チェコのゲームスタジオ・Warhorse Studiosによって開発された『キングダムカム・デリバランス』シリーズ。中世のボヘミア王国を史実に基づいて再現し、リアルを追求したオープンワールドRPGとして高い評価を得ているタイトルだ。1作目の『キングダムカム・デリバランス』(以下、『KCD』)は世界累計販売本数800万本を記録し、2025年2月に発売された『キングダムカム・デリバランスⅡ』(以下、『KCD2』)は、発売わずか2週間足らずで世界累計販売本数が200万本を突破している。
繰り返すが、『KCD』は1403年のボヘミア王国での出来事を描いた、史実に忠実なRPGだ。つまり、魔法もドラゴンもダンジョンもゲームには登場しない。徹底した歴史考証と、中世ならではの死生観で描かれる血の通ったストーリーにより、『KCD』は現代的なビデオゲームの流行に一石を投じ、世界中のゲーマーを振り向かせた。
Warhorse Studiosは、『Mafia』のディレクターを務めたことで知られるダニエル・ヴァヴラ氏が立ち上げたスタジオ。スタジオの処女作である『KCD』は、チェコ人である氏が祖国を舞台とし、史実を追体験させることを重視して制作されたタイトルなのである。
『KCD』で描かれている中世ボヘミア王国の再現度は狂気的とも言えるのだが、なぜこれほど緻密な歴史考証が実現できたのだろうか? 『KCD2』の発売に合わせてチェコ政府観光局および駐日チェコ共和国大使館によるメディアツアーが開催され、電ファミニコゲーマーもゲームの舞台となったチェコ共和国を巡る機会をいただいた。本稿では、Warhorse Studios取材の模様をお伝えしていく。
取材・文/豊田恵吾
取材協力/チェコ政府観光局、駐日チェコ共和国大使館
主人公ヘンリー役のトム・マッケイさんが(偶然)スタジオに登場
チェコの首都・プラハにあるWarhorse Studios。今回のスタジオ見学を案内してくれたのはPRマネージャーを務める、“トビー”の愛称で知られるトビアス・シュトルツ=ツヴィリング(Tobias Stolz-Zwilling)氏だ。
まず最初に案内されたのはプロデュース&プログラミングルーム。スケジュールの管理を担っており、彼らがタスクを受けてチームを組み立て、スタッフ各位の進捗をチェックしている。プログラミングに関しては、すべてのバージョンをここで行っているそうだ。ちなみに、Nintendo Switch版『KCD』は別の会社が担当しているとのこと。
つぎに訪れたのはテスタールーム。いわゆるQ&A、品質管理を担う部署だ。テスターは25人ほどが在籍しており、時期によっては100人ほど外部の会社に発注しているとの説明があった。
もっとも特徴的だったのは、デザイナーに関して。Warhorse Studiosでは、デザイナーがタスクやストーリーラインなどを最初から最後まで担当。その中にはボイス、モーションキャプチャー、グラフィックなども含まれており、制作が完了するまで担当デザイナーが責任を持ってチェックを行うそうだ。部屋の壁には俳優のリストが記されていたのだが、これはボイスに問題があって撮り直す必要が発生した場合、担当俳優が海外にいることなどからチェコに呼んでレコーディングをしなければならず、俳優のスケジュールまでをデザイナーが管理しているため。実際、モーションキャプチャー撮影でも、デザイナーが指示を出してチェックしていた。
また、デザイナールームではリアルな中世時代を徹底的にリサーチしていることが説明された。歴史の専門家に意見をもらい、文献や資料、その時代に使われていた素材までを確認して制作しているというのだから驚きだ。スタッフの机の横には大量の資料が置かれていたことも印象深い。
ツアー中、偶然にも撮影のためにヘンリー役のトム・マッケイさんが来られているということで、急遽モーションキャプチャースタジオへ。前述したとおり、収録中は担当デザイナーが指示を出しており、ゲームデザインどおりに演技がされているのかが細かく確認されていた。
ちなみに、人間のアニメーションはすべてモーションキャプチャーが使用されているとのこと。また、ゲーム中に登場するすべてのキャラクターにフェイシャルキャプチャー技術が使われているとの説明もあった。
余談だが、スタジオの通路にはクラシック映画やクラシックゲームのポスターが多数飾られており、スタッフにうかがったところ、創設者のダニエル・ヴァヴラ氏の趣味なのだそうだ。
DLCが「5月に配信予定」となっていることがいきなり語られる
フロアの案内が終わったあとには、現在開発中の『KCD2』DLCについてのプレゼンテーションが実施された。DLCのロードマップはすでに公開されており、2025年夏からは拡張パスに付属する以下の3つの追加ストーリーDLCが順次配信される予定となっている。
・2025年夏「Brushes with Death」
影のある過去を持った謎の芸術家を助け、スリル溢れる冒険へ・2025年秋「Legacy of the Forge」
養父マーティンの遺産を捜索し、自身のルーツへ迫る。鍛冶場を修復し、忘れられた物語を解き明かす・2025年冬「Mysteria Ecclesia」
セドレツ修道院に侵入し、複雑な人間関係の中で隠された真実を明らかにする
プレゼンテーションを担当してくれたのはトラビス氏のほか、ナラティブデザイナーのヴラディミール・マレチェク氏と、コンセプトアーティストの川谷久海氏のおふたり。夏に配信予定の『Brushes with Death』について説明が行われた。

ヴラディミール氏からは、本DLCが5月に配信予定となっていることがいきなり語られたほか、コミュニティを大事にしていることから無料コンテンツが用意されていることも明かされた。また、シールドのペイントについての説明のほか、新たなストーリーやアイテム、イースターエッグが用意されていることも明らかに。
本DLCの物語はトロスキー城からスタートし、謎の芸術家を助けるところから動き出していく。彼といっしょに旅をして、さまざまな冒険を体験していくことになるそうだ。ちなみに、新たなクリエイティブとして、愛の詩で老婦人を口説くこともできるとのこと。
続いて、川谷氏からはまずコンセプトアートがどういった仕事なのかが説明された。キャラクターデザインや小道具のデザイン、ゲームのビジュアルに関することすべてをコンセプトアートでは求められるという。コンセプトアートで重要となるのが、想像すること、資料をチェックすること、自分の経験を活かすことの3つ。ファンタジーが題材のゲームと異なり、『KCD』シリーズは歴史に基づいたゲームなので、「資料がいちばん重要な要素になる」と川谷氏は語る。
1403年当時の資料は現存しているものが少なく、不完全なものがほとんど。欠けた部分を補う必要があるのだが、そこは想像と自分の経験、暮らしが重要になるのだそうだ。昔の道具が実際にどういう形をしていたら自分が使いやすいのか? 自分の経験によって失われた部分を補うことが求められるのだという。
プレゼンテーションでは、実際にデザインを担当したマリア像を例に「これはアナログで描いていますが、3Dで描く人もいます。その人がやりやすいアプローチでやるのがWarhorse Studiosの社風。日本人として難しかったのは、「チェコっぽくない」と言われることが多かったこと。私のデザインだけ「ちょっと違うよね」と言われることが多かった。そこは感覚的なもので、たとえば昔の村人のデザインをしたときに、チェコ人のスタッフたちは実際に祖父母の家を見ている経験がある。日本人だからこそのギャップを埋めるのにいちばん時間がかかりました。毎日、いろいろなところに出かけて、チェコの感覚が身についていってクリアできたギャップでしたね」とチェコで作っているチェコのゲームだからこその難しさが語られた。
プレゼンテーションのあと、世界初のDLC試遊の機会をいただいたのだが、こちらは配信前のため、記事にできないことをご理解いただきたい。試遊後には、トビアス氏、ヴラディミール氏、川谷氏へのインタビューが実施された。