかなり硬派と呼べるものに仕上がっている。
流れを実際にみていくと……。
1.街頭の監視カメラ映像で人の往来をチェックし、写った人物の顔を特定の人物の顔写真と照合していく
↓
2.照合が完了したらその人物が手に持っているものを解析し、専門家に情報提供を依頼
↓
3.専門家から貰った資料を読み、それが事件に関係しているかもしれないという仮説を立てる
↓
4.上で立てた仮説が成り立つか専門家の意見を仰ぎ、お墨付きが得られればさらなる情報を集める
↓
5.その証拠品が現場写真のどの位置にあったかをチェックし、映像と照合にかける
というような手順で捜査を進めていくことになる。もちろんこれは単なる一例で、場合によってはより複雑な工程がいくつも挟まる。
ここまで聞いて「なんだか難しそう……」と、思った方がいるかもしれない。
安心してほしい。このゲーム、やってることはめちゃくちゃ硬派でハードだが、その実、「ゲームプレイ中の謎解きは実にシンプルかつ易しい」ものとなっている。
たとえば、捜査についてアドバイスをくれる相棒の「紅葉巴杏(あきばともな)」女史は、その優れた推理力から次に調べるべき証拠品をプレイヤーに適宜教えてくれる。
また、事件の調査中には「エビデンスボード」と呼ばれる情報整理のためのボードが存在し、仮説を立てるための問いをゲーム側からあらかじめ提示してくれる。
これらの設計は非常にユーザーフレンドリーであり、実際のところ本作においてプレイヤーが「推理」する場面というのは非常に少ない。
基本的には巴杏さんの手ほどきに従っていればプレイに詰まることはほとんどなく、謎解き要素もあるにはあるが、どれも簡単ですぐに正解が分かる程度のものだ。
なので、本作を骨太の謎解きゲーをやるつもりで遊ぶと、肩透かしを食らうことになるだろう。冒頭から述べていることだが、本作を推理ゲームとして捉えるべきではない。本作はシミュレーションゲームなのだ。
しかし一方で、本作はプレイヤーに「まるで自分が探偵であるかのような体験」を与えることにも成功している。「推理もしないのに何故?」と思うだろうが、私の見立てでは、むしろ逆である。
本作で味わえる探偵気分は「推理がメインではない」という逆説によって成り立っている。