「竜退治はもうあきた」とドラクエチームから巣立った男がメジャーを目指して26年。流行に逆らい続けたメタルマックスが追い求めたのはドラクエからの自由だった【宮岡寛インタビュー】

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発明だった『メタルマックス』の世界設定

──背景つながりで『メタルマックス』の世界設定に関してお訊ねします。宮岡さんはミステリやハードボイルドがお好きですし、そういう趣味が『メタルマックス』にも反映されていますよね?

田内氏:
 ハードボイルドもそうですが、わたしは「西部劇のイメージをゲームに持ち込んだ」というのが斬新に感じられました。

──それもありますね。ほかにも『マッドマックス』であるとか『北斗の拳』であるとか、あるいは戦車に乗るということでミリタリー的なものへの興味もあるでしょうし、そういう宮岡さんの嗜好をお訊きしたいのですが。

宮岡氏:
 中学、高校のころはSFマニアだったんですよ。なかでも破滅系のSFが好きだったので。

──具体的にはどういった作品でしょう?

宮岡氏:
 破滅系といってもいろいろあるんだけど、たとえば『渚にて』【※】は、初めてちゃんと滅んでいる作品なんだよね。

※渚にて……ネビル・シュートによって1957年に書かれた小説。第三次世界大戦後、核の被害によって北半球が壊滅しているところから物語が始まる。放射性物質が徐々に南下してゆく地球で、わずかに生き残った人々が死を迎えるまでの心の変化を描いた。画像は『渚にて―人類最後の日』 (創元SF文庫) 書影
(画像はより)

──そうでした。「人類が滅ぶのをいかにして食い止めるか」という小説はよくありますが、『渚にて』は、ほぼ破滅しているところから始まりますね。

宮岡氏:
 だから……なんていうんですかね。SFマニアで、ファンタジーじゃない世界で、何をどう設定すればRPGの舞台が作れるのか。
 いずれにせよ敵は出てくるわけじゃない? モンスターをどうやって出すの? ファンタジーであれば、モンスターがいて、いろいろな種族がいて、というのも全然問題ないけど、SFでモンスターを出すとすればどう理屈をつけるのか。それで“ノア”というものを思いついたわけですよ。

──はい、ラスボスとなる人工頭脳のノア。

宮岡氏:
 「人工頭脳が人類に叛乱を起こして、人類を抹殺するためにモンスターを作った」。

 そういう設定を思いついて、「おお、これならイケるわ!」という感じだったんですよ。
 SFでも、宇宙から異星人がやってくるというのはあったけど、地球上に敵がいて、あとからあとからモンスターが湧いてくるということにそれなりの理屈をつけたのが、自分としてはいちばんの発明だったと思いますよ。

──『ターミネーター』とも違う解釈で。

宮岡氏:
 まあ、コンピューターの叛乱はそれ以前からSFのテーマとしてある。たとえば『コロッサス』(デニス・ジョーンズ)とか『巨人頭脳』(ハインリヒ・ハウザー)とか、そういうSF小説は読んでいたの。そこまでは昔からある話だったんだけど、「そいつがモンスターを作った」という設定が、自分としては「発明だったのではないかな」と。

──『メタルマックス』というタイトルからの印象もあると思うんですが、『マッドマックス』からの影響を指摘されることも多いと思います。そのあたりについて真相をお訊ねさせてください。

宮岡氏:
 まず『マッドマックス』の生んだもののひとつに、『北斗の拳』があるでしょう。『メタルマックス』の場合は、どちらかというと直接的な影響を受けたのは『北斗の拳』のほうからなんだよね。悪党のありかたも、『マッドマックス』から『北斗の拳』が影響を受けて、そこから『メタルマックス』にきている。

(画像は 【ワーナー公式】映画(ブルーレイ,DVD & 4K UHD/デジタル配信)|マッドマックスより)

 たとえば『メタルマックス2』でいうところのバイアスグラップラーみたいな悪党集団も、四天王がろくでもないチンピラどもを集めて組織を作っているというのは『北斗の拳』であり、さらにルーツを遡れば『マッドマックス』的なものだと言えるよね。

──そういえばファミコン神拳は、『北斗の拳』のイメージを借りたものでしたっけね。

宮岡氏:
 そう。「あたたたたた!」だからね(笑)。

(画像は北斗の拳 OFFICIAL WEB SITE|北斗の拳より)

 『マッドマックス』って、破滅した未来を舞台に西部劇を再創造した映画なわけでしょう。

 西部劇では登場人物が乗る馬は、どこにでもいる普通の馬がほとんどなわけだけど、『マッドマックス』では馬の代役として登場するクルマやバイクが、キャラクターの内面や狂暴性を象徴するデザインになっていた。

 再創造でありながら、その部分は完全に西部劇を超えちゃっているわけ。
 そうした、「クルマをキャラの一部にしてしまう」というところはあの映画の発明で、「ロボットではなく、戦車に乗ってもゲームになる」と思えたのは、あの映画のおかげかもしれない。

田内氏:
 当初の『メタルマックス』はボードゲームを想定していたということですけど、そこからRPGに変わって、すぐに企画書はできたんですか?

宮岡氏:
 いやあ、あまり覚えていないんだけど……、ただ『メタルマックス』に関しては、システムがわりとスーッと出てきたんだよ。「世界が滅びて、ノアがモンスターを生み出した」という設定を最初に思いついてからは早かった。
 それまでは「どうやってモンスターを出すんだよ?」というのがいちばんの悩みどころだったから。

──『メタルマックス』が形になる前の宮岡さんは、どういうゲームにしようかと苦しんでいましたよね。でも「やっぱRPGでいいよね」と開き直ってからの解放された感じはよく覚えています。そこからの宮岡さんは速かった。「さすがはロト三部作に関わってきただけあるな」と(笑)。

田内氏:
 “ウォンテッドモンスター”というアイデアも最初の企画書に書いてありましたよね。

宮岡氏:
 うん。あれはまあ西部劇だから。だから「ノアというコンピューターがモンスターを生み出す」とともにあったもうひとつの発明として、「モンスターは邪魔じゃなくて獲物だ」ということがある。

──「プレイヤーの障害物ではなくて、獲物なのだ」と。

宮岡氏:
 そう、そのふたつを思いついたことは、RPGという遊びの仕組みを我ながらよく理解していたもんだなと思うよ(笑)。

 『メタルマックス』を作ったころは、世の中にそんなゲームはなかったんだけど、いまはそういうゲームがずいぶん増えたしね。

──わたしも企画メンバーだったので自画自賛になってしまいますが、あの指名手配ポスターは秀逸だったと思います。「たとえ容量を食ったとしても、ちゃんとポスターの絵を見せたい」という話をしていましたよね。

宮岡氏:
 そうすることで、敵が話を進めるうえでの障害物じゃなく、もうその敵を倒すこと自体が目的になるからね。

田内氏:
 当時、宮岡さんがフリーシナリオと称して、「お使い的な話じゃなくて、世界中を必須アイテムなしで自由に歩き回れるようにしたい」と言っていたのもよく覚えています。

宮岡氏:
 クリア必須アイテムというのは、おれが嫌いだったんだよ。

──そうなんですか(笑)。

宮岡氏:
 「とっくにその先のモンスターが倒せるくらい強くなっているのに、なんでこんなことしなきゃいけないんだ?」みたいなね。
 それからあるゲームでは、星座とかを組み合わせてガチャガチャガチャっと回すと、封印された扉がパカッと開いて……とかさ、「謎解きがやりたいなら、そういうゲームをやればいいんだから。おれにやらすな、こんなこと!」って。わははは。

田内氏:
 『メタルマックス』で発明だと思ったのは、パスワードロックです。

 1周目はパスワードなんかわかるわけないから「パスワードのメモ」というアイテムを見つけないとクリアできないんだけど、2周目、3周目をプレイするときはパスワードをもう知っているから、アイテム探しなんていう、まだるっこいことをしなくていい。

──パスワードはランダム生成じゃなくて固定だし、“メモ”を入手するイベントの通過フラグもないですからね。『ドラクエ』の“ぎんのかぎ”や“きんのかぎ”とは性質が全然違うものです。

田内氏:
 あのころに、もしインターネットとWikipediaがあったら、絶対にパスワードが拡散されてすぐにクリアされちゃう。

──フリーシナリオにすることに不安はありませんでしたか? 「ゲームバランスが壊れるんじゃないか」とか。

宮岡氏:
 いや、それはあまりなかった。もともとウォンテッドというシステムがバランスブレーカーとして存在しているゲームだからね。
 そのかわり、「いくら死んでもノーペナルティである」という作りになっている。

──ああ、なるほど。

宮岡氏:
 要は「死んでくれ」と言ってるわけです。

 恐ろしい敵と出会ってあっさり殺されたら、それがリベンジリストに載るわけでしょ。

──「いつか殺すリスト」に。

宮岡氏:
 プレイヤーは「そのために強くなろう」と思うんで。だからお仕着せのお話のために用意されたフラグを立てていくというゲームじゃなく、動機も“プレイヤーの中に求めていく”という作りなんだよね。

田内氏:
 とみさわさんがみんなの前でテストプレイしていたときの様子で、忘れられないことがありますよ。

──え、それはどんな?

田内氏:
 ある洞窟の中に埋まっているタイガー戦車を探すイベントだったんですけど、バギーか何かでそこまで行って、金属探知機で戦車が埋まってる座標を特定するわけです。
 それで「さあ戦車に乗り換えるぞ」とバギーから降りた瞬間に、レーザーミミズの大群にエンカウントして瞬殺されたんです。

宮岡氏:
 わははは、あったあった。

田内氏:
 レーザーミミズはクルマに乗っていないと戦えないような強さだから。

──それは「いつか殺すリスト」に入れたくなります。そして、そういう無茶なゲームバランスを良しとするのが『メタルマックス』だったということですね。

 でも、「そこまでやるとプレイヤーが不快に思うのではないか?」とか、「ここまでなら大丈夫かな?」だとか、そういう匙加減の判断は、どういう風にしていたのでしょう。

宮岡氏:
 いや、そういうところに不快感を感じるお客さんのためのゲームじゃないんですよ。そういうことは『ドラクエ』に任せておけばいい。ぼくが目指したのは、『ドラクエ』じゃ物足りないと感じる人、「『ドラクエ』は面白いけど、もっと違うことをやらせろ」というようなプレイヤーの要望を拾うことだったんです。

──わたしは『メタルマックス』のスタッフでありながら、どちらかといえば『ドラクエ』大好き側だったから、けっこう宮岡さんと対立しましたよね。

宮岡氏:
 まあね。不等号記号でいうと、過激な順に……桝田省治>宮岡寛>とみさわ昭仁という感じで、桝田くんが無茶な仕様を出してくるから、おれがそのダメージを半分にして、とみさわくんはそこからさらに減らせと要求してくる、という。

──わはははは!

宮岡氏:
 あれは面白い図式だったよね。

──そういうフリーシナリオ的なシステムについて、田内くんはどう思っていました?

田内氏:
 わたしも『ドラクエ』が好きで、RPGが作りたくてこの業界に入ってきたので、もうRPGを作っていられること自体にずーっとアドレナリンが出ているんですよ。

 それで、わたしはデーターイースト側として会議に参加させてもらい、宮岡さん、桝田さん、とみさわさんといった人たちと会議で話しながら、「アーデモナイ、コーデモナイ」と言えることが嬉しくて。完成したゲームがどうなるかよりも、ゲームを作っているその瞬間が楽しかったです。

──それはよくわかります。わたしもそうでした。ゲームを遊んでいるより、作っている時間のほうが楽しかった。

田内氏:
 ほかに覚えているのは、最初の企画書では戦闘コマンドのパネルが「しゅほう」と平仮名で書いてあったんですよ。わたしはプログラマーなのになぜかパネルのデザインをすることになって、平仮名ではかっこ悪いから漢字に作り直して提出したら、宮岡さんに気に入ってもらって、すごい嬉しかったんです。

宮岡氏:
 ファミコンでは漢字が使えないという先入観があるから、企画書上ではこうなっているけど、プログラマーが意地を張って変えてくるわけじゃない?

 最初の『ドラクエ』のときも、堀井さんはキャラクタースクロールでいいって言ってたんだよ。画面が16ドット単位でズレていく方式ね。

──ああ、初期のパソコンのRPGなどは、みんなそうでしたね。

宮岡氏:
 でも、中村くんは「絶対にドットスクロールじゃないと嫌だ」と言って、滑らかにスクロールするように作ってくれたんだ。だから、異質な美意識と美意識の出会いというか、そういうものがないと、すごいゲームは生まれない、ということですよ。

『メタルマックス』の参加クリエイターたち

──わたしは宮岡さんに誘っていただいて、流されるようにチーム入りをしたから、そもそもの経緯をよく知らないんですが、『メタルマックス』って、まずは宮岡さんが企画を立てて、それをデータイーストに持ち込んだということでいいんですか?

宮岡氏:
 そうね。ただ、その前にI&Sという広告代理店があって。あのころ、彼らがやっていた商売というのは、ゲームデザイナーを用意して「ゲームを作ってあげますよ。そのかわり広告はうちでやらせてください」というのをゲーム会社に持ちかける、というビジネスモデルだったんですよ。

 だから、もしデータイーストが「プログラマーも連れてきてくれ」と言っていたら、プログラマーも外部から探してくることになっていたと思う。でも、そうではなくて「企画だけを外部から連れてくる」という話だったからね。

──音楽とキャラクターデザインも外部スタッフでした。

宮岡氏:
 そう、ぼくがわがままを言って音楽には門倉聡【※】さんを連れてきちゃった。

※門倉聡
1959年生まれ。作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。Wink、工藤静香、サザンオールスターズ、徳永英明など数多くのアーティストを手がける一方で、テレビドラマやアニメ、ゲームでも楽曲提供するなど、幅広く活動している。

田内氏:
 そこは最初は社内でも反発があったみたいですよ。データイーストにはゲーマデリックという音楽チームがいたので。

──あのころは、ゲームメーカー各社がサウンドチームを売り出していましたね。

田内氏:
 でも、門倉さんが書いてきた曲を聴いて、納得してくれたみたいです。

──ははは。それは『ドラクエ』でも同じようなエピソードがありましたね。しかし、社内のサウンドチームにもそれなりのプライドはあったでしょうから、辛いところですよね。

田内氏:
 ゲーム音楽って、普通の音楽と違って制限が多いじゃないですか。とくにファミコンだとさらに制限は多くなります。

 その制限下で「普通の作曲屋さんには曲なんか書けるわけない」という考えがゲーム音楽家にはあったんでしょう。
 でも、それを門倉さんはサラッとやってのけて、しかも曲がかっこよかった。

──あの当時、門倉さんはファミコンで音楽を作るなんて初めてだったんですよね?

宮岡氏:
 いや、じつは『ルーンマスター』で一緒に仕事をしている。あのころは『ドラクエ』の音楽をすぎやまこういちさんがやって大当たりしたから、音楽業界の人たちがゲームに魅力を感じていたのね。
 それで藤井さんという音楽プロデューサーが5人くらいの名前を挙げて、「自分ならこの人たちを紹介できるので、使いたい人を決めてください」と言ってきた。その中のひとりが門倉さんだったったの。

 『ルーンマスター』では交響楽っぽいことがやりたかったから、その分野が得意な門倉さんにお願いしたんだけど、『メタルマックス』ではロックやジャズも難なくこなしていただいて、本当にすばらしい人と巡り会えたと思いますよ。

田内氏:
 ウォンテッドの曲は衝撃的でしたもんね。

宮岡氏:
 門倉さんから「ロックといっても、どういうのをやりたいんですか?」って訊かれて、それでビョークのなんていう曲だったか……重いビートの曲だったんだけど、それを提案して「ああ、こういうのね!」みたいな話をしたっけな。

──門倉さんとは、その後もずっとシリーズを通してのお付き合いになりますね。
 では、もうおひと方、山本貴嗣さんも『メタルマックス』を語るうえでは欠かせない存在です。山本さんを『メタルマックス』のキャラクターデザインに起用された経緯を、あらためて教えていただけますか。

宮岡氏:
 それはまあ、メカを描くのが得意だったからかな。あのね、彼は高橋留美子さんのアシスタントをやっていたんだけど、そのころからメカが得意で、たとえばラムちゃんの宇宙船なんかは山本貴嗣が描いてるんですよ。

──そうだったんですか!

宮岡氏:
 宇宙船やロボットなど、とにかくメカを描くのが巧くて、そういう才能があることは重々承知していて、さらにモンスターも描けるし、結局あいつはなんでも描けるんですよ。

──そうですね。セクシーなおねえさんも抜群です。

宮岡氏:
 それで、単純に言うと……人工頭脳が作るモンスターなんて、アイデアの参考になるようなものがどこにもない。まあ『ドラクエ』みたいな話ならね、『D&D』【※】のガイドブックとかを持ってくれば、だいたいのことは判るわけで。

※D&D……正式名は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』。1974年にアメリカTactical Studies Rules社より発売された、世界初のテーブルトークRPG。剣と魔法の世界をベースにした世界初のRPGで、さまざまなファンタジー作品やRPGの原点となっている。画像は『ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズ・ハンドブック』第5版書影
(画像はAmazonより)

──そうですね。オークだ、トロールだ、ドラゴンだ、とファンタジーに定番のモンスターはひととおり出てきます。

宮岡氏:
 だけど「『メタルマックス』の設定に合うモンスターを描いてくれそうな絵描きさんは誰だ?」って考えたときに誰も思いつかなくて、しばらく悩んだすえに「……あ、山本貴嗣がおるやんけ!」と。

──すごく近いところにいた。

宮岡氏:
 そこに気がついてみると、これはもう貴嗣のために作ったような設定だったなと。それでこの話を持ちかけてみたら、本人も「よし、やろう!」ということになってね。

──モンスターの中で印象深いものってあります?

宮岡氏:
 まあ、ノアはやっぱりびっくりしたよね。

──宮岡さんもそこそこ絵心があるじゃないですか。企画側から山本貴嗣さんへイメージを伝えるためにモンスターのラフを出すわけですけど、宮岡さんが描いてくるスケッチは、やけに巧かった覚えがありますよ。

宮岡氏:
 そうは言っても、やっぱり貴嗣のほうが格段に上だし、それに彼は戦車も巧いからね。

田内氏:
 山本先生がすばらしくかっこいいメカドラゴンの絵を何パターンかサンプルで描いてきて、でも宮岡さんが「竜は出さないから」と言って、全ボツにしたのを覚えていますよ。

宮岡氏:
 わはははは!

──「竜退治はもうあきた。」ということになっていますからねえ(笑)。

宮岡氏:
 彼の描く絵は、理屈が通ってるところがすごいんだよね。内部構造まで考えて作っているから。

 たとえゲームには出てこなくても、「緊急時にはここがこのように変形して……」とかちゃんと描いてある。

『メタルマックスゼノ』のSoNsに分類される凶悪モンスター「不条理駆動 ザムザ」
(画像は『METAL MAX Xeno(メタルマックス ゼノ)-滅ぼされざる者たち-』公式サイト | 世界観 より)

田内氏:
 『ワイルドアイズ』【※】のときにはそれがすごい加速していましたね。

※『メタルマックス ワイルドアイズ』
……1998~2000年ごろにセガ・ドリームキャスト用として制作していた『メタルマックス』の新作。残念ながら開発中止となり、陽の目を見ることはなかった。

──ああそうか、シリーズ初の3Dポリゴンになるはずだったから。

田内氏:
 三面図だけならまだしも、内部機構の図解まで描いていましたからね。

──それで疲弊しちゃったんでしょうか、それ以降、山本さんは『メタルマックス』から少し距離を置くようになるでしょう?

宮岡氏:
 それだけじゃなくて、彼のゲーム仕事が立て続けに中止になったんだよ。豊臣秀吉……だったかな? 彼が戦国武将のイラストを100枚くらい描いたんだけど、それもポシャっちゃって。

──それは『メタルマックス』ではなくて、別の企画で?

宮岡氏:
 うん。そういうことが続いたから、彼としてはだいぶトーンダウンしたんだな。

 これがマンガだったら、どんなに人気が出なくても描いたものは出版されるし、形として残るんだけど、ゲームの場合は、たとえ数百枚もの絵を描いたとしても、そのゲームが発売されなければ、絵描きがやった仕事は誰の目にも触れない。

──そうか……当時はマンガだったらボツになった原稿はコミケにでも出せば人の目に触れさせることができますが、ゲームのために描いたものはそういうわけにいかないですもんね。

宮岡氏:
 そう。権利の問題もあるからね。

──それでも山本さんは、以降も『メタルマックス』シリーズから完全に手を引くわけではなく、なんらかの形で関わっています。

田内氏:
 完全に関わっていないタイトルというのはないんじゃないですか。『メタルマックス3』ではウォンテッドモンスターを描いてるし、『メタルマックス4 月光のディーヴァ』でもキャラデザをしてくださってます。

 『メタルマックス2:リローデッド』でも、新規追加のモンスターなどは山本先生です。

──そこはやはり、宮岡さんとの友情というか、絆みたいなものなんですかね?

宮岡氏:
 まあ、彼としても思い入れはあると思うんですよ。初めてのゲームの仕事だったし、マンガの読者とは違うところからファンがついてくれたというのもあっただろうし。

──ゲームが新しい山本貴嗣ファンを開拓してくれた、ということですね。

宮岡氏:
 それに、彼としてもメカとかモンスターというのは得意ジャンルだから、やり残したことはまだまだあるんじゃないのかな。

 モンスターを描ける絵描きというのは、意外といないもんなんですよ。
 さっきも言ったけど、どこかにモデルがあるようなものは見よう見まねで描けるんだけど、どこにもないものを生み出せる人は、滅多にいない。

『メタルマックスゼノ』のSoNsに分類される凶悪モンスター「ジャック・ザッパー」
(画像は『METAL MAX Xeno(メタルマックス ゼノ)-滅ぼされざる者たち-』公式サイト | 世界観 より)

──そういうもんですか。

宮岡氏:
 なぜ山本貴嗣にはそれができるのかというと、理屈が伴っているから。

──なるほどなあ……。さて、すでに名前も出てきていましたが、桝田省治さんについても少し聞かせてください。先ほど名前の出たI&Sという広告代理店で、宣伝担当というか、プロデューサーだったはずのあの方が、いつのまにか開発スタッフとして加わることになった経緯などを。

宮岡氏:
 最初はプロデューサーとして開発資金のやりくりを見てくれていたんだけど、それよりは「『メタルマックス』がゲームとしてモノになるか?」、言い換えると“論理バグを正す役割り”とでもいうのかな、そっちへシフトしていった。

 結局、おれたちライターがゲームを作ってるわけじゃない? そうすると堀井さんはプログラムができる人だったけど、普通に考えてライターが作った企画なんてのは、穴だらけなんですよ(笑)。

──ああ、設定やシナリオ上に矛盾点が。

宮岡氏:
 それもあるし、あるいは「仕様書にこう書いてあるけど、それをどうやってゲームに落とし込むつもりなんですか?」みたいなところね。

──プログラムを知らない物書きは、実現不可能な妄想を書いてしまうんですよね(笑)。
 そういう意味で、宮岡さんよりさらにプログラミングのことなどわからなかったわたしは、桝田さんが企画に参加してくれたことは少しも嫌じゃなかったし、むしろ頼もしかったんですよ。だってちょっと会話してみれば、頭の回転がメチャメチャ速い人だというのはすぐにわかりましたからね。

宮岡氏:
 ふははは。

──それと、キム皇さん(きむらはじめ氏)が『ジャングルウォーズ』【※】のために途中で抜けてしまったので、その穴を埋める必要もありました。そこで代わりに入ってきた桝田さんが、とんでもなく仕事の速い人じゃないですか。

※ジャングルウォーズ……1991年にポニーキャニオンより発売された、ゲームボーイ用RPG。キム皇氏がシナリオ、ゲームデザインを担当。監修はさくまあきら氏。1993年に発売されたスーパーファミコン用の続編もある。画像は『ジャングルウォーズ』ゲームボーイ版パッケージ
(画像はAmazonより)

宮岡氏:
 うん、速いね。

──わたしからすれば宮岡さんも仕事は速いんですけど、桝田さんはそれに輪をかけて速かったんです。(仕様書のファイルをめくりながら)このへんのヤミクモ博士の会話フローチャートとか、桝田さんの担当でしたよね。

田内氏:
 レーザーバズーカの仕組みも桝田さん?

宮岡氏:
 たぶんそう。フローを描いたのは彼だったね。

──広告会社に勤務していた桝田さんは、誰からこういうことを習ったんですかね?

宮岡氏:
 それはわからないけど、彼は『メタルマックス』をやる前に『天外魔境』をやっているからね。

 それで、どう言えばいいのか……プロジェクトがニッチもサッチもいかなくなったときにそれをうまく解決してみせて、「やるじゃん!」という存在になっていたらしいですよ。

『PC Engine Best Collection 天外魔境コレクション』(PSP)パッケージ
(画像はAmazonより)

 しかもただ優秀ってだけじゃなく、自分が作り出すものの中にいろいろな毒を含ませることができる、というすごい能力を持っている。イカれた悪役のセリフを書かせたら日本一かもしれないよ、あの人は。

堀井流を受け継いだパラメーターの仕組み

──このショップの仕様書は宮岡さんが書かれたものですが、この会話フローの書きかたなどは完全に堀井流ですよね。

宮岡氏:
 ショップに限らないけど、フローチャートが書けない人はゲームデザイナーになれないんですよ。

──そうですね。ぼくは『ルーンマスター』のお手伝いをしていたときに、宮岡さんからそれを叩き込まれました。

田内氏:
 いろいろ預かってくれるトランクルームとか、分岐の数がバカみたいに多くて最悪ですよ。あれのフローを書くとか、いちばんやりたくない仕事。

──田内くんはプログラマー出身なのに何を言ってんですか(笑)。宮岡さんご自身は、こういう戦闘の計算式などは『ドラクエ』の仕事から学んだのだと思いますが、それはすんなりと『メタルマックス』に活かせましたか?

宮岡氏:
 いや、むしろ『メタルマックス』は『ドラクエ』より複雑なことをやっていますよ。

 それはなぜかというと、クルマに乗るというシステムのせいで、運転レベルや装甲タイルなど、さまざまな要因が絡んでくるからです。
 その結果、どうしても『ドラクエ』より複雑な計算式になる。その計算式を組んだのは彼(田内氏)なんだけどね。

 最初の計算式ができたあと、一度決まったパラメーターの「これをいじったらもっとこうなるだろう……」というふうに進化していくという作りかたなんですよ。

 だから、ぼくも『ドラクエ』のデータを作らせてもらったときに、たとえばプログラムが参照するためのテーブルデータというものがあるんだけど、モンスターのデータ構造を見て「おれだったら、ここにこれを足すかな」なんてことを考えて、計算式の作りかたを学んでいった。

──『メタルマックス』の仕様書を見ると、モンスター1体でもパラメーターがすごく多いんですけど、『ドラクエ』はこんなに多くはない?

宮岡氏:
 いや、ぼくがやっていたのは『ドラクエIII』までだからそう多くはなかったけど、いまはきっとこんなもんじゃ済まないでしょう。

──あちらはあちらで、すごい進化を遂げていますからね。

宮岡氏:
 いまはAIなどの絡みもあるから、どうしたって複雑にならざるを得ないね。

──以前、『ポケモン』の田尻智さんが「『ドラクエ』はモンスターの並び(組み合わせ)が美しい」という話をされていました。

宮岡氏:
 それはモンスター出現の組み合わせをパラメーターで生成・管理していますから。
 同じことは『メタルマックス』でもやっています。“特殊パーティーデータ”というものがあって、意図的に「こういう組み合わせで配置して」、「こいつはこのくらいの確率で出現させて」ということを全部データ化している。

──ただのランダムではないんですね。

宮岡氏:
 あのころの『ドラクエ』のデータは、最後に堀井さんが全部手を入れている。
 だから、あのバランスはやはり堀井さんの感覚の鋭さだと思うんですよ。

──そのあたりは、なかなか言語化されない部分ですね。

宮岡氏:
 単純に言うと、「ここのダンジョンで何回戦わせるか」とか。たとえば3層のダンジョンを作ったとしたら、「1フロアでどれくらい戦わせるか? 10回じゃ少ない。でも100回は多い。それで50回くらいがちょうどいいんじゃないか」と決定したとする。

 そうすると、1%の確率に設定したアクションというのは、戦闘を50回繰り返しても確率上は発生しないことも多いんです。「だったら2%にしてみよう」とか、「6%にすれば3回は発生するぞ」とか。そういうことを読み切るのが、堀井さんの上手さだと思うんですよ。

──ははあ……。

宮岡氏:
 そこで、「どれくらい戦わせるから、確率を最低でもこれくらいにしなければプレイヤーの目に触れない」とか、そういうことをあの人は計算して作るんだよ。そこはやはりすごいと思うよ。「なぜ2%ではなくて6%なのか?」というようなところにも、単なる確率でなく、ちゃんとした裏付けがあるんだね。

──脳内でちゃんとシミュレートできているんですね。

宮岡氏:
 「1000回戦ったら1レベル上がる」というイメージがあったとすれば、「そのあいだにコイツと何回戦うだろう? そうしたらモンスターがレアな宝箱をドロップする確率をこれくらいにしなければいけない」ということが導き出される。

──モンスターがくれる経験値もそうですね。とくに序盤で出現するやつは、経験値が1多いか少ないかだけで、序盤の印象はガラリと変わってしまいます。

宮岡氏:
 そういうことですね。

──それから、この『メタルマックス』の仕様書の束は、当時わたしも見ていますし、なんなら自分で書いたものもたくさんあるので当たり前のこととして見落としがちですが、方眼紙にシャーペンでほぼ全部手書きなんですよね。この方眼紙はもともと堀井さんが愛用されていて、それを宮岡さんが受け継いだそうですが。

宮岡氏:
 そうそう。市販のプロジェクトペーパーというやつね。

 さすがにいまはもう使っていないけど、たぶんあのころにまとめ買いしたやつの残りが、家を探せばあると思うよ。

──わたしも宮岡さんから受け継いで、ずいぶん長いこと愛用していました。あの、話がちょっとズレますが、Excelを方眼紙のように使うことを嫌う人が、おもにプログラマーに多いんですけど、宮岡さんって使っています?

宮岡氏:
 使うね。Excel方眼紙で絵を描いたりするからね。

──そうですか。ぼくもExcel方眼紙には何も悪いイメージがなくて、それはあのプロジェクトペーパーを使っていたことの名残りなのかなあという気がするんですよ。

宮岡氏:
 あっはっは。なるほどね。

──あれをすごく便利なものとして使っていたから、Excelと出会ったときに「ああ、これだ!」って(笑)。

 でも、田内くんみたいにプログラマーもやっていた立場からすると、Excelを方眼紙のように使われるのはやっぱり嫌でしょう?

田内氏:
 わたし、企画書を書くときはExcelですよ。なんか、いちばん書きやすいです。

──そうなのか(笑)。

宮岡氏:
 まあExcelは日本語を扱うのが得意じゃないんだよね。そのせいでリストが崩れたりするし、文字化けするし、嫌う人は嫌うよね。

田内氏:
 オートシェイプはすばらしいですよ。図形を画面に貼り付けられて、それを矢印でジョイントできるから、フローチャートを書くのもすごいラク。

 あと、マップは図形で描いて、その上に人間とかはオートシェイプで乗せるとか。で、それに吹き出しや注意書きも付けられるから、意外とマップを書くのには適してると思います。

宮岡氏:
 ただまあ、いまはゲームの主流が3Dになったから、そんなやりかたで仕様書を書くのは難しくなってきているけどね。

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