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『あつ森』で現代美術作品の再現をするプレイヤーが注目を集める。コロナウイルスに立ち向かう芸術家の表現とメッセージ

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 世界中でコロナウイルスの感染拡大防止のため、さまざまなゲーム、音楽、スポーツ、芸術などのイベントが軒並み中止になっている。日本の美術大学では卒業制作展が中止になってしまったりと、多くの表現者にとってはとても苦しい状況が続いている。

 そんな中、自発的にンラインでの展覧会を開催したり、アーティストの作品をゲーム内で再現したりと、新たな芸術体験の探求を進めることによって現在の危機に立ち向かっている人々も存在している。ロサンゼルスで活動しているインスタレーション作家【※】shing yin khor氏もまた、そのうちのひとりだ。

※インスタレーション:
 作家が、特定の室内や屋外などの場にオブジェや装置を配置し、その空間を変化・異化させ、場所や空間全体を作品として提示する芸術の手法。空間そのものが芸術作品であるため、ひとつひとつの作品を鑑賞するというより、体験することが重要な要素となる。

 彼女は、コロナウイルスの影響で仕事やイベントがキャンセルされてしまったアーティストのうちのひとりだ。その経験をもとに、『あつまれ どうぶつの森』内で現代美術作品の再現をおこなって作品を制作している。「ふざけんな!フータ!美術館を建てるぞ!」(screw you, Blathers, imma gonna build MoMA.)という冗談を込めたツイートからは、作家の気持ちがひしひしと伝わってくる。

 彼女はそのツイートで、自分の島にバーバラ・クルーガーの『無題』風に「お前のカブは戦場だ」(Your turnips are a battleground)と書かれたグラフィックを配置したり、ロバート・スミッソンの『スパイラル・ジェティ』を浜辺に再現した。また別のツイートでは、クリストとジャンヌ・クロードの『アンブレラ』というプロジェクトも再現されており、この島はひとつの美術館として機能しはじめている。

 そんな島の中でも、ひときわ目立ったインタラクティブな作品があった。それはマリーナアブラモヴィッチ【※】のパフォーマンス作品である『The Artist is Present(アーティストはそこにいる)』だ。

※マリーナ・アブラモヴィッチ:
 マリーナ
アブラモヴィッチは過激なパフォーマンスで世界中に知られている作家。代表作に『リズム0』というパフォーマンスがある。これは、彼女自身がが鑑賞者の意のままに自らの肉体を使わせるという内容であった。近くにある机にはカミソリ、バラ、銃などのものがおいてあり、誰でも彼女を傷つけることができてしまう。彼女は、芸術家と鑑賞者の関係を重視し、身体の限界を探求し続けている。

 『The Artist is Present』は、パフォーマンスアートの象徴的な作品のひとつであり、シンプルな木製のテーブルと椅子があれば成立するものだ。ちょうどよく、赤いドレスも用意することができ、パフォーマンスの再現度は高くなっている。この作品は、鑑賞者がただ椅子に座ってアーティストと向き合うというものだ。

『あつ森』で現代美術作品の再現をするプレイヤーが注目を集める。コロナウイルスに立ち向かう芸術家の表現とメッセージ_001
(画像はTwitter @sawdustbearより)

 Khor氏は火曜日に島を開放し、Twitterにパスワードを投稿した。すぐに美術館の利用者が押し寄せてきて、1時間にもわたって人の往来が絶えなかった。Khor氏はアブラモビッチの象徴的な赤いドレスを着て、家の中で座って待っている。1時間の間に20人ほどの人が島を訪れ、そのうち15人ほどが椅子に座ることができたそうだ。

 システム上、進行に問題があったものの、「航空の便が絶え間なく入ってきて、人々が去っていくという、スムーズな体験ではなかったと思うが、美術館に並んでいる時の印象を少し再現したようなものだったと思う。」と鑑賞者は語っている。

 Khor氏は、『あつまれ どうぶつの森』の中で他のパフォーマンス作品もやってみたいと語っている。次はクリス・バーデン【※】『アーバンライト』の再現しようとしているらしい。

 ※クリス・バーデン:
  この作家も腕に銃を放ちすぐに救急車に乗るという過激なパフォーマンスを行っている。

 海外のゲームメディアであるPolygonはこの活動を紹介しており、「いまは『どうぶつの森』をおふざけの空間として使っているだけだと思う。だが、アートの世界にもたくさんの木の枝があるように、このゲームの中でそれに反応したり、冗談を言ったりしていることを楽しんでいるんだ。」と語っており、芸術の多様性を尊重している。

 最後に私も、現代美術を『あつまれ どうぶつの森』で再現することにした。こちらの作品は、もの派と呼ばれる芸術の動向の中にいた関根伸夫による『位相 – 大地』という、巨大な穴をあけて、その穴の形の土をそのまま横に置くという作品だ。少し気になった読者は、この記事に書かれた作家を検索してみるのもよいかもしれない。

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 今、世界中で多くの文化が危機に直面し、ひとりひとりが社会や政治と関わらざるおえない状況が続いている。そんな中、日本ではライブハウスの代表者などが立ち上がり国に損失補償を求める署名を行い注目を集めた。

 『あつまれ どうぶつの森』での芸術活動も、きっと意味のある行為だと私は感じる。そして、このような活動が注目されるようになり、現在の状況が収束してくれることを心から願っている。

文/tnhr

ライター
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メイプルストーリーで人との関わり方を学び、ゲームのゲームらしさについて考えるようになる。主にRPG、アドベンチャーゲーム、アクションゲームの物語やシステムに興味のある学生。
Twitter:@zombie_haruchan

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