『アクアノートの休日』、『巨人のドシン』のゲームクリエイター飯田和敏氏が、『Detroit: Become Human』を寸評する5分ほどの音声データが公開されている。取材を行ったのは、「toco toco」シリーズなどで日本のさまざまなクリエイターにフォーカスを当てて、ドキュメンタリー映像を制作しているクリエイター集団「Archipel」だ。
「巨人のドシン」などを手がけた飯田和敏さんに「Detroit: Become Human」について語って頂きました。そのお話を文字に起こし、教師を務める友人と共に語彙・文法の説明を加え、日本語を勉強している外国人のお力になれたらと。今後、英語学習にも活かせるのでは?
— Archipel | アルシペル (@SailToArchipel) August 14, 2019
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本音声は、日本語を勉強している外国人向けに制作された言語学習のための企画。日本のクリエイターが他の作品について寸評するのを、文法やキーワードなどにピックアップしつつ英語で文字化して、日本語の学習に役に立ってもらおうというシリーズである。今回の飯田氏がこの企画の第一弾であり、今後も幅広い日本のクリエイターに他作品について寸評してもらう予定だという。
飯田和敏氏といえば、『アクアノートの休日』、『巨人のドシン』などを代表作として持つ、商業ビデオゲームの世界にアート的な感性を導入した第一人者といえるクリエイターだ。そんな飯田氏が、自我に目覚めるアンドロイドたちの物語を、パフォーマンスキャプチャーや高いグラフィック技術で描いた『Detroit: Become Human』を評するとなると興味深いものとなるだろう。
その飯田氏が音声で語ったことをかいつまんで以下に紹介しよう。飯田氏いわく、まず『Detroit: Become Human』は、「映画の発展系としてビデオゲームを捉えたときに、ひとつの決定的な作品を示した作品」として賞賛している。
その理由として、分岐していく物語構造、優れた作劇、フローチャート構造なども挙げられるが、特に「ここがコマンドだ」と明示せずに、グラフィックと一体化した洗練されたUIを飯田氏は挙げている。本作品は、キャラクターを操作しつつ、オブジェクトに近づくと押すボタンやスティックなどが表示され、それがそのままコマンドと対応しているという特殊なUIデザインで作られている。
また『Detroit: Become Human』のテーマについても言及。手塚治虫の『鉄腕アトム』の「ロボット人権宣言」に連なる「ロボットやアンドロイドが自我を持つと、どうなるのか」という古典的なテーマに挑んでいると指摘した。
『鉄腕アトム』では人種問題を反映した公民権運動のメタファーとして描かれていたが、現在では公民権運動は一定の成果を挙げている。とはいえ昨今でもチャイルディッシュ・ガンビーノの楽曲『This Is America』がPVと共にアメリカで大きな反響を得たように、人種問題というのはまだ解消されずに残っている。このような現代で「ロボット人権宣言」のようなテーマがどのように再び響いていくのが作品の重要なポイントだとした。
またゲームならではの仕掛けとして、プレイヤーは、アンドロイドをプレイするが、プレイしているのは人間であり、人間の理不尽な命令をアンドロイドとして聞かざるを得ない。そして自我が目覚めることによって、人間の理不尽の行動をさらに目の当たりする。
これらは逆説的に「人間とは何か」、「あなたはシステムに隷属していないか」という現代的であり古典的なテーマを投げかけていると、飯田氏は指摘している。こういった「人間が人間らしく生きているとはどういうことか」、「今のあなたは人間としてきちんと生きているのか」という問いは、人類の普遍的、根源的な問いであり、本作はそれを提示しているという。飯田氏は最後に「傑作」と評して、寸評を結んでいる。
『Detroit: Become Human』は、先月にはPlayStation Plusの加入者向けフリーコンテンツになったり、NHKで『人間ってナンだ?超AI入門特別編 ロボットが正義を決める時? 倫理に感情は禁物か?』というAIを取り扱う番組に取り上げられるなど、2018年に発売したのにも関わらず、まだまだ反響を呼んでいる作品だ。PlayStation Plusで入手したが、まだ未プレイの人は飯田氏の批評を参考にしつつ、プレイしてみてはいかがだろうか。
ライター/福山幸司