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任天堂、カプコン、セガ……日本を代表するゲームメーカーの担当者が「知的財産権」の重要性を語る!具体的な事案も語られた「法務の人」たちによるセミナーをレポート【東京eスポーツフェスタ2025】

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1月10日から12日までの3日間、東京ビッグサイト南1・2ホールで開催されたイベント「東京eスポーツフェスタ」。その初日に、メインステージで行われたセミナーが、「ACCSパネルディスカッション ゲーム業界における知的財産権の重要性について」だ。

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こちらは、日本を代表するゲームメーカー5社の知的財産を管理する担当者が集結し、どのような取り組みを行っているのか紹介していくといった内容となっていた。ゲーム業界にとって、自社のIPを守るために知的財産権を保護していくことは重要な課題である。それぞれの企業がどのように考えてどのような取り組みを行っているのか、実際に知ることができるというのはなかなか貴重な機会だ。

モデレーターを務めたのは、こちらのセミナーのタイトルにもなっている一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の専務理事を務める久保田裕氏だ。

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▲ACCS 専務理事の久保田裕氏。

各ゲームメーカーからは、カプコンから法務・資産管理統括 知的財産部 部長である奥山幹樹氏任天堂から知的財産部 担当部長代理/弁理士である西浦光二氏コーエーテクモホールディングスから常務執行役員・管理本部副本部長・法務担当の西村智稔氏セガから上席執行役員 コーポレートデベロップメント統括本部長の桝本菊夫氏コナミデジタルエンタテインメントから法務部・知的財産部部長の村瀬俊介氏といった、そうそうたるメンツが顔を揃えていた。

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それぞれに肩書は異なるものの、集まったのは各ゲームメーカーの「知的財産権」を守るために日々奮闘している、いわゆる「法務の人」たちだ。本記事では、そんな豪華な面々によって当日行われたセミナーの模様をレポートする。

取材・文/高島おしゃむ
編集/逆道


「二次創作は否定しない」ゲーム企業とオタク文化の付き合い方

今回のセミナーでは、大きく分けて4つのテーマで各社の知的財産権への取り組みについて紹介が行われた。最初のテーマに選ばれたのが、「著作権に関する事例と取り組み(対ユーザー)」である。

1985年にゲームプログラムの著作物が保護の対象となってから、今年で40年となる。ACCSでは著作権侵害対策を進めるとともに、著作権侵害を起こさないためのユーザーへの啓蒙活動が最も大事だと考えている。そこで著作権侵害への対策実況ガイドラインの整備など、各社ではユーザーに向けた取り組みはどのようなことを行っているのだろうか?

これに対して、コーエーテクモホールディングス 常務執行役員・管理本部副本部長 法務担当の西村智稔氏は、同社では大きく分けてふたつの要素で取り組んでいると事例を紹介。ひとつは、同人誌などに代表される二次創作の問題。そして、もうひとつは動画配信についてだ。

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▲コーエーテクモホールディングス 常務執行役員・管理本部副本部長 法務担当の西村智稔氏。

西村氏が最初に声を大にして言いたいと語ったのが、「当社では二次創作は否定しない」ということであった。プロデューサーの判断も挟まるためIPによっては厳しい場合もあるが、同社自体もコミケなどのイベントに企業出展をしており、オタク文化にも寛容でもあるのだ。

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だが、その一方で過去には著作権侵害に対して厳しい対応も行っている。2017年に格闘ゲームの『デッド オア アライブ』シリーズの同人誌が4つのサイトで販売されていたのだが、これらはすべて差し止めて販売停止にしている。実は、こちらを担当したのが西村氏であった。

また、ガストブランドの『アトリエ』シリーズの新作では、メイングラフィックを初めて出したときに、この画像だけで同人誌が作られてしまったということがあった。ゲーム内容すら発表していない段階で同人誌が発売されるという予告が行われたため、様々な問題もあることから販売の中止をお願いしている。

ほかにも、pixivに代表されるようなネット上には多くの二次創作の作品が出ているが、こちらも同社が不適切であると思うものについては削除してもらうという対応を取っている。その数は、年間で2000~3000件ほどにもなる。

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元々は作品を愛していることに加えて、登場するキャラクターたちが好きで、公式に存在しない和服姿などで描いてみたいといったことから二次創作が生まれているが、こうしたファンコミュニティ自体は同社ではありがたく思っており、そうした作品について削除を行うことはこれからもないと西村氏は断言する。

削除しているものについては、自分の好きなキャラクターがアダルト改変されることを嫌がるファンが多いからである。こうしたファンの気持ちを守りたいということに加えて、ゲームクリエイターの気持ちにも影響を及ぼしているからだ。

ちなみに、先ほど例に挙げた『デッド オア アライブ』では、キャラクターという言い方をゲームクリエイターの前でいうと怒られてしまう。ゲームのクリエイターたちは、女性の登場人物たちのことを「彼女ら」と愛情を込めて呼んでいるからである。

このように、大事に育てた娘のようなキャラクターたちが不快なアダルト改変されたものに対しては、削除しているというのが同社の対応である。

それとは別に、同社にロイヤリティを支払って正式に許諾を出している企業も存在している。その一方で、野放図にしていくことは、権利者の利益を損ねることにもなるのだ。そうした人たちのためにも、削除をしているのである。

一方、カプコン 法務・資産管理統括 知的財産部 部長の奥山幹樹氏は、事務所などに所属していないユーザーに対してサイトで動画のガイドラインを公開していると紹介。本来、ゲームを無断で配信すること自体は著作権侵害にあたるのだが、ユーザーの「動画の創造を応援します」と前置きし、個人が投稿可能な動画について説明を行っている。

YouTubeやTwitchなどのプラットフォームでゲーム配信が可能となっているほか、YouTubeの広告収入や投げ銭などで収益を得ること自体も許容している。ただし、ネタバレを含む動画の公開は禁止となっているほか、発売前のゲームコンテンツや不正な情報開示についても同社では禁止している。

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さらに、音声や音楽だけを抜き出したものやゲーム内のムービーのみをそのまま投稿すること、公式映像の転載、公式大会やイベント映像の転載などについても禁止している。コーエーテクモホールディングスと同じように、カプコンでも差別的やアダルト系の内容、公序良俗に反するものも禁止しており、誹謗中傷や宗教活動、政治活動、反社会活動を目的にした動画配信も禁止している。

これらに該当しないものについては、個人では自由に動画を投稿することが可能だ。ただし、同社の裁量で不適切にあたると判断されたものについては、削除する場合があるという。こうした判断は、最終的に、ゲームタイトルごとに行われることになる。

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▲カプコン 法務・資産管理統括 知的財産部 部長の奥山幹樹氏。

エミュレーターって合法?違法?

続いて、「著作権に関する事例と取り組み(対同業者)」というテーマで、各社の取り組みが紹介された。最近はスマートフォンでゲームを遊ぶことも、すっかり当たり前の時代となってきた。ソースコードや利用規約が類似しているにも関わらず、著作権侵害が認められた事例もある。

また、ゲーム内に表示する広告として、無許諾の楽曲や画像といった素材を使用することで、X上で謝罪を行った事例もあった。ゲーム内では、漫画やアニメなど有名なIPとのコラボレーションが行われることは日常茶飯事だが、こちらは両社が利用規約をしっかり交わした上で実施されているものである。

無断で著作物を利用されることは、ブランドイメージを大きく傷つけるだけではなく、ビジネスにも悪影響を及ぼしてしまう。各社は、同業者についてどのように取り組んでいるのだろうか?

セガ 上席執行役員 コーポレートデベロップメント統括本部長の桝本菊夫氏は、ACCSの活動もあり、さすがに同業者でゲームを丸コピーするなど、悪質な事例はほとんどなくなってきたと語る。あわせて、ゲーム業界は「真似し真似され発展してきた」という部分もある。そのため、ある程度類似してしまうのはしょうがないことだという。

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▲セガ 上席執行役員 コーポレートデベロップメント統括本部長 桝本菊夫氏。

ただし、許容範囲を超えてしまうような事例も増えてきている。たとえば、ゲーム内に登場するキャラクターとよく似たキャラクターが他社の作品に入れられていた場合、著作権侵害に基づく警告を行っている。近年は警告を行ったことで、キービジュアルが変更されたことも数件あったと桝本氏は事例を紹介していた。

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同様のテーマではあるが、少し視点を変えて著作権侵害されたものを動かすためのツールに対する取り組みが、任天堂 知的財産部 担当部長代理/弁理士の西浦光二氏から紹介された。著作権侵害で、一番頭を悩ましているものが、ゲームの違法コピーなど海賊版の問題だ。

任天堂のゲーム機には、様々なセキュリティが施されているため海賊版は遊べない仕様になっているのだが、マジコンモッドチップエミュレーターなどを使用することで、こうした海賊版も遊べてしまうのだ。

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▲任天堂 知的財産部 担当部長代理/弁理士の西浦光二氏。

このセキュリティについては、法律上では「技術的制限手段」と呼ばれており、日本では不正競争防止法で規定されている。海外では、主に著作権法で規定されている場合が多い。海賊版が遊べるようになると、任天堂だけではなくソフトメーカーのビジネスにも影響を及ぼすため、任天堂ではこうした違法なツールに対しての対処も強化しているのだ。

ニンテンドーDSには、正規のゲームカードを認証する仕組みが入れられていたのだが、マジコンは正規のゲームカードになりすまして認証をパスし、海賊版を起動させる仕組みになっていた。こうした不正機器の販売業者に対して、同社だけではなく50社以上のソフトメーカーにも原告に加わってもらい、ゲーム業界全体の声として訴訟を提起。最終的に、不正競争防止法違反として、判決を勝ち取っている。

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エミュレーターは、ゲーム機など特定の装置やソフトウェアシステムなどの挙動を模範することで、その代替として用いることができるソフトウェアのことをさしている。エミュレーター自体は合法ではないのかといった議論もあるが、これ自体は直ちに違法とは言えないものの使用によっては違法性を帯びる場合があるという。

違法性を帯びる例としては、エミュレーターが模倣している対象のゲーム機のプログラムなどを複製しているときは、著作権侵害となる場合がある。また、エミュレーターを使ってコピーゲームを動かすときに、暗号化などゲームソフトのセキュリティを無効化する機能を持つ場合も、マジコンと同様に不正競争防止法違反になる場合があるのだ。

さらに、海賊版の利用を助長する例として、エミュレーターが海賊版サイトへのリンクを持っており、そちらを辿っていくことでダウンロードできる場合も、リーチアプリとして著作権法違反になる場合がある。Nintendo Switchのエミュレーターもいくつかネット上で流通していたが、技術的制限手段を無効化する違法な機能を持っていたため、米国を含む海外で訴訟や警告をおこなって対処している。

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プロジェクトの規模が二極化しているゲーム業界。知的財産の活用や保護が重要に

今回のセミナーで、3つ目のテーマとして取り上げられたのが「著作権以外の知的財産権に関する事例と取り組み」についてだ。ゲームソフトの知的財産権には、著作権以外にも商標権特許権などさまざまな権利が含まれている。ゲーム会社では、こうした知的財産権についてコストや時間をかけて新しいゲームを生み出してきた。

だが、こうした知的財産権を無許諾で利用されたり権利が侵害されている状況を放置してしまったりすると、正しく利用許諾を受けている人たちが損をしてしまう。その結果、誰も利用許諾を受けなくなるという弊害が生まれる。こうしたことに対して、ゲームメーカーではどのような対処を行っているのだろうか?

コナミデジタルエンタテインメント 法務部・知的財産部 部長の村瀬俊介氏は、ゲーム制作の開発費が高騰しているという事例を元に、同社の取り組みを紹介していた。

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▲コナミデジタルエンタテインメント 法務部・知的財産部 部長の村瀬俊介氏。

昨年12月に公開された「CESAゲーム産業レポート2024」では、プロジェクトの二極化が加速するというレポートが記載されている。小規模と大規模の二極化が進んでおり、大規模タイトルでは開発費がふた桁億円を超えるものもざらに登場する。なかには3桁億円になるものも珍しくないという状況だ。これはゲームの表現がリッチ化してきていることも影響している。

ゲーム会社としては、開発期間中に生まれた新しい技術や仕組みを他社にライセンスアウトすることでも、投資の回収という観点から必要な選択肢として考えている。こうした開発期間中に生まれた新しい技術が守られないと、誰も新しいものに対して時間やお金をかけるというインセンティブが生まれず、だれも新しい技術や新しく面白いゲームを生み出さないという状況になってしまうのだ。

最終的にそれは、ゲームを遊ぶユーザーの楽しみを守るという意味から、フリーライドを放置しないことは重要だと村瀬氏はいう。また、同社としてもACCSが実施している模倣品や海賊版対策に対して、積極的に協力を行っている。

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同様にカプコンでも開発投資が多くなってきており、世界品質のゲームコンテンツを生み出すために、人材投資や戦略、開発エンジンなど最先端技術の研究開発費を多額に投資しているという状況だ。それに加えて、eスポーツや映像ライセンスなどの周辺ビジネスとの連携強化を行い、全世界に向けてブランド価値を向上させようとしている。

このブランド価値を向上させるためには、知的財産の活用や保護が重要となる。コピー品が大量に出回ると、ブランド価値が低下してしまうからだ。そのためには知的財産をしっかりと保護しないと、新たなゲームの発売や会社自体の存続も怪しくなり、多くの人が大好きなゲームが遊べなくなってしまうことにもなりかねない。

とはいえ、ゲームコンテンツのアイデアそのものは著作権で保護することはできない。そこで、特許を含めた知財ミックスで、カプコンでは特許権に加えて商標出願も積極的に出願している。こうした権利化した特許については、クロスライセンスという形で他社にライセンス提供をおこなっており、ゲーム開発の自由度を高めて魅力的な面白いコンテンツを作るという知財デザインを行っている。

一方で、知的財産権を保護するために、許可なく無断で侵害したコンテンツに関しては、訴訟や警告を行うことでブランド価値の維持を行っている。また奥山氏は、新しいゲームのアイデアを生み出して適切に知財の保護をしていかなければ面白いゲームを継続して作っていくことはできない。そのためには、著作権だけではなく特許・商標を含めた知財の経営資産のほうがこれからとても重要になってくると述べていた。

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Joy-Con模造品は技術意匠を保護する「特許権」で一網打尽に

セガでも、ゲーム開発については以前とは比べものにならないぐらい投資が必要になってきており、中には1タイトルあたり100億円を超えるものもあると桝本氏はいう。こうした開発過程で生まれる新しい技術の発明については、積極的に特許の出願・登録を行っている。

ただし、獲得した特許自体は排他的・独占的に誰にも使われないようにするというつもりは全くないという。先ほども桝本氏が触れていたように、ゲーム業界は真似し真似されて発展してきたという側面もあるからだ。そこでラインセンスをオファーして、適切な代金を支払ってもらった上でつかってもらうことを基本方針にしている。

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よく誤解されるのは、特許を押さえて権利化してしまうことでゲームを開発したい若い人たちや、新しい会社が参入しにくくなってしまうのではないか? ということだ。桝本氏によると、これは間違った認識であるという。特許は持っているものの、しっかりと話してもらうことで適切な対価でライセンスを出している。これは、多額の投資をして開発した技術を、適切な料金で利用することができると思ってもらいたいのだという。

ただし、こうした枠組みの中で話してもどうにもならないケースについては、権利を確保するためにやむを得ず訴訟提起にいたるケースもあるそうだ。

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任天堂の西浦氏からは、ゲームソフトとコントローラーの知的財産権を活用した対策事例が紹介された。2015年にWii U『スプラトゥーン』が発売された直後に、そっくりそのままのゲームが海外のアプリサイトに出ていたということがあった。

ゲーム名自体は全く異なるため『スプラトゥーン』という登録商標の侵害にはならないのだが、キャラクターを含めた見た目の表現が全く同じであったため、著作権侵害で対応している。

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先ほどの『スプラトゥーン』のそっくりアプリとは少し異なり、ゲームの仕組み自体はオリジナルをまねてキャラクターがロボットになったアプリが登場した。見た目の表現は異なるため、著作権侵害は厳しそうな事例だ。こうした場合、技術的思想を保護する特許権の出番となる。こちらの侵害アプリは、『スプラトゥーン』のゲームの仕組みに関するソフトウェアの特許権を活用し対応を行っている。

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続いてコントローラーに関する事例が紹介された。Nintendo Switchには、Joy-Conと呼ばれるコントローラーが付いている。こちらと形やボタンの形状が異なる模造品が多数登場したのだ。Joy-Conのデザインについては、正規品そのままの意匠やいくつかのバリエーションについて意匠登録を行っている。

形が似ている模造品については意匠権が活用できるが、形が大きく異なるものでは対応するのが難しい。こうしたデザインのバリエーションを、一網打尽にするのが技術意匠を保護する特許権である。

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Joy-Conを取り外すと、内側に黒い部分がある。こちらは、ゲーム機本体にスライドして装着するための出っ張り部分だ。その先端部分の裏側に端子が隠れており、こちらが本体の端子と電気的に接続されることで使えるようになるのである。

こちらをカバーするための特許を取得しており、同じ機構を備えた模造品のコントローラーは特許権侵害になるようにしたのである。ちなみに、こちらは税関でも輸入差し止め品として登録されている。

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ゲーム業界の発展にはどのような知的財産実務が必要なのか?

今回のセミナーで、最後に取り扱われたテーマが「まとめ:ゲーム業界の発展のために」である。ゲーム業界を発展させ続けるためには、どのような知的財産実務に携わっていく必要があるのだろうか?

カプコンの奥山氏は、ビデオゲームやスポーツにはルールがあることから、お互いに切磋琢磨して面白いエンタメになっていくと考えている。エンタメ産業自体も、知的財産の法律やガイドラインがあるからこそ業界が面白くなり、世界に通用する産業として持続可能になっているのだ。

クールジャパン再起動ということで、日本のコンテンツを世界に売っていこうとしているが、知的財産の保護を業界全体としてしっかりと取り組んでいく必要がある。カプコンの企業理念は「人々に笑顔や感動を与える」ことであるため、知的財産権を取るだけではなく、それを活用してユーザーに喜んでもらうことをしっかりとやっていきたいと語った。

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任天堂の西浦氏は、「任天堂IPに触れる人口の拡大」を会社の基本戦略にしていると紹介。同社のビジネスは、ハードからソフトまで多岐にわたっている。西浦氏の所属する知的財産部では、同社のビジネスとブランドを保護するために、特許権や意匠権、商業権、著作権など、さまざまな知的財産権を取得して活用している。

知的財産権には、それぞれ権利ごとに得意な守備範囲がある。それぞれの長所を活かしながら、様々な知的財産権を組み合わせてビジネスとブランドを多角的に保護して適切に活用していくことが重要だと語る。また、その知的財産権の適切な保護と活用は、ゲーム業界の健全な発展にも重要なことでもあるのだ。

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コーエーテクモホールディングスの西村氏は、同社は歴史に学ぶのか得意な会社だとアピール。「敵を知り、己を知らば」といった言葉もあるが、知的財産権や特許権、著作権の利活用に関しては、ルールをしっかりと理解することが一番大事だという。これらは自然法則ではなく、人為的な法律である。万人が納得するというわけではなく、嫌な部分もあるのだ。

同社のスローガンは、「Level up your happiness」だ。「your」はユーザーのことをさしているが、ステークホルダーなども含めて、相互に高め合ってハッピネスを向上させるために、知的財産権を有効活用していきたいと語った。

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セガの桝本氏は、ゲーム業界に限らず人類は先人の創作や発明を利用して発展してきたため、真似することは別に悪いことではないと、これまでの歴史を振り返る。ただし、その中には許される真似と許されない真似があり、先人の発明や創作に対してしっかりとインセンティブを還元することが文化の発展に繋がるのだ。

ゲームはすでに文化となっており、日本の文化として国際市場で戦っていく必要がある。それには、日本政府や国民が一体となり、日本の知的財産権保護政策をすすめてゲームの文化も発展させていくことが必要であると述べた。

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コナミデジタルエンタテインメントの村瀬氏は、「知的財産推進計画2024」の資料を紹介しながら説明を行った。こちらに書かれているのが、「海賊版模倣品対策」だ。

この資料には、「海賊版・模倣品を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む海賊版・模倣品を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、関係省庁・関係機関による啓発活動を推進する」と書かれている。

ここで注目したいのが「国民の規範意識」という言葉である。これは言い換えると、権利者が権利行使をすることがあたかも悪いことであるかのような印象を持ったユーザーが一定数いるが、必ずしもそうではないということだという。

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フリーライドの状態が放置されることで開発者がインセンティブを得られず、新しい面白いゲームが生まれなくなる。フリーライドを放置しないということで、めぐりめぐってゲームユーザーのための面白いゲームを守ることにも繋がるのだ。そして、海賊版や模倣品を容認しないことが、国民の規範意識として生まれてくることで、日本の国益にもなりゲーム産業の発展になると語った。

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最後にモデレーターを務めたACCSの久保田氏は、ゲーム業界の発展はメーカーだけでなく、ゲームを遊ぶユーザー、ゲームを届ける配信事業者や販売店など様々な協力があってこそ可能になると述べた。また、知的財産権はその保護だけではなく有効に活用することも必要だ。そのバランスを取りながら、皆さんと協力して一緒に活動を続けていきたいと語り、本セミナーを締めくくった。

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今回登壇された各社はそれぞれ公式サイトにて配信や二次創作に関するガイドラインを公開しているので、気になった方は調べてみてはいかがだろうか。

本セミナーが行われた「東京eスポーツフェスタ」は、2020年より毎年東京ビッグサイトにて行われている。また、公式YouTubeチャンネルでは、過去に開催された東京eスポーツフェスタでのメインステージの様子を見ることも可能だ。

ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。
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なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『ドラゴンクエスト』シリーズで育ち、『The Stanley Parable』でインディーゲームに目覚めた。作った人のやりたいことが滲み出るゲームが好きです。

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