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【検証:スプラトゥーン】インクでイカが爆発するとかw→浸透圧じゃなイカ? 柳田理科雄が実際にイカで実験してみた【空想科学ゲーム読本】

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【検証:スプラトゥーン】インクでイカが爆発するとかw→浸透圧じゃなイカ? 柳田理科雄が実際にイカで実験してみた【空想科学ゲーム読本】_001

 夏の盛りに、待望の第2弾が発売されましたなあ、「スプラトゥーン」
 さあ、ポップな音楽に乗って、フルテンションで戦いのフィールドを自分色に染め上げよう!

 などとつい、宣伝文句みたいなことを書いてしまったけれど、筆者のココロはまったく別のところにあります。
 あのインクリング【※】たち、なんでイカになったり、ヒトになったりできるんだ!?
 違う色のインクに触れると、爆発したりしているが、あれはどういうこと!?

※インクリング
「スプラトゥーン」シリーズでプレイヤーが操作するキャラクター。男の子(ボーイ)と女の子(ガール)が存在する。インクの中を自在に泳ぎ回るイカの姿と、街を歩いたりブキを使うことが出来る人の姿に変身出来る。

 「スプラトゥーン」は、謎の宝庫なんだよなあ。
 このまま放置して、ゲームの途中で考え込んでしまい、敵のインクを浴びては一大事だから
、いまのうちにちょっと考えてみよう。

【検証:スプラトゥーン】インクでイカが爆発するとかw→浸透圧じゃなイカ? 柳田理科雄が実際にイカで実験してみた【空想科学ゲーム読本】_002
イラスト/近藤ゆたか

イカとヒトとの共通点って?

 そもそも、イカ→ヒト、ヒト→イカという変身は、科学的にかなり無理がある。なぜなら、

イカ:動物界 軟体動物門 頭足綱 十腕形上目

ヒト:動物界 脊索動物門 哺乳綱 霊長目

 「門」とは、動物や植物を分類する最上位のカテゴリーで、人間とイカは、もうここから違う。両者の共通点は「動物であること」だけなのだ。
 血液だって、人間が赤いの対し、イカは青。もう本当に縁遠いですな。

 カラダの構造も大きく違う。マンガなどで、イカの頭のように描かれている部分は、実は胴体で、頭はその下にある。
 つまりイカの体は、胴 → 頭 → 足の順。

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(Photo by Getty Images)

 そんなイカが、どうやって人間になるのか? 不思議に思って公式サイトを見ると、イカからヒトに変身する過程が載っており、イカの足は髪に変化している。
 おお、頭のまわりの足が、頭のまわりの髪の毛に。理に適っているではないですか~。

 などと無理やり感心しているが、そうしないと即座に話が終わってしまうほど、イカと人間は違う動物なのだ。
 ヒトとイカのあいだで、自在に往復変身している「スプラトゥーン」は、科学的にはあまりにもオソロシイ世界である。

疑問1:なんで爆発するの?

 「スプラトゥーン」の世界には謎めいた現象がたくさんあるが、筆者が科学のココロ引かれてやまないのは、違う色のインクを浴びると、最悪の場合、爆発して死んでしまうことである。

 なぜだ!? 体内に違う色のインクが入ると、化学反応が起こって、爆薬でも生成されるというのか?
 全然わからないので、ネットで調べてみたところ、おおっ。「浸透圧が原因では」という指摘をしている人たちがいらっしゃる。それはオモシロイ!

 皆さん、高校1年生の生物で習った「浸透圧」を覚えていますか。科目選択によっては習っていない人もいるかもしれませんけど。
 水に何かが溶けたものが「水溶液」で、溶けているものが「溶質」。また「水は通すが、溶質は通さない」という性質を持つ膜を「半透膜」という。

 濃い水溶液と薄い水溶液が半透膜で仕切られていると、両者の濃度は等しくなろうとするが、溶質は半透膜を通り抜けられないので、水が薄いほうから濃いほうへ移動する。このとき水を移動させる力が「浸透圧」だ。
 キュウリに塩を振ると水が出てきてシナシナになるのも、ナメクジに塩をかけると水が吸い出されて悶絶死するのも、生物の細胞膜が半透膜だから。

 しかし、浸透圧が原因で爆発するかなあ……と思ったものの、 興味深い事例を思い出した。

 それは赤血球。

 赤血球も一つの細胞で、内部の細胞液の濃度は0.9%。血液も同じ濃さなので、普段は円板型を保っているが、0.9%より濃い食塩水に入れると、浸透圧で水が吸い出されてしなびる。
 逆に0.9%より薄い食塩水や水に入れると、水を吸い込んでパンパンに膨れ上がり、ついには破裂する。つまり浸透圧で爆発するという現象は、自然界にもあるのだ。

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イラスト/近藤ゆたか

ホントに爆発するか実験してみた!

 同じことが、イカでも起こるだろうか?
 ここはぜひとも、実験で確かめてみよう。魚屋で新鮮なスルメイカを買ってきて、胴の皮をむいた。そのまま刺身にしたかったが、ここはぐっと我慢して、バットに入れて塩をかけてみる。

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胴の皮をむかれ、塩をかけられたスルメイカ
(柳田先生自らが撮影)

 そして、下の写真がその1時間後。
 よ~く見ると、バットに水が溜まっている。イカの体から水が吸い出されたのだ。

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スルメイカから水が出てきた様子
(柳田先生自らが撮影)

 つまり、イカの体でも、浸透圧による水の出入りは起こるのだ。
 インクリングの皮膚が半透膜で、インクには何らかの溶質が溶けていて、その濃さが色によって違うとしたら、自分より濃度の薄いインクにつかると、浸透圧で体に水が吸い込まれる。ヘタすると、パンパンに膨れ上がって、ついには爆発……!
 おおっ、なんだかもっともらしい仮説ではないですかー。

 だが、この論だと、爆発するのは溶質の濃度が濃いほうのイカリングに限られてしまい、薄いほうのイカリングはシナシナになってやられてしまうことに……。

 うーん、難しい。よし、気分転換にご飯でも食べよう。おかずは、イカの塩焼きだー。

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柳田先生お手製のイカの塩焼き
(柳田先生自らが撮影)

疑問2:ジェットパックの耐久時間は?

 さて、気を取り直して、もう一つ気になる現象を考えたい。
 『スプラトゥーン2』から新登場した「ジェットパック」だ。2つのノズルからインクを真下に噴き出して空中に留まり、遠くの敵を狙い撃ち!

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(画像は任天堂公式サイトより)

 これは、原理の明確な現象である。
 インクを真下に吹き出せば、作用・反作用の法則で、自分は上向きに力を受ける。その力で、体重、ジェットバックの重量、タンクに残ったインクの重量を支えているわけだ。

 現実の世界にも、海や湖から水を吸い上げて真下に吹き出す「ウォータージェットパック」というものがあるが、同じ原理である。

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(Photo by Getty Images)

 すると、知りたいのは「どんな勢いでインクを噴射すれば、空中に留まれるのか」だ。

 「見た目」から、まず3つの数値を仮定しよう。

 インクリングの体重は50kg、ジェットパックの重量は20kg、タンクの容量は10L

 インクの勢いを求めるには、実はもう1つの数値が必要だ。それは「インクの密度」

 通常の水性インクは1Lあたり1.5kgほどだが、『スプラトゥーン コウリャク&イカ研究白書』(KADOKAWA、エンターブレイン・2015)には「インクは高密度に圧縮し体内に貯蔵」とあるから、この数値をそのまま使うわけにはいかない。仮に10倍に圧縮されているとしたら、1Lあたり15kg、満タンの10Lで150kgだ。

 すると、スタート時の合計重量は220kgになるが、インクを噴出するほど、これはだんだん軽くなる。つまり、常に「インクリングの体重+ジェットパックの重量+インクの残量」を支えるだけのインクを噴出すればいい。

 さて、そのためのインクの噴出量はどれほどか。
 ヒトの姿をしたインクリングの身長を1m50cmと仮定して、ゲームの画面で測定すると、ノズルの直径は18cm。ここから放出して上のような力を生み出すには、平均で毎秒67Lを噴き出す必要がある。

 わーっ、タンクの容量は10Lだったから、たった0.15秒しかもちません!
 ゲームの画面では10秒以上も悠々と宙に浮いてるのに、いったいどうなってんのー!?

 うーん、ますます難しいな、『スプラトゥーン2』。
 イカの丸焼き、もう一杯食べてやるー!(了)

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著者
理系作家。空想科学研究所の主任研究員として、書籍の執筆を続ける一方で、各地での講演、ラジオ・TV番組への出演など精力的に活動。2007年には『空想科学 図書館通信』の無料配信を始め、現在も継続中。代表作『空想科学読本』シリーズは、現在17巻まで刊行。明治大学理工学部の非常勤講師。2017年6月17日、角川文庫『空想科学読本 正義のパンチは光の速さ!?』発売。
空想科学研究所公式サイト:www.kusokagaku.co.jp
Twitter:@KUSOLAB

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