ウクライナ政府の第一副首相とデジタル改革担当大臣を兼任するミハイロ・フェドロフ氏は3月3日(金)、自身の政府関連Twitterアカウントを通じて、ソニー・インタラクティブエンタテインメントとマイクロソフトおよびValve社に対し、アクションRPG『アトミックハート(Atomic Heart)』の配信停止を正式に要請したと伝えた。
Official requests to ban selling Atomic Heart game. I do believe neither of these businesses support bloody regime, murders or romanticizing communism. Brand new level of Russian digital propaganda – using gaming industry.@Sony @PlayStation @Microsoft @Xbox @valvesoftware @Steam pic.twitter.com/DpaNO57bZC
— Mykhailo Fedorov (@FedorovMykhailo) March 3, 2023
キプロスに拠点を置くMundfishが開発した『アトミックハート』は、テクノロジーが高度に発達した1955年の“架空のソビエト連邦”を舞台に、政府のエージェント「P-3」となったプレイヤーがロボットの反乱により沈黙した機密施設を探索していくアクションRPGである。本作は植物や機械をモチーフに強烈なインパクトを与える敵キャラクターのビジュアルで大きな注目を集めており、本記事の公開時点ではPC(Steam)およびXbox One、Xbox Series X|S向けに配信中。Xboxゲームパスへ向けても展開されているほか、4月13日にはPS5/PS4版も発売される予定だ。
フェドロフ氏は今回の配信停止要請を伝えるツイートのなかで、各社へ送付した公文書の画像とともに作品を「ゲーム業界を利用した、まったく新しいレベルの“ロシアのデジタル・プロパガンダ”だ」と批判。「これらの企業はいずれも血なまぐさい政権や殺人、共産主義を支持するものではないと信じている」との意向を述べた。
また、各社へ送付された公文書のなかでフェドロフ氏は、「Mundfishはロシア人の経営陣およびロシア国内のオフィスを有しており、ゲームの販売で得た資金がロシアの予算として送金され、ウクライナへ対する戦争の資金として使用される恐れがある」と指摘。販売の継続が自由民主主義の国家における制裁政策へ沿わず「共産主義とソビエトにおけるシンボルを美化して伝えている」点や、Mundfishがウクライナへのロシアの軍事侵攻に対する非難のスタンスを表明していない点への懸念もあわせて表明している。
ただし、2023年1月にMundfishはTwitter上で「革新的なゲームに焦点を当てたグローバル チームを擁する開発者兼スタジオであり、人々へ対する暴力に反対し平和を推進する組織であることは間違いない」とのスタンスを表明。そのうえで政治的・宗教的な問題に関するコメントについて言及しない姿勢を見せていた。
Guys, we have noted the questions surrounding where we, at Mundfish, stand. We want to assure you that Mundfish is a developer and studio with a global team focused on an innovative game and is undeniably a pro-peace organization against violence against people.
— Mundfish #AtomicHeart (@mundfish) January 16, 2023
一方、ウクライナとロシア間の戦争に関するMundfishのトラブルは今回に限った話ではない。ウクライナの技術系メディアであるAIN.Capitalは2022年2月、ロシア向けに公開されていたスタジオ公式通販サイトへ記載されているプライバシーポリシーについて「ロシア国内のユーザーから情報を取得し、ロシアの国家当局へ送信する可能性がある」との懸念を伝えた。
しかし、同トピックを報道した海外メディアGamesRadarの取材に対し、Mundfishの広報担当者は「私たちのゲームとウェブサイトはいかなる情報やデータも収集しない」と回答。「私たちのスタジオと製品の完全性を保証するため」としてストアを閉鎖し、混乱を招いた事態について謝罪している。
PS5/PS4版の発売を4月に控えるなか、『アトミックハート』の内容を正しく理解した各社がウクライナ政府の正式な配信要請に対してどのような対応を見せるのか。今後の動向に注目したい。