韓国・ソウル特別区からほど近い高陽(コヤン)市。同市では、K-POPや韓国映画コンテンツ、ウェブトゥーンなどを始めとした、国内外でも盛り上がりを見せている自国のコンテンツ産業を担う企業に向けて様々な支援が実施されている。
今回開催された発表会では、新たな取り組みとして「Goyang Global IP City Project(以下、本プロジェクト)」と題したプロジェクトが発表された。コンテンツを生み出す企業だけでなく、ファンも楽しめる都市を目指すのだという。
登壇した高陽特例市長イ・ドンファン氏は、『マリオ』や『ポケモン』をはじめとした様々なコンテンツビジネスを成功させた日本に対して、強いリスペクトの気持ちがあると語った。
本イベントでは、プロジェクトの一環として日韓共同でのコンテンツ制作への支援にも取り組むことが明らかにされ、日韓両国のコンテンツ産業における架け橋になることが期待されているようだ。
本記事では、そんな「Goyang Global IP City Project」発表会の様子をお伝えしていく。
企業もファンも楽しめる「コンテンツIPの拠点」を創る「Goyang Global IP City Project」とは
発表イベントではまず、高陽市の特例市長を務めるイ・ドンファン氏が登壇。高陽市が実際に取り組んでいる都市開発の概要が紹介された。
先述のとおり、高陽市は韓国国内におけるK-POPや韓国映画、ウェブトゥーン【※】をはじめとしたエンタメの盛り上がりに合わせて、それらのコンテンツを制作する企業へのサポートを実施してきた。
※ウェブトゥーン
韓国発のスマートフォンによる縦スクロールでの閲覧に特化したマンガのスタイル。WebとCartoonを掛け合わせた造語。
メディアコンテンツ産業やバイオメディカル産業の拠点としてエリア開発を進める中で、より新たなIPを生み出す企業への応援を強化することと、ファンに向けてもコンテンツを楽しめる拠点となることを目指すべく本プロジェクトが始まったのだという。
都市開発の一部としては、世界レベルのコンサート会場がすでに計画中のほか、新たな国際展示場、複合施設などコンテンツを楽しむための環境を整えていくと展望を語った。さらにクリエイターが新たにコンテンツを生み出す助けになるような環境も用意したいとのことで、そのためにも隣国でありIP大国の日本と連携し、コンテンツのグローバル化を促進していきたいと話した。
続いて登壇した高陽市・産業振興院長のハン・ドンギョン氏は、新規コンテンツやクリエイターが容易にマーケットを広げていけるビジネス的な側面として、人材育成や最先端の研究環境を用意したいと語った。
日韓でのコンテンツ制作を手助けする日本発プロジェクト「日韓IP制作委員会」
続いて登壇したのは「日韓IP製作委員会」の代表を務める伊東章成氏。ゲーム事業をはじめとした多種多様なコンテンツのプロデュースなどを担う中で、高陽市のハン氏と出会ったという伊東氏。
それぞれのプロジェクトについて話し合う中で、それらを統合した強いコンセプトが必要だと感じ「日韓IP制作委員会」を立ち上げたという。
「日韓IP制作委員会」ではグローバル展開を見据えたコンテンツができる環境を作ることを目指しており、伊東氏は高陽市が掲げる目標との共通点を感じていたのだそう。「今後は同市に新しく誕生する拠点を活用したグローバル展開にくわえて、コンテンツへの出資体制を含めた日韓間での新たなコンテンツ制作を促進する仕掛けを作りたい」とした。
10万本を超えるゲームソフトを展示するゲームミュージアム構想
さらに「日韓IP制作委員会」主導で進行しているプロジェクトとして、「ゲームミュージアム」が挙げられた。計画の中心となるのは韓国のIT企業であるCOARSOFTのリ・ジョンフン氏。リ氏は学生時代から多数のゲームを収集する生粋のコレクターで、コレクションとして所有するゲームソフトやアミューズメント筐体は10万本を超えるという。
ゲームミュージアムでは、リ氏のコレクションを中心にゲームの展示や体験コーナーを設置するほか、貴重なゲームをアーカイブしたりファン同士の交流、ゲームクリエイター向けの学校を併設するミュージアム兼ゲームクリエイティブハブとなる施設を目指しているとのこと。
また、日本国内でもゲームクリエイターのためのコミュニティーエリアを、東急不動産が所有する「Shibuya Sakura Stage」と協力して展開していくという。
今回のイベントの会場にもなった「404 Not Found」は、インディーゲームとクリエイターを繋げる場所としてオープンされており、「日韓IP制作委員会」の発足を機に日韓間でのクリエイター同士の交流や、クリエイティブノウハウの共有、コンテンツ制作支援などをしていくようだ。
『イカゲーム』の制作スタジオや「ウェブトゥーン」配信アプリ制作元も日本での展開に意欲大
今回の発表会では、実際に高陽市に拠点を置くコンテンツ制作スタジオからもゲストが来日。それぞれの会社紹介をしつつ、日本展開を見据えた展望を紹介した。
まず登場したのは、『イカゲーム』などで知られる映像スタジオ「WESTWORLD」のダニエル・ソン氏。数多くのハリウッド作品やネットフリックス作品を手がける同スタジオだが、ダニエル氏は大の日本コンテンツファンなのだという。同氏は同スタジオの強みである、ハイエンドな映像を活かした日韓間での共同制作に意欲を見せた。
次に登場したのは「ウェブトゥーン」で世界的な人気を集めるTappyToon社代表、アーネスト・ウ氏。現在進行形で韓国や北米地域で人気を集めている配信サービスとのことで、日本市場への展開に意欲を見せた。日韓IP制作委員会も、日本の協力会社同士での打ち合わせやコンテンツ展開を実施するうえでの関係構築をサポートしていくとした。
韓国のコンテンツ産業への注力具合や本気度が伝わってくる今回の施策。韓国の行政機関と日本のクリエイター集団が協力関係になったことで、今後どのようなグローバルIPが創出されるのか期待が高まってきていそうだ。
企業もファンも楽しめるコンテンツIPの拠点を創る「Goyang Global IP City Project」と、日韓の企業間をつなげる「日韓IP制作委員会」。両プロジェクトが日韓のコンテンツ産業における架け橋となることで、両国にとって何か面白い結果が待っているのかもしれない。