ゲームを可能な限り速くクリアする競技「スピードラン」には、どんな手を使っても速くクリアする「Any%」のほかにも様々な種目が用意されている。内容はゲームによって様々だが、例えば『スーパーマリオ64』であれば集めるスターの個数で種目が分けられている。
ゲーム内すべての要素を集める「100%」のように、ゲーム固有のもの以外に汎用的なルールが設けられていることも多い。
11月に開設されたYouTubeチャンネル「Lowest Percent」は、ゲームの要素をできるだけ”集めない”ようにして最速クリアを目指す「Low%」について解説するチャンネルだ。これまでに、できるだけキャッピーを使わない『スーパーマリオ オデッセイ』スピードランや、『スーパーマリオ64』でスターをひとつも集めないスピードランについて解説してきた。
そんなLowest Percentの新作は、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のLow%を達成する人々の努力を紹介している。本作のLow%はゲームを速くクリアするため、ルピーを17時間見つめ続けることすら正攻法となるスピードランだ。
この動画ではまず誰もが浮かべる疑問に答えている。できるだけゲームを速くクリアするためには多くの要素をスキップした方が良いはずだ。そうであるなら、Any%とLow%はほとんど同じ事ではないだろうか。
しかしながら、答えは「そういう場合もある」だ。動画内では同じく『ゼルダの伝説』シリーズの『ゼルダの伝説 時のオカリナ』と、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を比較している。前者のAny%で必要なのは「コキリの剣」、「デクの盾」、「デクの実」の3種類のみ。
現在まで知られているところでは、この3種がゲームをクリアするために必要最小のアイテムで、最速でクリアするのに必要なすべてのアイテムだ。つまり、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のAny%とLow%は同一だといえる。
一方『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は、ゲームをできるだけ速くクリアするために様々な弓矢を拾う。そのため、どんな手を使っても最速を目指すAny%と、どんな手を使ってもアイテムを手に入れずに最速クリアを目指すLow%は異なる競技となる。
Low%での評価は、クリアタイムよりも集めたアイテムの個数が重視される。10種類のアイテムを集めて2分でクリアした走者と、9種のアイテム2時間でクリアした走者がいる場合、評価されるのは9種類でクリアしたランナーだ。
そんなカテゴリーのため、Low%では通常のスピードランでは考えられないことが正攻法として許容される。その中でも特に奇妙なものとして取り上げられたのが『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』(以下、トワイライトプリンセス)のLow%スピードランだ。
『トワイライトプリンセス』では集めるものとして、アイテムやポータルが対象となっている。それらをできるだけ集めないように最速でクリアするのが目標だ。そのため、現在のLow%世界記録はAny%の記録の約8倍の25時間となっている。そして、そのうちの17時間が前述の通りルピーを見つめ続ける時間だ。
ルピーを見つめるのは、「ルピースライド」と呼ばれるバグ技を使うためだ。ゲームでアイテムを手に入れたとき、メッセージウインドウが開いて何を手に入れたかが紹介される。その間もリンクのアニメーションは続き、プレイヤーがいつメッセージウインドウを閉じるか分からないのでアニメーションはループする。
このループアニメーションは本来始まりの位置に戻るべきだが、実は少し位置がずれている。くわえてこの状態のリンクには衝突判定がないため、この状態で移動すれば壁抜けが出来てしまうのだ。
ただし大きな問題がある。このルピースライドはとても遅いのだ。動画では通常の歩行が700ユニット毎秒、ルピースライドの移動は0.007ユニット毎秒と説明されている。実に10万分の1の速度だ。そのため、薄い格子を抜けるために数時間ルピーを見つめ続ける必要がある。
ほかにも最小のアイテムでクリアするために様々なトリックが用意されているが、おしなべて待つ時間が多く、「あまり人気がないカテゴリー」だと紹介されている。スピードランコミュニティサイトSpeedrun.comに登録された『トワイライトプリンセス』Low%のランナーは、2020年11月時点でわずか2名。世界最速記録は24時間59分52秒だ。
ツールを使った正確な操作でしか実現できていないが、『トワイライトプリンセス』にはさらにもうひとつアイテムを減らしてクリアできる方法が見つかっている。もしもこのスキップが人間でも実行可能な方法が見つかれば、アイテム最小記録は更新されクリアタイムはさらに長くなる可能性がある。
Low%スピードランナーたちは、ただのひとつもアイテムを取らずにゲームをクリアするその日を目指して、今もルピーを見つめ続けている。