1996年に発売されたアクションRPG『ディアブロ』のスピードラン(RTA)コミュニティにて、15年以上におよび破られていなかった“3分12秒のAny%世界記録”が偽造されたものであったと証明された事例が海外で話題となっている。
海外メディアのArs TechnicaやPC Gamerは、本記録の正当性を分析・検証したツール支援スピードラン(以下、TAS)装置「TASbot」のスタッフら調査チームによる報告を伝えた。
議論のはじまりは2009年3月、ポーランドのプレイヤーであるMaciej “Groobo” Maselewski氏がスピードランアーカイブサイトの「Speed Demos Archive(以下、SDA)」に投稿した“あまりにも上手くいきすぎていた”動画までさかのぼる。
通常『ディアブロ』はクリアまでに約10時間から約20時間を要する作品だが、ゲームの達成率に関わらず“最速クリア”を目指す“Any%”ルールで投稿された動画は「ほぼすべての下り階段が近くにあり、テレポートが可能になる装備を獲得するまでほとんど敵と遭遇しない」ものであった。
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しかし、2009年当時のゲームプレイ検証では「ビデオ編集の問題や不正行為などはみられない」とされたため、そのまま公開。ギネス世界記録にも「ディアブロの最速クリア」として登録されたほか、驚異的な記録の再現・突破は困難をきわめ、結果として『ディアブロ』のスピードランに挑もうとするプレイヤーは減少していた。
上記の減少に対して、長年にわたって挑戦し続けていたFunkmastermpさんら一部のスピードランプレイヤーは2024年1月、Funkmastermpさんは「TASbot」開発チームを率いるAllan “DwangoAC” Cecil氏に連絡。調査チームが結成され、TASプログラムの制作・検証と約22億におよぶ『ディアブロ』のマップ生成パターンの解析、および映像分析が数ヶ月にわたって行われたという。
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ウェブ上に公開されたDwangoAC氏ら調査チームの報告書では、調査の結果「タイトル・メニュー画面の年表記と実行バージョンが一致しない」点や「不自然なマップ生成のシード値となっている」点など、計14ヶ所の項目で問題点が指摘されていた。
ゲームプレイ映像の編集・結合や不正なメモリの操作に関する項目も含めて、調査チームは「不正な手段を使用して記録が生み出された」と結論づけた。
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調査結果に対し、海外版WIREDのアンディ・グリーンバーグ記者を介して経緯を知ったGroobo氏は、“映像が分割/編集されていた”事実を認めつつも「一度も他のものとして流用されたことはなく、競技やリーダーボードの一部でもない。SDAのページ上にはっきり記載されている」と言及。ルール違反や偽装の意図を否認した。
ただし、SDAのルール上では「ゲーム ファイルを手動で編集/追加/削除することは通常許可されていません。」「当然、インベントリ、経験値、または個々のゲームに適用されるその他の点において、セグメント間に連続性が必要です。」と記載されている。
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調査チームは上記の結果をSDAに報告しており、SDA側は2024年9月に記録を修正。Groobo氏が「具体的な証拠」を提供できれば修正を撤回できるとした。
一方、ギネスワールドレコーズ側では調査チームやグリーンバーグ記者からの報告を受けた後も記録の掲載を継続しており、執筆時点でも撤回は確認されていない。
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なお、ギネス世界記録では2018年にも「世界最長のゲームハイスコア保持記録」に関する不正行為の嫌疑が起きており、調査の結果として記録を保有していた男性の全記録が抹消されたとPolygon、ニューヨーク・ポストなど国内外のメディアから報じられていた。