NINTENDO64で発売された『スーパーマリオ64』は、発売から25年が過ぎようとする2021年現在でも、スピードランがもっとも盛んなビデオゲームのひとつだ。
『スーパーマリオ64』スピードランコミュニティでも特に知名度の高いスペインのスピードランナーCheese氏は、1月30日にゲームに存在する120個のスターすべてを集めた上でゲームを早くクリアするルールで世界新記録を達成した。
逆にスターを一切取らずにクリアする0スタールールでは、日本のスピードランナーKANNO氏が1月27日に世界記録を更新。2万回以上のトライの末の記録更新だったという。
After over 20,000 attempts, speedrunner @AnymanKanno has reclaimed the Super Mario 64 zero star record! pic.twitter.com/W3HVuZKKH1
— Dexerto (@Dexerto) January 27, 2021
多くのスピードランナーが利用するテクニックが「ケツワープ」、あるいは「バックワード・ロングジャンプ」(BLJ)と呼ばれる技術だ。壁に向かって後ろ幅跳びを続けると、マリオは硬直したままだが移動速度が貯まっていく。その状態で別の方向に飛ぶと、貯まった移動速度のぶん超高速で移動することができる。
この技術を使うことで、壁を抜けたり、通常では到達できない遠くに飛んだり、スター70個集めなければ通れないはずの無限階段を突破したりと、さまざまな”イタズラ”ができる。
『スーパーマリオ64』スピードランナーなら誰もが知るこの「ケツワープ」を発見したとされるメキシコ在住のダンテ・イワン・ルイズ・ビジャレアル氏に、YouTuberのイーサン・ホワイト氏がインタビューを行う動画を公開した。
『スーパーマリオ64』のファンサイトsm64.comによると、「ケツワープ」が初めて公の場に登場したとされるのが、任天堂の公式マガジン「クラブニンテンドー」スペイン語版2000年11月号だとされている。
発見したのは前述のダンテ氏とその兄であるジョセ・アンヘル・ルイズ・ビジャレアル氏。「クラブニンテンドー」には、「70個のスター?何のために?『スーパーマリオ64』は、スターを70個集めなくてもクリアできます」という記事がふたりの名前入りで掲載された。この時の記事では、50個スターを集めればクリアできる方法として、ケツワープが紹介されている。
ダンテ氏が『スーパーマリオ64』を遊んだときはまだ幼かった。幼い氏にとっては3D空間でマリオがジャンプするだけでも楽しく、さらにジャンプのかけ声が何度もリピートされることが面白かった。少しずつ操作に慣れていった氏は、いつの間にかそれを後ろ幅跳びで楽しむようになっていた。
この後ろ幅跳びが、無限階段の突破に使えるのを発見したのはジョセ氏だ。とはいえ、ふたりにとって重要だったのはむしろ相手を笑わせる方だった。「ヤヤヤヤヤヤヤッフー!」と高速で連呼することを面白がった兄弟がよりよい「ヤヤヤヤヤヤヤッフー!」を見つけるために奔走し、いつの間にか世界でもっとも有名なバグ技のひとつ、ケツワープを発見していた。
ジョセ氏がクラブニンテンドーにこの無限階段の突破方法を投稿したのは、98年頃だった。それから2000年11月の掲載まで約3年かかった。どうやらほとんど忘れていたようで、クラブニンテンドーを読んだ友人が掲載されていることを教えてくれたのだという。
ふたりもクラブニンテンドー自体は読んでいたものの、どちらもすべての記事には目を通していなかった。そのため、自分たちの投稿が掲載されたことに気づかなかったようだ。
ケツワープの発見者として名前が知られることになったダンテ氏は、今は「変な気持ちです」と心境を語った。『スーパーマリオ64』のスピードランの歴史を語るYouTubeの動画などに自身の名前が登場し、発見者として歴史に名前を残した。栄誉を感じるというよりは「楽しい笑い話です」と振り返っている。
世界でもっとも有名なバグ技は、ふたりの兄弟がお互いを笑わせようとして生まれた。そしてケツワープはランナーたちの手により、無限階段以外の利用方法も編み出されていった。
もちろんほかにも自力で見つけたという人もいるだろう。とはいえ兄弟の名前は、さまざまな形で『スーパーマリオ64』を語る時にこれからも登場するはずだ。