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薄暗い部屋でひたすら証拠品を分析して事件の手がかりを集める『東京サイコデミック』が“ガチ”な科学捜査シミュレーションゲームだった。画像、動画、音声を解析し、ときにダークウェブの住人に情報提供を依頼する。硬派で地味……だけどそのリアルさに引き込まれる

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実写、報告書、そして科学

ここからは本作のリアルさについて少し語ろうと思う。

私の考えではこのゲームのリアルさを演出しているのは「実写素材を用いたビジュアル表現」「報告書の提出というゲーム要素」「科学に基づいた捜査」の3つの要素からなっている。

実写素材を用いたリアルな記録

本作の証拠に使われている素材は一部のキャラクターイラストを除いて全て実写素材。監視カメラの映像や現場写真、専門家から受け取る科学検証の動画なども全て現実で撮影したものを使用している。

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かなりのエキストラを使用しているだろうが、おそらく一部には普通の一般市民も写っているであろうこれら映像は、物語とゲームプレイに現実味を与える大きな要因となっている。

実在の地名がそのままゲームの素材となっているのも面白い。上の監視カメラの映像は東京某所の映像なのだが、もしかしたら「ここってあれじゃない?」というような事があるかもしれない。

兎にも角にも、実写映像がリアル感を生み出しているという点については間違いないだろう。

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報告書によって生まれる神の視点の不在

ゲームのシナリオ的な部分に着目すればどうだろう。

じつは本作のシナリオには、犯人とトリックを明かして事件をきれいさっぱり解決する、いわゆる「解決編」となるパートは含まれていない。

調査はするのに解決しないというのはなんとも奇妙なように聞こえるが、私はむしろここに本作のリアルさがあるように感じる

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本作はひと通りの調査を終えると、事件の概要をまとめた調査報告書を「杵島・ローレンス・ユイカ」さんに提出するというかたちでゲームプレイが終了となる。

ここでの回答には一応ゲーム側で「正解・不正解」が用意されているものの、基本的にその推理が合っていたのかどうかはプレイヤーに対して直接的に明示されない。

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正解の判断基準は根拠を示せているかどうかであって、その推理が合っているかではない

推理が正解か不正解かというのは神のみぞ知る、これは現実と同じである。私たちが示せるのはある程度妥当性のある仮説のみであって、真相は本当のところは誰にも分からないのだ。

探偵が主人公のゲームでありながらこの冷徹な視点。ズバリと犯人を言い当てることもなく、ただただ証拠と科学的事実に立脚した推論のみを重ねていく……。

見方によればただただ渋いゲームであるのだが、私にとってはそこが、本作の「実際の探偵のような」リアルさを引き上げているように思える。

地道な検証こそ探偵だ

もちろん、それはそこに至るまでの過程、すなわち証拠を解析していくというゲームプレイがしっかり作られているからこそ成り立つものだろう。

そしてその調査は、複雑な手続きが必要で、華やかな推理とはほど遠い、地味な作業であるように設計されている。

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それは捜査のリアルさを出すためであろう。

確かにシャーロック・ホームズ的な探偵像で見れば、これは探偵に似つかわしくない裏方作業だ。しかし現代の探偵であるプレイヤーは、ここではもっぱらワトソン君やレストレード警部を演じるのである。

そして現代に生きる私には、犯人に人差し指を突き立てるよりも、こちらのほうがずっと「探偵気分」が味わえるような気がする。

思えば、「監視カメラの映像をじーっと見つめる」「被害者の医療データの数値を一つづつ眺めていく」などの調査のなかで、全体の80%くらいは事件の真相に関係するものではなかった。

しかし、本作の開発陣はそういった本筋以外の作り込みに一切手を抜いていない。事件とは関係のなさそうな何も起こらないカメラの映像、一般のゲーマーからすれば豆知識程度にしかならない物理の知識が延々書かれた書類。このゲームではそういった余白の部分が異常なほどよく作り込まれている。

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逆に、犯人の動機や被害者との関係、事件関係者たちの人間模様といったあまり科学的じゃない部分、普通のミステリーや捜査モノではそここそが本題になるような部分に関しての描写は、びっくりするほどあっさりとしている。

なるほど、確かにこれは「リアル科学捜査シミュレーションゲーム」である。ゲームを遊び、こうした諸々の要素を見渡してみて、私は初めて本作のゲームジャンルが何ら嘘偽りのないものであることを実感したのだった。

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「ゲームとは究極のごっこ遊びである」というような話をとあるゲームクリエイターから聞いたことがあるが、本作では「本気の探偵ごっこ」「科学捜査ごっこ」が楽しめるようになっている

もちろんゲームの世界(フィクション)での出来事なのだが、それでも実際にプレイしている時、確かに私は凄腕の探偵であり、科学の下で真相を突き止めんとする捜査官であった。

最後に、本作のシナリオについても軽く触れておこう。本作は、2023年の日本を舞台にしたサスペンスストーリーであり、新型ウイルス(作中ではコロナではない)の猛威を乗り切った日本社会が描かれている。

基本的にひとつの章に対してひとつの事件を解き明かしていく構成(全体を貫く大きなストーリーも存在)で展開されていく。

舞台の設定からしてかなり時事的な要素が強く、ギグワーカーやサイバー犯罪、ドローン技術など近年関心の高い話題が散りばめられているほか、カルト宗教と政府の癒着献金問題など、最近のニュースでも見かけるようなテーマも取り扱った社会派な一面もある。

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そんな『東京サイコデミック』は2024年5月30日に日本で先行発売する。価格は税込5940円。Nintendo Switch、PC(Steam)、PS4、PS5で展開される。パッケージ版では初回特典としてオリジナル・サウンドトラックが付属。また、店舗別購入特典や限定ボックスの発売も予定されている。

科学を用いた硬派すぎる捜査を体験してみたい方、ちょっと知的なゲームを遊びたい方、そしてリアルな探偵や事件の捜査を「ごっこ遊び」してみたい方には非常におすすめのゲームである。

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ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。
サブデスク
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
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