「『クトゥルフ神話TRPG』は女性プレイヤーが多い」という話を聞いたことはないだろうか。電ファミニコゲーマーではこれまで、アナログゲームの祭典「ゲームマーケット」や、クトゥルフ神話を題材とした「LARP」などを取材してきたが、取材する側から見ても、女性プレイヤーの姿はよく目にする。
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これは具体的な数字があるわけではないが、筆者自身もいち女性TRPGプレイヤーとして、『クトゥルフ神話TRPG』における女性プレイヤーの多さは肌で感じている。
その背景にはニコニコ動画に投稿されているような“リプレイ作品”の影響が大きいと思われるが、そもそも彼女たちは『クトゥルフ神話TRPG』のどこに魅力を感じているのだろうか。
そこで、現役の女性プレイヤーに話を聞くべく、2017年9月1日から3日まで熱海のホテル大野屋で行われた、二泊三日でTRPGを遊びまくる宿泊イベント「TRPGフェスティバル」で取材を実施。
全体レポートは後日公開予定だが、先んじて、女性プレイヤーに『クトゥルフ神話TRPG』の魅力を聞いた来場者インタビューをお届けする。
なお、イベント参加者の男女比は7:3だが、会場で行われた『クトゥルフ神話TRPG』のフリープレイ卓では、実に約半数近くが女性という状況だった。
クトゥルフ女子1:Yさん
こんにちは。女性をメインにインタビュー中なのですが、お話聞かせてくださいませんか?
……ショゴス【※】…… ショゴス可愛い!
へ、へえ!?
あとテケリ・リ!【※】も……。
※テケリ・リ!
ショゴスの鳴き声。
な、なるほど(SAN値【※】減少)。えーと、Yさんはそういった神話生物から『クトゥルフ神話TRPG』に入られたんでしょうか。
※SAN値
TPRG『クトゥルフの呼び声』における、どれだけPCが理性を保てているかを表す指標「正気度」を示すパラメーター。ショッキングな場面や宇宙的事象に出くわしたときに減少し、「一時的狂気」や「不定の狂気」に陥る。ゼロになるとPCとしては復帰不可能となる。
そうですね。クトゥルフの神話生物たちは実写ドラマのようにリアルにもできるし、アニメのようにデフォルメして可愛くもできる。神話生物は、許容範囲が広いと思うんです。そういったアレンジの幅が広いのもいいですよね。あと「狂気」【※】のロールプレイが好きなんですよ。
※狂気
常軌を逸脱した精神状態。TRPGでは正気度、通称「SAN値」を一度に減少すると陥ってしまう。
ではあまり物語方面は気にしない?
そんなことはないです! むしろ元々軽めのホラーが好きなので、物語にも魅力を感じています。
クトゥルフ女子2:Kさん
ここ最近で印象に残っているプレイはありますか?
二人でプレイした時に、幼馴染の男の子と女の子という設定でやったんです。その女の子は男の子をストーカーしていたんですが、途中男の子が発狂【※】になって……最後に婚姻届を出しにいく流れになって。
※発狂
『クトゥルフ神話TRPG』における、SAN値が下がり「狂気」状態になること。
それって、男の子が発狂したまま結婚したってことですか?
今のうちに届けを出してしまえ! と(笑)。これは発狂が解けた時に大変だねって話していました。
発狂の新しい使い方ですね(笑)。
発狂っていう他のTRPGではなかなかないシステムじゃないですか。あと探索者が一般人に近いので、魔法とかが使えない状況で知恵を絞りつつ技能を使う――みたいな、みんなで解決していくところが魅力だと思うんですよね。
クトゥルフ女子3:SAIさん
普段はどういうプレイをされるんでしょうか。
よく身内で卓を囲むんですけど、好き勝手できるのでかなり自由奔放に遊んでます。私、発狂好きなんですよ。実は凄いファンブラー【※】で、3回連続ファンブルとかよく出すんです。そうすると良いストーリーができちゃう(笑)。『クトゥルフ神話TRPG』は毎回違う名場面が生まれるので楽しいですね。
※ファンブラー
TRPGのダイスにおいて、致命的な数字を続けて出してしまうプレイヤーのこと。
例えばどんな名場面があるんでしょうか?
私がキーパー【※】をやっていた時なんですけど、キャラクター全員がお酒を飲んでできあがっていて、野球拳をしていたんですね。それでそのまま全員が半裸とか全裸の状態で、怖いシーンに突入してしまって……シナリオの中でも重要なシーンだったんですけど、一部がフル●ンという締まらない状態で進んでしまいました。
※キーパー
ゲームキーパー、またはゲームマスター(GM)とも呼ぶ。TRPGでは司会を務め、シナリオの進行を行う人。
一部がフル●ン。
そういうシナリオでも崩壊しない自由度の高さが『クトゥルフ神話TRPG』の魅力ですね。
クトゥルフ女子4:キバヤシさん
『クトゥルフ神話TRPG』のどんなところに魅力を感じますか?
プレイヤーを強化しまくって、敵をボコボコにするのも楽しいんですけど……『クトゥルフ』では、人間の力ではどうしようもできない、強大で理解も及ばないレベルの強敵が出てくるスケールの大きさも好きですね。人間の無力さが分かるし、ある意味パワーバランスの構造が崩れているところが面白いです。
ではホラー要素は平気なんでしょうか。
ホラー要素がありますが、単純に心霊的なものとか強大な力とかスプラッタ的な恐怖の他にも、セクシュアリティな部分【※】が恐怖をそそる要素の一つだと思うので。そういうシナリオとかによく結び付けられて出てくるところも、ある意味面白いなと。
※セクシュアリティな部分
クトゥルフの作風(主に触手)がセクシャルである、というキバヤシさんのご意見。
印象的なシナリオは何かありますか?
探索者同士であらかじめ許嫁っていう関係性を作ってスタートしたんですけど、途中片方がロストしてしまうという……一人だけ生き残ってしまいました。しかも石板になったまま生還してしまって。それで片腕と許嫁を失って……その時は全員気持ちがお葬式になってしまって、地獄でした。
それは……。
その時のプレイングはプレイヤーも心をえぐられて、後でも引きずってしまいましたね。他の卓を回していても物語に入り込みすぎて、うるってなることが普通にあります。
クトゥルフ女子5:祐吟さん
もともとTRPGはプレイされていたそうですが。
兄の影響ですね。クトゥルフ自体は『這いよれ! ニャル子さん』【※1】といったデフォルメされた作品で知ってたんですけど、あるとき兄に「D100【※2】で死ぬ『クトゥルフ神話TRPG』ってゲームがあるんだ」と言われて、D100で死ぬって何!? ってなりました。でも一番のきっかけは、奇卓部さん【※3】っていうサークルさんの出しているシナリオですね。そこから「クトゥルフ遊んでみたいな」って思うようになったんです。
※1 這いよれ! ニャル子さん
2009年4月に刊行された、逢空万太による日本のライトノベル。謎の怪物に襲われた主人公の高校生・八坂真尋と、それを救った謎の少女の物語。謎の少女は、自身が『クトゥルフ神話TRPG』に登場する「ニャルラトホテプ」であると主人公に打ち明ける。同年10月にはアニメ化もされた。
※2 D100
1から100までの目が出る100面ダイス。
※3 奇卓部
TRPGのサークル。TRPG関連の本やCD、グッズなどを頒布し、ニコニコ動画でもセッション動画を公開している。
『クトゥルフ神話TRPG』のどんなところに魅力を感じますか?
まず『クトゥルフ』はホラーなんですけど、ホラーの中でも特殊なコズミック・ホラーというジャンルなところが魅力かなと思っています。ちょっと違いますが、宇宙人を相手に戦うような感じがあって……本格的に怖い話もできるし、B級映画のような演出もできるところが面白いです。
ちなみに好きな神話生物はいますか?
ニャル様【※】ですかね……。神話生物って人によってかなりイメージが違うんですけど、ニャル様はいくつも姿があるっていう設定があるので、さらにイメージが広がります。知的クール系だったり、ニャル子さんみたいに可愛い女の子だったり。あとはおじいさんにすることもできるし、赤ちゃんとか動物とかにもできるので、そこが面白いです。
クトゥルフ女子6:くまさん
印象に残っているプレイはありますか?
私がキーパーだった時に、友人がやっていた猫の探索者が永久的な発狂をしてしまって……。しかもその状態で敵の攻撃が当たってしまったんです。「回避してください」と言ったんですけど失敗してしまって、そのまま敵の「触手を刺して頭を引きぬく」という攻撃を受けてお亡くなりに……もちろん周りの探索者はSAN値チェックでした。
それはSAN値減少が……そういったホラー要素がお好きなんでしょうか。
ホラー的な要素と、現代という世界観で探索できることですね。実は、怖いものは苦手なんですが、クトゥルフはホラーからちょっと離れているので大丈夫なんですよ。
それでも結構怖さはあると思うんですが、現代の設定だから入りやすいんでしょうか?
それはありますね。時代背景が絡んでくるものが好きなんだと思います。あとマイナーなんですけど、クァチル・ウタウス【※】が好きなんですよ。シンプルだけど怖さがあるところとか。
※クァチル・ウタウス
クトゥルフ神話に登場する架空の神性でクラーク・アシュトン・スミスの『塵を踏むもの』が初出。時空を超えた場所に住み、小さな子どもぐらいの大きさでミイラのような見た目をし、触れられると塵になる。
クトゥルフ女子7:スズヌコさん
ここ最近で印象に残っているプレイはありますか?
私がGMをやっていた時に、友人からリアルの発狂キャラを作っていいかと聞かれて許可を出したんですけど、それがバレリーナだったんですよ。パラメーターを芸術・バレリーナに80振ってて……ことあるごとにバレリーナでダイスを振ってました。
何かあれば踊り続けているわけですね(笑)。
それで不思議なことに、目星【※】は初期値だったにも関わらず成功して、バレリーナは3回連続でファンブルを出すっていう……。
※目星
『クトゥルフTRPG』に登場する技能。何かを見つけたり、異変に気づいたりできる。使用する際、成功か失敗かの判定を行うが、成功率の初期値は基本的に25%である。
狂気ですね。
狂気でした。
そんな『クトゥルフ神話TRPG』のどんなところに魅力を感じますか?
日常の裏に隠されている謎を解き明かしたり、突然襲われたりするっていうことが起きるところですね。ただ、『クトゥルフ』は解いたうえでひどい目にあうので、「せっかく解いたのに!」ってなるんですけど(笑)。
知ってしまうと「狂気」に陥るという展開がありますからね。
普通は解いたら良いことがあるんですけど、クトゥルフはむしろ解かない方がいいこともある……他のTRPGとはそこが違うんですよね。
それもある種のホラーだと思うんですけど、そういった要素はお好きなんですか?
ホラーには興味あるんですけど、動くものとか映像は苦手です。クトゥルフは挿絵ぐらいしかないので、妄想上だけで楽しめるというのも面白いところですね。
あ、そのキーホルダーは!
デフォルメされててかわいいですよね! 神話生物はリアルだとグロいけど、ちょっと省くだけで愛嬌があったりするのもいいなって。
ちなみに好きな神話生物はいますか?
アザトース【※】とニャルラトホテプが好きですね。ニャル様は邪神の中ではシナリオに出しやすいし、アザトースはラスボス感が……。
※アザトース
クトゥルフ神話に登場する架空の神性。ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの『未知なるカダスに夢を求めて』で初登場。外なる神の総帥で、盲目。白痴でありながらモンスター的な混沌の中心である存在。
クトゥルフ女子8:くららさん
もともとTRPGは遊ばれていたんでしょうか。
いえ、『クトゥルフ神話TRPG』から始めました。四年ぐらい前にリプレイ動画【※1】に触発されてしまって、「やりたいやりたい!」と仲間たちを引き込みました。それこそ年末とかは実家にも帰らなくなり、クトゥグア【※2】を好きになり……。
※1 リプレイ動画
TRPGのプレイ結果を物語風にまとめて動画にしたもの。上記は『クトゥルフ神話TRPG』のリプレイ動画で代表的なもの。
※2 クトゥグア
クトゥルフ神話に登場する架空の神性。オーガスト・ダーレスの『闇に棲みつくもの』で初めて登場した。地球から25光年離れたフォーマルハウト星に住み、見た目は巨大な火の塊。
おお! クトゥグアですか。
大好きなんですよ! 何もかも燃やすところが。初期のころからプレイヤーとして「もう駄目だ燃やすしかねぇ!」が口癖だったので、共感できるんですよね。
ちなみに、今までで印象的なプレイングはありますか?
クローズドシナリオ【※】で、NPCを殺さければならないシーンがあって……そのNPCが男の子だったんですよね。私はロンドン市警の27歳の新米警察で、奥さんがいてもうすぐ子供が産まれるっていうキャラクターだったんですけど、そういう状況で子どもを手にかけなきゃいけないっていう……。
※クローズドシナリオ
どこかに閉じ込められていたり、孤島にいるなど、閉鎖的な空間という設定のシナリオ。
ひどい話だ……。
あとから聞いたんですが、どうしてもそこで殺さないと終わらないシナリオだったらしいんですが、私はSAN値が減少して発狂不定を抱えてしまって……「私は生きていたいんだ!」という必死のロールプレイをした結果、他のプレイヤーが犠牲になってしまったんです。気持ちがお通夜状態でした。
そんな『クトゥルフ神話TRPG』のどんなところに魅力を感じますか?
現代に隠れた、人の知り得ない狂気とか……クトゥルフは現代をベースとしているので、そういうのを体感できるんですよ。あとサプリ【※】がちゃんとあるので、自分で創っていく楽しさとか、狂気を創造する楽しさがありますね。
※サプリ
サプリメントの略。TRPGにおいて、補助やアップデートを行うための追加製品を指す。
クトゥルフ女子9:そらのさん
『クトゥルフ神話TRPG』を知ったきっかけはなんですか?
友人と『クトゥルフ神話TRPG』の動画を見て、「やろう!」ということになって、まず二人で始めました。ところが一歩も進まずに発狂とファンブルを連発してしまい、プレイヤーが発狂で二重人格になってしまって……。本当にひどかったんですけど、その後もっと悪い方向に進んでしまい、結果的には二重人格の方がまともになってしまいました(笑)。
そんな『クトゥルフ神話TRPG』のどんなところに魅力を感じますか?
現代日本を舞台にできて、身近なところに脅威が迫っているところですかね。日常の中に見える非日常のスリル感が楽しめるところだと思います。あと、ホラーは全然ダメなんですけど、クトゥルフは、『モンハン』的なものを想像するというか……邪神がモンスターみたいなので、ホラーとは別ジャンルだなと。
なるほど。ちなみに好きな神話生物はいますか?
ティンダロスの猟犬【※】です。角という角からどこでも出てくるっていう出現場所の設定が好きですね。角が丸まっている場所とかを出すと、「あ、これは……」って匂わせる事ができるので、キーパーとしても使いやすいです。
※ティンダロスの猟犬
クトゥルフ神話に登場する架空の生物。フランク・ベルナップ・ロングの『ティンダロスの猟犬』で初出。時間の「角」に住んでいて、120°以下の角度を持つ部屋の隅から煙を出しながら登場する。姿は正確に描写されていないが、挿絵などでは猟犬という名前から四足であることがほとんど。
あるある(笑)。ありがとうございました!(了)
彼女たちの意見を振り返ると、「ホラーは苦手だけどクトゥルフは大丈夫」という声が非常に多いことに気づかされる。ホラー作品の怪物と『クトゥルフ神話』に登場する神話生物のビジュアルは、どちらも負けず劣らずおどろおどろしいが、普段からゲームに親しんでいる彼女たちにとっては「モンスター」の範囲のようだ。
同じく多かったのが「現代」や「身近」、そして「狂気」という言葉だ。神話と現代は一見相対する言葉だが、『クトゥルフ神話TRPG』ではその枠を乗り越え、日常と非日常が隣り合わせの世界が展開される。彼女らは、そんな世界で“狂気”という普通の生活では目にしない感情に触れることで“日常の枷”から解き放たれ、非日常を楽しんでいる。
つまり彼女らにとって『クトゥルフ神話TRPG』とは、“怖いのは苦手だけどちょっと覗いてみたい”という欲を満たし、“身近にあるかもしれない恐怖”を楽しめる存在なのだ。今回の取材では、そこに魅力を感じる女性プレイヤーたちの生の声を聞くことができた。
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