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我、齢47にして「推し」を理解しけり──映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」がとんでもなく面白く、凄い熱狂を生み出しつつある件

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突然で恐縮なのだが、正直な話、筆者は長年エンターテインメント業界に身を置きながら、「推し」という概念がいまいちピンと来ていなかった。

「応援する」とか「ファンになる」とかなら、まだ分かる。

でも、「推す」って……いったいなんなんだ?

そんなことをたまに周りの若いスタッフに話せば、「TAITAIさんは淡泊っすねwww」などと煽り散らかされ、モヤモヤした気持ちを心の中で燻らせていた。

──のだが。

最近、ついに見つけてしまった。「推し」と呼べる存在を。

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』レビュー・感想。我、齢47にして「推し」を理解しけり。いや、龍兄貴、最高です。_001

その名も「龍捲風(ロンギュンフォン)」。通称「龍兄貴」。

映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』に登場する、この渋い兄貴の存在が、まさか47歳にもなろうかという私に、「推し」という概念を理解させるとは思わなかった。

というか、いま一部界隈では、この『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』が大きな盛り上がりを見せつつある。

インド映画『RRR』大好き勢や『HiGH&LOW』好き女性ファン層、さらには筆者のような1980年代香港アクション&香港ノワール映画好きまでもが合流し、悪魔合体的な熱狂的お祭り騒ぎになっているのである。

SNS上では、熱のある感想文やファンアートが飛びかい、その熱気を組んで、応援上映も開催されるほど。かく言う筆者も、X(旧Twitter)上で「#九龍城砦に集え」のハッシュタグを追いかけては、いいねやリポストをしまくる始末である。

いや、龍兄貴。最高です。

というわけで。
今回電ファミでは、「推し」という概念を教えてくれた龍兄貴について語りつつ、映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』を紹介してみたい。

なお、本稿では、できるだけ映画の宣伝になればという思いも込めて、「極力ネタばれ無し」という形でお届けする。ただ、どうしても説明として書かざるを得ない箇所もあるので、本当にまっさら状態で映画を見たいという人は、まずは劇場に足を運んでもらえればと思う。

文/TAITAI(編集長、「第四境界」プロデューサー)


『香港ノワール』×『HiGH&LOW』×『RRR』の奇跡的融合

まず、簡単に映画の概要を説明しておこう。

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は、かつて実在した巨大スラム街「九龍城砦」を舞台に、そこに生きるアウトローたちの抗争と友情を描いた作品。香港映画らしい哀愁漂う世界観を基軸としながらも、旧知の仲間や新たな仲間との友情、さらには裏社会でしか生きられない者同士の義理や人情、絆に焦点を当てているのが大きな特徴だ。

そんな本作の魅力を端的にまとめると、以下の通り。

・香港ノワールが育んだ 哀愁とハードボイルド感

10億円かけて再現された九龍城砦 と、生活描写のリアリティ

インド映画『RRR』を連想させるような 熱い友情&痛快アクション

そして、見ようによっては“これ、香港版の『HiGH&LOW』では……?”と思わせるキャラ配置と対立・共闘の盛り上がり

ちなみの本作のアクション監督・谷垣健治氏によれば、制作時に掲げたテーマが『ALWAYS三丁目の夕日』×『HiGH&LOW』だったとのことで、登場人物たちの人情味を感じさせる丁寧な描写と、そこで育まれた関係性が熱い展開へと繋がっていく点が、本作特有の“味”になっているのは確かだろう。

何がそんなに熱気を生んでいるのか? ──「熱い友情」と「哀愁漂う格好良さ」

とはいえ、本作の最大の魅力が何か?と問われれば、やはり「漢たちの熱い友情」「哀愁漂う格好良さ」に尽きるのではないかと思う。

そもそも、アクション映画――とりわけ香港ノワール系や不良映画、あるいはマサラ映画などでは、「男同士の友情」が物語の根幹を成すことが多々ある。

互いを認め合うまでに殴り合いがあったり、裏切りや衝突を経てこそ生まれる信頼関係では、普通の友情とは一味違う、“戦友”や“兄弟分”と呼びたくなるような繋がりが描かれるわけだ。

「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」でも、そうした漢たちのドラマが描かれていくわけだが、本作はそれを“複数のレイヤー”で描き出しているのが大きな特徴だろう。

つまり、主人公たち若手世代に加えて、「龍兄貴」ら古い世代の友情、そして因縁も絡み合うことによって、“義理”と“信念”、さらには“過去に抱えた傷”がにじみ出て味となり、それが結果的に観客に納得感を与え、キャラクターたちに厚みをもたらしている。

なかでも、九龍城砦のまとめ役である「龍兄貴」と、それを慕う若手キャラ「信一」の、師弟とも親子ともいえぬ絶妙な関係性は、本作の大きな魅力の一つで、ここに感情移入したファンも少なくないはず。

実際筆者も、この男同士の友情作品における定番パターンを踏襲しつつも、香港ノワール的な哀愁や不器用さがしっかり息づいている点に、完全にやられてしまったクチだったりする。

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(画像は映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』予告編より)

龍兄貴に見る、アジア的「英雄像」


そもそも、「龍兄貴」こと「龍捲風」とは何者なのか?

彼は、九龍城砦の伝説的存在であり、表向きは理髪店を営みながらも、城砦の平和を守る男である。それだけ聞くと、どこにでもいそうな「裏社会の大物」キャラかと思うだろう。だが、龍兄貴はそれだけではない。

彼には、「漢の美学」というやつがある。

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理不尽に殴るわけでもなく、無駄に吠えるわけでもなく、ただ己の信念のために、戦い、抗い、そして──優しく見守る。まるで日本の時代劇に出てくる、寡黙な浪人のような雰囲気を漂わせている。

強い。しかし、強さを誇示しない。

優しい。しかし、それを前面に出さない。

徹底して「背中で語る」タイプの漢なのである。

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(画像は2025年1月17日(金)公開『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』|超特報 – YouTubeより)

なぜ龍兄貴に心を持っていかれたのか?

「龍兄貴がヤバい」と気づいたのは、映画の序盤。迷い込んできた主人公を、一瞬でねじ伏せるシーンだ。

速い。強い。そして余裕の笑み。

「お前、まだ青いな」

そう言わんばかりの余裕が滲み出ている。まさに「格の違う強さ」を物語の冒頭から見せつける。

──しかし、そんな龍兄貴が次に見せる顔が、「徹底した優しさ」だ。

住民たちの悩みを聞いたり城砦のさまざまな問題に取り組むなど、仲間や市井の人々への深い思いやりを示す慈愛に満ちた男として描かれる。

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この修羅的な強さと菩薩のような優しさの共存性は、例えば、日本の時代劇や中国の武侠小説に登場する侠客たちにも通じる、いわばアジア的な英雄像の典型でもある。ゲームでいうなら、『龍が如く』「桐生一馬」なども、その系譜と言えよう。

龍兄貴は、そういったアジア的な英雄像を1980年代の巨大スラム街「九龍城砦」という舞台/文脈で体現しているわけだ。

主人公や仲間を優しく見守り、静かに笑いながらタバコを吹かす姿。血にまみれた過去を持ちながらも、今ここで穏やかに生きている男の背中は、見ているだけでグッとくるものがあるのだ。

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西洋のヒーローが「正義 vs. 悪」という二項対立の構図に乗りがちなのに対し、アジア映画のヒーローは「義 vs. 運命」という対立に身を置くことが多い。

龍兄貴も、その系譜にある。

・かつては修羅の道を歩んでいた

・今はそれを捨て、平和を守る立場にいる

・しかし、過去の因縁が彼を戦いに引きずり戻す

・運命には逆らえないと知りつつ、それでも戦う

これは、日本の時代劇や武侠映画、さらには『北斗の拳』ケンシロウのような「義理と運命の戦士」に通じるものがあるだろう。

彼は、秩序の外側にいながら、独自の正義と信念を持ち続ける漢なのだ。

作中では、そんな“義の人であるが故に運命に翻弄される龍兄貴”が描かれるわけで、もう感情移入しないわけがない!のである。

我、齢47にして「推し」を理解しけり

──とにかく、だ。

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』はオススメである。

ここまで「脳髄を焼かれる」感じというのは、久しぶりの感覚だ。
おかげで、「推し」という概念を理解することができた。

今まで、「推し」という言葉を聞くたびに、「まあ好きなキャラがいるってことでしょ?」くらいに思っていた。

──違った。

気づいたら、そのキャラのことばかり考えてしまう。
気づいたら、彼のセリフを脳内で反芻している。
気づいたら、「龍兄貴……」と呟いてしまっている。
そして、気がついたら他人に作品やキャラクターを紹介したくなる、お薦めしたくなる。

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(画像は香港映画祭2024 Making Waves『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』九龍城寨之圍城 TWILIGHT OF THE WARRIORS: WALLED IN – YouTubeより)

そうか。これが、「推し」という感覚なのか。

齢47歳にして、ようやく分かった。

ありがとう、龍兄貴。
ありがとう、『トワイライト・ウォリアーズ』。

この感情を知ることができただけでも、この映画に出会えた価値があった。

この映画は、本当に良いものである。

編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999

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