【堀井雄二インタビュー】「勇者とは、諦めない人」――ドラクエが挑んだ日本人への“RPG普及大作戦”。生みの親が語る歴代シリーズ制作秘話、そして新作成功のヒミツ

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DQ3、4、5、6…その誕生秘話とは?

――先程の、「淡々とした世界観で意表を突いてくる」というのは、今作にも繋がる堀井雄二のストーリーテリングのキーワードではないでしょうか。実は前作までディレクターを務められていた藤澤仁さん【※1】が、かつて堀井さんのプロットの最大の特徴として「意外な展開」をあげていたんです。『ポートピア連続殺人事件』【※2】や、まさに「伝説」になった『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(以下、『ドラクエIII』)【※3】のラストがその典型ですけれども。

※3 ドラゴンクエストIII そして伝説へ… ……1988年にエニックス(当時)より発売されたファミリーコンピュータ用RPG。エンディングの衝撃的な展開などが相まって爆発的な人気を誇った。
(画像:編集部撮影)

※1 藤澤仁
スクウェア・エニックスのプロデューサー/ディレクター。『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』、『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』にシナリオスタッフとして関わり、『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』や『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』のVer.1ではディレクターを務める。「ドラゴンクエスト」シリーズに関わったキッカケは、堀井雄二のシナリオ制作アシスタントを務めたことから。

※2 ポートピア連続殺人事件
堀井雄二氏が手がけたアドベンチャーゲーム。1983年にエニックス(当時)よりコマンド入力式のPC版が発売され、1985年にはコマンド選択式となったファミコン版が発売された。主人公の刑事は、相棒のヤスとともに神戸で起きたある殺人事件の解決に奔走する。

堀井氏:
 「ビックリさせたい」というのは常にあります。イタズラ心があるんですよ、仕掛けてやりたいという。これはゲーム作りの楽しさでもあるんです。

――実は「星新一のショートショート」のような、ひねりの利いたどんでん返しを繰り出す才能は、物語作家・堀井雄二を語る上で欠かせないと思います。しかも、よく言われるように『ドラクエIII』で、堀井さんたちの日本人向け「RPG啓蒙大作戦」が一段落して、もう『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』(以下、『ドラクエIV』)【※】からはどんどん新しい要素が入ると同時に、ストーリーも驚きと複雑さを増していきました。

※ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
1990年にエニックス(当時)より発売されたファミリーコンピュータ用ソフト。AIによる戦闘システムや、5人以上の仲間キャラクターと同時に冒険できる馬車システムが導入された。

堀井氏:
 『ドラクエIII』をもって、僕の中で「ドラクエ」は一つ終わりを告げました。いや……終わりを告げるは語弊がありますね(笑)。『ドラクエIII』で、やりたかったことを全てやり終えた感がありました。

 あのゲームは、意外なイベントを考えるところから入ったんです――ゲームでどんなことが起きたら面白いだろうって。「1日王様」をしたらどうだろう、宿屋に泊まって起きてみたら誰もいなかったらどうだろう……そんな風に面白くなっちゃうアイディアをたくさん、たくさん詰め込んだ。

 そうしたらストーリーも長くなり、かなりのヒットもしてしまった。果たして、僕は次で何をすればいいのか……と思い悩みました。
 そこで思ったのが、『ドラクエIII』で仲間にしたようなキャラクターにも「人生」があるはずだということでした。仲間にした連中にも人生がある、だったら彼らだって自分の命令をそのまま聞くはずはないし、自分が思うようにはならないんじゃないか――と。

 で、次の作品では、キャラごとの章立てにして、AIも入れてみました。

『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』
(画像:編集部撮影)

――『ドラクエIV』でAIを入れた理由は、「思うように動いてくれないようにするため」だった(笑)。

堀井氏:
 あえて『ドラクエIV』では「めいれいさせろ」を入れなかったですからね。まあ、おかげでクリフト【※1】が「ザラキ」【※2】ばかり唱えることになっちゃったけど、そういうのも「人間くささ」じゃないですか? ただその反省もあって、次からはAIに先入観をつけるようにしました。
 つまり、ザラキはまず効かないだろうという先入観です。で、たまたま唱えてみて、そのモンスターに効いたら、それを覚えておいて次からは唱えやすくなるという。

※1 クリフト
『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』に登場する仲間キャラクターのひとり。同作では、AIに頼らずプレイヤーが仲間キャラクターの行動を選択できるシステム「めいれいさせろ」が導入されておらず、ボス相手に効果のない技を連発してしまうという現象が起きた。

※2 ザラキ
「ドラゴンクエスト」シリーズにおける呪文で、成功すると、かけた対象を即死さることができる。ただし一部のモンスターにはまったく効かないこともある。

――学習能力を持たせた、と。でも『ドラクエIV』のあれはあれで昨今の単に頭が良いAIより、かえって印象的なキャラづけだった気がします(笑)。そして、次は『ドラクエV』ですね。いま思えば、子供向けとは思えないほどの、とてつもなくヘビーで骨太なストーリーが印象に残る作品ですね。

『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』(画像:編集部撮影)

堀井氏:
 『ドラクエIV』を終えて、また『ドラクエV』は何を売りにしようかと悩みました。で、じゃあいっそ「ゲームで真剣に悩む」ことをプレイヤーにしてもらおうかな、と。

 それが結婚でした。これは、やっぱり驚きますよね。

――そりゃもう(笑)。

堀井氏:
 ルドマン【※】も、ユーザーが話しかけるだろうと思ってちゃんと仕込んでおくと、ああいう風に驚いてくれますしね。

 そして魔王を倒すのもいっそ三代かかるものにしてしまえ、と。ただ、既存の作品で同様のプロットのものは、キャラクターがどんどん入れ替わって戦うだけなんです。それではつまらないから、もういっそ主人公が子どもから大人になって、さらに親になって、自分の子どもと一緒に敵を倒すという物語にしてしまいました。

※ルドマン
『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』に登場する、太っ腹の大富豪キャラクター。プレイヤーは作中で通常、ルドマンの娘・フローラか、幼なじみのビアンカのどちらかを結婚相手として選ぶことになるのだが……。

――そのタイムスケールで物語を紡ぐのは、ほとんど神話の領域のストーリーテリングだと思うんです。近代以降の小説や映画の物語の発想ではないですよね。ただ、面白いのは次に、思いっきり内面の悩みを抱えた主人公の『ドラゴンクエストVI 幻の大地』(以下、『ドラクエVI』)【※】が来るところで……(笑)。

※ドラゴンクエストVI 幻の大地……1995年にエニックス(当時)より発売されたスーパーファミコン用RPGゲーム。国内での売り上げは約320万本とされており、爆発的なヒットを記録した。『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』、『ドラゴンクエストV 天空の花嫁 』合わせて「天空三部作」と呼ばれることも。
(画像:編集部撮影)

堀井氏:
 あれは当時、90年代の「自分探し」が流行っていた世相を反映してみました。

 「幻の大地」というタイトルで、下の世界に落ちてみると、自分が見えない。「ああ、なんか変な夢の世界だなあ」と思ったら……ビックリという。まあ、あれも悩んだ挙げ句に、ひらめいた設定ではありますけどね。

――『ドラクエVI』は1995年の作品ですね。TBSの野島伸司ドラマ【※1】や『新世紀エヴァンゲリオン』【※2】なんかと、同じ空気を吸って作られていた、と。でも実は『ドラクエI』が生まれた80年代なんて、そもそもファンタジーが隆盛していた時代ですし、「ドラクエ」にも他のサブカルチャーとの同時代性があるんですよね。

※1 TBSの野島伸司ドラマ
野島伸司は、1963年生まれの日本のテレビドラマ・映画の脚本家。90年代前半に放映された『高校教師』(1993年)、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(1994年)、『未成年』(1995年)を指して「TBS野島三部作」と呼ばれている。作中では「本当の自分」というフレーズが多用され、教師と生徒の恋愛・同性愛・近親相姦・いじめ・自殺など「社会的タブー」とされる現代社会の暗部がセンセーショナルに描かれた。

※2 新世紀エヴァンゲリオン
1995〜1996年にかけてテレビ東京系列で放映されたアニメ作品。庵野秀明が監督を務めた。「汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン」の操縦者としての運命を辿ることとなった少年少女たちの物語で、その世界における彼らの内面的葛藤の描写が作品を特徴づけている。セカイ系と呼ばれる、主人公を取り巻く小さな環境が、大きな世界の存亡やこの世の終わりなどに直結している作品群の代表作でもある。

堀井氏:
 僕は、けっこうミーハーなので、その時代の事件とか世相には、すごく敏感なんです。いろいろアンテナを張っているというか。そういう意味で、時代の影響を受けているともいえますね。

※ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち……2000年にエニックス(当時)より発売されたPlayStation用RPGソフト。対応ハードがPlayStationに変わったことに伴い、グラフィックに3Dポリゴンを採用したことでも話題となった。日本のPlayStation用ソフト歴代出荷本数第1位を誇る。
(画像:編集部撮影)

 次の『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』(以下、『ドラクエVII』)なんかも、発端はROMからCD-ROMになって容量が増えたから、じゃあ「それを活かして広大な世界を作ってみよう」という感じです。

 ただ最初から広大過ぎると、プレイする側もしんどいだろうと思い、「世界には一個の島しかない」というところからはじめました。その方が、やる気になるはずだと。そして、集めるものはマップにしちゃおうかな、と。今までオーブとかを集めてきたけど、いっそマップを集める方が面白いんじゃないかと思ったんです。

――ちなみに『ドラクエVII』って、やたら重くて暗い話が多かったですが、あれも発売当時の世相の反映ですか?

堀井氏:
 そうですね。まあ、人生を生きてたら、救われないことも多いですよ。

勇者とは「諦めない人」

――その後、ディレクターに藤澤さんの名前がクレジットされて、プラットフォーム的挑戦の色合いが強い『ドラクエVIII』、『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』【※1】、『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』【※2】が続いて、今回になった……という感じでしょうか。でも、改めて思うのは、やはり「ドラクエ」の大きな魅力に、そもそもストーリーがあり続けてきたことですね。

※1 ドラゴンクエストIX 星空の守り人(画像右)……2009年にスクウェア・エニックスより発売されたニンテンドーDS用RPGソフト。従来通りのシングルプレイの他、同作本編シリーズとしては初のMORPG要素を取り入れた作品である。画像左は『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』。
(画像:編集部撮影)

※2 ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン
「ドラゴンクエスト」ナンバリング作品として、2012年8月にWiiでサービスインしたMMORPG。その後PCやPS4など、様々なプラットフォームでもリリースされた。プレイヤーは「アストルティア」という世界を舞台に、さまざまな種族の物語を体験し、この世界に潜む脅威を明らかにしていく。

堀井氏:
 ええ。今回も、ストーリーはかなり煮詰めていますよ。「こうだと思ったら違った」みたいな予想の一個上をいく仕掛けをたくさん詰め込んでいますから。

 ちなみに、今回の『ドラクエXI』のテーマには「仲間」というキーワードもあります。その辺は……今の時代を意識したのかも?

――えっ、どういう意味ですか?

堀井氏:
 なんか、ゲームをするという行為そのものが、どうも「人間くさく」なってきた気がするんですよ。

 30年前とは違って、ゲームをプレイすることは普通でしょう。すると、あの頃と違って、みんな「仲間」というものが自然に分かるものになってきている気がしたんです。

――『ドラクエI』で一人で旅させて、『ドラクエII』で二人の仲間を集めさせて、『ドラクエIII』では仲間を自分で作らせて……という調子で、RPGを日本人に啓蒙していた時代とはもう違うぞ、と。

堀井氏:
 まあ、なんとなく思ってるだけですけどね。王道をやりながらも、時代時代のテイストを入れていく。新しいことにも挑む。という感じでしょうか。

――ちなみに、今回の『ドラクエXI』では「勇者」が大きなテーマに据えられています。この「勇者」というキャラ設定こそ、まさに日本人の脳内に堀井さんが植え付けられた概念ではないでしょうか。

堀井氏:
 いやいや、恐縮です(笑)。

――今や「小説家になろう」【※】なんかで、毎日のように勇者のパロディが書かれてますが、その全ての源流はほぼ堀井さんの発明したに近い「勇者」の概念であるように思います。ただ、そもそも堀井さん自身が勇者の設定を『ドラクエV』以降、ずっとヒネり続けていて、実は「ドラクエ」の中でメタ的な考察や冒険を散々やってる気もしているんです。

※小説家になろう……株式会社ヒナプロジェクトが提供するインターネット小説投稿サイト。『魔法科高校の劣等生』、『オーバーロード』、『この素晴らしい世界に祝福を!』、『Re:ゼロから始める異世界生活』などの有名作がここから生まれた。画像は『この素晴らしい世界に祝福を!』。
(画像はAmazonより)

堀井氏:
 ええ、実は長らく正面から扱うのは避けてきました。まあ、そこを30周年だから真っ正面からいってみました。

 といいつつ、王様に会いに行って「勇者です」と言ったら、大変なことになっちゃうんですけどね(笑)。やっぱり、みんなを驚かせたいんですよ。まあ、トレーラーで何度も流れたので、あまり驚きの効果はなくなっちゃいましたけど。

――なるほど。そういう意味では、堀井さんの考える「勇者」の定義ってなんなんですか?

堀井氏:
 「諦めない人」ですね。

 人間だから、やっぱり失敗もします。でも諦めない、めげない、挑戦し続ける――そういう人は、みんな「勇者」だと思います。今回もそうですけど、「ドラクエ」の主人公は悲惨なことが多いですからね。

 でも最近の傾向として、みんなが「勇者」になりたがっている気もするんですよ。

――どういうことでしょうか?

堀井氏:
 最近、「リアル脱出ゲーム」みたいなイベント参加型の遊びが増えていますよね。そして、インスタ(Instagram)があって、Twitterがあって、みんなが自分のプロフィールを持っていて、ネットで冒険に出ている――そんな気がしませんか。僕は、誰もが「楽しもう!」と思っている時代に生きている気がするんです。「どんどん、やろうよ!」ってね。

 だから、勇者という存在は、今とても身近なものになっている気もしますね。

堀井雄二が毎度悩むのは…魔王

――それにしても、もはや「ドラクエ」の「勇者と魔王」という対比構造って、今や日本人にとって桃太郎みたいなレベルで浸透している気がしていて、ここについては一度、堀井さんにお会いして、どういう感想をお持ちなのか聞いてみたかったんです。

堀井氏:
 まず、僕は「王道」は素晴らしいと思うんです。
 やはり色々な意味で継続性があるのは王道で、キワモノというのは逆に一回きりのものにしかならない。だから、毎回倒すのが魔王であるのは、とても良いことだと思います。

 ただ、どういう魔王かは毎回違っていいし、そこに至る過程は毎回違う。そのほうがユーザーは楽しめると思うんです。そこは刑事ドラマが、結局は犯人を捕まえるだけのストーリーなのに、色々なパターンが生まれるのと同じことだと思います。

――ただ、「王道」と「意表を突く」ことにはバランスの難しさがありますよね。実は堀井雄二という人はその感覚があまりに絶妙すぎて、かえってこうしてお会いするとすぐ分かるような、RPG定番設定への鋭い問題意識なんかが見えにくくなっている気もしていて……その辺はどうお考えですか?

堀井氏:
 うーん……例えば、「魔王を倒しに行ったら……誰かが倒しちゃってました!」は、確かに意表を突いているけれども、やっちゃいけないことですよね。

 これでは「意表を突く」ではなくて、ただの「肩すかし」です。やはり王道であるからには、主人公が頑張って欲しい場面では「やったぞ!」という達成感をがつんと与えなければいけない。これは大事なことだと思います。

――なるほど。ちなみに、そういう意味では「勇者」の王道は分かりやすいですが、「魔王」の王道って、どんなものですか? 毎回、かなりバラエティに富んでいますが。

堀井氏:
 それ、本当に悩むんです!
 毎回毎回、もう魔王ってどういう悪さをしてるのか、いつも悩んでますよ。だってよく考えると、特に悪さをしてなかったりしますもん(笑)。

 しかも、よく「だったら勇者をレベル1のときに倒したらいいじゃん」とか言われるでしょ。これもゲームにならないから、本当に困る……。

――まあ、確かに「勇者論」はよく聞きますけど、「魔王論」ってあまり聞かないですよね。

堀井氏:
 ……毎回悩んだあげく、絞り出すようにして作ってます。一応、最初に決めるものではあるんですけどね。

クロノ・トリガー……1995年にスクウェア(当時)より発売。「FF」坂口博信氏や「ドラクエ」堀井雄二氏、「ドラゴンボール」鳥山明氏らが手がけたRPGゲーム。国内外で非常に評価が高く、後にPS版やDS版なども発売され、スーパーファミコンのオリジナル版同様に人気を博した。
(画像はスクウェア・エニックス公式サイトより)

 例えば、『クロノ・トリガー』も真っ先に「星を滅ぼすもの」にしようと決めて、いつでも会えていつでも倒せるやつを入れて、意表を突いたりして……。でもホント、毎回悩みます。

――実は堀井雄二も、魔王には明確な「こうあるべき」を持ってない。ただ、今回の魔王はわりと賢くやってますよね?

堀井氏:
 現代って、昔と違って、もうただ「悪い」と言っても、誰も納得しないでしょう。実際に悪いことをしていないと、悪にならない時代だと思いますよ。だから、どうしても魔王も勇者に対抗して、いろいろ動いているわけです。

ドラクエが愛される理由とは?

――さて、そろそろ時間なのですが、最後に一つ、堀井さんにお会いして聞きたかった質問をしていいでしょうか。
 ……堀井さんにとって、エンターテイメントとは、どんなものでしょうか? 例えば、任天堂の故・岩田社長【※】は「僕らは生きるのに必要のないものを売っている」という話をよくしていました。このテーマを、いつも考えるんです。

※岩田社長
岩田聡。任天堂株式会社 前代表取締役社長。2002年に42歳の若さで任天堂の代表取締役社長に就任。数多くのソフトをはじめ、ニンテンドーDS、Wii、ニンテンドー3DS、Wii Uなどのハードを世に送り出し、Nintendo Switch開発さなかの2015年に急逝している。

堀井氏:
 そうですね……あえて悪く言うと、きっと「現実逃避」なんですよ。これはゲームに限らず小説も映画もそうで、現実で嫌なことを一瞬でも忘れて没頭できる――まずは娯楽の役割は、ここにあると思います。

 でも、僕はプレイヤーが現実に戻ってきたときに、逃避した場所で何かを得ていてほしいな……とも願っています。ゲームを振り返って「ああ、やっぱり人生って楽しいな」と思って欲しい。あるいは人生に行き詰まったときに、ふと何か解決するヒントになって欲しい。

 そういうことができたら、なんて素晴らしいんだろうと、いつも思うんです。オンラインゲームは長時間遊ぶことになるので難しい面もありますが、ゲームがきっかけで結婚する人もいて、本当にゲームで人生を変えていると思います。

――そういう意味では、僕らなんて成功体験がむしろゲームで形成されていたりしますからね。学校の卒業式のように、『ドラクエV』の結婚式が思い出に残ってる人もいるかもしれない。ゲームのそういう部分って、本当に凄いと思うんです。

堀井氏:
 僕は、ゲームって一種のコミュニケーションツールだと思うんですよ。『ドラクエⅨ』の「すれちがい通信」【※】も、まさにそういうものです。

 誰かと見に行った映画や、誰かと一緒に聴いた楽曲って、一人で味わったものよりも思い出になりやすいですよね。それは、思い出というものが、人に結びつきやすいからです。

 僕は「ドラクエ」がこんなに愛されている理由も、やっぱり「思い出がいっぱいある」からだと思っています――「俺、たいようのいしを一番最初に見つけて英雄になったんだよ!」と、自慢した記憶とかね。色んな人との思い出と一緒にあるからこそ、「またやってみるか」という気になると思うんです。

――本当にそうですね。となると、「では、なぜ“ドラクエ”には思い出を生み出す力があるんですか?」と聞きたくなるのですが……残念ながら、時間切れですね。
 ちなみに最後に余談なんですが、今回の作品のエンディングを見てしまうと、今後「ドラクエ」は何を描くんだろうと思ってしまうのですが……どうするんでしょうか?

堀井氏:
 ……今、すごく悩んでます(笑)。次、どうしたらいいんだろう……って。

一同:
 (笑)

堀井氏:
 エンディングについては、本当はキーワードとして言いたいこともあるんですけどね。でも、これは僕の癖のようなものですが、最終的な考察の判断はユーザーに任せたいんです。こっちで提供するより、あーだこーだと言ってほしい。だから、あえて未完成な部分を常に残しておきたくもあって……。

 好評だったぶん、次作は本当に悩みますね(笑)。

――でも、お聞きしていると『ドラクエIV』以降、ずっと堀井さんは次作に悩んでいる気がしますので……(笑)。きっとまた新しい「ドラクエ」も悩みを乗り越えて、「意表を突いた」内容になるんでしょうね。今日は本当にありがとうございました!(了)

 電ファミでは初となる堀井雄二氏のインタビュー、いかがだったろうか。
 氏が多忙なこともあり、なかなか時間を頂くのは大変だったが、普段の堀井氏のインタビューでは聞けない話が、色々と聞けたのではないかと思う。

 さて、冒頭で新作が「なぜ高い評価を受けたのか?」と書いたが、その答えの一つは「ストーリーの魅力」にある。特に後半のストーリー展開への評価は、インターネット上で極めて高い。そして、このインタビューを読めば、こういうストーリーの魅力が、当初からドラクエに欠かせないものだったことが、よく分かるはずだ。

 そもそも「ドラゴンクエスト」は、漫画原作者でもあった若き日の堀井雄二氏が、RPGというジャンルに大々的にストーリーテリングを導入したシリーズ作品である。後に「FINAL FANTASY」や「テイルズ」のようなRPGが出たこともあり、今やその印象はだいぶ薄れているのかもしれないが、日本人のRPGの「物語元型」ともいえる様々なイメージを提供したのは「ドラクエ」、そして堀井氏に他ならない。その素朴な魅力は、新作にもやはり十全に込められているように思う。

 取材の中でも話に出たように、いまや堀井氏の生み出した勇者をめぐるストーリーやRPGの定番展開は、大げさでなく、ある世代以下の日本人には「桃太郎」などの寓話に匹敵する共通知識となっている節さえある。それは並大抵の作家に可能なことではない。
 だが、そんな堀井氏の卓越した作家性を正面から評価したのは、筆者の知る限りではただ一人――第149回芥川賞作家にして、ドラクエブームの最中に小説『ノーライフキング』を著したいとうせいこう氏のみだ。氏はエッセイの中で、『百年の孤独』のガルシア=マルケスらに匹敵する稀代の物語作家として、その才能への「衝撃」とともに堀井氏を高く評価したことがある【※】

 今回の取材では、短い時間の中ではあったが、そんな語られざる堀井氏のストーリーテラーとしての才能にまずは素朴に迫ってみたつもりだ。また次の機会があれば今度は、漫画原作者ではなくゲームクリエイターとしての人生を選んだ若き日の堀井氏が――いかに物語をゲームシステムにおいて表現していったのか、を深く追いかけられればと思う。

【※】いとうせいこう著『全文掲載』(1992・新潮社)より引用

 堀井雄二を始めとするドラクエ・スタッフは、娯楽文化の可能性において、すでにディズニー・ファミリーと比較して語られるべきだし、特に堀井氏の物語作りの技術は、ガルシア・マルケス等、ラテン・アメリカ文学の豊穣さを称揚する言語で語られるべきだ。

 その意味で言えば、ドラクエIVは新しい批評言語を要求しているといってもよい。それはもはやTVゲームの中の人気ソフトの域を越え、ひとつのジャンル、ひとつのメディアなのだ。

<中略>

 ヨーロッパを始めとする世界の激動を前にして、いわゆる「現実」に拮抗し得る力を持ったいわゆる「虚構」はあり得ないと思っていた。

 今、私は頭を丸めたいような恥ずかしさに責めさいなまれている。

 堀井雄二はそれをやり遂げたのだ。TVも小説も音楽も諦めていたそれを、である。

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 「ドラゴンクエスト」と肩を並べる、日本が世界に誇る名作シリーズ「ゼルダの伝説」。最新作『ブレス オブ ザ ワイルド』の開発秘話を、スクウェア・エニックスの藤澤仁氏と共に、任天堂・青沼英二氏に伺いました。

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インタビュアー
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
インタビュアー・著者
ライター・編集者。
Twitter:@jamais_vu
インタビュアー
電ファミニコゲーマー副編集長。「ニコ」出身。
Twitter:@daichittax

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