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「北朝鮮のゲーム開発事情」とは?1990年代半ばには密輸された『魂斗羅』が人気、近年では独自IPであるクイズゲーム『<力>』が人気を博し推定20万本販売。【セッション「戦争状態とゲーム開発~インシデントに直面してから慌てないために」レポート】

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NPO法人IGDA日本は、6月20日にゲーム産業と政府との関係に焦点を当てたセミナー「知らなかったでは済まされない、日本・世界のゲーム産業政策の現況と活用法」を東京・新宿にある東京国際工科専門職大学で開催した。

今回のイベントでは、アジアのゲーム産業の状況紹介やスウェーデンのインキュベーションプログラムの事例紹介、インディーゲーム開発者支援策、戦争状態にある国で行われているゲーム開発など、幅広いテーマでセッションが行われている。

こちらの記事では、ルーディムスの佐藤翔氏とアトリエサードの徳岡正肇氏によるセッション「戦争状態とゲーム開発~インシデントに直面してから慌てないために」の模様をレポートする。なお、また、別記事ではそれ以外のセッションについてもレポートしているので、合わせてチェックしてほしい。

セッション「戦争状態とゲーム開発~インシデントに直面してから慌てないために」レポート:北朝鮮のゲーム開発事情などにフォーカス_001
▲ルーディムス 佐藤翔氏

取材・文/高島おしゃむ

北朝鮮では2000年初頭からゲーム産業が本格化。独自IPであるクイズゲーム『<力>』が人気を博す

こちらのセッションで最初に取り上げられたテーマが、北朝鮮のゲーム開発事情だ。多くの人は、北朝鮮のゲーム産業に関する情報すら耳にしたことがないのではないだろうか。

そんな中、韓国のシンクタンク統一研究院より、2023年1月に『北韓ゲーム文化の融合:ゲーム産業・コンテンツ・経験』というレポートが発表された。これは脱北者のゲームユーザーや北朝鮮でゲームカフェを運営していた人など10~20人ほどインタビューを実施し、それをまとめたもの。同レポートによると、北朝鮮が本格的にゲーム産業に関わりだしたのは2000年代初頭からとのことだ。

ゲーム開発の主な目的は、対外事業分野と技術強化。中国が中心ではあったものの、ドイツの企業なども北朝鮮に下請けを出していたことが判明している。

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当初は外注が中心だったが、2014年より独自IPの作品も登場し始める。それが、金日成総合大学で開発されたクイズゲームの『<力>』。なんと推定20万本ものヒットになる。価格は$10だったものの、それでも20万本も売れるとかなりの金額だ。「ゲームを作ると売れる」ということが知られ、個人や小規模の民間ゲームやアプリ開発が広がっていったのだ。

北朝鮮におけるゲーム産業の特徴的な点は、個人や小規模で作ったとしても流通の際には国の許可が必要になる点だ。国家教育機関や研究機関、企業所を通じてパブリッシングやマーケティングをして販売してもらうことになるのだ。

実際に作られているゲームとしては、旅館を経営するシミュレーションゲームや北朝鮮アニメをアクションゲームにしたもの、サッカーゲームやゲーム機などがある。

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北朝鮮では、1990年代半ばに密輸され始めた日本の家庭用ゲームを北朝鮮のユーザーがプレイするようになった。中でも人気を博したのが、『スーパーマリオブラザーズ』『魂斗羅』といった作品だ。そして2000年代になってからは、中国からPCゲームが流入。そこから、平壌を中心に正規・不正規問わずPCルームが運営されるようになったのである。

2006年に当局の取り締まりにより、PCルームは非正規化される。だが、2010年代の金正恩時代になってからは電子図書館を整備するプロジェクトが生まれ、その一環としてPCを設置する場所が増えた。それを利用し、夜にはこっそりゲームカフェが運営されるようになったのだ。このほかにも、企業や映画館の裏でひっそりと運営が行われており、ゲームが遊び続けられているのである。

とはいえ、北朝鮮はインターネットの利用が限定的である。2000年代は、基本的に平壌に様々なゲームが集まり、その後、USBメモリーなどを通じて地方都市に広がっていくというスタイルになった。ゲームも検閲の対象ではあるものの、ほかのドラマや映画などと比較すると緩かったのだ。

そうした中で、2010年代に入るとモバイルやアプリゲームの市場が急激に発展していく。当初は国家公認の「ダウンロード屋」のような場所があり、そこでお金を払ってダウンロードしてもらっていたとのこと。

しかし2019年にはサードパーティで国営のオンラインストアのようなものが登場し、「ダウンロード屋」に行かずともゲームを手に入れることが可能になっているそうだ。

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ウクライナ支援を目的としたゲーム開発も進む。ロシアは「2027年にはゲーム機開発を目指す」

ウクライナのゲーム産業は現在も活動中で、戦争体験をゲームにしている作品がいくつか登場している。本部が移動したため厳密にいうとウクライナではないものの、『S.T.A.L.K.E.R. 2:Heart of Chornobyl』『Sherlock Holmes Chapter One』なども開発されている。

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ウクライナのゲームユーザーの例としては、兵士が『World of Tanks』で遊んでいる様子をアメリカのメディアが取材している。また、ウクライナはライブアクションRPGとも縁が深い土地柄である。ライブアクションRPGは、「ごっこ遊びのすごい版」のようなもので、実際に仮装して遊ぶRPGだ。ライブアクションRPGの際に使用する甲冑などの製造でも有名で、現在もこの活動は続いているとのことだ。

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また、「爆撃の中で行われるゲーム開発」というカンファレンスも開催。こちらでは「ロシアからの砲撃でどれほど生産性が落ちたか」などといった、戦時中の国ならではの報告が行われている。

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▲アトリエサード 徳岡正肇氏

ウクライナ国内だけではなく、海外からもウクライナ支援を目的としたゲーム開発が進められている『DEATH FROM ABOVE』は、ウクライナの兵士がドローンでロシア兵を撃退するゲームで、開発者はこのゲームがプロパガンダゲームであることを否定していない。

また、『カウンターストライク』のゲーム中では、ロシア内にいる人たちに向けて西側の情報を伝えるといったことも行われている。

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一方、ロシアのゲーム産業はどうなっているのだろうか。ロシアのゲーム市場自体はそれほど大きくなく、2000億円ほどのゲームマーケットとなる。そこを狙うよりも、アメリカやヨーロッパのマーケットを狙った方が遥かに市場は大きいのだ。

そのため、ロシアの開発者はヨーロッパやアメリカの下請けをしているほか、自分たちで作った独自IPを元にアメリカやヨーロッパの市場を切り開いていくのがほとんどであった。

しかし、戦争が始まってしまうとこれまでのようには活動できなくなる。そうした背景もあり、戦争が始まった直後にロシアのゲーム会社が戦争反対の署名運動を行っていた。

ロシアから離れたゲーム会社もあれば、隣接国で開発を始めた会社もあるようだ。国内に残っているゲーム会社が流出しないよう、ロシアではプロパガンダを目的としたゲームに対して様々な補助金が出るようになった。

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▲中にはシベリアのゲーム会社が作った作品に対して、3億円ほどの補助金を出すという例もあった

ロシアビデオゲーム産業開発機構は、戦争開始後にできた組織だ。彼らが発表したロードマップによるとロシアのスタジオに補助金を出し、ゲームのアクセラレーターを設立。2025年にモスクワにゲームハブを作り、ロシア政府に対してプラスになる作品にはグリーンラベルを用意。2026年には独自のゲームエンジンを制作し、2027年にはゲーム機開発を目指している

それでは、国外で開発しているロシアのゲーム開発者たちはどんな状況なのだろうか? キルギスにはゲーム開発者が集まっており、それ以外にもアルメニアに集まってゲーム開発を行っているところもある。『inKONBINI: One Store. Many Stories』はマイクロソフトからも支援を受けているタイトルだが、こちらは本拠地を日本に置いてゲームの制作が行われている

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紛争地域では紛争の悲惨さを伝えるゲームが登場。インドでは『PUBG』が禁止になる事態も

中東地域では、プロパガンダゲームは長い歴史がある。中でももっとも歴史があるのがイランで、先ほどのロシアのロードマップの先例にもなっている。イランでは、昔からプロパガンダになるゲームには補助金を出してきた。

そうした中で、中東のゲームでも開発者は中東在住でない例もある。ブラジル在住のパレスチナ人が作ったという作品も存在しているのだ。中南米は、レバノン系やパレスチナ系の住人も多く、ブラジルのゲーム業界もレバノン人が多いとのこと。そうした中で、ブラジル在住のレバノン人がガザ紛争を舞台にしたゲームを制作した。

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カフカス地域は、ゲーム産業の中では小規模だ。昨今の紛争を舞台にしたゲームが登場し、そして現地で話題になるゲームはその紛争に関するものだ。紛争が絶えないアフリカ地域では、紛争の悲惨さを伝えようとするゲームや、平和解決について理解を促すようなゲームが登場しているのも特徴だろう。

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南アジアは、国境紛争が起きている地域である。インドでは『PUBG』が人気だが、一時期禁止になっていたこともあり、そのタイミングでリリースされたのが「インドの北で悪人と戦う」という内容の『FAU-G』だ。なお、ゲームプレイはバトロワではなく、ひとりでさまざまな敵と戦う作品だという。

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CIAの職員が作った「麻薬戦争がテーマのゲーム」を政府職員の教育に使用。さらに士官候補生がアナログゲームを使って勉強するなど、軍隊とゲームの関わりが見えてくる

アメリカでは国防省が「ウォーゲーミング分析」に予算を付けている。日本も参加した「シュリバー演習」は、英語では「Schriever Wargame」となる。CIAの職員が作った麻薬戦争がテーマのゲームは、実際にアルゼンチンの政府が職員の教育用に使用しているという事例もある。

「軍隊が真っ向からゲームを扱う時期に入ってきた」と徳岡氏は語る。たとえば、士官候補生の学校のコースの一部として、アナログゲームを使っているケースが存在する。『Littoral Commander:Indo-Pacific』というボードゲームは米海兵隊の教育用に作られているだけではなく、まったく同じものが一般人に向けて販売される「デュアルユース」のひとつだ。

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コンピューターゲームは制作に予算が掛かるなど多少の障壁があるものの、アナログゲームではそれがない。アドリブで作ることもできるほか、1週間でしっかりとしたクオリティのものを作ることもできる。それゆえに、デュアルユースではアナログゲームの領域を今後も注目していく必要があるとのことだ。

『ComBat Vision』というツールは町にある監視カメラなどの映像を収集し、倒れている兵士への救助の状況を管理することができるシステムだ。これは、元々アナログゲームのライブアクションRPGの補助ツールとして生まれたものである。

たとえば、1本しか存在しない勇者の剣を複数のユーザーが持つと弊害がある。このツールを使い、ユーザーが「今どこにいて、どのようなステータスで、何を持っているか」といったように、情報を把握するためのものとして作られた。そしてそれを、負傷兵の管理に応用したのである。

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プロパガンダに使用されるゲーム。「悪役をカッコよく描く」問題がオンラインカルトを生んでしまう

最後のテーマとして紹介されたのが、これから起こりえる危機対応についてだ。たとえば、戦争当事者のゲーム会社から共同開発や提携、出資などを求められたときはどうすればいいのだろうか。こちらは開催者であるゲーム開発者協会(IGDA)が素早い動きを見せており、ウクライナ・ロシア戦争が始まった2022年2月にロシアを非難する声明を発表している。

こうした状況では「なるべく関わらないようにする」というのが多数の対応だ。取引や制作の規模が大きい場合は「ウクライナ側を支持する」などスタンスを表明する場合もある。

しかし、「ロシアと取引するのは難しいが、ロシア人が運営している企業との取引はどうするのか?」、「ロシア人が一部お金を出している企業とはどのような取引を行うのか?」といった細かな事例に対するガイドラインについては、バラバラのようだ。

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支社や重要な提携先のある国が紛争や戦争に巻き込まれてしまった場合は、どのように対応すべきなのだろうか。ロシアに拠点を持つ多くのゲーム会社は、かなりの数が撤退している。こうした背景を踏まえ、企業がロシアに対してどのような対応を取っているのか公開しているサイトも存在しているようだ。

サイトの情報が必ずしも正しいとは限らないものの、ネガティブな情報が掲載されたままではゲーム会社自体の姿勢も問われることになりかねない。ロシアから撤退した際は、改めてそのことを表明する必要がある。

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また、現在増えているのが、自社IPがプロパガンダに利用されてしまうケースだ。特にガザ紛争が起きてからは、その数が飛躍的に増えたという。なかでもよく利用されるゲームが『ARMA3』だ。XなどのSNS上に対空ミサイルでヘリを撃ち落としているような映像が流れてくることがある。『ARMA3』は、そうした映像に利用されることが多いのだ。

特に最近はPCよりもスマホでSNSを見る機会が多いため、多少解像度が荒くても気が付かない場合がある。ユーザーが中身をしっかりと精査することなくシェアされることで、フェイクニュースが拡散されていくのだ。

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『ファークライ5』の場合は、ゲーム内に登場するカルト教団の教祖ジョセフ・シードがキーアートの中央に描かれている。見た目もスタイリッシュなジョセフ・シードは、ゲーム内でも救世主として崇められている。こうしたことから一部ユーザーの間では「ジョセフ・シードを崇めよ」というオンラインカルトが発生した。

アメリカのアンチテロ機関は、このオンラインカルトに対して「問題であった」という認識をしているとのこと。「悪役をカッコよく描きすぎてしまう」ことは、ユーザーが一線を越えやすくなるという問題を孕んでいる。昨今のゲームでは、ナチス側の兵士としてプレイできない、プロパガンダ対策がされたものもある。

こうした問題に対して、GDCにて「ゲームが極端な暴力性を助長してしまう場合のケーススタディと防止策」ついての講演がある。視聴するには10万円ほどかかるものの、徳岡氏はこれまでの講演内容を踏まえ、GDCの同講演について「見るだけの価値がある」として本セッションを締めくくった。

ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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