かつて、「これは格ゲーじゃないでしょう」とまで言われた格闘ゲームがあった。
『シュタインズ・ゲート』などの名作アドベンチャーゲームで知られるMAGES.から2011年に発売された『ファントムブレイカー』というゲームだ。
格闘ゲームメーカーとしては実績のない会社から発売されるということで、驚きとともに世に登場したが、蓋を開けてみると中身が個性的すぎた。
大きな特徴としては、全キャラクター共通で持っているバトルシステムがとてつもなく強力で、攻めも守りも従来の格闘ゲームのセオリーから大きく離れていた。そのうえ、条件を満たすと技の攻撃力が跳ね上がる仕組みなどがあったため、「大味で勝敗が安定しないゲーム」と考えるプレイヤーも多かった。
かなりの意欲作だったのだが、そのあまりの尖りぶりに格ゲーファンも戸惑いを隠せなかった作品なのだ。
しかし、発売から10年経って、最新の格闘ゲームを遊ぶと「ファントムブレイカーに似たような要素があったな」と感じる瞬間があるのだから面白い。
そう考えると本作は「早すぎた」格闘ゲームだったのかもしれない……などと考えていたところ、シリーズ最新作『ファントムブレイカー:オムニア』の話が飛び込んできた。
異様なテンションのPVに圧倒されるが、よく見てみると新要素も多い。オリジナル版のプレイヤーにはわかる細かな動きの変化を見ていると、リメイクやリマスターの類ではないことが伺える。発売元はMAGES.からロケットパンダゲームズに変わり、日本だけではなく世界展開も行うようだ。
細部からひしひしと感じる制作陣の熱量が知りたい。なぜMAGES.ではない会社から発売されるのか。そして当時「早すぎた」と感じた要素の源泉を聞いてみたい。
今回は、本作のプロデューサーであるMAGES.の盛政樹プロデューサーにお話を伺う機会を得られたので、。10年早すぎた伝説の格ゲー、『ファントムブレイカー』の独自性と魅力を紐解いていこう。
『ファントムブレイカー:オムニア』はリメイクではなく新作である
──『ファントムブレイカー:オムニア』の発売を聞いて驚きました。2013年の『ファントムブレイカー:エクストラ』以降、格闘ゲームとしての動きは止まっていましたが、本作をリリースすることになった経緯についてお聞かせください。
盛政樹氏(以下、盛氏):
『ファントムブレイカー』はMAGES.のオリジナルのIPとして立ち上げたもので、自分の中では大事にしていきたいと思っていたんです。格闘ゲームとしての『ファントムブレイカー』は、おっしゃる通り2013年を境にリリースされていませんが、横スクロールアクションとして『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』をロープライスでリリースしました。
これは「すでにあるIPを使って楽に作品を作る」というような考え方では全くなくて、『ファントムブレイカー』という作品を残していくための試みだったんですよ。最終的には、また格闘ゲームとして続けていきたいと考えていました。
しかし、MAGES.は格闘ゲームをバンバンだしている会社というわけではなく、ユーザーの皆さんのイメージ通り、アドベンチャーゲームの会社です。予算規模や市場的になかなか次に繋げられずにいたのが実情です。
そんな事情を付き合いのあるロケットパンダゲームズの社長に居酒屋で話していたら、「ウチから出しませんか」と提案してもらったんです。
──IPホルダーであるMAGES.ではなく、別のパブリッシャーからゲームを出すことになったんですね。
盛氏:
「アニメのIPをゲームに貸す」というのはよくありますけど、ゲーム会社のオリジナルIPを他社から出すというのはあまり聞きませんよね。移植とかではよくある形なのですが。
今回は日本版もロケットパンダゲームズさんからの発売です。MAGES.社内の調整は私のほうでやらせてもらったのですが、作品が続いていく可能性を他社さんが広げてくれるという話に反対する人はいませんでしたね。もともとはただの移植だったのですが、最終的に新キャラクターや新システム、バランス調整を入れられるようになったのは嬉しい誤算です。
──PVを見ると、過去作から大きく変わっている部分も見られました。新キャラクターは現時点では未発表ですが、新システムやバランス調整について伺うことが可能でしょうか。
盛氏:
『ファントムブレイカー』では、戦闘前にスタイルという要素を選ぶことで、キャラクターの能力や使用できるシステムが変化するのですが、過去作の「クイック」、「ハード」というふたつのスタイルに加えて、「オムニアスタイル」というものを用意しました。
「オムニアスタイル」は、システムをシンプルにまとめ、キャラ特有の超必殺技のようなものが使えなくなるかわりに「オールレンジアタック」という全キャラ共通の技を入れています。
『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』を遊んでくれた人向けに、操作法を寄せたスタイルになるのですが、決してイージーモードというわけではなくて、このスタイルならではの強みも用意しているので、楽しみにしていてください。
──バランス面に関してはいかがでしょうか。
盛氏:
強すぎる技やワンパターンな技には見直しを入れ、あまり使われていない技を強くしたりしています。また、一部の必殺技が空中で出せるようになっていたりもするので、戦術面でも変化があると思っています。
格闘ゲームのバランス調整って、一回でピタっといいところにまとめるのは至難の技で、『ファントムブレイカー』の過去作でもアップデートはしていましたが、まだまだ変えるべきところは残っていたので、それに取り組んでいます。
とはいえ、発売されると開発側の予想をユーザーさんが上回ってくるので、しばらくの間は継続的にバランスを注視して、なにかあれば対応できるようにしておきたいとは考えていますね。
──新キャラ、新システムといった変更点を見ると、新作のような雰囲気もある本作ですが、開発はどのような体制で進めたのでしょうか。
盛氏:
開発は私とかつての『ファントムブレイカー』制作陣で行いました。ロケットパンダゲームズさんの意見も伺いつつも、基本的にはやりたいように進めさせてもらいました。
ただ、MAGES.が出していたときよりもさらに大規模な世界展開になったうえ、対応プラットフォームが一気に増えたので、開発はなかなか難航しました。発売日が延期になり、期待していただいた方々をお待たせしているのは申し訳なく思います。
──世界展開、マルチプラットフォームは、ロケットパンダゲームズさんの提案なのでしょうか? 盛さんの出すゲームというと、世界展開を積極的に試みている印象もあって、その延長線上のように感じました。
盛氏:
そこはお互い考えが一致したところですね。もともと僕自身も、ゲームは大小関わらず世界展開をしていくべきであるという考え方です。確かにターゲットを多少考慮する必要があるのですが、「売上が期待できない、コストがかかるので出さない」とすぐに結論付けてしまうのはもったいないと思うんですよ。
実際、『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』シリーズは、世界で累計50万本以上の売上が出ているんです。それなのに会社からはあまりいい評価をもらえていないのは悔しいところなんですけど(笑)。
あとマルチプラットフォームも積極的にやるべきという考えです。過去、その考えはあっても諸事情で実行に移せない場合もありましたが、今回はロケットパンダゲームズさんとその部分で考えが近かったので、理想の形で作品を世に送り出すことができました。
──私はどのプラットフォームも魅力的だと思うんですが、初代『ファントムブレイカー』が出たXboxプラットフォームで『ファントムブレイカー:オムニア』が出てくれるのはやっぱり嬉しいですね。
盛氏:
『ファントムブレイカー』を最初に買ってくれたのはXbox360ユーザーですからね。「そこは絶対に出す」と私のほうからも強く言いました。「何だったら費用は私の方で持つから」くらいの話もありましたね(笑)。
あと、Xboxって、安易に日本だけの数字で見るとプラットフォームとしての強さを感じにくい時代が続いていたんですけど、世界的に見ればたくさんのファンがいるので、それを日本国内の市場だけで「出さない」と判断するのは間違っているんですよ。
幸運なことに、最近では日本でもXbox人気がじわじわ高まってきていて、国産のタイトルも増えてきましたから、初志貫徹を貫いたおかげで乗り遅れなくて済んだと思っています。余談ですが、私がXboxを好きというイメージを持っている方も多いと思うのですが、どちらかというとソフトメーカーなら全てのハードを平等に扱うべきだと思っています。
たとえば、ニンテンドーSwitchが発表されたタイミングで『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』をローンチで出そうと会社で騒いでいたくらいなので。(笑)
当時MAGES.は任天堂さんのハードからは少し遠ざかっていたので無理だったんですが……。また、Steamにタイトルを持っていくということにも積極的に動いていました。
──格闘ゲームとしての『ファントムブレイカー』の本格的な海外展開は今回が初めてとのことですが、現段階での手ごたえなどがあればお聞かせください。
盛氏:
まず、『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』を出したことで、「こういうキャラクターと世界観のIPがある」ということはある程度知られています。それと、アジア圏だけでなく、北米のコアなゲーム・アニメファンは『ファントムブレイカー』の豪華な声優陣に注目してくれているようです。
──確かに、『ファントムブレイカー』の声優陣、とてつもなく豪華ですもんね。
盛氏:
今回のプロジェクトをやる際に、声優さんをどうするかという相談もロケットパンダゲームズさんとしたんですよ。今回は移植だからいいとしても、今後の展開まで考えた場合、このキャストのスケジュールを押さえるのも大変という話も当然でてきて。
でも、お互いに、『ファントムブレイカー』の持ち味として残すことで合意しました。ちなみにロケットパンダゲームズさんは、ゲームだけではなく、メディアミックス展開もやりたいと話していたので、ゲーム以外の動きもお見せできる機会があるかもしれません。
『ファントムブレイカー』は「早すぎた」ゲームだった説
──個人的には、2013年の『ファントムブレイカー:エクストラ』から8年経った現在だと、プレイヤーたちがどうこの作品を受け止めるかが楽しみですね。
特に、このシリーズの特徴である“かんたんなコマンドで出る必殺技”がどう受け入れられるかというところに注目しています。
初代が発売されたときは、2D格闘ゲームの必殺技コマンドを従来型の波動拳コマンド、昇龍拳コマンドではなく、方向キー+ボタンという形に落とし込んでいるのが挑戦的だなと感じたのですが、それに抵抗を感じるプレイヤーもいたと聞きました。
この形式のコマンドって、キャラクターゲームといわれるタイプの作品や、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズなどでは採用されてきていますが、”2D格闘ゲーム”では珍しかったように思います。それが、今では他の格闘ゲームにも簡易コマンド的なものが積極的に実装されていて、プレイヤーも慣れてきていますよね。今思えば「早すぎた仕様」が多かったのかなと(笑)。
盛氏:
偉そうに言うわけではないのですが、「早すぎたもの」が受け入れられる土壌にはなってきているとは個人的にも感じていますね(笑)。おっしゃる通り、今では方向キーとボタンで必殺技を繰り出すタイプの2D格闘ゲームも増えています。
実はあのコマンド入力は『ファントムブレイカー』を作るうえで大事にしたコンセプトのひとつです。2D格闘ゲームはコマンド入力が難しいという声をよく聞いていたし、練習すれば問題ないという論理にあぐらをかいているとプレイヤーがどんどん減っていくのではと感じていたんです。
そこで、操作はできるだけ簡単にして、すぐに駆け引きを楽しめるように、ただしさまざまな要素を盛り込んで、飽きがこないゲームを目指そうとしたんです。
とはいえ初代『ファントムブレイカー』の発売前、発表会や店頭での体験会などを行った際に「必殺技コマンドが簡単すぎる。こんなのは格闘ゲームじゃない」というような意見をいくつもいただいて、営業から突き上げもありましたが、開発がぶれてはいけないと、そのままの形でリリースしました。
必殺技コマンドと簡易入力の両方を用意して選択式にするという案も考えたのですが、そうするとイージーモードとハードモードのような感じになってしまっていい気持ちはしないし、結局強いほう、便利なほうしか使わなくなるだろうから、思い切って片方でいいだろうと。
──初代『ファントムブレイカー』の設計思想は、本作にも引き継がれていますか?
盛氏:
実は『ファントムブレイカー』自体は、最初から私が企画に参加していたわけではなくて、ほかの会社さんからの持ち込み企画だったんですよ。それがどうにも開発がうまく進まないという話が社内で出て、私が担当することになりました。
その時に主要な開発者全員でミーティングをして、その場でいくつか基本となるコンセプトを出しました。これだけは絶対入れてほしいというものですね。順に紹介すると、
1. コマンド入力ができなくても遊べる
2. 勝負どころをわかりやすくしたい
3. 負けたとしても、遊んだ感を味わってもらいたい
4. ヌルゲーだと思われないようにする
というものですね。
(1)は先ほどのかんたんな操作の話なので(2)から説明すると、勝負どころを、プレイヤーにもギャラリーにもわかりやすくしたかったんですよ。実は初期の『ファントムブレイカー』はアーケードで出すことを考えていて、アーケードというと、プレイしている人の周りでギャラリーが見ているというシーンが付き物じゃないですか。
なので、プレイヤーはもちろん、見ている人も楽しんでもらいたいということで、大技を使えるゲージ周りの演出や、ズームインを使った勝負どころの明確化を試みました。
──『ファントムブレイカー』のアーケード版は、後に『ファントムブレイカー アナザーコード』が出ていますが、これとは違った企画だったということでしょうか。
盛氏:
『ファントムブレイカー アナザーコード』はMAGES.のIPをデルタファクトリーさんにお貸ししてリリースしたタイトルなので、それとはまた違ったものになりますね。
もともとアーケード、その後にXbox360へ移植する、という予定だった『ファントムブレイカー』の企画が、Xbox360オリジナル新作格闘ゲームとしてリリースする形になったというのが当時の流れです。デルタファクトリーさんが『ファントムブレイカー アナザーコード』を作っていた頃は、私たちのほうは『ファントムブレイカー:エクストラ』を作っていました。
ふたつの作品でプレイ感覚は別物になったのですが、当時はそのあたりの周知ができなかったので、違いに戸惑う方もいたようです。
──(3)の「負けたとしても遊んだ感がある」という部分は、具体的にはどういう意味合いなのでしょうか?
盛氏:
(3)は対戦格闘モノの宿命で、絶対にどちらかが負けるという大前提の中で、負けてもなにか満足感を得てもらいたかったんです。
操作方法がろくにわからない状態でも、「方向キーとボタンをガチャガチャやっていれば何かが起きることがある」という仕組みですね。また、相手の攻撃を喰らっていてもできること、ガードしている間にもできることがあるのはこの考えからです。
(4)の「ヌルゲーだと思われないようにする」という部分は、全体としてすごく意識したところです。MAGES.というアドベンチャーゲームやギャルゲーのイメージの強い会社が「格闘ゲームを出す」と発表しても、コアなゲーマーの方には見向きもしてもらえない、と考えたからなんです。
これは私自身がお客さん側だったとしてもきっとそう思うはずなんです。浅葉さんには、当時ファミ通Xbox360で『ファントムブレイカー』の記事を担当してもらいましたが、第一報を見た時の感想はいかがでしたか?
──正直な感想を言いますと、みんなでわちゃわちゃ遊ぶタイプの、ギャルゲーファン向けのゲームだと思っていました(笑)。
でも、少しプレイしてみて考えを改めました。システムがとにかく多彩で、マニアックな話をすると「パラメーターのつけ方が細かい」んですよ。
同じような攻撃に見えても、発生フレームとかが全然違うし、一見弱そうな技でも“相殺”という仕組みで強さを与えていたりとか。「これ作った人、相当マニアックだなあ」と思いました。
その作りに驚いて、攻略本を作りましょうという話が編集部で出たとき、今までのファミ通Xbox360ではやらないようなフォーマットの本、どちらかというとゲーメストやアルカディアといった雑誌でやっていたフォーマットの本を作ることにしたくらいです(笑)。
盛氏:
ファミ通Xbox360さんから届く質問が、格闘ゲームとしてのシステムのところに触れるものが多かったので驚きましたし、嬉しかったですね(笑)。
実際、遊んでもらった際に、奥深いものを感じてもらいたくて、さまざまな要素を組み込んでいきました。いろいろとできるゲームにしておけば、プレイヤーさんが我々の想像を超えたことをやってくれるだろうという考えもあって、あれも入れよう、これも入れようと作っていました。
ただ、一作目はちょっと煩雑になりすぎた部分もあったので、二作目の『ファントムブレイカー:エクストラ』ではそれぞれのスタイル「クイック」と「ハード」に綺麗にシステムを振り分けてみました。そしたら逆に「できることが減った」という声もいただいて、シリーズを続けると、既存プレイヤーと新規プレイヤーとの経験や知識量での格差問題が難しいなと思いました。
──格闘ゲームユーザーの求めるラインは高いですからね。
盛氏:
ゲームバランスもそうですし、快適性の部分もそうですね。私も過去に格闘ゲームを手掛けたとはいえ、時代はどんどん進んでいて、「その時のいいもの」を学んで開発に活かす必要があります。
トレーニングモードや、オンライン対戦、待ち受けなど、今の格闘ゲームで当たり前になっている要素を入れないわけにはいきません。しかし、オンラインの部分は本当に難しいなと本作を作っていても思いますね。
──本作は、格闘ゲームで最近流行している、ロールバック式ネットコード【※】には対応していないと発表がありましたね。こちらは、海外向けの情報公開になるのでしょうか。
※ロールバック式ネットコード
近年、格闘ゲームのオンライン対戦において注目を浴びている通信形式のひとつ。ロールバックネットコードでは、プレイヤーの入力をもとに瞬間的に画面を巻き戻して結果を再生する手法や、予測表示などによって、オンライン対戦の遅延を安定させ、低減しているように見せることが可能とされている。従来のディレイベースと呼ばれるタイプのネットコードでは、回線状況や対戦者間の物理的距離やに応じてゲームプレイに遅延のゆらぎが発生しやすいとされてきた。オンライン対戦環境や距離などの問題が発生しやすい海外では、格闘ゲームのオンライン対戦にロールバックネットコードの導入を求める声も大きい。
盛氏:
そうですね。情報として「ロールバックネットコードではない」ということをお出ししたのですが、発表後も特に海外から要望の多い部分ではあります。現状を見ていると、確かにロールバック形式が歓迎されていますし、ゲームのセールスポイントとしてロールバック形式というのが強いフックになっているのは間違いないです。
オンライン環境が高水準に整っていなくても対戦が成立したり、かなり距離が離れていても対戦できたりという部分はやはり海外では求められているのだと思います。本作ももちろん検討したのですが、『ファントムブレイカー:エクストラ』のベースのエンジン上で実装するというのは難しいということがわかりました。
きちんとやるのであれば、ロールバックという技術をもってきて今あるゲームにポンと放り込んで完成というわけではなくて、ゲーム側でキャラクターの動き、ボイスの鳴らすタイミングに至るまで細かい修正や調整が必要になります。
それを考えると、この作品を皆さんのもとに届けるのがさらにウン年先になってしまいそうですから、今回は見送らせていただきました。ただ、やらないというわけではなくて、この先『ファントムブレイカー』が続くなら、検討したい部分のひとつですね。いっそ完全新作として作る方が実装しやすいぐらいだと思います。
──オンライン対戦については、『ファントムブレイカー:エクストラ』から変化しているのでしょうか。
盛氏:
対戦するうえでは快適にはなっていると思います。『ファントムブレイカー:エクストラ』のときよりも求められるラインはあがっているので、そこを目指しました。開発中に行ったテストも良好だったので、対戦の駆け引きを楽しんでもらえるものになっているとは思います。
観戦モードやリプレイデータについても要望があったのですが、これは今では配信文化もあるということでひとまず見送りました。もちろんユーザーの声によってメーカーが動くということもあるので、発売後でもいろいろな意見をもらえると嬉しいですね。売れていることが大前提になっちゃいますが(笑)。
アドベンチャーゲームメーカーで“新たなジャンル”に取り組む理由
──今日いろいろと語っていただいて、『ファントムブレイカー』の手触りの面白さがどのように生まれてきたのかなんとなくわかってきた気がします。
盛さんは、アドベンチャーゲームを主力商品とするMAGES.で、格闘ゲームの『ファントムブレイカー』や、シューティングゲームの『バレットソウル -弾魂-』を立ち上げてきています。こうしたメーカーとしては新しいジャンルに取り組む理由などがあればお聞かせください。
盛氏:
MAGES.にとってアクションやシューティングはある意味で異物ですが、取り組む理由としてはもともと私がデータイーストでアーケードゲームを作っていたというのが大きいですね。格闘ゲームでは、古い作品ですが『水滸演武』という2D格闘ゲームを作りました。
──『水滸演武』! 最近友人と、レトロな格闘ゲームを遊ぼうということでプレイしたのですが、今遊んでもかなり斬新な要素のあるゲームですね。
『ファントムブレイカー』の話を聞きにきたはずが、思わぬタイトルが出てきて、ちょっと興奮しています(笑)。調査不足ですみません。
盛氏:
いえいえ、遊んでいてくれたことに驚きました(笑)。確かに当時は新しかったかもしれませんね。
吹っ飛びから吹っ飛びに繋がる、たとえば相手を上に吹き飛ばしてから、自分も追いかけて追撃でさらに吹っ飛ばすという『ドラゴンボール』的な連続技を自分の手で編み出せるように作ったんで、連続技的には割とインフレしているゲームになっていますよね。
先ほど『ファントムブレイカー』を従来の必殺技コマンドにするかどうかという話がありましたが、そこで「コマンド式にする」というのは、『水滸演武』の経験もあったので、やろうと思えば簡単にできたんです。
──『水滸演武』というタイトル名が出てきたことで、自分が『ファントムブレイカー』に感じていた特異性のようなものに、勝手に答えが下りてきているような気がしています。
『水滸演武』もプレイヤーに新しいことをやらせよう、動かしたときの面白さを重視しているという部分を感じたのですが、『ファントムブレイカー』もそういう面は似ているのかもしれませんね。
盛氏:
そう言われると、確かにそうなのかもと思う節はありますね。「誰にでも気軽に楽しんでほしい」という思いも当時からありましたし、格闘ゲームというジャンルのルール内で考えると、けっこう無茶な要素を積極的に取り入れていくようにしていました。試合開始前に相手を攻撃できちゃう技があったり(笑)。
過去に手掛けた作品のエッセンスということで思い出しましたが、『ファントムブレイカー』の “相殺”は、一緒に開発をしていた今泉のアイディアで、初期の開発ミーティングのときに聞いて「いいね、面白そう」と実装を決定したのですが、後になって彼が過去に開発した『あすか120%』のシステムであることを知りました(笑)。
当時私は『あすか』を知らなかったんですよね。開発チームの各自が新しいものを考えつつ、過去の開発経験の中で手ごたえもあったものも混ぜ込んだのが『ファントムブレイカー』なのかもしれません。
──『あすか120%』! これも名作ですね。熱心なファンを多く抱えていて、最近のeスポーツイベントなどでも有志の方が対戦会や大会を企画しているのを目にしますね。
そういわれてみると、『あすか120%』と『ファントムブレイカー』の間にもつながりを感じます。「わけもわからずプレイしても面白い」というところが似ているような気がしていて、僕が『あすか120%』を遊んでいたとき、格闘ゲームを普段あまり遊ばない友達とも楽しんでいたんですよ。
盛氏:
私と今泉は、格闘ゲーム開発のルーツこそ違いますが、もしかするとその部分は考えが近いのかもしれませんね。せっかく「やってみたい」と思ってくれたお客さんに冷たくするゲームにはしたくないと考えていますし、それでいて簡単すぎるゲームにしたくないとも思っています。
『ファントムブレイカー』も発売からかなり時間が経っているのに、いまだに対戦や研究をしてくれている人がいて、いまだに新しいテクニックやセオリーを発信してくれる人がいるんですよ。中には想定外のものもありますが、「まだまだプレイする価値がある」と感じてくれる人がいるのは、このプロジェクトが立ち上がる前の我慢の時期、とても励みになりました。
──『水滸演武』と『ファントムブレイカー』では、かなり世界観やキャラクターの雰囲気が違いますね(笑)。かたや筋骨隆々としたキャラクターのバトル、かたや線の細い美男美女のバトルで……。
盛氏:
もともとは『ファントムブレイカー』が持ち込み企画だったということもあるのですが、それでも今ではこの世界観やキャラクターに愛着がありますね。ストーリーや設定は全部私がまとめているのですが、持ち込み企画時のモノからほぼほぼ全てに渡って手を入れていますから。
笑い話をすると、データイーストに所属していた頃に、会社が女の子が出てくるアドベンチャーゲームをぽつぽつ出し始めたときがあって、そのとき自分は「男らしいゲームを作るデータイーストがギャルゲーを作るのはいかん!」と青臭いことを言っていたんですよ(笑)。
そんな自分ですが、退職後にトンキンハウスで『Lの季節』や『MissingBlue』というギャルゲーを作ることになるという……(笑)。
──どちらも『水滸演武』からは遠く離れていそうな作品ですが、傑作ですね!ギャルゲーという枠ではくくれないゲームだなと当時思いました。
盛氏:
ありがとうございます。特に『MissingBlue』は、当時のいわゆるギャルゲーが、自分には合わないなと思っていたので、自分でも遊びたくなるようなものを目指して原作から作ったんですよ。
それに、当時のゲーム雑誌のレビューでは、ギャルゲーと言えば「お約束のハーレム展開」みたいな語り出しで批評する文章が多かったので、それならハーレム展開に深い意味を持たせた設定にして、エンディングまで見ると「なるほど」と納得してもらえるようにしました。
あとは、当時の流行だった泣きゲー的な感動の作り方は意図的に避けていました。死んで悲しいなんて当たり前じゃないですか。そんなのは安易だなと。まぁ若い頃の反骨精神で、今こういう話をすると偉そうにしか聞こえませんけど(笑)。
そして、これらのゲームを作った経験が、私と現在のMAGES.の前身である5pb.を結び付けてくれたんです。アドベンチャーゲームを作れる人と認識されたようです。
──トンキンハウスを経て、5pb.に移られたのですね。
盛氏:
はい。5pb.を立ち上げようとしていた志倉から、プロデューサーとして来てくれないかと声をかけてもらったのがきっかけですね。社員がまだ8人くらいだった時代の創立メンバーのひとりになったんです。
最初志倉が私に作らせたかったのはおそらくアドベンチャーゲームで、私もそれを自然な流れだと思っていたんです。でも『Lの季節2 invisible memories』という作品を手掛けてみて、5pb.での自分の役割を考えなおしました。
──『Lの季節2 invisible memories』を作ったときに、どのようなことを感じたのでしょうか。
盛氏:
一番大きかったのは、志倉のアドベンチャーゲームへの情熱がものすごくて、「勝てないな」と思ったことです。一見飄々としていますが、彼はものすごくアドベンチャーゲームが好きで、真摯に向き合っているんですよ。
私も情熱がないというわけではなかったんですけど、好きこそものの上手なれと言うじゃないですか。なので、違うことをやったほうがいいだろうと。
また、『Lの季節2 invisible memories』はかなり納期に追われたタイトルだったというのもあって、自分の開発スタイルとの合わなさもちょっと感じましたね。個人的にはアドベンチャーゲームって本来だと開発にすごく時間がかかると思っているんです。
トンキンハウス時代は、それこそ納得いくまで作り込めたんですが、アドベンチャーゲームって世間的にはけっこうなペースで新作がリリースされているし、それを求められる。トンキンハウス時代も後期はそんな雰囲気になってきたし、5pb.でもやはり同じだなと。そういう環境では自分はいいモノは作れないなと思いました。
そこでシューティングゲームを手がけていたところ、格闘ゲームの開発経験があるということで『ファントムブレイカー』も担当することになりました。
──会社として初の試みになるジャンルに取り組む怖さのようなものはありましたか?
盛氏:
楽しさが上回っていましたね。もちろん苦労したこととか、ありえないような出来事もあったりしましたが、シューティングも、格闘ゲームも、アクションも開発してよかったなと思っています。
また今回の『ファントムブレイカー:オムニア』を世に出せることで、作品が世代を越えて生き続ける実感もありますね。遊びたくても現行のプラットフォームに対応していないというのは、ユーザーさんからすると辛いことですから。
──今回ほど多数のプラットフォームで出しておけば、しばらく「遊びたくても遊べない」ということは避けられそうですね(笑)
盛氏:
本当にそうですね。本作を遊んでいた方、そしてはじめて遊ぶという方も、この機会に楽しんでみてください。
友達と一緒に遊ぶという方は、今からプラットフォームを相談しておいてください。発売に向けていろいろ新情報も出していくので、今後のアナウンスにもご期待ください(了)
初代『ファントムブレイカー』の発売当時は、現在のeスポーツのはしりとなる歴史ある格闘ゲーム群が人気を集めていた。その時点では、本作の独自性は「早すぎた」感もあり、一部のプレイヤーのみにその魅力が共有されていたという印象がある。
しかし時代もかわり、作品のエッセンスはSNSなどでより伝わりやすくなった。そのうえ今回は幅広い世界展開も行われるため、格闘ゲームファンはもちろん、このジャンルを初めて遊ぶという人にも本作が届く可能性は高い。当時「早すぎた」本作は、今どのように受け止められるのだろうか。今から楽しみだ。
『ファントムブレイカー:オムニア』は今春発売予定。本作は2013年に発売された『ファントムブレイカー:エクストラ』にさらなるアップデートを施した作品で、画面は高解像度にも対応。そのうえ新キャラクターの追加、ゲームバランスの調整や、BGMのリミックス、英語ボイスの追加、多言語化も行われるという。
また、全世界共通のプロモーション用イメージソングには、歌手の藍井エイルさんを起用しているのもアニメファンを視野に入れた本作らしい試みだと言えるだろう。クロスプラットフォームには非対応なので、友人と遊ぶ場合はあらかじめプラットフォームを相談しておこう。