なぜ『スプラトゥーン』は「面白い」と直感できるのか? 今、3Dゲームに任天堂は20年越しの回答を示しつつある:「なんでゲームは面白い?」第九回

 明後日、2017年7月21日にNintendo Switch対応ソフト、『スプラトゥーン2』が発売される。

(画像は任天堂公式サイトより)

 『スプラトゥーン』【※1】が発売されたのは2015年5月28日だから、前作から2年ちょっとという、任天堂タイトルとしては珍しいショートスパンでの新作発売となる。それにもかかわらず、まだまだフレッシュな存在感は残しつつも、既に定番タイトルとしての安定感すら感じるタイトルになりつつあるように思える。おそらく新作も世界的に大ヒットし、Switch本体も枯渇状態が当分続くことだろう。

 だが、2年足らずで『スプラトゥーン』がここまでの存在感を発揮するに至ったのはなぜだろうか。
 その理由として、発表時点から鮮烈な印象をユーザーに与えることで、知る人ぞ知る隠れた名作や一部界隈で熱狂的な支持を受けるカルト的名作であるような、マイナーな存在だった期間がほぼゼロだった点をあげたいと思う。

 『スプラトゥーン』が発表されたのは、2014年6月のE3【※2】のことだ。その時の衝撃は今でもはっきりと覚えている。

※1 スプラトゥーン
2015年に任天堂が発売した、インクを撃ち合うアクションシューティングゲーム。ゲーム終了時の色のついたフィールドの面積で勝敗が決定する、というユニークなルールが話題となった。2017年7月21日には、続編となる『スプラトゥーン2』の発売が予定されている。

※2 E3
Electronic Entertainment Expo.の略称。毎年5月中旬から6月中旬のうちの数日間アメリカで開催される、世界最大のコンピューターゲーム関連の見本市。

 改めて振り返っても、このたった2分足らずの映像で、『スプラトゥーン』がどのようなゲームであるかはほぼわかってしまう。「面白さへの理解」に到達する、その即効性の高さはいまだに健在と言っていい。だからこそ、この映像はユーザーに衝撃を与えたのだ。

 だが、この2分間の映像からユーザーが読み取った『スプラトゥーン』の面白さは何だったのだろうか。

 それを考えることは、『スプラトゥーン』の魅力を考えることであると同時に、実は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ARMS』などの画期的な3Dゲームを次々に発表する、最近の任天堂の「ルネサンス」がなぜ起きているのかを考えることでもあると思う。今回の原稿では、それを論じてみたい。 

『スプラトゥーン』の面白さの“核”とは?

 では『スプラトゥーン』とはどのような面白さのゲームか。
 先に結論から言うと、『スプラトゥーン』とは、キャラクターの持つ「機能」によって空間の持つ「機能」を制圧するゲームである。

(画像はスプラトゥーン2 TVCM2より)

 あのたった2分の映像には「塗る」「潜る」といったアクションによって3D空間の「機能」がプレイヤーにとって都合がいいように制圧されていく様子が端的に提示されている。敵と戦うという行為すらも、その一つの過程に過ぎない。

 この映像では、それまで3D空間に適応する形で存在していたゲームキャラクターが、むしろ能動的に空間機能を書き換え、制圧する姿が描かれている。まさに、この映像は新しい時代のプレイヤーと世界の関係性をフレッシュかつシンプルな形で表現したものだった。しかも、そこまでわかってしまうのに、既視感からくる退屈さを全く感じない。刺激に溢れた、ゲームというメディアならではの「操作する快感」にも溢れている。

(画像はスプラトゥーン2 TVCM3より)

 この映像によって『スプラトゥーン』は発表直後から大きな反響を呼んだ。
 そして、この映像を見ただけで誰しもがやってみたくなるような「3D空間とプレイヤーの関係性」の提示こそが、任天堂が20年近くにわたって悪戦苦闘しながら模索し続けたテーマだった。
 『スプラトゥーン』の登場によって、任天堂は遂に模索の果ての「一つの境地」に到達した。だからこそゲームユーザーの中でも、特にこれまでの歩みを知っている長年の任天堂ファンは、『スプラトゥーン』の登場に異常なまでに熱狂したのである。 

『マリオ64』で問われた3Dの“間口の狭さ”

 そもそも3Dゲームには、どうしても少なくないゲームユーザーを遠ざけてしまう「壁」がある。
 特にその「壁」の存在に苦しめられてきたゲームといえば、「スーパーマリオ」シリーズだろう。確かにマリオ初の3D化を果たした『スーパーマリオ64』【※】は、ゲームの歴史に残る大傑作である。だが同時に、3D化によって誰にでも楽しめる間口の広さが失われてしまったのも否めない。

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※スーパーマリオ64
1996年に任天堂が発売したNINTENDO64用アクションゲーム。初代ファミコンから続く「スーパーマリオ」シリーズの中で、初めて3D空間を跳び回るものとなった。3Dスティックによるキャラクター移動、Cボタンユニットによるカメラの操作、画角の切り替えや固定、それらの連携によって生まれる新しいアクションゲームの楽しみなど、この作品によってスタンダードとなった概念も多く、その画期性はシリーズを超え、後の3Dアクションゲーム全般に影響を与えたと言われている。2004年には『スーパーマリオ64DS』というニンテンドーDS専用ソフトも販売された。
本連載では既に、上記の『Rez Infinite』を扱った回にて「3Dゲーム」の先駆として『スーパーマリオ64』に触れている。

 その理由を検証していこう。まず、この間口という点で、2Dの「マリオ」の良さを考えてみると、以下の二点がすぐに思い浮かぶ。

・基本的には右へ右へと進んでいけばゴールへ到達できるので、よっぽどのことがない限り「プレイヤーが目標を見失う」という事態に陥らない安心さ

 

・初期状態の時点で、ゲームを最後までクリアする能力を備えているマリオというキャラクター及び、あらゆる障害に対応が可能な「ジャンプ」というアクションの汎用性の高さ

 だが、この二つは3Dになることで、かなりの部分が失われてしまうのだ。

 まず一つ目の「到達目標の自明性」について。
 例えば、『スーパーマリオ64』冒頭で、これまでの2Dという移動制約から解き放たれ、あらゆる方向に目がけて駆け出せるようになった時の感動は、確かに素晴らしい。だがそれは同時に自分で自分の進むべき道を常に探さなければならないという「探索義務」が生まれる瞬間でもあった。
 2Dのマリオにだって「探索」要素は色濃くあったが、ゴール自体を「探索」するように設計されたコースはかなり限定的だ。より深くゲームを楽しみたい人が能動的な形で「探索」をすればよく、そこに「探索義務」はほぼ存在しなかった。

(画像はスーパーマリオブラザーズ プレイ映像より)

 では、二つ目の「ジャンプアクション」はどうか。
 これもまた、その万能性を失うことになった。2D空間におけるジャンプは線上の点を踏めばよく、真横の視点から見ることで対象との距離も測りやすかった。だが、3D空間でのジャンプは広大な面の上に小さく存在する点を踏むことを強いられる。視点もカメラ移動に伴い常に変化するため、対象との正確な距離を直感的に測ることが、かなり難しくなってしまったのだ。

画像はバーチャルコンソール版
(画像は任天堂公式サイトより)

 2Dの「マリオ」は、「気軽なプレイ」にも「真剣なプレイ」にも、どちらにも対応できることで大ヒットしてきた。しかし、その気軽さは3D化して以降の「マリオ」からは失われてしまったのである。これは「マリオ」の問題というよりも、3Dゲームが抱える普遍的な課題と言っていいだろう。3Dの問題について考える際に『スーパーマリオ64』がしばしば引き合いにだされるのは、傑作かつ大ヒットタイトルであるが故に、それでも解決しきれない問題点を考える上での絶好の材料であり、象徴的なタイトルでもあるからだ。

 『スーパーマリオ64』が発売されて、既に20年以上の年月が経っている。当然、任天堂はこの問題に対して様々なアプローチで解決を図ろうとしてきた。近年の3Dマリオには、かつて抱えてきた問題がかなり改善されていることもまた確かだし、その歩みの振り返りも一つ一つしていきたいところだ。だが、今回の本題はあくまで『スプラトゥーン』である。それはまた別の機会に触れるとしよう。
 ここからは、ゲームに「探索義務」があることで生まれるプレイ感覚の「重さ」に絞り込んで、議論していきたい。 

『スプラトゥーン』で示された二つの回答

 この問題に対して、『スプラトゥーン』は実に明快な回答を、二つ提示してきた。

 一つはこのゲームにおける最もベーシックな対戦形式「ナワバリバトル」【※】の基本ルールだ。
 「地面を塗れば塗っただけ加点される」というルールによって、プレイヤーをとりまく地面という地面の全てが目標となり、初歩の「探索」にかかるコストを著しく下げることに成功した。

※ナワバリバトル
『スプラトゥーン』の対戦モードのひとつ。4対4に分かれてのチーム戦で、互いにフィールドにインクを塗り合い、最終的に塗った面積の多いチームが勝利する。敵プレイヤーにインクを当てることで「倒す」ことが可能で、倒されたプレイヤーはスタート地点に復活する。

 もう一つは、プレイヤーキャラクターの身体の中に、クションの補完関係を構築したことだ。「塗る」ことで、その塗った場所に「潜る」ことが出来るようになるし、「潜る」ことでインクがチャージされ、さらに「塗る」ことが出来るようになる。

(画像はSplatoon(スプラトゥーン) 紹介映像より)

 この互いに補完し合うアクションをキャラクターの基本機能として備えることで、『スプラトゥーン』では自分が一体何をすればいいのかが分からなくなることは、ほぼ無くなった。目の前の地形が自分の色に塗られていないなら「とりあえず塗っとけ」という判断が下せるし、目の前の地面が塗られているなら「塗られていない場所までは潜って移動しとけ」という判断が下せるようになる。つまり、「塗る」と「潜る」の繰り返しで、大抵の状況はどうにかなるのだ。

 この基本アクションによる空間制圧性能の高さは、当連載で前回触れた『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下『BotW』)における、ありとあらゆる壁を「登る」というアクションにも近しいものがある。

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 あらゆる状況に対処できる、空間制圧能力が極めて高い「機能」を序盤でプレイヤーに与えてしまうことで、3D空間にまとわりつく「探索義務」の重さを取り払う――このアプローチをとった点において『BotW』と『スプラトゥーン』はジャンルこそ違えど、根底において非常に通じる部分があると僕は考えている。

 しかも、この『BotW』との類似点を考えていくと、もう一つ重要なヒントが浮かび上がる。
 『スプラトゥーン』では、その最も重要な「塗る」アクションが、これほど複雑な機能を有しながらも、同時に極めて直感的なアクションになり得ている。この謎について考える上で、あまり前回の記事で触れられなかった『BotW』の「化学エンジン」【※】が非常に重要な手がかりになるのである。 

※化学エンジン
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のテクニカルディレクターを務めた堂田卓宏氏らが開発したゲームエンジン。炎、電気、風などの要素とオブジェクトの相互作用を計算する。

TPSに「化学エンジン」の考え方を持ち込んだ『スプラトゥーン』

 『BotW』の「化学エンジン」については、開発者自身が非常に明快な言葉で語ってくれている。

「ルールに基づいた動きの計算機」が物理で、これに対して化学は「ルールに基づいたステート(状態)の計算機」となる。言い換えればステートの変化を計算するのが化学エンジンで、構成要素は、火や水、氷、風など実態を持たない「エレメント」と、木や草、岩などの「マテリアル」の2つだけ。ルールはシンプルで、エレメントはマテリアルを変化させ、お互いのステートを変化させる、マテリアル同士はステートに干渉しない。


「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」が実現した“かけ算の遊び”より引用

※太字は編集部による

 GDCの講演で明かされた、この「化学エンジン」についての考え方は『スプラトゥーン』というゲームに対しても当てはめられる。
 『BotW』ほどの複雑な、「化学エンジン」と呼べるほどの体系的な仕組みこそ駆動していないものの、『スプラトゥーン』における「塗る」というアクションも、色の付いた液状の「エレメント」によって床や壁といった「マテリアル」のステート(状態)に変化を起こしている。とすれば、上記の化学エンジンの考え方にのっとるなら、「塗る」アクションで有利なステート(状態)をコントロールして勝敗を競う『スプラトゥーン』とは、まさに「化学エンジン」の説明そのもののゲームであると表現することも出来るだろう。

(画像はスプラトゥーン2 紹介映像より)

 物理現象による攻防を主軸に据えた「FPS」【※1】「TPS」【※2】の世界に、ステート(状態)の変化という化学現象を持ち込んだこと――それこそが『スプラトゥーン』の画期性だったのではないだろうか。

※1 FPS
First Person Shooterの略。プレイヤーもしくは主人公の一人称視点でゲーム内の世界を任意で移動する3Dのアクションシューティングゲーム。

※2 TPS
Third Person Shooterの略。プレイヤーもしくは主人公を追うような、第三者視点で操作をするアクションシューティングゲーム。

 なぜそこに画期性があるのか。それは化学現象を「リアルに」再現したからではない。化学的には間違っていたとしても、ユーザーが「直感的に」納得出来るウソ化学現象をゲーム表現として採用していること、そこに『スプラトゥーン』の画期性がある。
 そもそも、インクを「塗る」のはまあ良いとしても、それに「潜れる」「泳げる」のはどうしたって「リアルに」考えればおかしい。さらには自分で撃ったインクに「潜る」ことで、インクがチャージされることなども物理的にもおかしいわけだが、我々はそれをゲームプレイとして「直感的に」納得できてしまう。

 「キャラによる空間の機能的制圧」という、これだけではなにやら難解そうなゲーム内容が、それを直感的にはなぜか納得出来てしまうウソ化学現象のビジュアル化、化学エンジン的な考え方の採用によってポップな表現として提示することに成功しているのである。
 『スーパーマリオブラザーズ』のジャンプ【※】が、リアルに考えれば完全にウソな物理現象をゲームのアクションとして採用することでむしろ直感的な名アクションになったように、『スプラトゥーン』の「塗る」「潜る」も、ウソな化学現象を採用することによって直感的には納得できるアクションになったのではないかと思う。

※『スーパーマリオブラザーズ』のジャンプ……初代『スーパーマリオブラザーズ』から取り入れられていたアクション。ジャンプのボタンの強弱によってジャンプの高度が変わったり、ジャンプ中にボタン操作をすることによってジャンプの軌道や着地点を操作することができる。
(画像はスーパーマリオブラザーズ プレイ映像より)

3D空間を制圧し始める任天堂のキャラクター達

 『スプラトゥーン』がなぜ面白いのか。それは、冒頭でも述べたようにキャラクターの「機能」によって空間の「機能」を容易に制圧することが可能だからだ。

 そして『スプラトゥーン』が発売されて以降、任天堂は3D空間とプレイヤーキャラクターとの関係性を新しく構築し直す試みを立て続けにしているように思える。具体的には、ほぼ無制限の壁登りアクションによって崖という崖、山という山に登頂することができる『BotW』や、のびる腕を駆使して戦う『ARMS』などの作品である。

※ARMS……2017年に任天堂が発売した対戦型格闘ゲーム。腕がバネのように伸びるキャラクターを操作して戦う。キャラクターの背後からの視点で操作するのが特徴的で、ボクシングのような操作感が味わえる。
(画像は任天堂公式サイトより)

 おそらく、任天堂はこれら一連のタイトルによって、キャラクターによる3D空間の機能的な制圧に成功しつつある。それはつまりファミコンやスーパーファミコンの時代のような、シンプルに構成された2D空間をキャラクター機能によって制圧していくという、ゲームにとっての原初的とも呼べるであろう「面白さ」の現代的な再構築に成功しつつあるということだ。

 とすれば、『スーパーマリオ オデッセイ』【※】にも、おそらくそのようなマリオと空間の関係性を根本から見直すような試みがなされていることだろう。

※スーパーマリオ オデッセイ
2017年10月27日発売予定の、「スーパーマリオ」シリーズの新作。決められたルートを進むのではなく、広大なステージを自由に攻略できる箱庭探索型ゲームとしては、2002年の『スーパーマリオサンシャイン』以来、15年振りの作品となる。

 余談になるが、『スーパーマリオ オデッセイ』で少なからず意識されているタイトルはおそらく「Grand Theft Auto」【※1】ではないかと僕は考えている。この記事では任天堂タイトルにかなり限定する形で論を進めたが、当然ながら任天堂以外にもキャラクターと空間の関係性を様々な形でデザインしようとしたゲームタイトルは幾つもある。その中でもかなり重要なタイトルが「Grand Theft Auto」と「Minecraft」【※2】なのだが、それは当連載でその内に触れることにしよう。

※1 Grand Theft Auto
通称GTA。米Rockstar Gamesによって開発・発売されている人気ゲームシリーズ。第1作が北米で発売された1997年から現在に至るまで様々なタイトルが発表され、2015年には、シリーズの累計販売本数が2億2000万本に達したと報じられた。プレイヤーがゲーム世界を自由に動き回れる「オープンワールドゲーム」の代表作として知られている。

※2 Minecraft
2009年にスウェーデンのMojang社が開発・リリースしたパソコン向けのサンドボックス型ゲーム。ゲーム世界を構成する土や木を素材に、自由な発想で創作することができる。「マイクラ」の愛称で世界中で親しまれている。

 20年以上前に発覚した「3D化がゲームにもたらす諸問題」について、任天堂は20年越しの決着を付けつつある。任天堂における3Dゲームのルネッサンス期の到来を告げたタイトル――それが『スプラトゥーン』だと位置付けることが可能なのではないだろうか。

 しかも、それは幸福なことにSwitchというあらゆるシチュエーションで快適に遊べるハードで展開されつつある。

(画像は任天堂公式サイトより)

 前作はWii Uという決してヒットしたとは言い難いハードで展開したため、購入に消極的だった人もいるのではないかと思われる。だが、最新作はSwitchでの発売ということで前向きに購入を検討している人も多いだろう。とはいえ残念ながら、このタイミングで購入を考えている人は、当分はハードが手に入らないと思うが、諦めずに購入タイミングを待って、空間を制圧するキャラクターの爽快感を存分に味わって欲しい。

文/hamatsu

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