マップの広さが2倍になり、拠点とフィールドがシームレスになり、モンスターが群れ、アイルーが人語を喋る【※】……。
※オプションでいつでも猫語に切り替え可能。ちなみにかなり便利で、可愛いらしい。
と、ファンにとって驚きの変化に溢れた期待の『モンスターハンターワイルズ』。ヨーロッパ最大級のゲームイベント「gamescom 2024」では本作にとって初の試遊展示が実施された。
さらに、イベントに際して実施されたオープニングナイトライブでは待望の新情報が一挙に公開。新たなマップ「緋の森」や新モンスターである「レ・ダウ」「ラバラ・バリナ」、新アクションの「相殺」「鍔迫り合い」などの存在が明かされた。
今回、gamescom2024にて『モンスターハンター』シリーズプロデューサーである辻本良三氏、『モンスターハンターワイルズ』のディレクター・徳田優也氏、アートディレクター兼エグゼクティブディレクターの藤岡要氏にインタビューをする機会を得た。
本記事では徹底的に「シームレス化」することの狙いや、過去作以上に力の入ったストーリーのテーマ、「こんがり肉」が強化された理由、そして海外における『モンスターハンター』の知名度の変化などを伺うことができた。
また、弊誌ではgamescom2024に際して行われた先行プレイレポートも公開されている。『モンスターハンターワイルズ』の新情報が気になる方は、こちらもあわせて楽しんで頂ければ幸いだ。
「リアリティを追求する」シリーズのコンセプトを「シームレス化」で拡張。モーションへの緻密なこだわり
──本日はよろしくお願いいたします。
今作ではめまぐるしく変化する環境に‟上手く適応する”ことがプレイヤーに求められるように感じました。
本作におけるアクションは、どのようなコンセプトで開発されているのでしょうか。
徳田優也氏(以下、徳田氏):まず、今まで以上の没入感を演出すべく「シームレスな体験」をより拡張したいという狙いがありました。
そして、『ワールド』以上にモンスターが息づく生態系をしっかり表現し、その生態系の中で遊んで頂くことを凄く大事にしています。
今までは「クエストに行って、返ってくる」という連続でゲームプレイが構成されていましたが、今回は断絶しない連続した時間の中で、様々なアクティビティを行えるようになっているんです。
その連続性のなかで狩猟を体験できたら、どうなるんだろう?という探求心が、今作の核となるコンセプトになっています。
──狩猟体験においては、今作の乗用動物・セクレトがフィールドで高い機動力を発揮する点も、シームレスな体験に貢献していると感じました。
徳田氏:開発においてはまず、『ワールド』よりもダイナミックな環境を構築したいという思いがありました。結果としてマップの広さが2倍くらいになり、生態系を表現するために従来以上のモンスターがマップ上に生息することとなりました。
そうなると、プレイヤーが目指す目的地へ簡単にアクセスできる手段が必要になるだろうと考えました。なので、始めは移動手段としてセクレトを考えていました。
──いっぽう、セクレトは装備の切り替えなど、狩猟においても便利な機能を有している印象です。
徳田氏:そうですね。移動以外のサポートも検討した際に、サブ武器を持てる鞄を用意しました。くわえて今作では、支給品も従来の拠点の支給品ボックスではなく、セクレトのポーチのなかに支給されるかたちになっています。
ですので、セクレトの移動以外の性能も途切れないゲーム体験に貢献していると思います。
──セクレトはモンスターとの戦闘においても「モンスターを追い詰める」場面や、「距離を取って回復をする」ような場面でもかなり活躍する存在ですね。
徳田氏:今作ではセクレトの騎乗状態でも全武器種で攻撃することができます。また、セクレトに騎乗している間は、モンスターの攻撃をある程度自動で回避してくれるんです。
ただし、騎乗状態で行える攻撃は限られるため、DPSで言えば地上のアクションの方が強力です。なので、「ここでは絶対に安全に戦いたい」というシチュエーションで騎乗攻撃を活用していただければと思います。
──心強いセクレトや便利な機能が登場したいっぽう、今作ではモンスターの表現もより強化され、接敵した時に力強さや恐ろしさを感じました。
今作におけるモンスターの表現のこだわりや工夫などをお伺いできればと思います。
藤岡要氏(以下、藤岡氏):『モンスターハンター』シリーズは、最初期から‟如何にリアルに感じてもらえるか”を追求し、実際の動物を研究したり、生物の骨格を勉強しながらモンスターをデザインしてきました。
そういった取組みによる知見を踏まえて、近年では大幅に技術が発展し、ハードのスペックもグンと上がることで、現在の表現力に至ったという経緯があります。
──となると、モンスターの緻密な表現だけでなく、マップや狩猟体験のシームレスな表現も「リアルに伝える」という従来のコンセプトに乗っ取った進化になっているんでしょうか。
藤岡氏:そうですね。やはり‟没入感をどのように高めるか”を追求しているので、拠点から狩猟をするマップの間にロードを挟まないことや、従来のスタイルにくわえて「現地でクエストが発生する」形式などを取り入れています。
──これまでお話を窺っていて、今作では特にシームレスな体験、それによる没入感を重視されていると感じました。狩猟体験以外ではどのような取組みが行われているのでしょうか。
徳田氏:たとえばストーリーであれば、イベントシーンからアクションへスムーズに移行するかたちになっています。イベントにはさまざまなパターンが存在するため、各イベントから「どのように途切れず繋げるのか」という点は、かなり工夫しました。
また、「お肉を食べる」だとか「砥石を使う」といったひとつひとつのモーションにおいても、ゲームプレイが途切れないように意識しつつ、実際にアクションを行っているようなリアリティも表現することに注力しています。
藤岡氏:具体的には、特定のモーションを行うとき「足を止めるのか、止めないのか」といった判断にはかなり気をつけましたね。
たとえば、特定のモーションを行う時に「攻撃はできなくても、足だけは拘束されずにゆっくりと移動できる」という設計があると思います。そういった設計を採用すれば、目的地へ向かうハンターの行動を切断せず、連続した行動として表現できるんです。
──特定のアクションによって行動が止まることで、体験がシームレスではなくなる可能性もある。いっぽうで、モーションを省略してしまうと失われるリアリティが存在している。そういった問題を起こさない絶妙なバランス感覚が必要であると。
辻本良三氏(以下、辻本氏):特定のモーションに一定の時間を要することは、リアリティを演出するだけでなく、ゲーム性に直結するケースが多いために、重要な要素と言えますね。
というのも、少し時間を要する「武器を研ぐ」行動は狩猟において必須の行動であり、「その行動をどこで行うか」がひとつの駆け引きや緊張感を生んでいると思うんです。どこでも武器を研げてしまったら、切れ味ゲージの意味や「武器を研ぐ」アクションの存在意義がなくなってしまう。
そういった観点からも、作中のさまざまなモーションを丁寧に調整しています。
ストーリーは何を描くのか。可愛いオトモに防具の仕様、キーコンビネーション、「こんがり肉」など、気になるポイントを聞いてみた
──試遊バージョンの演出やトレーラーを拝見して、本作はかなりストーリーにも注力されているように感じます。
本作のストーリーでは、どのような物語が描かれるのでしょうか。
藤岡氏:ゲーム冒頭ではとある少年が登場するのですが、その少年にまつわる物語がストーリーで描かれます。
これまでの『モンスターハンター』シリーズでは、「ストーリーのためにキャラクターを用意する」ことは、実はあまりやっていなかった取り組みなんです。
編纂者がいたり、先輩のハンターがいたりはするものの、そういったキャラクターには明確なゲーム内の役割がありました。
ですので、「少年」自体がシリーズにとって珍しい存在になっていますし、新鮮にストーリーを楽しんで貰えると思います。
徳田氏:ストーリーでは「人と自然の関係性」をテーマに据えています。作品全体としては、このテーマを物語とゲームプレイ、そしてゲーム内の世界を通じて表現することを目指しているんです。
テーマにならった物語が用意されていますので、その点をぜひ期待して頂きたいですね。
──このたびの試遊では、人間の言葉を話すアイルーと共に狩猟を行うことができました。実際にプレイすると「かなり可愛い」。そして、報告などでかなり狩猟をサポートしてくれました。
アイルーに関して、特にユーザーさんに注目して頂きたいポイントはありますか。
辻本氏:人間の言葉を喋るのか、ネコ語を喋るかに関してはオプションで切り替えることができます。その点は、好みにあわせて頂ければと思います。
ただ、人間の言葉を喋ることで、アイルーのキャラクター性が高まり、今まで以上に愛着が湧くと思うんです。
とはいえ、短い映像のみが公開されている現状では魅力が伝わり辛いかと思います。なので、ぜひ本編をプレイして、人間の言葉を喋るアイルーも体験して頂きたいですね。
──やはり開発陣としても、かなりアイルーへの愛着が湧いているのでしょうか。
徳田氏:そうですね。今まで以上に相棒感といいますか、「あぁ、良い奴だねぇ!」という感覚が強化されていると思います。なので愛着がかなり湧いていますね(笑)。
藤岡氏:オトモの立ち位置を考えると、やはり「如何にプレイヤーをサポートするのか」という点が重要だと思うんです。
今作では目まぐるしく状況が変化するので、見落とさないように発生した変化をアナウンスしてあげる必要があると思いました。
いっぽうで、アクションゲームの性質上、どうしても文字だけでの情報ではユーザーに伝わりづらいし、サポートの効果にも限界があります。ですので、今作では思い切って、オトモによるボイスで状況をアナウンスする仕組みを用意したかたちになります。
──なるほど。今作の「環境がめまぐるしく変化する」という設計を踏まえて、アイルーが人間の言葉を喋る仕様になったんですね。
藤岡氏:やはりゲームの性質上ボイスによるアナウンスが必要ですし、喋るのはいつもハンターの横にいるオトモアイルーが最適だと考えたんです。
アイルーに関してはいろんな人に納得して貰いたいと思っていますので、自分たちとしてもチャレンジですし、受け入れて貰えたらと思っています(笑)。
徳田氏:ちなみにですが、今作ではプレイヤーと共に狩猟を行ってくれるハンターも、ボイスでサポートしてくれます。
藤岡氏:そうですね。NPCと遊ぶ際にも、チーム感を感じて頂ければと思います。
──また、デモ版を試遊した限りでは、従来における男性用の装備、女性用の装備をキャラクターのタイプに関わらず着用することができます。この仕様はどのような経緯で設計されたのでしょうか。
藤岡氏:従来の作品における防具のデザインなどは、いわゆる‟女性らしさ”や‟男性らしさ”を前提として制作していました。とはいえ、キャラクターのタイプに応じて防具のデザインを区別してしまうと、タイプごとのデザインの違いで好き嫌いが生まれてしまうという問題がありました。
なので、ユーザーの方にも好きなものを好きなように使って貰いたいという思いから、今回のようなキャラクターのタイプに防具が左右されない仕様を用意しました。
また、今作のような男女の性別で区別しない設計は、我々も常に意識する必要があるとも感じていました。ですので、外見と内面を自由にユーザーさんが設定できるようにしたい、という思いから、今回の仕様を実装するに至りました。
辻本氏:
これについては、ユーザーさんからの要望も多かったトピックなんです。とはいえ、キャラクターのモデル体型の違いがありますから、両方の体型に合わせて装備の見た目を調整することは今作まで技術的に難しい、という事情がありました。
藤岡氏:関節の位置関係なども若干違う仕様になっているため、それを全く同等に扱うことは少し難しかったんです。今作ではその問題を解消できる見通しが付いたため、実装に至ったという経緯もあります。
──試遊版ではアイテムを使用する際のキーコンビネーションが用意されていました。操作性においては、今作ではどのような取組みが行われているのでしょうか。
徳田氏:基本的には『ワールド』において不便に思ったところは、ほとんど改めるつもりで改善に取り組みました。
アイテムに関しては今までのような選び方ができますし、『ワールド』で導入されたカスタムショートカットも改善し、自分の好きな形で操作できるようにしています。
くわえて、一括で全てのバーを表示し、使用頻度の低いアイテムを縦に積みながら選択できる新たなスタイルも導入されています。
──縦に整理することで、横に操作する回数が減らせるわけですね。
徳田氏:PC版においても、ショートカットを割り当ててアイテムを使用できるようになっていますので、非常に便利な仕組みとして今回実装させていただきました。
辻本氏:開発の際に丁度スタッフが考えたのを見せてくれて、すぐに「めっちゃええやん」と採用しました(笑)。
藤岡氏:アイテムが増えた際に、一列のスライドだとどうしても長くなってしまうし、結果として全体像が掴みづらくなってしまうんですよね。そういう意味では、かなり使いやすくなっていると思います。
──また、今回のgamescomにあわせて発表さされた「こんがり肉」の性能が‟実質いにしえの秘薬だ”という風に話題になっていました。
『モンスターハンター』としては肉のイメージがありますが、やはり開発陣としても「肉の復権」を目指したのでしょうか。
徳田氏:今作はシームレスなゲーム体験になった結果、今までのクエスト単位で行う食事が難しくなりました。ですので、食事は食べたら一定の時間効果が続くものにしたんです。
そうなった時に、どのような効果にすれば「こんがり肉」の立ち位置を確立できるのかを考える必要がありました。やはり、ただスタミナが増えるだけの効果にしてしまうと、価値が少し減ってしまう。とはいえ、「肉」はモンハンの代名詞なので残したい。
そこで、多少食べるモーションが長いというリスクもあるし、「こんがり肉」が最大体力を上げる効果でもバランスが破綻しないのではないかと思いました。結果として今作では「食べると体力の上限が最大まで上昇し、体力とスタミナが回復する」という効果になっています。
──実際にユーザーさんの反応を見ていても「ああ、肉が復活した!」という喜びの声が多く見られました。
徳田氏:いにしえの秘薬そのものは一瞬で体力を伸ばすことができるので、差別化に関しても問題ないと現時点では考えていますね。
藤岡氏:強化した以上はやはり使って頂きたいので、絵作りもメチャクチャこだわっています。
特に今作ではかなり美味しそうなビジュアルになっているので、凄くお腹が減りそうです。
藤岡氏:
「深夜に見るとヤバい」というポイントは、やはり大事なんで(笑)。
『ワールド』を通じて変化したグローバルでの『モンスターハンター』シリーズ
──先日のオープニングナイトライブでは、凄まじい歓声が上がっていました。海外のファンの方からの反響を受けていかがでしょうか
辻本氏:まず、やはり昔と比べると『モンスターハンター』シリーズにおけるグローバルのファンベースがすごく増えていることを感じます。とくにドイツはファンベースが大きい地域でもあり、コミュニティを軸に作品を盛り上げてくれています。
そして、今回gamescomに来て思ったのは、やはり熱量の高さです。「このゲームを待ってくれている」という思いを強く感じますし、こちらがやりたいことの情報に関しても、凄く敏感に受け取ってくれるんです。
この場でリアクションや反応を直に目の当たりにすると、作品に対するトータルでの期待を如実に感じることができましたね。
──なるほど。グローバルにおいても、今まで以上にファンも盛り上がっているんですね。
辻本氏:僕と藤岡は5年ぶりにgamescomに参加したこともあり、改めてリアルイベントならではの熱量を感じる機会になりました。こういった機会があることで、やはり開発スタッフも皆テンションが上がりますし、自分たちが目指す場所のハードルもまたひとつ上げたくなります。すごく重要な機会ですね。
──5年ぶりにgamescomに参加して、どのような印象を受けましたか。
藤岡氏:5年前は『ワールド』をグローバルへ仕掛け始めた段階であり、シリーズ作を試遊で初めてプレイする方が多かったです。
それが、今回の試遊ブースを見ると、本作を遊びたくて試遊台にいらっしゃる方がかなり多くなっていました。インタビュアーの方もすでに作品を知った状態で取材に参加してくれるので、5年前から認知度が変わったことを痛感しました。
──グローバルにおいても『モンスターハンター』が完全に定着したことを、肌で感じられたと。
藤岡氏:オープニングナイトライブで『モンスターハンター』の映像が出るだけでワーっと歓声が上がること自体は、かつては考えられなかったですね。
徳田氏:グローバルに関して言えば、『ワールド』の時点では『モンスターハンター』ってなんだ?というところからスタートしました。また、納刀/抜刀といった他のゲームには無い概念を伝えることにも苦労をしました。
でも、今ではそういう基本システムで戸惑っている方は基本的にいないように思います。「今回はどこが変わったのか」というポイントに注目していただけるという点は、やはり大きな違いを感じますね。
個人的なエピソードで言えば、ドイツの入国管理の時に「gamescomに行くんだ。何作ってんの?」と質問され『モンスターハンター』と答えても5年前は伝わらなかったんです。
それが今回も同じ質問をされ、『モンスターハンター』と答えたときに、「あれは本当に良いゲームだよ」という返答を頂いたんです。この体験で「あぁ、作品の知名度が変わったんだ」と強く思いました。
──それは凄く良いお話ですね。『モンスターハンターワイルズ』と、今後の『モンスターハンター』シリーズの盛り上がりが楽しみです。本日は有難うございました!
新要素が発表されるたびに凄まじい熱狂が生まれる本作。発表のたびに「早く遊びたい」という気持ちで一杯になってしまう。
そこで少し頭を冷やし、新要素のバックグラウンドに目を向ける。
シームレスなフィールドや個別のモーション、モンスター、防具、オトモ、そしてお肉。ゲーム内に訪れた新たな様々な変化には、全て明確な理由と狙いが存在した。
すらすらと「変化の理由」を答える開発陣の姿からは、シリーズの根底に走るテーマを実直に追求し、ひたすらに「より優れたゲーム」を目指す誠実なスタンスが窺えたことだろう。そんな姿勢に、ますます新作への期待が高まってしまう。
シリーズのファンは、本作の発売と新情報、グローバルな領域においても台頭する『モンスターハンター』の更なる展開を引き続き楽しんでいこう。
『モンスターハンターワイルズ』の対応プラットフォームはPS5、Xbox Series X|S、PC(Steam)。発売時期は2025年を予定している。