2017年末、電ファミニコゲーマーにある男性から連絡が届いた。彼の名はNausharwan Mir──過去にDeNA Japan、DeNA West、GREE Group、などに勤め、現在はPsychic VR LabのCAOを務める。
現在はVR技術を用いたファッションVRショッピングサービス『STYLY』を手がけるPsychic VR LabのCAOとして、様々な海外イベントで講演などを行っている。
そんな氏から、「日本企業はもっとインド市場に注目をした方がいい。それを伝えたいんだ」という連絡を受けたのだ。そこで我々は、ゲーム切り口で何かできないかと打診したところ、タイミングよく2018年1月にインドで「India Gaming Show South 2018」というゲームショウが開催されていたため、そのレポートとインド市場に関するミニインタビューを実施する運びとなった。
文・聞き手/クリモトコウダイ
──そもそも“India Gaming Show South”とはどのようなイベントなのでしょうか。
Nausharwan Mir氏(以下、ミール氏):
India Gaming Show southはインドの一番大きなゲームイベントで、日本でいう東京ゲームショウのような見本市ですね。
興味深いことに、今年の出展企業39社のうち、Gungho Online Entertainment、Konami Digital Entertainment、Sega、Sonyなど、1/3にあたる14社が日本企業だったんです。
──それは日本企業がインド市場に注目していると言えそうですね。
ミール氏:
インドの人口は13億人(2015年)で、2050年には17億人以上になると予想されています。経済的にも伸びており、インターネット人口は4億(2015年)で、2017年の7~9月期には、スマートフォンの出荷台数が世界2位になりました。
また、2018年インドのインターネットユーザー数は4億人です。そのため現在のインドはモバイルゲームとアプリ市場が急成長しており、それが注目の理由だと思います。
──なるほど。とはいえインドというと、あまりゲームのイメージがありませんが。
ミール氏:
その認識は正しいですね。インドのエンターテインメントは、映画、クリケット、外食の3つです。日本のコンテンツですと、アニメは人気があると言えますね。
日本のアニメを初めてインドに持ってきたのはCartoon Networkで、『ドラゴンボール』、『ポケモン』、『ベイブレード』などが放送されました。それが1990年~ 2000年頃のことで、同時期にAXNも日本のアニメを配信しています。
その後、2000年からはAXNグループであるAnimaxが別チャンネルとして誕生し、現在はHungamaとディズニーチャンネルでも日本の様々なアニメが配信されるようになりました。
基本的には、アニメは13歳以下の子どもたちが見るものという認識なんですが、『ドラえもん』、『デスノート』、『ブリーチ』、『NARUTO -ナルト-』が今までの親の固定概念を変え、アニメは大人でも楽しめるという理解が広がっています。
ちなみに、2017年のデータですが、『ドラえもん』を見たインド人は4.78億人を超えていたと言われています。
──ゲームも子どもがやるものという認識なんでしょうか。
ミール氏:
まだまだその見方は強いですね。実際、India Gaming Show Southでは13歳以下の子どもを多く目にしました。
なぜ子どもがやるものという認識が強いかというと、今の親世代はゲームやアニメを体験していないんですよ。だから家でゲームを遊ぶより、外で遊んでほしい両親が多いです。
またPCやコンソールゲームの文化時代は昔からありましたが、PCやゲーム機を購入することはインドの物価では高いという問題があります。
ところが、無料かつ移動しながら外で遊べるスマートフォンのゲームが登場し、非ゲーマーの人たちもゲームを遊び始めたんです。
──スマートフォンのゲームが受け入れられたと。
ミール氏:
そうですね。具体的には『キャンディークラッシュ』、『クラッシュ・オブ・クラン』、『クラッシュオブキングス』といった海外のゲームが人気なんですが、インドではギャンブルゲームも人気ですので、ランキングを見るとそういったタイプのタイトルもランクインしています。
もしくはインド文化のTeen Patti Gambleや映画のアプリがトップ10に入っています。
──インド発のゲームはないのでしょうか。
ミール氏:
インド発のゲームはあまりありません。ゲーム会社自体は国内にありますが、インド国内向けのゲームを作っている会社は本当に少なく、ヨーロッパやアメリカの企業のアウトソーシングを請け負う会社がほとんどなんです。
国内向けに作るよりも、そちらの方が需要があるんですよ。事実、ゲーム企業含め、全アメリカ企業の6割がインドにアウトソーシングを行っていると言われています。
──そんなインドの市場ですが、今後はどうなっていくと予測していますか?
ミール氏:
現在のインドは15年前の中国の経済と同じだと思います。今の段階で種をまくべきだと考えていて、Ali Babaや Tencentのように、インドの会社も15年〜20年後には世界10位の会社に入ると思います。
そして、インドは中国よりも魅力的だと思っていまして。じつは、外資系の法人のために壁がないんです。
インドはITが一番得意な国ですので、政府から外資系の法律に関して様々なサポートや業界によって免税があります。次の20年間はすべての仕事がIT化しますので、現在の成長よりもっと伸びるのではないでしょうか。
──なるほど。
ミール氏:
ですので、今の段階でゲーム、アプリ、映画、アニメをインドの文化にローカライズしてリリースしたほうが良いと思っています。
10年〜20年後では現在の米国みたいに新しいプレイヤーが入りにくくなりますし、寡占の状況になっているはずですので、2025年頃になってからインド市場にエントリーするのはかなり難しいと思います。エントリーするなら、2018年〜2019年がベストタイムですね。
実際、Facebook、Google、Amazon、Ali Baba、Microsoft、Appleなど、世界トップの企業はすでにインド市場に集中して投資をしています。
──たしかにそれは見逃せない市場になりそうですね。
ミール氏:
ですが日本の企業は、インド展開に苦戦しているように思えます。現在大手企業などが現地のパートナーを探してビジネスをしようとしていますが、なかなか見つからず、自分でどんどんチャレンジしたり、展示会に出展したりしています。
ですが、インド市場は5つの宗教と20以上の言語があります。日本と比べて、人口も面積も約9倍のインドを理解する必要がありますので、成功事例は今のところ聞こえてきません。
一方で、米国企業はインド人を役員クラスにして、海外展開に成功しています。インド展開においても、年収や役職をはっきりさせて成功している。日本はそこが弱いと言えますね。実際、Googleの社長、Microsoftの社長、Visaの社長もインド人です。
今、自分は様々な会社の海外展開、海外の会社とのパートナーシップ、講演会の手伝い、海外のローカライズなどをしています。インド展開でなにか相談があればFacebookやLinkedinに連絡してください。
外国人だからといって、気をつかわないでくださいね。軽めな相談もなにかあればSNSに連絡をお願いします。どんどん日本の企業が海外展開していってほしいです。
──本日はありがとうございました。