アルバム『10ショート・ストーリーズ』について
加藤:
ウィキに戻りましょうか。「1971年、12歳の時にピアノを始める」
植松:
習ったわけじゃなくて、姉のピアノを勝手に弄り始めたんですけどね。
加藤:
「最初の作曲は中学生のとき」。
植松:
小学生のときですね。
217:
じゃ、間違ってんだこれー。
加藤:
ウィキ間違ってますよー!
植松:
50歳になってアルバムを作ったとき、その曲を入れたんですよ。歌モノだったんですけども。
加藤:
どのアルバム?
植松:
『植松伸夫の10ショート・ストーリーズ』っていう、ボクが作詞作曲したやつですね。
加藤:
今までと違う曲調なんですよね。ほんわかして子どもでも聴きやすい、みたいな。あれ、けっこう前ですよね。
植松:
50歳のときだから、7年前ですかね。その頃から続編を作ると言い続けて7年ですよ。1曲も作ってないですよ。
一同:
(笑)
加藤:
何でですか? 忙しくて?
植松:
忙しくて、ですね。
加藤:
でも、またああいうのも作りたいっていうのは……。
植松:
ボクね。ああいうのを作って生きていきたいんですよ。
加藤:
すごくよくわかる。植松さん、イロんな曲を作られるんですけれど、お人柄とか、みんなと楽しく幸せに過ごしたいみたいなオーラがすごいんですよ。怒ってるの見たことないっていうか。
植松:
ああー。
加藤:
なんかあっても人を幸せにするのがクリエイティブ、みたいなのが根本にあるような。
植松:
なんかね。楽しい方がいいじゃないすか。いがみ合うのってしんどいんですよ。エネルギー使うんで。
加藤:
そういうのをイロんなとこでおっしゃってるんで、それをストレートに楽曲にしてまとめた作品を作りたいんだろうなと。そういうのを聴いてみたいというのは、ボクとしてもあります。
バトルとプログレ
加藤:
植松さんが作るバトルの曲って、いちいちカッコいいんですよね。
植松:
あれはあれでね。変拍子とか転調とか入る曲を作りたいってのは、あるんですよね、プログレ好きなんで。
加藤:
絶えずプログレっぽいのは入りますよね。
植松:
バトル曲は入りますね。
加藤:
必ず?
植松:
必ず入りますね。当時はコンピュータが演奏するんで、どんなフレーズを作ってもゲーム機から鳴るじゃないですか。バンドでやるのを想定してたら、あんな曲を作ってないですよ。
加藤:
確かに。あれ無理すね。
植松:
相当難しいですよ。
加藤:
ボクも「ビッグブリッヂの死闘」とかをギターで練習したことがあるんですけれど、変わりすぎて「これ、ちょっとしんどいんすけど」みたいな。
植松:
そうですね(笑)。でも逆にコンピューターで何でもやってくれるから、ああいう変な曲が作れたってのはあるんですけどね。
加藤:
セフィロスのとかは、まさにそうだっておっしゃられてましたよね。毎日思いついたのをどんどん入れてって、溜まったトコロで繋ぎ方を……。
植松:
そうそう。組み合わせで。ああいうのをまたやりたいんですけどね。
加藤:
そうなんですか。
植松:
やりたいけど……疲れるんですよ。
加藤:
まとめるのが、ですか?
植松:
会社にいて定期的に給料をもらえるんだったらやってもいいんだけど、フリーになったら締め切りがあって、それまでに曲を作んなくちゃならないじゃないですか。だから、そんな実験的な作り方とかやってると、いつになったら曲ができるかわかんないですもんね。
加藤:
なるほど。そうかー。
植松:
だからああいう「片翼の天使」みたいなのは、ソフトハウスの子飼いだったからできた音楽ですよね、きっと。
加藤:
そういう状況だからできた曲なんですね。
植松:
サラリーマン万歳!
一同:
(笑)
スクウェアは自由な会社?
加藤:
考えてみると、植松さんみたいな人がサラリーマンになって長年やっていけたスクウェアって会社が、すごいトコロでもありますよね。スクウェアって、ボクが取材に行っていた中で“会社っぽくない会社”の筆頭だったんですよ。植松さんもそうですけれど、時田さんとかは激務の中プロレスの格好してたりとか、岡宮さんとかも「ほんとに宣伝の人なの?」みたいな。
植松:
自由なんすよ。要するにスクウェアでボクらが一番年上じゃないですか。だからボクらを叱ってくれる人が誰もいなかった。ボクらが自由にやってるから、下の代も自由にやるじゃないですか? でも、そういうバカバカしいエネルギーが『ファイナルファンタジー』のシリーズ化に繋がったんじゃないかと思うんです。『FF』って洗練されてないんですよ。今はちょっとわからないけど、ボクがいた『IX』や『X』くらいまでは、洗練とはほど遠い。
加藤:
毎回チャレンジして作り直していて、何も踏襲していない。
植松:
そうですね。
加藤:
毎回違うことをやっているけど、それをまとめ上げてるのが何かの美意識だったり……その美意識というのの1つは音楽だったりするから、そこの安心感というのは必ずあるんですよね。「プレリュード」が流れたりすることで「あ、これも『FF』なんだ」みたいに。すごいバランスで成り立っている。とんでもなくクリエイティブですよね。
植松:
まぐれ。まぐれですよ。
加藤:
ちょっと話が戻ると……、坂口さんの方が年下ですよね?
植松:
3つ4つ下ですね、彼は。
加藤:
だから坂口さんも、植松さんにはちょっとだけ遠慮してるトコロがあるかなって。
植松:
いや! それはないっすよ!!
一同:
(笑)
加藤:
そうですか?
植松:
彼も昔はミュージシャンになろうと思っていた男なんで、音楽は厳しいですよ。ダメ出しはひどいもんですよ。思っているのと違ったら、作り直しですもんね。
加藤:
スクウェアに入るきっかけというのは坂口さん?
植松:
スクウェアにはアルバイトでよく出入りしてたんですけど……オカルトな話でいいですか?
加藤:
はい。もう全然OKです。
植松:
当時、霊能者みたいな人がいて、その人が「植松君は来週人生が変わるよ」って言ってたんですよ。翌週、ボクが日吉の町を歩いていたら向こうから坂口さんが歩いて来て「何やってんの?」って聞いてきたんですよ。だからボクは「相変わらず曲をちまちま作ってますよ」って答えたら「社員にならないか?」って。
217:
道端で!?
植松:
だからボク、履歴書出してないんですよ。
加藤:
それは映画のワンシーンに入れたいね。「スクウェア物語」の。
松尾:
そこですれ違わなかったら、入ってなかったかもしれない?
植松:
ほんとにそうですよね。