京都・みやこめっせで開催中の日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit Drift」(ビットサミット ドリフト)。
同イベントにて7月20日(土)、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの元代表で現在インディーズ イニシアチブ代表を務める吉田修平氏が特設ステージに登壇し、「吉田修平のインディーゲーム紹介part1」と題して注目の2Dアクションゲーム『エンダーマグノリア: ブルームインザミスト』(以下、エンダーマグノリア)を紹介、同作を手掛けるアドグローブおよびBinary Haze Interactiveの代表・小林宏至氏との対談を行った。
今回の対談では『エンダーマグノリア』の前作である『エンダーリリーズ』にも触れながら、『エンダーマグノリア』の注目ポイントや、吉田氏と小林氏がインディーゲームの開発に関わるあたって得てきた知見などが約30分わたって語られることとなった。今回は、その現地レポートの様子をお届けしていく。
取材・文/司破ダンプ
「自らのルーツであるコンソールゲームで戦いたいという想い」から新たな環境を作り上げる。印象的なビジュアルや国外の反応についても語る
ステージのレポートに移る前に、探索型2Dアクションゲームである本作『エンダーマグノリア』について軽く紹介しよう。物語の舞台となるのは、人類に輝かしい未来をもたらすはずであった人工生命「ホムンクルス」が暴走してしまった「煙の国」。ホムンクルスを救済する力を持つ調律師「ライラック」と、とあるホムンクルスのふたりが滅びゆく「煙の国」を旅し、人とホムンクルスの救済を目指す物語が描かれる。
ステージでは最初に吉田氏が『エンダーマグノリア』のPVを紹介、その後ゲストとして小林氏が登壇し、同氏の経歴を紹介する流れで対談が始まった。
小林氏は『エストポリス伝記』などを手掛けてきたネバーランドカンパニーにコンセプトアーティストとして2002年に入社し、ゲーム業界に関わるようになったとのこと。その後数社を経て2010年に独立し、ゲーム開発やIT開発を手掛けるアドグローブを設立。そして2020年にコンソールゲームの企画・販売を手掛けるBinary Haze Interactiveを設立したという。
同氏がアドグローブという会社を持ちながらも新たにBinary Haze Interactiveを立ち上げたのは、アドグローブはソーシャルゲームなどの受託開発で事業的成功を果たしたものの、内心では自らのルーツであるコンソールゲームで戦いたいという想いがあったからだという。そのために新たな環境を作りあげたかったと語った。
話はBinary Hazeへと移り、吉田氏が前作について「そんなBinary Haze Interactiveが企画した第1作である『エンダーリリーズ』がいきなりの大ヒットとなったわけですが、そうなる予感はありましたか」と尋ねると、「予感は正直ありました」と小林氏。
同作の成功について、ゲームバランスやボス戦の楽しさ、BGM等をユーザーに評価してもらえたというのもあるが、自身としては「パッと見で目を引くゲームのルックを作り上げられた」点がとくに大きく感じているとのこと。
現在では『エンダーリリーズ』のように白と黒のコントラストがベースとなったビジュアルのゲームは数が増えたものの、当時は同作のようなビジュアルそのものが珍しかったという。このことで、当時より特徴的な印象を残せたようだ。
話題はさらに『エンダーリリーズ』のビジュアルについて深掘りする方向に。小林氏によると同作のビジュアルは「狙ったのもあるが、開発の初期段階でビジュアルに関わった際、自らの好みであった」という面も大きかったことを振り返った。
また、同作はアーリーアクセスの際には中国と日本、次いで北米での反響が大きく、正式販売後は北米と中国での人気が特に高くなったとも語られ、これについてPCでのアーリーアクセスを半年間行い品質を改善していったことや、同期間の評価の伸びがコンソールに出た際にも上手く影響したのではないか……と推測した。
続いて吉田氏は「アーリーアクセス時に出たユーザーのフィードバックについては参考にしましたか」と質問。小林氏は「とても参考にしており、フィードバックはほぼすべて読んだ」と答え、すべてに対応するわけではないものの、自分としても気にかかっていた部分をあらためて確認したり、意見を受けて腑に落ちた部分に関しては、改善の参考にしていったとのことだ。
対談は進み、いよいよ最新作『エンダーマグノリア』についての質問が交わされていくことに。吉田氏は同作が現在アーリーアクセス中であることに触れ、「『エンダーリリーズ』でアーリーアクセスを行って得た経験が良いものだったためか」と尋ねた。
小林氏は同意しつつ、同時に「Binary Haze Interactiveの第2弾タイトルとしてアーリーアクセスを行わずに発売したシミュレーションRPG『リデンプションリーパーズ』の反省もある」と語る。同作では一般的な販売形式にチャレンジしたが、この経験を経て同社では、あらためてユーザーの声を聴く機会を持ってリリースする方がよいと判断したそうだ。
『エンダーマグノリア』ではキャラの等身がすこし高めに。よりシリアスかつリッチになった表現はもちろん、レベルデザインも進化
続いての質問は、「『エンダーリリーズ』と比べて、新作『エンダーマグノリア』はどのような点を意識しているか」。
小林氏はまずビジュアルに関して触れ、「前作の発売当時と比べて彩度の低いビジュアルのゲームが増えたため、埋もれないよう色鮮やかな方向性にしつつ、よりリッチな表現を目指している」と返答。背景に対してキャラクターをマット調にしたり、キャラの等身を上げることで全体として前作よりもシリアスな雰囲気を目指していると続けた。
ゲーム性に関しては「前作では“倒したボスが仲間になる”という特徴があったがすこし数が多く、それゆえに仲間の使いどころや掘り下げが薄くなってしまったところもあった」と語る。
この反省を踏まえ、本作では敵の数は維持しつつも仲間となる人数を絞り、かわりにそれぞれの仲間のカスタマイズ要素を導入することでボリュームを維持しながらも各キャラにフォーカスすることが可能となっている。製品版では、拠点での会話要素により各キャラにフォーカスするシナリオ的な改善も用意しているとのことだ。
吉田氏も『エンダーマグノリア』をプレイしているとのことで、「自分もほぼ全クリアまで同作をやり込ませてもらっているが、キャラクターを成長させて新たな能力を手に入れたり、すべての仲間を連れ歩けないジレンマに悩みながらも自分だけのチームを作っていくのが面白く感じている」と先述の要素について触れた。
その後、話題はマップの探索に関連した方向へと展開。吉田氏は「前作では探索範囲を広げていくと、どこに行けばわからなくなってしまう場面が何度かあったが、『エンダーマグノリア』のアーリーアクセス版ではそういった問題がなかった」と実際にプレイしたからこそ感じた利便性についてコメント。
小林氏は「これも前作の反省を生かしてわかりやすくなるようレベルデザインにより力を入れた結果だと思っている」と答え、時間をあけてゲームを再開した際に、どこへ行けばいいかわからなくなってしまうといった問題も極力起こらないよう心がけているとして、探索に関する改善点をアピールした。
吉田氏は最後に「日本発のインディーゲームの世界的ヒット作を出した先輩として、今後業界に入ってくる人たちに向けて伝えておきたいことはありますか」と質問。
これに対し小林氏は「あまり偉そうなことを言えるとも思っていないが」と前置きしつつ、「自分たちの失敗の経験から言うならば、1本のプロジェクトは2年ぐらいで作るのが良いと思う」と返答。
「インディーゲームの開発者は兼業であったり学生であることも多いため、チームが長く持つ保証もない。時間をかけて作り込むよりも、ある程度のところでリリースしてユーザーの意見を仰いだ方が、かえってやる気にエンジンがかかる効果も見込めるから」と制作について実践的にアドバイス。
この話には吉田氏も納得を示し、自身がインディーゲーム開発者と関わる際にはよく「とにかく自分の作ったものを見せなさい」というアドバイスをしていると紹介。SNSやイベントなどに露出することにより、開発者の目線では失われがちなユーザー視点のフィードバックを得る効果は大きく、また場合によってはその露出が元でパブリッシャーがつくケースもあると話した。
小林氏が改めて「恐れず人に見せましょうということですかね」とアドバイスをまとめ、吉田氏が「『エンダーマグノリア』を楽しみにしています」と同作に期待のコメントを寄せ、今回のステージは終了した。
『エンダーマグノリア: ブルームインザミスト』を中心としつつも、同作の紹介だけにとどまらない、開発におけるさまざまな知見も披露された今回のステージ。
マーケティングにおけるファーストルックの重要性や、開発にユーザーを巻き込むことの重要性など、ゲーム開発者にとっては興味深い内容が多数含まれていたのではないかと思う。
日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit Drift」では、このほかにも様々なステージが予定されており、その内容はBitSummitの公式YouTubeチャンネルでも視聴できるようになっている。気になった方は、そちらもあわせてチェックしていただきたい。