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では僕らは任天堂の何を知っているというのか?──任天堂を本気で知りたいときの10冊

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 惚れたあの子のことが知りたいように、好きなゲームについて知りたくなるのは自然なこと。最新の動向を知るときこそネットには敵わないが、対象が生まれた背景や経緯を知り、知識や愛情を深めるには、本にも一日の長がある。だったらゲームについて、さらに一歩踏み込んで知ることができる書籍を編集部がピックアップしてみた。

 今回は2017年3月に発売とアナウンスされている新ゲームハードNXが注目を集める任天堂がテーマ任天堂をより深く知り、近づくための本を、簡単な解説を添えながら10冊選んだ書籍、雑誌、手に入りやすいもの、いまとなっては入手が難しいものなどさまざまだが、なぜ任天堂はゲーム史において特別なポジションたり得るのか、その背景を知るにはぜひ読んでおきたいものばかり。

 おしなべて任天堂が語られるとき、任天堂はゲームそのもの以外に寡黙であることが多いため、取材自体は難しくなる。あくまで書かれていることは公式見解ではないことに注意したうえで、あこがれのあの子に近づこうではないか。

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※以下、順不同。発売元などは刊行当時のもの。

※2016年6月15日 20時 “任天堂の法則”項 本文を一部修正しました。


“枯れた技術の水平思考”の真髄を知りたいなら

◆横井軍平ゲーム館
横井軍平 インタビュー・構成 牧野武文/アスペクト

横井軍平ゲーム館

ゲームの神様は平易に語る

入手難度:★★★(困難)

 1997年に不慮の事故で亡くなられた横井軍平氏は、任天堂の製造本部第一開発部元部長。この本は、生前の横井氏みずからが解説する商品着想の秘話などを軸に構成されたインタビュー集。

 ウルトラハンド、ラブテスター、光線銃SPシリーズ、ゲーム&ウオッチ、ゲームボーイなどの根幹に横たわる、もの作りの意識を氏は説く。ありふれた技術を使って新しい切り口で商品を考える、「枯れた技術の水平思考」というあまりにも有名なフレーズの真髄が平易な言葉で蕩々と語られているさまを読むと、氏が56歳という若さで亡くなられたことが本当に悔やまれる。

 古書相場がひととき数万円レベルで高騰していたが、後に“横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力”という名で注釈や解説を加筆した改訂復刻がなされ、現在は、ちくま文庫にて“横井軍平ゲーム館 「世界の任天堂」を築いた発想力”というタイトルで読むことができる(こちらは入手が容易だ)。

ファミコン全盛期の状況を知りたいなら

◆ファミコンとその時代 テレビゲームの誕生
上村雅之+細井浩一+中村彰憲 著/NTT出版

ファミコンとその時代

当事者が語るファミコン開発の経緯

入手難度:☆☆☆(易)

 1983年当時に任天堂の製造本部開発第二部部長にあり、ファミコンの開発責任者であった上村雅之氏。氏を始め、複数のゲーム研究者たちによって、多角的な視点でアカデミックにファミコンというムーブメントを考察しようする書籍。

 大きく二部の構成になっており、前半が上村氏によるファミコン開発の経緯。当時の電卓、マイコンなどを含む半導体市場が淡々と客観的に語られるなか、ゲームの開発論と半導体の設計論で二度ほど登場する“設計者と企画発想者の意思疎通”というテーマが、当事者でないと出て来ない言葉で興味深い。

 ひとつひとつの仕様やパーツが選定されていく理由も平易に語られ、横井氏製作のゲーム&ウオッチからの流れがあり、宮本茂氏の『ドンキーコング』という画期的なタイトルの開発、そして上村氏によるファミコン設計思想。これらの条件がととのっていたからこそ、やがてファミコンが爆発的なブームになっていったのだと知らされる。

 第II部以降は研究者による客観的なファミコン発売後の展開の検証や、駆け足ながらファミコンが社会に受容されていく過程の解説などプレイヤーに身近な部分が語られている。だが巻末に置かれた上村氏×細井氏のディスカッション記録の中に、ファミコン当時の任天堂社内の空気や上村氏の現在ゲーム業界に対する思いのようなものがいちばん色濃く封入されているというのがおもしろい。

ゲーム産業史の中での任天堂の立ち位置を知りたいなら

◆ゲーム・オーバー 任天堂帝国を築いた男たち
デヴィッド・シェフ著 篠原慎訳/角川書店

ゲームオーバー

日本の知らない任天堂

入手難度:★☆☆(やや難)

 海外から見た任天堂の軌跡を描くドキュメンタリー。そのため、NOA(ニンテンドーオブアメリカ)にまつわるエピソードが多いが、任天堂の創業者の生い立ちから始まり、山内溥氏横井軍平氏荒川實氏宮本茂氏などが、どういう人物であり、どういう働きをしてきたかが、誇張や推量もあるだろうが、それまで国内で書かれたどの書籍よりも細かく描かれ、あまり語られていない任天堂の側面が見える。

 描写されている時代は、ビデオゲーム草創期からCD-ROMマシン登場前夜まで。話題は古くもあるが、世界の東西を問わず、ビデオゲーム産業そのものの生い立ちもよくわかる。

任天堂の製品史を目で追うなら

◆任天堂コンプリートガイド 玩具編
山崎功著/主婦の友インフォス情報社

任天堂コンプリートガイド

任天堂コレクターの第一人者による博覧会

入手難度:☆☆☆(易)

 明治時代の花札かるたに始まり、ゲーム&ウオッチに至るまで、商品から見る任天堂の歴史がわかるオールカラーのガイドブック。ビデオゲームについて語られることは多いが、この巻ではコンシューマ機以外の商品を丁寧に収録。キャンディーマシンやベビーカーなどまで掲載されており、任天堂という会社が、あらゆる角度から人々の暮らしに遊び心を提供し続けてきた企業であるということがわかるのだ。

 整った歴史解説や、テレビコマーシャルのスクリーンショット、チラシなどもビジュアルで掲載しており、リファレンスとして考えたとき、こんな精緻なものがこんな対価で手に入っていいのだろうかと思うレベル。

宮本茂氏の仕事論が知りたいなら

◆任天堂の法則 Digital Entertainment 2001
武田亨著/株式会社ZEST

任天堂の法則

キーマンたちはかく語りき

入手難度:★☆☆(やや難)

 取材当時の任天堂で部長職に就いていた人々へ行ったインタビュー集。当時の、そしていまも変わらぬ任天堂の企業理念のようなものが行間から滲み出ている。

 製造本部第二部部長だった上村雅之氏の、「ゲームはハンドヘルド(携帯機)に戻ってくる」という意見は、ニンテンドーDSの隆盛からスマートフォンへのメインプラットフォームの推移を振り返ると慧眼のひと言であり、当時の製造本部第三部部長だった竹田玄洋氏の、「インターフェイスを複雑に多彩にしたいけれども簡単にしたい」という想いはWiiリモコンやWii U GamePadなどの形で具現化しているように思える。

 この本が刊行されたのが、64DD構想が発表されたあたりの時期だったことを考えると、時間をかけ、確実に実を結んでいく任天堂の想いの強さに感じ入る。宮本茂氏の、ゲーム誌では話さないような領域におよぶゲームデザイン論、仕事論など、クリエーターを目指す人にとっては宝の山のような本だ。

ファミコンを技術的に知りたいなら

◆ファミコンの驚くべき発想力 限界を突破する技術に学べ
松浦健一郎・司ゆき著/技術評論社

ファミコンの驚くべき発想力

技術的側面からファミコンに歩み寄る

入手難度:☆☆☆(易)

 ファミコン開発者上村雅之氏の論文などを噛み砕き、技術的な視点からファミコンを解剖する本。技術系出版社の面目躍如、丸一冊テクニカルな話に終始しているが、文系読者にも理解が容易な図解や、平易なテキスト解説により、ファミコンがどれだけ画期的なハードウェアだったのかを理解させてくれる。具体的には、CPUやメモリの仕組みのようなハードウェア概説、プログラムの基本、そして迷路生成のアルゴリズムなど実際の応用に至るまで、ゲーム機というものの仕組みを基礎的な部分から理解できるだろう。

 ゲームというものの本質的な構造はファミコンの昔からそう変わらないことを考えると、技術職を志すローティーンの入り口の書としても機能するだろう。それにしても、四半世紀を経て、いまなお語られるファミコンというお化けハードのすごさよ。

“任天堂”という体験に共感したいなら

◆ユリイカ 特集 任天堂/Nintendo 遊びの哲学 2006.6
青土社

ユリイカ

語ろう 高らかに任天堂を

入手難度:★★☆(難)

 ゲームを始め、アニメやマンガなども精力的にテーマとして取り扱う詩と批評の雑誌。この号では、本全体の3分の2にあたる166ページが任天堂の特集記事となっている。

 いわゆるゲーム誌ライターなどによる“ゲーム側からの任天堂解説”というわけではなく、“サブカルチャーから見た任天堂”についていろいろな著名人が寄稿。鴻上尚史みうらじゅん中村一義ブルボン小林(長嶋有)飯田和敏米光一成佐藤大西島大介など、名だたる人々がそれぞれの任天堂体験を語り、それぞれのコンテクストで任天堂ゲームの本質に迫ろうとしている。

 ほかにもアカデミックにゲームを研究する学者方面からのアプローチなども多数で、もともと図版が多いスタイルではない雑誌なので、厚さに対し読み応えはバッチリ。

任天堂を物語として知りたいなら

◆ニンテンドー・イン・アメリカ 世界を制した驚異の想像力
ジェフ・ライアン 林田陽子訳/早川書房

ニンテンドー・イン・アメリカ

 マリオ柄のLSDの錠剤!?

入手難度:☆☆☆(易)

 アリメカ人ジャーナリストがまとめた任天堂の歴史書。スーパーファミコン時代で話が終わる前掲の『ゲーム・オーバー』同様、それ以降の時代も事実と逸話を時系列で並べ、ジャーナリスティックというよりはいくぶん推測も挟みつつ、ドラマチックに、よりカスタマー的な視点でマリオの出演動向も含めて書き上げている。

 セガとの競合、任天堂プレイステーションをめぐる経緯、バーチャルボーイの発売と横井軍平氏の逝去、64とスクウェアの離脱、コンソール機の低迷期とハンドヘルド機の充実、荒川實氏山内溥氏の勇退と岩田聡氏の社長就任、そしてDS・Wiiの成功。挙げればキリがないが、任天堂(もしくはマリオ)をめぐる連綿と続く物語として読めば、起伏も激しく、かなりエキサイティングなひとときが堪能できる。

 最終章では、十字ボタン以来のゲームの特徴が、対立的な極にあるDSやスマホ以降の遊びやすさとブレンドされる統一時代が来ると語る。その橋渡し役になれるのがマリオと彼を支える宮本氏、岩田氏、レジー氏と続き、NXの正体に否が応でも期待が寄せられる。

任天堂の概要を知りたいなら

◆見学! 日本の大企業 任天堂
アダム・サザーランド原著/ほるぷ出版

見学日本の大企業

子ども向けと侮るなかれ

入手難度:☆☆☆(易)

 トヨタ自動車やニコンなど世界的に活躍する日本の大企業を取り上げ、子どもにその成功の背景や歴史、経営努力などをわかりやすく解説するシリーズの1冊。

 そのフォーマットに則り任天堂の歴史や企業努力が紹介されるわけだが、“家庭用ゲーム機をめぐる戦い”と称してプレイステーションとの比較をするページや、CESAゲーム白書から数字を引用してグラフィカルにゲーム市場を見渡すページなど、一概に子ども向けと言えない内容となっている。

 ちなみにこのシリーズでエンターテイメント寄りの企業としては、ほかにソニーとバンダイの巻もある。

山内溥氏の人物を知りたいなら

◆任天堂商法の秘密──いかにして“子ども心”を摑んだか
高橋健二著/祥伝社

任天堂商法の秘密

こんなんジャケ買いでしょう

入手難度:★★☆(難)

 刊行が1986年の新書。つまり『スーパーマリオブラザーズ』&ファミコンが爆発的なブームとなったさなかに書かれたものだ。著者はゲーム周辺ではなく、企業ルポルタージュを得意するジャーナリスト。この本でもそうした一般企業を捉えるような客観的な視線で、任天堂の成功の秘密を探ろうとしている。

 本書の特徴は、当時の山内溥社長今西紘史総務部長上村雅之開発第二部長などに直接取材し、それら関係者の言葉を書籍中に散りばめていることだ。山内氏の「任天堂商法なんて、そんなもんないですよ。われわれが今日あるのは、こうなるはずだという見通しを持ってやってきた結果ではない。なんとかしなきゃあいけない、どうすればいいのかと、必死になってやってきた結果が今日の任天堂をつくったのです」という発言など、声が脳内で再生されてくるほどだ。

 また著者は“任天堂=山内溥”と文中で言って憚らず、一冊読み終えると、これは任天堂についての本でなく、山内溥という希代の人物についての本だとわかる。そしてこれはゲームボーイすら発売されていないタイミングの話と気づき、それから幾星霜、岩田聡氏の時代のさらなる飛躍を経て、気の遠くなるほど圧倒的な存在感を世界に示し続けている任天堂という会社の怖ろしさに気づくのだ。

 

 

小山オンデマンド
週刊ファミ通、ファミ通.comなどを経て、電ファミニコゲーマーに参加。
稀覯本からアダルトVRまで幅広く記事を作成中で、今回掲載の書籍はすべて私物。
好きな任天堂キャラクターはデクナッツ。

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(情報元:任天堂ホームページ)

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