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ネオン輝く危険な都市で殺人事件を捜査するゲーム『キル・ザ・シャドウ』が超ハードボイルドでカッコいい。フォトリアルな光とドット絵の対比など、ハイセンスなビジュアルを生み出したコンセプトについて、開発者にも聞いてみた

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7月18日から20日にかけて開催されたインディーゲームの祭典「BitSummit the 13th」。今年もインディーゲームに関わる多くのデベロッパー、パブリッシャーで賑わい、非常に大きな盛況を見せた。

そんな同イベントのなかでも、暗がりに灯るネオンの妖しげな光さながら、筆者の目をひときわ惹きつけた作品が『Kill the Shadow』(以下『キル・ザ・シャドウ』)である。

『Kill the Shadow』試遊レポート&開発者インタビュー:ネオン輝く危険な都市で殺人事件を捜査_001

また今回の試遊では、本作の開発者へのミニインタビューをさせていただくという、貴重な機会も得ることができた。

本稿の前半ではハードボイルドな本作の魅力を紹介しつつ、後半では本作の魅力的なグラフィックが目指した「2Dと3Dの対立」というコンセプトや、インディーゲーム業界で注目プレイヤーとなったNEOWIZ社の掲げるビジョン。
そしてゲーム制作における「ナラティブの重要性についてなど、インタビューのなかで聞くことのできたさまざまな情報を掲載しているので、ぜひ最後までお読みいただきたい。

取材・文/植田亮平
編集/うきゅう


自身の「影」とともに、時間を巻き戻して事件の真相を探る、ハードボイルドな探偵ドラマ開幕!

本作は探偵の「ルカス」を主人公とした推理アドベンチャーゲームである。プレイヤーは戦争によって分断された都市を舞台に、少し気だるげなハードボイルド探偵を動かし、さまざまな事件を解決していく。

と、ここまで聞くとシンプルなシステムのアドベンチャーゲームだが、本作にはいくつかの特徴的なシステムが存在する。今回はその中でも代表的なふたつの要素を紹介しよう。

まず最も注目したいのは、ルカスの「相棒」となる「影」のキャラクター、シャドウの存在だ。

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シャドウは探偵モノにおける相棒キャラクターの役割を忠実にこなしてくれる存在であり、ルカスに語り掛け、ヒントを与え、そしてプレイヤーの推理を促してくれる。
さらになんと、「時間を巻き戻して過去を見せる」という、探偵にとっては最強の「必殺技」まで与えてくれるのである。

時間を巻き戻すと、プレイヤーは既に亡き者となったキャラクターの過去を詳細に追体験することができる。もっとも、これはタイムスリップではなく、画面上に登場するスライダーを動かして操作するというものなので、プレイフィールとしては『デトロイト ビカムヒューマン』のコナーがおこなう分析能力と同じタイプのものだ。

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(画像は『キル・ザ・シャドウ』Steamストアページより)

こんな便利な能力を与えてくれるシャドウだが、実は物語上では彼は敵とも味方ともいえない微妙な立ち位置を演じている。彼はルカスを導く信頼のおけるバディなのか、それともルカスを陥れようとする「穢れた人格」なのか。このシャドウを巡る葛藤が、本作の物語全体の駆動力ともなっている。

話をゲームシステムに戻そう。そうして事件に重要な情報を一通り集めると、今度は画面全体に広がるボード状の画面から事件の全体像を推理するパートへ向かう。これもまた本作特有の要素の一つである。

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このパートの面白いところは、かなりの程度、プレイヤーの「マジ」の推理力が試されるというところだ。ボードには操作で手に入れた断片的な情報がいくつも登録されていき、プレイヤーはそれらを線でつなぎ合わせることによって事件の真相にせまっていく。
正しくつなぐことができれば正解。正しくなければ不正解と、ルールとしては非常に分かりやすい。

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ただ、実際にどれがどうつながるのかについてプレイヤーに与えられるヒントはかなり少ない。ちゃんと登場人物の話を聞いてプレイヤー自らが事件の全体像を把握しなければ解けないという絶妙な難しさになっている。

プレイヤーの正味の推理力を試すという点で、そして物語をしっかりと理解させるという点で、非常に優れたレベルデザインである。

フォトリアルなネオンとデフォルメの効いたドット絵の対比がめちゃくちゃクール

また、本作のグラフィックは2Dを3Dをかけ合わせたとても美麗なものに仕上がっており、質感としては近年スクウェア・エニックスがRPGで用いる「HD-2D」を思わせる。

水にぬれたアスファルトや画面全体に差し込むネオンライトの表現は非常にフォトリアルスティックなものだが、キャラクターたちは往年の2Dドット絵で表現されるというこの「アンバランス」は、世界観にとてつもない魅力を付与している。

そして、そんな世界を映し出すカメラにも注目したい。かなり強めの被写界深度が設けられたカメラは、作品のジオラマ的、あるいは映画的な画作りに貢献しており、物語を演出する強力な舞台装置となっている。

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時間を巻き戻すシャドウとハードボイルド探偵ルカスのバディ、そして美しいグラフィック表現が作り出す本作のアジア的なSF世界観。

『キル・ザ・シャドウ』は、多くのプレイヤーを引き付けるナラティブの魅力を存分にもった期待の作品である。本作と同じくNEOWIZが展開している話題作『Lies of P』に続くポテンシャルを十分に持った注目作だろう。

そんな本作について、NEOWIZの総括ブランドディレクターを務めるWoohyuck Choi氏と開発ディレクターを務める「Black」氏に話を伺った。

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写真左:NEOWIZ コンソール・PC事業部長 Woohyuck Choi氏。NEOWIZ統括ブランドディレクター。現在はNEOWIZにて『Lies of P』、『SANABI』、『Skul』、『Shape of Dreams』などPC・コンソールゲームプロジェクト事業を指揮している。
右:Shadowlight代表 「Black」氏。開発ディレクター。ShadowLightスタジオ共同創設者であり、プログラミング・企画・事業を担当。大学時代から現Shadowlightスタジオのほかのメンバーと中国大学ゲーム創作大会へ参加し、複数の賞を受賞。2022年に大学を卒業後、Tap4Funやボーク(BOKE)でのインターンを経て、2022年末にほかの創設者たちとともに退職。Shadowlightスタジオを起業し、現在は『Kill the Shadow』を専業で開発中。

開発者インタビュー。「2D世界と3D世界の対立」をコンセプトに掲げ、印象的なアートワークを実現

—―本作はとてもグラフィックが美しいゲームですが、まずは開発におけるグラフィック面での取り組みについてお伺いしたいです。

Black氏:
本作の開発は2022年からスタートしていますが、グラフィックに関して当初掲げたコンセプトは「2D世界と3D世界の対立」というものでした。
今作のグラフィックに見られる特徴はそういったコンセプトから生まれ出たものです。

—―2D世界と3D世界の対立、ですか。

Black氏:
コンセプトとしてはそうです。
ただこれには色々と経緯があって、具体的に今の形になったのは『キル・ザ・シャドウ』よりも前、3Dのパズルゲームを制作していたときです。

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(画像は『キル・ザ・シャドウ』Steamストアページより)

「3Dのパズルゲームに2Dのキャラクターを登場させたい」というアイデアから始まり、そこで創ったものが発展して『キル・ザ・シャドウ』におけるグラフィックのプロトタイプになっています。

—―なるほど、もともとパズルを作る上で生まれた表現だったと。では、ゲームシステムについてはどうですか? 本作のボードで推理するパートなども、ルールとしては非常にパズル的ではありますが。

Black氏:
そうですね、もともとパズルゲームを作りたいという想いがあったので、あのシステムも「パズルゲームとして」作ったものとなっています。
小説・ドラマなどのミステリー作品や現実におこなわれる警察の捜査からインスピレーションを受け「それをパズルとして落とし込めないか」と。そういった発想から出発しています。

—―本作は戦争で分断された世界が舞台となっていますが、これには特定の時代や場所等のモチーフが存在するのでしょうか。

Black氏:
物語上で展開される種々の対立自体は現実に起こった様々な出来事から着想を得ていますが、特定の戦争や時代的状況をモチーフとして考えたことはありませんでした。これらは開発チームのインスピレーションによって生まれたものであり、表現したいテーマに合うようにチームが協力して創り出したものです。

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(画像は『キル・ザ・シャドウ』Steamストアページより)

—―本作は世界観だけでなくキャラクターの魅力も大きいゲームだと思います。特に物語的にも重要な「シャドウ」の存在について、彼を生み出す中での特徴的なエピソードなどはありますか?

Black氏:
シャドウはプロトタイプの段階から存在していた重要なキャラクターですが、このキャラクターの当初のコンセプトは「麻薬」でした。

プロトタイプにおける「シャドウ」は、麻薬の中毒症状である“幻覚”として造形していたんです(笑)。

もちろんこの設定は本格的な制作に入る段階で無くなりましたが、それでもシャドウという魅力的なキャラクターを失うのは惜しかったので、その存在は残したまま本作の開発を始めることになりました。

—―シャドウが“麻薬中毒の幻覚”でなくなるにしたがって、物語における大きく設定も変わったのでしょうか?

Black氏:
ええ。この場で詳しくお話しすることはできませんが、本作の物語の最後にはシャドウに関する衝撃的な展開も用意しているので、楽しみにしていただければと思います。

「ナラティブ」とは、作品の“とんがった部分”。「ファンやユーザーに刺さるなにか」を求め、作品のトガりを研ぎ澄ませていく

—―NEOWIZはインディー事業を展開するなかで、「ナラティブ」という言葉を掲げています。これは具体的にどういったものを指す言葉ですか?

Choi氏:
ナラティブは包括的な言葉ですから、その語の指す意味はシナリオやキャラクター、世界観など人によって異なります。

その点で言いますと、私たちの掲げるナラティブはもっと抽象的な、「人に刺さるような何か」それ自体を目指しています。韓国で使われる表現ではこれを「エッジ」と言いますが、ファンやユーザーに刺さる何かがあれば、それは十分ナラティブ足りうると思います。

—―自分の「好き」を追及するインディー開発者にとってはとても重要なものですね。その上で、開発者を発掘し作品を共に作っていく際に重視している点があれば、教えてください。

Choi氏:
インディー作品を見るうえで重視しているのは、やはり「とんがっている」ということです。

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(画像は『キル・ザ・シャドウ』Steamストアページより)

斬新さやユニークさを求める開発者の方たちと実際に話をしていると、非常に独自の面白い考えを持っている方が多いんですが、結局のところ、ナラティブとはそういったところから生まれるのではないかと思うんですね。『キル・ザ・シャドウ』も、そういった点ではとてもユニークな考えやアイデアを持っていた。

—―ここまで話を伺っていると、キャラクターやストーリーではなく、かなりゲームや開発者自体のアイデアというか、発想そのものを重視されていると感じますね。

Choi氏:
NEOWIZはもともとオンライン運営型のゲームから始まった会社ですから、キャラクターやシナリオなどのIPが長期的な発展のために重要であることは理解しています。

確かに、斬新さという点からIPの育成をしていくことは短期的な成果と必ずしも一致するものではありません。しかし、長期的にはむしろこちらの方がより堅実な成果に繋がるのではないかなと考えています。

—―では、そうやって研ぎ澄ませていったIPを発信していく方法については、どう考えていますか?

例えば東アジア圏では地理的な近さやアニメ文化など、ユーザーの志向するものや「刺さり方」について、ある程度共通するものもあるかと思いますが、そういった類似点に寄せる形での発信なども考えておられますか?

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Choi氏:
既に日本でも展開している「NEOWIZ QUEST(インディーゲームコンテスト)」などは、まさしくそういったアジア圏を中心としたインディーブランドを立ちあげることを目的としたものです。これはご指摘の通り地理的な近さがあるからこそ実現できたものだと考えています。

ただ、最終的にこのブランド自体はグローバルなものにすることを考えています。もともとNEOWIZ QUESTも韓国内でやっていたIP事業の「拡大版」ですから、いずれにせよグローバルに展開していく予定です。

—―最後に、本作『キル・ザ・シャドウ』が気になっている日本のユーザーに向けて、一言メッセージをお願いします!

Choi氏:
『キル・ザ・シャドウ』に興味を持っていただきありがとうございます! より完成度を高め、ファンの方に楽しんで頂けるような作品を作ってまいりますので、楽しみにお待ちいただければと思います!

Black氏:
開発中すごく大変な時期や、開発を諦めたくなる時期もありましたが、ここまで来れたのは私たちのゲームを愛してくださったファンや声援を送ってくださったユーザーの皆さんのおかげです。そんな方に恩返しするために、一日でも早くゲームが完成するよう努力していきますので、これからも応援のほどよろしくお願いします!(了)


以上、ネオンに彩られた危険な都市で、謎めいた“シャドウ”とともに殺人事件の真相を探るゲーム『キル・ザ・シャドウ』の試遊レポートと、開発者&パブリッシャーへのミニインタビューの様子をお伝えした。

試遊の時点でも、本作の美しいアートワークと、ハードボイルドなゲーム体験はたっぷりと味わうことができた。
そんな本作が、ナラティブの面からゲームのさらなる“トガリ”を探求するNEOWIZと、その想いに共感した開発者たちによって、製品版として世に出る際、どのような姿を見せるのか……。大いに期待しつつ待ちたいところだ。

ちなみに、本作『キル・ザ・シャドウ』は2025年7月現在、Steamにて無料体験版を公開している。興味のある方はこちらもプレイしてみてはいかがだろうか。

ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest

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