「ゼビウス」がなければ「ポケモン」は生まれなかった!?———遠藤雅伸、田尻智、杉森建がその魅力を鼎談。ゲームの歴史を紐解く連載シリーズ「ゲームの企画書」第一回

「ゼビウス」がなければ「ポケモン」は生まれなかった!?———遠藤雅伸、田尻智、杉森建がその魅力を鼎談。ゲームの歴史を紐解く連載シリーズ「ゲームの企画書」第一回

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『ゼビウス』はどのように企画されたのか

──それでなのですが、実は、今日は『ゼビウス』の企画書を遠藤さんに持ってきていただいたんです。

遠藤氏:
 当時のものを出すのは結構大変なんですよ。

田尻氏:
 (企画書をめくりながら)『ゼビウス』は謎に満ちているのが面白かったですね。ナスカの地上絵みたいに、マップの加減もよく出来ていたのが印象的です。

遠藤氏:
 その辺のことは、まさにこの企画書に書いてますね。ノンブルの3ページに、マップの全体像があるでしょう。これが、ハードに合わせた仕様検討のマップですね。

田尻氏:
 (めくりながら)そうそう、『ゼビウス』のロゴって、コードネームの「V10」を真ん中に入れているんですよ。自分がゲーム作りを始めたときに、「ああ、『ゼビウス』はネーミングもさることながら、こういうセンスも凄まじかったんだな」と痛感したんですよ。だって、コードネームが中央に入ってるなんて……もう格好良すぎですよね。

遠藤氏:
 でもこれ、作ったあとに気がついたんだけどね(笑)。

田尻氏:
 まあ、あとでそれを僕も聞いて、「うーむ」と合点が行ったんですけどね(笑)。
でも、その開発の経緯まで含めて、凄いことだと思います。この企画書にもあるように、『ゼビウス』のロゴ自体が、もう何種類も作ってるじゃないですか……。

遠藤氏:
 そういう話まで含めて、何重にも謎が生まれたゲームだったんでしょうね。

田尻氏:
 しかし、面白いですね。昔の企画書や仕様書が、ちゃんとこういうふうに話として出てくるのが、もう本当に素晴らしいですね。

杉森氏:
 こういう貴重なものを見せていただけると、もう単なるファンに戻ってしまいますね。

──杉森さんにとっては、『ゼビウス』の新しさはどういう部分にあったのですか?

杉森氏:
 当時、謎が深まるという話がよく言われてましたが、僕としては「見た目が凄いゲーム」という印象が一番なんですよ。
 どこか今風のドット絵の捉え方にも通じる、ちょっとオシャレな感じがあるんですね。しかも、メカデザインなんて、いま見てもまったく古びていない。これほどの強力な表現が、あの80年代初頭のゲームの世界に登場してきたことが、まず何よりも衝撃的でしたね。

田尻氏:
 スペシャルフラッグなんか、もう一周してオシャレじゃないですか。ああいう抽象的なものが登場してくるのも驚きましたよね。

遠藤氏:
 この辺のメカをデザインしてくれたのは、いまは「遠山式立体表示法」なんかをやってる遠山茂樹くん(※)ですね。今でも現役なのですが、本当に良いデザイナーだと思いますね。

 僕の作った開発バージョンを、表に出すクリーンナップのために一旦デザイン部に出すことになったときに、たまたま同期だったので彼に頼んだんです。その出来栄えがあまりに良かったものだから、僕が「俺、もう全部キャラクターをお前が描いた形に直すわ」と言って、自分でドット絵を打ち直したんですよ。

※遠山茂樹
バンダイナムコスタジオ所属のデザイナー。『ゼビウス』のメカグラフィックなど、数々のナムコの名作ゲームを手がけてきた。SONYに出向した際には、AIBOの企画にも参加している。遠山式立体表示法は、氏が2002年に開発した赤青メガネで現実と区別できないほどの立体感を表現する技術。

杉森氏:
 ドットの技術も凄まじいと思うんですよ。光の当たり方なんて、リアルじゃないですか。一番明るいところは白く飛んでいて、真っ黒い影も落ちている。あれがもう、とてつもなく格好いいんです。バキュラなんて、もうキラキラ光りながら回ってるように見えましたからね。

遠藤氏:
 アニメーションのコマ割りをかなり多くしたので、当時のゲームとしては動きも優雅だったと思います。バキュラのミソは、一番明るいところの周囲の灰色をちょっと他の灰色と差をつけておいたことなんです。今風に言うとスペキュラーですよ。そうすると、明るいところが際立つんですね。

 その辺は、「さすが僕だわ」と思いますね(笑)。当時、誰も追従できないレベルだったはずですよ。
 理由は簡単で、僕は美術の発想でアプローチしなかったんです。あくまでも理系の、工学屋さんの発想でアプローチしたんです。物理学の理屈で考えると、こういう光のあたり方になると計算して、テストプレイで見え方を検証しながら作ったんですね。

──当時、他のゲームを見ていて、「なんかおかしいぞ」と思うところはありましたか?

遠藤氏:
 そりゃ、あの頃の僕はタカビーな人間でしたからね。「くだらないものを作ってるな」と思ってましたよ。
 だって、すでにアニメーションの世界では、富野由悠季(※)が『ガンダム』を世に問うていたわけですよ。それにも関わらず、当時のゲームに出てくるロボットは、赤・白・青で子供向けのオモチャみたいなものばかりだったんです。

※富野由悠季
アニメ監督。「ガンダム」シリーズの生みの親。遠藤雅伸氏はファンを公言しており、このインタビューでも、富野氏が監督した『伝説巨神イデオン』からの影響が語られている。

 まあ、もちろんゼビウスの場合は、カラーパレットが3色から8色に増えたタイミングだったんですけどね。ただ、これは我ながらパラダイムシフトだったと思ってるのですが、僕は多色化をグラデーションに使う方向に振ったんです。他のクリエイターが多くの色を使う方向で考えていた中で僕はむしろ色素を飛ばして立体的に見せるほうに力を注いだんです。

──バキュラとか、立体感が凄いですものね。

遠藤氏:
 今となっては、もう『ゼビウス』の玄人筋からの評価は、プログラムやゲームデザインよりは、グラフィックになってますからね。

 当時、古車屋の看板で最初からパースが付いたデザインなのに、グルグル回してるのがあって、それを取り入れたんです。実は、あの「バキュラ」って、形状としては長方形が8コマ回しで台形に変化するのを繰り返してるだけなんです。でも、そこに輝度変化を加えると、一気に奥行きが表現できてしまうんですね。
 ちなみに、色数を犠牲にして、グラデーションで輝度変化させる演出に振り向けたお陰で、メタリックで無機質な印象が生まれたのは面白かったです。サウンドの方でも、非常に速いテンポで音を出すことで、その印象を強めてます。相手を「殺す」というよりは、何かが飛んで行って「壊れる」という見せ方にしたかったんですよ。

杉森氏:
 あと、個人的にはアクションゲームで「敵が自分を見ている」という感じを出す重要性を教えられた気がするんですね。

──「敵が狙っている」ような感じですか?

杉森氏:
 ええ。特に昔のゲームって「右から左へ行って、そのまま崖から落ちていく」みたいな敵が出てくることが多かったんですよ。それに対して、『ゼビウス』は明らかに敵に意思があることが画面から感じられるんです。僕は、これを今でも大事にしていて、何か敵を出すときに「こっちを狙ってきている」という感じが出ているかを注視していますね。

遠藤氏:
 『伝説巨人イデオン』の敵メカには、全て不気味なまだら模様をつけて、点滅させたんですよ。心拍数と同じペースの点滅には緊迫感が生まれるので、『ゼビウス』では、その辺りの間隔で光るように調整しています。確かに、今でもユーザーから「敵に結束が感じられた」とか「何か意思のようなものを感じた」と言われるんですね。僕は、こういうのも「ナラティブ」なんだと思ってます。

「新しい謎を知るたびに遊びたくなった」(田尻氏)

──田尻さんにとっては、『ゼビウス』が他のシューティングゲームと大きく違ったのは、どういう部分なんですか?

田尻氏:
 やはり、さっきも言ったように「謎」ですね。都市伝説のような噂話もそうだし、ゲームの中に意図的に仕掛けられた謎もそうです。
 例えば、ゲームを始めてすぐに画面右端をブラスターで撃つと、隠しメッセージが出てくるじゃないですか。なかなか遊んでるときには気づかないですが、あとで知ったらプレイしたくなりますよね。そういう仕掛けが何重にもあって、謎が深まっていって、新しい謎を知るたびにまた遊びたくなって、心に残っていくんですね。

──ちなみに、「プレイするたびに謎が深まる」というキャッチコピーは遠藤さんが考えたものなんですか?

遠藤氏:
 あのキャッチコピーは、エラい人が考えたんだよね……。

田尻氏:
 当時のチラシや資料には、「ファードラウト伝説」という言葉とか記号が入っていましたよね。

遠藤氏:
 まあ、経緯を言ってしまうと、その辺の記号や伝説は色々な経緯があって作ったものなんですよ。ある日、誰とは言いませんけど、とある人が「いやあ、遠藤くん、名前決まったよ。ゼビウスだよ」と言ってきたの。で、「どういう意味ですか?」と聞いたら、「いやあ、特に意味はないんだけど、濁点がついてて、強そうでしょ」とか言われるわけ。

杉森氏:
 まあ、実際のところ、名前を音の響きで決めることはありますけどね(笑)。

遠藤氏:
 ちなみに言うと、その人はプロトタイプを見せた時に、「何が面白いんだ」と言ってきたから、喧嘩した人なんですけどね(笑)。

 その人は、ある程度ゲームが出来てきたら、今度は「いやあ、面白くなってきたから、ナスカの地上絵を入れようよ」なんて言って、今度は地上絵を入れてきたりしてね。でも、僕はそういう全てを取り込む世界観を作ってやろうと思ったんです。ナスカの地上絵も、何の意味もない名前のゼビウスも取り込んで、全てを意味があるものにしてやろうと。

 しかも、さらに今度は上の人たちが、当時話題になってたグランドクロスという「惑星直列」を取り入れたいと言い出したんですよ。「あれ、ゲームのなかに取り入れてよ」なんて言われて、「どうやって取り入れるんだよ!?」と思ったよね。

一同:
 (笑)

遠藤氏:
 でも、「じゃあ、わかりました」と答えるんです。ある平面を中心に、90度ずつ前後左右上下の6方向に星が重なったとき、その中心点でなにか起こるという設定を入れます、と。それで、ファーは6、ドラウトは重なるという意味の言葉を作って、「6つの星が重なったときに、そこでいろんな現象が起こるんですよ」ということにしたんです。それで生まれたのが、「ファードラウト伝説」です。

 で、惑星直列が起きる中心点を地球にして、それが向こうの国の言葉では、ゼビは4でウスが星で、地球はゼビウスという「4番目の星」という意味にしたわけです。凄いでしょう、この厨二病的な解釈(笑)。
 でもさあ、僕に言わせれば、地球は自転をしていて、さらにとんでもない速度の中で公転しているわけですよ。その中で平面上の6つが重なることなんて、本当に一瞬の出来事でしかないんだよ。でも、偉い人たちの中では、なんか惑星が徐々に重なっていくイメージだったらしくて、そこにロマンを感じてくれたみたいですね。僕としては、単に「はあ、そうですか。シメシメ」だよね。

田尻氏:
 でも、そういうせめぎ合いの中から、こういうゲームは生まれるんだと思いますよ。

遠藤氏:
 まあ、こういうムリヤリな制限があったからこそ、良くなった部分もあるのは事実なんですよね。実際、そういうふうに設定を構築して、断片的な情報を与えていったというのは、今にして思えば「ナラティブ」の先駆けでしたね。

田尻氏:
 ナスカの地上絵の中心を打つと7万点が入るという噂にも、相応の根拠があったわけですよね。

遠藤氏:
 そうそう。一応、6つの星から送られたエネルギーを受け止めるためにソルが存在して、そのエネルギーを受けて活動を始めるという設定があるんです。それで、ノストラダムスの大予言で予言されている「恐怖の大王」というのは、2012年のソルの活動で引き起こされる話だったということにしました。
 まあ、別にいくらノストラダムスの元の詩を読んでも、「人類が滅亡する」なんてどこにも書いていなくて、「ちゃんと読めよ、お前ら」と思いながら作ってましたけどね(笑)。

──そういうお話は、ストーリーとして公開されていたんですか?

遠藤氏:
 ええ。その光景を流れ星として少女が見ているとか、さらに細かい話もあるんですよ。ちなみに、ソルはエネルギーで起動するのだけど、ブラスターを打ち込まれると、それをエネルギーと誤認識して起動してしまうんですね。ま、いかにも理系の人間がつじつま合わせで考えたような厨二設定ですね。

──ずいぶんと凝ってますよね(笑)。

遠藤氏:
 ストーリーについては、富野監督の『伝説巨神イデオン』へのオマージュが多いですね。『イデオン』に出てくる宇宙船も地下に埋まっているでしょう。
 あと、『ゼビウス』の場合は、遺跡だけ残して出て行った連中が戻ってきたら、氷河期で絶滅するはずだった人間たちが、空き巣みたいに文明を発達させていたわけですよ。その遺跡を残した連中のイメージや、対立する両者に正義があるという設定も『イデオン』からのインスパイアがありましたよね。

──富野監督の影響がこんなところにも……(笑)。でも、こんなに細かく設定が決まっていると、噂が流れたときにはどう対処するんですか。

遠藤氏:
 意図していない形で出たときは、「いや、あれは違うんだよねえ」と、ボソっと言うだけですよ。全てを語る必要なんてないんです。
 まあ、でも色々といじくられたお陰で、どう掘られても怖くないくらいに理論武装されたというか、厨二病的に響く世界観になったのは間違いないですよね。

田尻氏:
 『ゼビウス1000万点の解法』を初めて読んだときに、すべてのキャラクターに名前があることに、ショックを受けたんですよ。ここまで作り込まれているのか、と。
 でも、自分が実作者に回ってみてしみじみ分かったのが、キャラクターに名前がついていることの大切さだったんです。

遠藤氏:
 ええ。名前をつけることで、色んなことが定義されるんですよ。
 僕は、これを言語学から学んだんです。例えば、もしライオンに名前がなかったら、「鋭い爪と牙を持ち、たてがみがある動物」とかって表現するしかなくて、ただ不気味に怖いけれども、一たびライオンという名前がついてしまえば、意味不明な怖さは消える。名前がつくと、それが本質的に秘めているか危機がどの程度かを理解できるようになって、安心を生むんですよ。
 だから、僕は制作の際にも、ひとまず名前つけておきますね。開発の名前のコード順にゼビ語っぽい雰囲気でつけたり、色々とやったものです。しかも、あとで米国支社から「売りたいなら、呼びやすいように名前を変えろ」と命令されたりしたので、最終的にはコードネームとゼビ星での呼び名に加えて、実際の名前という三つ目の名前が並ぶ羽目になったりね(笑)。

杉森氏:
 でも、ユーザー視点では、そういうふうに複数の名前があることが、もう単純に格好良かったですね。コードネームという単語にも惹かれましたしね(笑)。

遠藤氏:
 名前については、相当にこだわったんですよ。兵器や戦艦の名前には一貫性を持たせています。
 当時、受験生がみんな持ってた「豆単」という英単語帳から最重要単語を取り出して、みんなで片っ端からゼビウス語に置き換えたんです。「大きい」は「ガル」、「奇跡」は「ザカート」みたいな感じです。そうやってゼビウス語の基本を作ってしまって、大きいものには全て「ガル」を入れるんです。すると、奇妙な響きを持ちながらも一貫性がある名前になって、何か「神話性」のようなものが生じるんです。こういうのも、今でいうところのナラティブなんだと思いますよ。

──ほとんど、言語を丸ごと一個作ったような……。

遠藤氏:
 あれだけの派生コンテンツを作れたのは、最初に世界観を徹底的に構築できたのが大きかったように思いますね。

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