【全文公開】競馬の面白さは「実況」にあり? 「ダビスタ」開発者・薗部博之氏✕ゲームフリーク「ソリティ馬」開発者 が語る競馬ゲームの“極意”

【全文公開】競馬の面白さは「実況」にあり? 「ダビスタ」開発者・薗部博之氏✕ゲームフリーク「ソリティ馬」開発者 が語る競馬ゲームの“極意”

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『ダビスタ』は実況から作り始めた

――プロジェクトの立ち上がりはどういうものだったのですか?

薗部氏:
 『ベストプレープロ野球』を2か3くらいまで作った頃から、次は何をしようか考えだしたんですよ。
 そんなときに競馬にハマってしまって、これは仕事にしたいな、と思うようになったんです。もうその頃には、どうせ一人で作っているのだからと会社も辞めていて、結婚もしていました。そこで、妻に「仕事に行ってくる」と言っては、競馬場に行く毎日が始まったんです。

一之瀬氏:
 競馬自体を知ったのがその頃ですか?

薗部氏:
 アスキーに競馬好きの友人がいたんですよ。

 ある年、彼がオグリキャップ(※1)という強い馬がいると興奮していたんです。彼が言うには、古馬のタマモクロス(※2)という強い馬もいて、それが秋の天皇賞で初めてぶつかると言うんですね。

※1 オグリキャップ
第二次競馬ブームの立役者となった名馬。全盛期には追っかけが生まれるほどの人気ぶりだった。数々の記録と名勝負を残したが、特に恵まれた血統ではなく、生後間もない頃は脚が外側を向く障害を抱えていたこと、そして幾度の挫折など、その生い立ちの魅力も含めて熱狂的な人気を博した。

※2 タマモクロス
種牡馬としても数々の重賞馬を生みだした名馬。漫画『みどりのマキバオー』の主人公ミドリマキバオーのモデルでもある。

――オグリキャップ4歳の有馬記念があった1988年ですね。

森本氏:
 あの年の有馬記念は、タマモクロスの引退レースだったんですよ。ところが、その日にオグリは見事に勝つことで、世代交代が起きたことを証明した。そこからオグリキャップのブームが本格的に始まったんです。

薗部氏:
 でも、その前にあった秋の天皇賞でオグリキャップが負けちゃうんです。しかも、その後のマイルチャンピオンシップでは、同世代のサッカーボーイが圧勝したのを目にしたんです。そうなると、僕の中では最強の馬はすっかりサッカーボーイですよ。もう「有馬記念ではサッカーボーイ単勝で100万円を賭ける」と息巻いていて、周囲にものすごく止められました(笑)。

一同:
 (笑)

薗部氏:
 今だったら、マイルチャンピオンシップの1600mで強い馬が、有馬記念の2500mで強いとは限らないとわかりますよ。でも、当時はそういう「距離適性」(※)の概念をそもそも知らなかった。結局、しぶしぶ額を減らして、サッカーボーイに10万円賭けましたが。

 『ダビスタ』に話を戻すと、その彼が「配合を使った競馬ゲームをやってみてはどうか?」と言い出したのがキッカケでした。実は当時、馬券を買ったことはあっても、血統なんて考えたこともなかったんです。でも、そういうゲームがないのも事実で、面白そうに思えたんですね。そこで、ズブの素人ながら勉強を始めたんです。

※距離適性
競馬では1000メートルから3600メートルなど、レースごとに走る距離が設定されている。競走馬には、最も力を発揮できる距離がそれぞれにあるという考え方。

――あれ、でも『ダビスタ』が出たのは1991年だから、だいぶあとになりますよね。

薗部氏:
 だって、その4歳の有馬記念の頃に構想しはじめたのに、オグリブームに乗り遅れたんですよ。結局、6歳のオグリの最後にすら間に合わなくて、ダイユウサク(※)が有馬記念で優勝した1991年に出しているんです。そう考えると、3年以上かかってしまったわけですよ。

※ダイユウサク
“史上最強の一発屋”の異名を持つ馬。1991年の有馬記念で1番人気のメジロマックイーンを圧して、レコードタイムで優勝。競馬好きの度肝を抜いた。しかし、このレース以前の成績は特にはかばかしくなく、この有馬記念以降はついぞ1勝もできないまま引退した。

――ダイユウサクによる「世紀の番狂わせ」が起きた第35回有馬記念の年ですね。それにしても一体、何にそれだけの時間がかかったのですか?

薗部氏:
 実況の作り込みですね。ここに最初の1年をかけてます。

田谷氏:
 実況から作られたのですか?

――そこに時間を大きくかけるのは、よくわからない気もするのですが。

薗部氏:
 いや、競馬の面白さの何をフィーチャーしたらいいかと考えて、僕は競馬を最も面白くしているのは「実況」だろうと思ったんです。だから、そこから作ったということです。

 というのも、僕がずっと競馬で興奮してきた場所は、競馬場というよりテレビの前だったんですよ。実際、競馬というものの盛り上がりは、テレビの実況による部分が相当にあると思いませんか。
 野球だって解説がなかったら面白くないのと同じことですよ。僕はナイターを球場まで見に行くと、ビールを飲んでいる時間のほうが長くなりますからね。

一同:
 (笑)

――実況と解説の「言葉」こそが“スポーツ観戦”を盛り上げていると喝破したということでしょうか。でも、それが解答だと決めたら一気にゴリゴリとそこから作りこんで、最初の一年を費やしてしまう判断力に驚きます。

薗部氏:
 でも、実際に「この馬の脚はすごい」と言われながらレースシーンを見ると、本当にすごく見えてくるわけですよ(笑)。この実況の言葉というのは、とても大事な要素だと思いますね。当時はファミコンで発売されていた『キャプテン翼』の実況の入れ方なんかも参考にしました。

森本氏:
 でも、僕だったら、さすがに実況のセリフは最後に作っちゃうかなあ(笑)。レースシーンから作るというくらいなら、普通の考え方だとは思いますが……。

一之瀬氏:
 われわれ競馬好きからしても、確かにレースでの実況に一番のカタルシスがあるわけですよ。そこに最もインパクトがあると判断されたときに、薗部さんは迷わずそこから手を付けられた。

薗部氏:
 ただね、プログラマ視点でもう一つ言うと、そもそも目に見えるモノがないと開発が楽しくならないんです。
 だって、計算式だけを書いているゲーム開発なんて、つまらないですよ。まずは自分の目で動くものを見て、出来ぐあいを確認できるからこそ、発想が形になりだして手が動いていくんです。僕はすべて自分一人で作っていたから、そういう気持ちが高まる作り方をするのが、そもそも大事でした。自分でやってみれば分かりますが、やる気が全然違いますよ。

田谷氏:
 今の話を聞いて思い出したのですが、僕は『ソリティ馬』作る数年前に、『ダビスタ』っぽいレース最後の直線を再現するプログラムを試作していて、これが『ダビスタ』レベルに近づけば、いつか商品として利用できるかも? なんて思っていたんです。
 当時は仕事の合間にちょっとずつ作ってたのですが、ある程度魅力的な直線の攻防シーンが作れるメドが立ったからこそ『ソリティ馬』の企画を進められたんです。そういう意味で、まずは魅力的な部分を最初に作り込んで形にする、というのは確かに開発の考え方として大事ですね。

――具体的には、どういう作業から始められたのですか?

薗部氏:
 まずは、色々なアナウンサーのセリフをメモしていきました。他にも、競馬にまつわる言葉がありますよね。「この馬は勝負根性がある」「この馬は気性が荒い」みたいな、そういう要素を抽出していくんです。そこから、馬の強さというものを自分なりに組み立てたんです。例えば、「ナタの切れ味」という表現があったときに、その言葉で表現される強さとは何か?――それを考えぬくんです。

――つまり、実況の言葉や競馬用語を収集して利用シーンを調べ上げて、そこから逆にそういう言葉が登場するようなアルゴリズムを組み立てていった、と?

薗部氏:
 ええ。とはいえ実際に作っていくと、パドックのコメントにしても、全ての状況で新しいコメントを入れるのは大変すぎます。だから、汎用性があって、しかしフレーズ的に何回出てもウザくならないものを残していく作業が大事になるんです。それに、長々と同じセリフを読むのはイヤじゃないですか。極力シンプルなものにして、プレイヤーがその場面に応じて想像力で補えるものに磨いていきました。

 あと、僕としては馬のパラメーターをあまり数字で見せたくなかったんですよ。そこをセリフによって曖昧に伝えられたら……という思いもありました。種牡馬だけは仕方なくA・B・Cくらいのパラメーターを見せざるを得なかったのですが、本当はやりたくなかったですね。

――それは、やはり強さをはっきりさせたくなかったからですか?

薗部氏:
 そうです。
 最初、実況に1年かけたあとに、次は生産に取りかかったんです。一応は色々な人に聞きましたが、馬を掛けあわせていく部分の理論は結局、自分で構築しなければいけませんでした。だって、みんなそれぞれのことを言うのですが、別に配合に正解なんてないですからね。
 そこで、自由に作ろうと決めて、血統表のクロス一本で作りました。それでも1年かかりましたけどね。

森本氏:
 サラッとおっしゃっていますが、つまりは種牡馬は最初の発想ではパラメーターなんかなかった?

薗部氏:
 でも、それでは競馬の知識がなければ楽しめないゲームになってしまうと思い、考え直しました。まあ、出来上がった製品は結局、競馬の知識なしに楽しめないゲームそのものだったんで、いい加減な話ですが(笑)。当時、ノーザンテーストという馬が一番の種牡馬で、それをオールAにして基準に決めました。ただ、牝馬の方は作る時間がなくて、種牡馬のゲームになったわけですよ。

一之瀬氏:
 でも、値段を見れば分かりますよね。

薗部氏:
 やり込んだ人が、特定のタイミングで競りに出せば、値段の変化でわかってどうこうとやりだしたんですけど、いや僕のほうが「そんな方法があるのか!」と驚いたくらいですよ。

 で、この2つに2年かけたあとに最後の1年でそれ以外の部分を作ったのですが、もう最後の最後の1ヶ月になって、調教の部分がまだ残っていたんです。いやあ、あれは全くできていなくて、本当に困ってしまって(笑)。

――あれは、そんな突貫工事で作られたシステムだったんですか。

一之瀬氏:
 この手のゲームで調教をいかに作るかは難しいところですよね。

薗部氏:
 まあ、別に調教はメインじゃないからこんなもんでいいや、と作ってみたんです。
ところが、よそのゲームが『ダビスタ』を真似してきたときに、あの調教のパターンをまんま踏襲してくるんです。ダート単走、強めとかね。いやいや、このパターンしかないわけないだろ、と僕はつねづね思っています(笑)。

一之瀬氏:
 でも僕なんて、いまだに実際の競馬を見ていても、「ああ、これはダートで追っているからスタミナがついているんだろうな」とか思っちゃいますね。

薗部氏:
 そんなことはないよ、現実には(笑)。

一同:
 (笑)

――でも、僕らは現実の競馬を見るときに『ダビスタ』の影響を無意識に受けてますよね。

森本氏:
 僕も、坂道で追いすぎる馬を見て、怪我するからやめたほうがいいんじゃないか、と頭をかすめたりしますからね。リアルに影響を受ける人は多いんじゃないですか。

田谷氏:
 僕は馬券を買うときに血統を見るのですが、ナスルーラ系(※)が入っていると「大丈夫かな?」と思ったりしますね。

※ナスルーラ
イギリス生産の種牡馬。現役の競走馬時代には、速いスピードと荒い気性で活躍した。種牡馬になってからは、息子たちが数多くの子を残して、競走馬のスピード革命に影響を与えた。一方でナスルーラ系の馬には気性が荒いイメージがあり、ダビスタではナスルーラのインブリードがあると牧場主からクレームがつくこともある。

薗部氏:
 そうそう、前にジョッキーがコメントで「この馬はナスルーラのクロスがあって、気性が悪いから」と言ってて、ビックリした覚えがありますね。『ダビスタ』のダイジェストじゃないんだから……と。

一同:
 すごい(笑)。

薗部氏:
 とはいえ、オッズに影響を与えるような規模の力はないと思いますよ。ちなみに、僕は競馬は『ダビスタ』の理論では買いません(笑)。

レースのパラメーターは4つしかない

田谷氏:
 ただ、実況の作り込みと同時に、直線での逃げ切るか差し切られるかみたいな攻防の魅力も、競馬のシーンから抽出していったわけですよね。
 発売当時、このクオリティのものは皆無でした。SFCで『ダビスタ』の二匹目のドジョウを狙ったゲームがドッと登場したあとでさえ、数年間は及ぶものすらなかったと思います。一体、先人がいない中で薗部さんはどのように作られたのでしょうか。

薗部氏:
 いやいや、そんな難しいことはしてないの。
 大体、今に至るまでレースシーンのアルゴリズムは最初に作ったものとほとんど変わってないんです。パラメーターも基本的には増やしていません。やっぱり3年かけて作っただけあって、特に直す箇所が出てこないんですよ。

一之瀬氏:
 あのー、言えないことはあるかと思うんですけど、その辺のカラクリをちょっと……教えていただけますと……。

一同:
 (爆笑)

――ちょっと、ちょっと! ストレートすぎですよ(笑)!!

森本氏:
 まあ、でも「超ド根性」は最初からあったのですか、とかは聞きたいですよね。

薗部氏:
 いや、そもそも基本的なパラメーターは4つだけです。馬の「スピード」「スタミナ」「勝負根性」「気性」、それだけですよ。

一同:
 ええっ!

一之瀬氏:
 ええっと、あの直線の挙動がそれだけのパラメータでまかなえるものなんですか?
 だって僕の中では、他のゲームと『ダビスタ』の最大の違いは、先行勢と後行勢が一気にぐるりと入れ替わるようなシーンがあることなんですよ。いや、僕の目の錯覚なのかもしれないですが……僕はああいう動きは「ペース」みたいなパラメータを入れない限り、難しいんじゃないかと思っているのですが。

薗部氏:
 いや、それを4つのパラメータで可能になるように作るんですよ。そりゃ難しいですけど、パラメータを増やして面白くする大変さよりはマシなんじゃないかなあ。

 皆さん、どうもパラメータを増やしたほうが楽だと思いがちなように見えるんです。でも、専用のパラメータを作るのは良し悪しだと思いませんか。だって、その数値だけで結果が予測できてしまうでしょう? そうなるとゲームに意外性を作るのが非常に難しくなって、かえって大変になるはずなんです。

田谷氏:
 ちなみに、『ソリティ馬』に気性は入れていないんです。道中に影響はあるのですが、直線で気性は影響しないんですよ。

一之瀬氏:
 『ダビスタ』は、あの先行勢がタレて差し込みが決まるようなゴール前のシーンも、全て4つのパラメーターとアルゴリズムでまかなっている、と。……凄いアルゴリズムだ。

薗部氏:
 ええ、そこはまさにこだわっているポイントです。自分で競馬を見ているときに、たまにワープしてくるような速度で出てくる馬がいるじゃないですか。あの驚きをアルゴリズムで再現したいわけですよ。それが可能になるように徹底的に調整していくわけです。

――初めて競馬場に行ったときに、馬の動きが本当に『ダビスタ』みたいで驚きましたからね(笑)。

スポーツをいかに抽象化するか

――そういう考え方は、他のゲームでも適用されているのですか?

薗部氏:
 ええ、これは『ベストプレープロ野球』のときからずっとそうです。
 例えば、「守備力」というときに、守備範囲とか細かく色々なパラメータは設定できるけど、そこはなるべく少なく表現するのが大事なんです。常にそのことを考えていますね。

――「守備力」を守備そのものとは別のパラメーターで説明していくということですか?

薗部氏:
 例えば、打者の場合なら「打率」そのものをパラメーターにしちゃう人がいますよね。でも、「打率」って結果にすぎないじゃないですか。大事なのは、なぜこの人が3割になるのかを、他のパラメーターで説明することでしょう。

田谷氏:
 なるほど。それは例えば、打者の「選球眼」や「スイングスピード」のようなパラメーターを用いるわけですよね?

薗部氏:
 ええ、だって一口に3割バッターと言っても、そうなる理由は様々でしょう。
 選球眼が良い人もいれば、長打力がある人もいれば、足が速い人もいる。そういう様々な要素の組み合わせで、結果的に3割バッターが一定程度生じてくるようにアルゴリズムを考えるんです。
 ここはプログラムで調整していくべきもので、逆にその調整を失敗すると6割打者が何人も登場してしまったりするわけです。

田谷氏:
 ちなみに、『カルチョビット』のようなサッカーゲームでは、サッカーの何を抽出されたんですか?

薗部氏:
 一応、開発時に他のサッカーゲームも見てみたのですが、チーム経営がメインになっているゲームが多かったんです。でも、サッカーの面白さの本質はそこかな? と思ったんですよ。

――『ベストプレープロ野球』はまさにチーム経営の楽しさだったわけですよね。でも、サッカーはそれとは違うと?

薗部氏:
 野球の場合は、スポーツ新聞の試合結果だけで楽しいじゃないですか。これが野球の面白いところで、試合結果や打率のデータのような「成績表」を見ているだけで充分に娯楽として成立するんです。だから、『ベストプレープロ野球』では選手の成績にフォーカスして面白さを作って、試合のシーンをスキップできるようにしたんです。

――確かに、テレビ放映される試合なんて、せいぜい地元のチームと巨人戦くらいだったのに、国民的娯楽として成立していたわけですからね。

薗部氏:
 でも、サッカーはそうじゃないでしょう。点差も1対0とかだし、リアルタイムで試合に立ち会ってギリギリの攻防を観るのが明らかに楽しい。だから、『ダビスタ』みたいにアルゴリズムで試合のワクワク感を再現するのが大事なんだと思いました。

一之瀬氏:
 面白いですね。そういうスポーツゲームにおける要素の抽出の仕方のコツみたいなものはあるんでしょうか。

薗部氏:
 いやあ、そんなものはないんじゃないですか。
 ただ、僕は子供の頃から、野球のゲームを作って、毎日打率を計算しながら友達と遊んだりはしていたので、単純に好きだったというのはあるかもしれません。同窓会に行くと、「お前、やってること変わってないな」と言われますからね。

――子供時代からゲームを作られていたんですね。

薗部氏:
 習字用の緑色のフェルトを切り抜いて、ミニチュアのゴルフコースを何十個も作って、友達と小さいクラブで遊んだりとかね。パソコンゲームも『A列車でいこう』だとか『ジャンピューター』みたいなゲームが好きだったから、「何か」をミニチュアにして、シミュレーションするようなゲームが好きというのはあるかもしれないですね。

 最近もカーリングにハマっていたときに、カーリングの面白さを分析して、それを抽象化してカードゲームにしてみたんです。見た目はカーリングのゲームには見えないのですが、カーリングの面白さを構成する要素で出来上がっているんですよ。

一之瀬氏:
 面白そうですね。

――ちなみに、どういう内容なのでしょうか?

薗部氏:
 カーリングの面白さって、何手も先まで読んで駆け引きする楽しさなんですよ。
 最終的に真ん中に近い場所に置いたほうが勝つのだけど、そこで肝になるのが、上手な人はいつでも真ん中に置けてしまうということなんです。だから、最後の一投で自分が一番近くなるように計算して、その布石として「相手にとって邪魔な石をここに置いておく」とか「2つ同時に弾き出せるようにしておく」とかを先読みして考えていくのが大事です。
 この思考をどうにかトランプのようなカードゲームで再現できないかなと考えたんです。まあ、さすがに売れないと思うので、考えたというだけなんですけどね(笑)。

――その抽象化の度合いは、ちょっと他の人とは桁違いなんじゃないでしょうか。ちなみに、『ダビスタ』は具体的にどういうプロセスで抽象化したのですか?

薗部氏:
 最初にも言いましたが、僕は『ダビスタ』を作るときに「言葉集め」からはじめたわけですよ。
 そうして瞬発力やスタミナのような馬の強さを表す言葉を集約していったときに、この4つのパラメーターによる表現に集約されたのはあります。一口に速さを表現するにしても、「瞬発力」とか「キレがある」とか色々な言い方があるわけで、それを考えぬくんです。

――つまり……表現をグルーピングしていく作業を繰り返したのですか?

薗部氏:
 いや、そういう話ではなくて、もっとこう……瞬発力とは何を表現する言葉なのかということを徹底的に考えたわけです。「スタミナがある馬」という言葉があれば、スタミナとは何かをプログラムでの表現まで含めて徹底的に考える――まぁ、そういう話ですよ。

 例えば、さっき言ったレースにおける4つのパラメータそのものには「距離適性」は入っていないでしょう。でも、明らかにリアルの馬には距離適性が存在している。そのときに、「じゃあ、この馬は1800M~2400Mで適性があることにして……」と距離適性のパラメータを一つ増やすのは一見、楽に思えるでしょう。でも、そんなゲームは底の浅さを見ぬかれてしまうんですよ。

田谷氏:
 あくまでも、スピード・スタミナ・気性・根性が作用する中で、1800M〜2400Mに強い馬という存在が生まれてくるアルゴリズムを試行錯誤する……。

薗部氏:
 例えば、スタミナもスピードもMAXの馬がいたと仮定しましょう。すると、その馬は1200M〜3600Mまで全部走れてしまうわけで、距離適性は消えています。逆に言えば、ここに距離適性の本質が隠れていそうだと見えてきますよね。

――なるほど。

薗部氏:
 そこで僕は――まあ別に隠してもいないから言ってしまうと――「スピードがあるほうがスタミナを消費する」という条件が隠れているんじゃないかと考察したわけです。

一之瀬氏:
 それは、『ソリティ馬』と同じですよ!

田谷氏:
 やはり、そこにたどり着かないといけないですよね。だって、1200Mが得意な馬と1600Mが得意な馬が、単にスタミナのある分、1600Mの方が強いという話が成立してしまいますから。

森本氏:
 でもそれは結果的に、実際の馬の能力に近いのかもしれないですね。

――確かに、スピードとスタミナの消費に相関性がないほうが変ですよね。

薗部氏:
 いや、現実にどうかは分けて考えましょう。我々にとって大事なのは、実際にどうなっているかを突き詰めることではなくて、実際の姿にどう近づけていくかですよ。こういう話も、僕が馬を観察して見つけてきたというよりは、むしろ現実に近づけるためにプログラムをいじる中で、ひねり出してきたものですしね。

 プログラムというのはパッと閃くようなものではないんです。もういじくり回して、こねくり回して、それでもダメだということもしばしばです。最初にレースの部分から作ったという話をしましたが、そもそもこういう作り方をしているので、僕は実際にレースの場面を見ながら調整していくしかないんですよ。

一之瀬氏:
 うぐぐぐ……『ダビスタ』のアルゴリズムを知りたい……。

一同:
 (爆笑)

――切実な言葉が聞こえてきました(笑)。

一之瀬氏:
 こうじゃないかな、と聞きたくなってしまいますね(笑)。

薗部氏:
 まあでも、基本的には「スピード×スタミナ」の四角形の面積が最大の馬が強いという考え方になりますよね。しかし、問題はスピードが変化していくわけで、そのときにどうしたらこの面積が最大になるのかが馬によって違ってくるじゃないですか。

森本氏:
 でも、そういう最大値問題であれば、一定のスピードでゴールに行くのが最適であるという回答になるじゃないですか。実際の競馬は、そう動いていないのが面白いところですよね。

薗部氏:
 もちろん、僕のしているのは現実の競馬の話ではないのだけどもね。ただ、図形を描いて、どの辺でスタートするのがベストになるのか、さらに騎手の能力を掛けあわせたらどうなるのか……みたいなことは延々と考えていますね。

 ただね、こういうレース物というのは、本質的には後出しジャンケンが強いんです。例えば、競輪なんかは先に行った人が必ず不利になるんです。理由としては風の抵抗も大きいけど、やはり足の筋肉を最初に使ってしまうと、後から回復できなくなるのが大きいらしいですね。

森本氏:
 ところが、競馬はそうではない……。

薗部氏:
 後出しが本当は強いはずなのに、ポンと一頭行っちゃう馬が出ると、なんだか強そうに見えるので、「捕まえなきゃ」と馬たちが脚を使ってしまう。そうなると、なし崩し的に一番何もしなかったやつが勝ってしまったりしてね(笑)。

 本来、そのへんは騎手の役割なんですよ。
 言うことを聞かない馬は、先にゴーサインを出してしまうと、いきなり幼稚園の100M走みたいに全力疾走をしてしまう。だから、途中で1位を抜けなければタレるしかないんです。とすれば、そういう馬にはゴーサインはギリギリまで待たなきゃいけない。でも、馬が賢いと話は変わってきて、最初にゴーサインを出しても途中でイキが抜けるから、前にいることが有利になる。まあ、奥が深いですよね。

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