12月27日より開催されたリアルタイムアタック(RTA)のイベント「RTA in Japan 2020」にて、ファミリーコンピュータ用ゲーム『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(以下、ドラクエ3)の「Any%」スピードラン競争が披露された。
ランナーはばくぜろ氏、ひっしー氏、ピロ彦氏、そしてlime氏の4名で、ホットプレートでゲーム機本体を温めながらプレイするという異常な光景が繰り広げられた。強力なパーティが構成されたバグデータを即座に呼び出すための行為で、Twitterでは『ドラクエ3』が「ホットプレート」とともにトレンド入り。結果としてはひっしー氏が22分7秒でゲームをクリアし見事に世界記録を更新している。
『ドラクエ3』は1988年に発売されたRPGで、初代から続く「ロトシリーズ」3部作の最終作だ。勇者となったプレイヤーは、魔王バラモスを討伐するために旅に出て世界の秘密に触れ、やがて本当の黒幕と対決する。なお、このタイムアタックでは魔王バラモスは無視されたため元気に生存している。
また本作はシリーズで初めてバッテリーバックアップを採用し、「復活の呪文」をメモなどに書き写す方式から本体に進行状況を保存する「冒険の書」が登場した。
『ドラクエ3』のタイムアタックで重要なのが、「電源バグ」と呼ばれるバグだ。2020年8月にYouTubeチャンネル4STにて紹介・検証動画が公開され、日本でも広く知られることとなった。約30年前に発見されたというこのバグは、2020年にRTAの記録を大幅に更新する原動力となった。バグの発生方法は以下の通り。
1.「冒険の書」を作りゲームスタート
2.オープニングを経て王様の元へ。話を聞き、いったん玉座の間を離れてからもう一度王様の元へ
3.セーブしてゲームを終了
4.「リセットボタンを押しながら電源を切ってください」の画面が出たら、リセットボタンを押しながら電源を切り、再度電源を入れる。すると画面がバグる
5.その状態でAボタンを押すと、ゲームがバグったまま再開する
6.バグった状態で再び王様と話し、セーブしてゲームを終了する
7.リセットボタンを押しながら電源を切り、再度電源を入れる。すると様子のおかしいセーブデータが完成
8.玉座の間を出たらそのままアリア半の街を出て、一度敵と戦うとレベルMAX
この電源バグは当初ツインファミコンでしか再現できないとされていたが、検証により通常のファミコンや互換機でも再現可能だと判明。さらに、本体の個体値やカセットのロット、そして温度などによってある程度バグの内容が偏ることも分かった。
これらの検証や「本体ガチャ」による厳選などにより、ランナー4人中3人が最初の挑戦で欲しいデータを引き当てるほどの再現率を実現している。
ランナーのひとりであるピロ彦氏は、「電源バグ」について自身のブログにてさらに詳しく解説してくれている。興味があればこちらも読んでみてほしい。
RTAinJapan ドラクエ3出走準備完了!あとはホットプレートの温度をキープしながら待つだけ。かなりシビアなので事故ったら許して、、、、 #RTAinJapan pic.twitter.com/qLZIS5EzPI
— Hitsheegame@ホットプレート使い (@Hitsheegame) December 27, 2020
電源バグのためにホットプレートを使ったのは、本体やカートリッジを理想的な温度に保つのにちょうど良かったためだという。ひっしー氏は理想のデータを引き当てるため、本体の温度を一定に保つためのホットプレートだけでなく、本体も大量に買い込んでいたことをTwitter上で報告している。
逆に本体によっては冷却した方が記録が出る場合もあるようだ。「本体ガチャ」という言葉を世に知らしめたというばくぜろ氏は、保冷剤で本体を冷却しながらRTAに臨んだ。本番ではあえて画面をバグらせたまま、記憶を頼りに突き進むという離れ業も披露していた。
理想的なデータを得るには、本体の厳選と温度管理も重要。勝負はレース前に始まっており、情熱がなければ記録達成は難しい。走者たちは、それぞれの検証した本体に見合った方法で温度を管理している。
競技終了後、ひっしー氏は世界記録更新を祝して「結構高い肉」を食し、『ドラクエ3』Yakiniku%世界記録も樹立した。
ライター/古嶋 誉幸