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『System Shock 3』とリメイク版『System Shock』が相次いで新たなトレイラーを公開。没入型シミュレーションの先駆けとなったフランチャイズが20年の時を経て動き出す

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 現地時間3月18日から行われているGDC 2019にて、ウォーレン・スペクター氏が率いるOtherSide Entertainmentが開発するFPS『System Shock 3』のティーザートレイラーが公開された。30秒ほどではあるが、シリーズの顔である人工知能SHODAN、ゾンビや警備ロボットなどが登場し、『System Shock』シリーズの正当な続編であることを示している。

 また、後を追うようにNightdive Studiosが初代のリメイク版『System Shock』の21分に及ぶゲームプレイ動画を公開した。ネオンがきらめき居住性を無視するかのような陰鬱な宇宙ステーション内部の様子が、オリジナルの雰囲気を保ったまま現代的なグラフィックへとアップデートされている。

 シリーズのオリジナルとなる初代『System Shock』は、1994年にLooking Glass Technologiesが開発した一人称視点RPGだ。一世を風靡したFPS『DOOM II』と同じ年に発売され、売上や話題性といった点ではそちらに譲ったものの、評価や後世のビデオゲームに与えた影響という点では『DOOM II』に決して見劣りすることのない作品だ。

 人類に反旗を翻した人工知能SHODANが占拠した宇宙ステーションで生き残り、人類の神として君臨しようとするSHODANと対決するという物語を主人公である名もなきハッカーとして体験する。

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2015年に発売された『System Shock: Enhanced Edition』はマルチウインドウ形式だったオリジナル版を改良し、よりFPSに近い操作体系となった。(画像はGOG 『System Shock: Enhanced Edition』より)

 『System Shock』が今なお特別なものとして語り継がれているのは、特に「没入型シミュレーション(イマーシブ・シム)」【※】を大きく世に広めた点だ。

※没入型シミュレーション:プレイヤーの想像力で創発的にゲームを進めていくジャンル。物理現象や一般常識などを含む現実的なルールを元に、多彩な方法で障害を乗り越えられ、まるでその世界に本当にいるような没入感をプレイヤーに与えるゲームを指す。1992年に発売された『Ultima Underworld:Stygian Abyss』が始祖だと言われる。たとえば、目の前にロックされたドアがある場合、ロケットランチャーでドアを吹き飛ばすことも、ハッキングでドアのロックを解除することも、キーコードが書かれたメモを探し出して開けることも許容するようなゲーム。

 本作の制作に関わったウォーレン・スペクター氏や、ダグ・チャーチ氏、ハーベイ・スミス氏、そして続編の制作に関わったケン・レヴィン氏といった名だたるメンバー達は、後に『Deus Ex』、『Thief』、『Dishonored』、『BioShock』といった、没入型シミュレーションのジャンルで業界を牽引するタイトルを世に送り出している。

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『System Shock』の精神的な続編として開発された『BioShock』(画像はSteam 『BioShock』より)

 没入型シミュレーションに欠かせないものとして、ストーリーテリングの手法も『System Shock』は革新的だった。マップに残されたメールや文章など、それまでそこに誰かが居た痕跡としてゲームのヒントや物語を残した。当時のグラフィックや技術では、他のキャラクターとの会話に現実味をもたせられないことから考え出された苦肉の策という側面もあるが、それが良い方向へと働いている。グラフィックの強化とともに、「環境ストーリーテリング」という表現として花開くことになる。

 『BioShock』なら争った形跡のある部屋で、そこで何があったのかをほのめかすオーディオログを拾った覚えがあるかもしれない。『Gone Home』であれば妹の部屋で、彼女の心境を綴った日記を拾った覚えがあるかもしれない。ゲーム開始時に「赤いカードキーを探せ」となんの脈絡もなく与えられるヒントではなく、現実に即した形でストーリーとヒントを提示する手法を持つゲームは、『System Shock』の子孫だと言っても過言ではない。

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『Gone Home』より。ゲームに登場する最初のロックのコードが「0451」

 特に自身のゲームのオリジンを深く意識する開発者が、ゲームに「451」の数字を隠している例は少なくない。Looking GlassやIrrational Games出身者が製作したゲームでよく見られるが、『Firewatch』『Prey』でも見られるコードだ。これはレイ・ブラッドベリのディストピア小説『華氏451度』を引用した、『System Shock』の最初のロックを開けるキーコードだ。
 この数字は『System Shock』の子どもたちが贈る、『System Shock』へのリスペクトの証だと言えるだろう。

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(画像は 『System Shock 3』公式サイトより)

 『System Shock 3』を開発中のOtherSide Entertainmentは、出資元だったStarbreeze Studiosの経営破綻を受けて行く末が心配されていたが、ついにゲームの動画をリリースした。すでに販売権を買い戻し、ゲームの完成度が50%を超えたことを発表している。今回のトレイラーで新たなパブリッシャーが名乗り出ることになるかもしれない。

 Nightdive Studiosの『System Shock』リメイクは、Kickstarterで資金を集めてからそろそろ3年が経とうとしている。2018年には制作の一時中止が発表されるなど、完成が危ぶまれていたが、元気に開発が続いているようだ。

 『System Shock 2』から約20年の時を経て『System Shock』のフランチャイズが大きく動いている。続報を楽しみに待ちたい。

ライター/古嶋誉幸

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一日を変え、一生を変える一本を!学生時代Half-Lifeに人生の屋台骨を折られてから幾星霜、一本のゲームにその後の人生を変えられました。FPSを中心にゲーム三昧の人生を送っています。
Twitter: @pornski_eros

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