脳に埋め込むインプラントを研究する企業「NeuraLink」は、サルの脳にインプラントを埋め込みビデオゲームを無線操作させる実験動画を公開した。実験に参加したのは、ページャ(Pager、日本語でポケットベルの意味)と名付けられたマカクザル。N1リンクと呼ばれる脳インプラントを施されており、Bluetooth接続でデバイスに接続できるようになっている。研究の詳細は同社のブログで公開されている。
動画の前半で見ることができる「ジョイスティックを動かしオレンジのパネルを選択するゲーム」では、まず最初にカーソルを動かす際のニューロンの反応を見ている。これによってジョイスティックの動きとニューロンの反応をリンクさせ、ジョイスティックがなくともニューロンの状態によってカーソルを動かすことができるように調整していく。なお、口にくわえているのはストローのようなもので、成功するとバナナスムージーが報酬として与えられる。
1分50秒あたりからはジョイスティックからコードが抜かれており、完全に脳波でのみゲームを操作している。数分の調整だけでニューロンの動きだけでカーソルを動かせるようになっているのが驚きだ。ジョイスティックとカーソルの動きを見比べてみてほしいが、多少のずれはあるがほぼ完全にトレースしている。さらに動画の後半では、『Pong』を難なく脳波でプレイする様子が確認できる。
この実験でページャはジョイスティックを使ってキャリブレーション(調整)しゲームをプレイしているが、この研究の最終目標はまひを持つ人々が脳の動きでコンピューターやスマホを動かすことだ。
まひを持っている人々は、ページャのように実際にジョイスティックを動かしてキャリブレーションをすることは難しい。しかし神経科医、神経科学者、エンジニア、コンピューターサイエンティスト、数学者らが共同で研究を行っているブレインゲートコンソーシアムの先行研究により、「運動をつかさどる脳の動きはまひをしても変わらない」ことが判明しているという。
つまり、指先を動かしたり、マウスを動かすといった想像したりするだけでキャリブレーションをすることが可能だ。キャリブレーションが完了すれば、カーソルの動きを思い浮かべるだけでメールの送信やウェブ閲覧などのコンピューターの操作が可能となる。
NeuraLinkの共同設立者であるイーロン・マスク氏は、脳のインプラントから体の運動・感覚ニューロンに信号を送ることができるようにして、下半身麻痺の患者が再び歩けるようになることすら目指しているとツイートしている。
サルが人間と同じように『ポン』を遊んでいるというだけでも驚きだが、それが脳波によってまるで念力のように遊んでいるとなると、もはやどう表現して良いか分からない。これだけでも大きな成果だが、NeuraLinkはこのデバイスが成し遂げようとするもののほんの一部だとしている。あくまで医療用にはなるが、念じるだけでコンピューターを操作する人々が普通に生活している未来がくるのもそう遠いものではないかもしれない。
ライター/古嶋誉幸