違法にROMファイルを配布するサイトで権利を侵害し利益を得ていたとして、Nintendo of AmericaがJacob Mathias氏とその妻Cristian Mathias氏を相手取って行われた著作権侵害訴訟は、最終的には1223万ドル(約13億9000万円)の支払いという形で合意に向かっていることがわかった。海外メディアTorrentfreakが伝えている。
Torrentfreakが入手した未署名の最終判決の書面によれば、損害賠償の支払いだけでなく、両者は永久的差止命令【※】にも合意するようだ。これにより被告は今後ゲームのロムだけでなくビデオゲームシステムやキャラクター、映像や音楽など、任天堂の持ついかなる著作物も、直接的、間接的に権利を侵害することができなくなる。
※永久的差止:違法な状態を消滅させるために裁判所が発する命令。特許庁によれば、「本法に基づく事件についての管轄権を有する裁判所は,特許によって保障された権利の侵害を防止するため,衡平の原則に従って,裁判所が合理的であると認める条件に基づいて差止命令を出すことができる。」と定義されている。
Mathias夫妻が運営していたのはふたつのウェブサイトだ。「LoveROMS.com」はゲームロムだけでなくハードウェアのBiosも配布していた海賊版配布サービス。一方、もうひとつの「LoveRETRO.co」はブラウザから海賊版ゲームを遊ぶことができた。
訴訟が報道された7月下旬には両サイトは閉鎖されている。11月13日現在、両サイトは任天堂への謝罪文を掲載しているだけだ。
7月に初めて報道されたこの訴訟は、Nintendo of AmericaがMathias夫妻に対して損害賠償、ドメインと入手したロムファイルなどの引き渡しとサイトの閉鎖、永久的差止命令を求めていた。
損害賠償は権利を侵害されたゲーム1本ごとに15万ドル、各商標につき最高200万ドルの支払いとなっていた。サイトには140本以上のタイトルと40の商標が記録に残っており、損害賠償は最大で1億ドルになる可能性があると試算されていた。
最終的に損害賠償は1223万ドルとなったが、この金額を支払える能力がMathias夫婦にあるとは考えにくい。TorrentFreakも指摘するとおり、ほかの海賊版サイトへの抑止力のために敢えて高額での同意となった可能性がある。夫妻が実際に支払うことのできる金額は、書面よりは少なくなるかもしれない。
とはいえ、訴訟の時点ですでに抑止力は強力に働いていることが確認できる。訴訟が報道されてからこれまでに、著名な違法ロム配布サイトが相次いで規模の縮小や閉鎖を発表している。Emuparadiseはロムファイルの配布を取りやめ、TheISOZoneは完全にシャットダウンとなった。
1223万ドルという巨額の損害賠償金額は、訴訟の報道を無視することを選んだサイトを閉鎖へと追い詰めることが予想される。
これまでも行われていてきたような過去の名作を現代に復活させる試みが、近年ではさまざまな方面から続けられている。任天堂であればバーチャルコンソールやニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ、『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』といったサービスも運営している。
こうした試みがレトロゲームを含めたゲーム全体の市場価値を算出できるようにし、違法にロムを配布するサイトへ損害賠償を請求しやすくなった側面があるとも考えられるかもしれない。
まだ違法ロムサイト根絶への道は始まったばかりだ。しかし、著作権者が自らのもつ権利の価値を常に市場に問い続けていけば、そう遠くない未来にそれは訪れるかもしれない。
文/古嶋誉幸