誰もが知っている『テトリス』を、誰も知らない「体験」に──ゲームの“体験性”を一歩先に進めた『テトリス・エフェクト』【水口哲也インタビュー】

2000年、ハーバード大学医学校から、
一つの研究レポートが発表された。

 

実験の参加者は、
そのゲームを7時間、3日間に分けてプレイした。

 

興味深いことに、
約2/3にあたる63%のプレイヤーが、
プレイ後しばらくの間、夢の中でさえもしばしば、
そのゲームのイメージが現れると語った。

 

さらに驚くべきことに、
脳にダメージを負った記憶障害を持つ患者でさえも、
プレイ後、そのゲームのイメージが現れると語った。

 

記憶障害の患者は、何のゲームを遊んだか、
あるいは遊んだこと自体、思い出せなかったが、
彼らが見たイメージを、完璧な記憶とともに説明することができた。

 

彼らは、ブロックを見たのだ。
空間を落ちながら、
時に回転し、
他のブロックの隙間にはまり
そして、線が消えて行くのを見たのだ。

 

そして、研究者たちは、
この現象をこう呼んだ。

 

テトリス・エフェクト

 

『テトリス・エフェクト』アナウンストレーラー より引用)

 2018年6月6日、そう『テトリス』誕生から34回目となる6月6日──「ワールド・テトリス・デイ」のこの日に、新作『テトリス・エフェクト』は発表された。

 この美しいトレーラーで語られたハーバード大学の実験は実話である。
 記憶障害の人でさえ、「何のゲームを遊んだか」は覚えていないにもかかわらず、テトリミノが落ちて消えてゆくイメージが、はっきりと記憶の中に刻み込まれている。
 その現象は“Tetris Effect(テトリス効果)”と名付けられ、いまでもその実験と言葉は語り継がれているのだ。

 水口哲也氏はその言葉を、新しく生まれ変わった『テトリス』の名とした。

 本稿は、エンハンス代表・水口哲也氏があまねくプレイヤーに贈る『テトリス・エフェクト』のコンセプトについてのインタビューである。

 取材にあたって電ファミ編集部は、開発中の『テトリス・エフェクト』をVRモードで体験したのだが、私たちはそこでデジャヴに遭遇した。『Rez Infinite』の「Area X」の、あの衝撃が再び甦ったのだ。
 言葉では伝えづらいものを、あえて言葉で伝えることになるが──『テトリス・エフェクト』が、私たちを次なる新しいゲーム体験の境地へと連れていったことは確かである。

聞き手/TAITAI実存
撮影、文/実存


その面白さを言葉にできない

──『テトリス・エフェクト』、めちゃくちゃ面白かったんですが……説明がすごく難しいですね。なんて言えばいいんだろう。

水口哲也氏(以下、水口氏):
 僕はこの言葉に悩む姿を見るのがすごく好きなんですよ。「こちらからボールは投げましたよ」と(笑)。

水口哲也氏

──『Rez Infinite』のときもこんな感じでしたね(笑)。
 ゲームは、とくに水口さんの作品は体感や体験することに意味があるメディアだから、言葉で語ることができない。究極的にはここに行き着くんですね。
 僕らは言葉を売りにしているのに、言葉を失ってしまうという(笑)。

 電ファミだけではなくほかのゲームメディアでも、『Rez Infinite』の記事はどこも詩的な感想になっているんです。記事を読んでも、「とにかくすごい」ということはわかるけども、具体的に何がすごいのかはよくわからない。

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 ですから、一度僕らの中で噛み砕いたあと、ひとつの方向性を見出したうえで、もう一度取材のお願いをすることになると思います(笑)。

水口氏:
 僕らの作るものは、いつも味わうのに時間がかかるものなので、ゆっくりとね(笑)。

──VRゲームって、数十分のプレイでも疲れてしまうところがありますよね。でも、『テトリス・エフェクト』ではまったく疲れを感じませんでした。却って「いつやめなきゃいけないの?」と後ろめたくなるぐらい(笑)。

一同:
 (笑)。

水口氏:
 いまあるVRゲームのほとんどはテンションが高いんですよね。だから疲れてしまいやすいのかと思います。

 僕らの作るゲームのコンセプトは、「週末に疲れを癒やすように、リラックスしてゆっくりプレイできるようなものがないよね」というところからスタートしているんです。

 その「リラックスしてゆっくりプレイできるゲーム」というものは、これからのゲームのいちばん大きな可能性のひとつかもしれませんね。

──『ルミネス リマスター』について水口さんが仰っていた“ゲームをプレイしているはずなのに、まるで自分が音楽を演奏しているような感覚”も、『テトリス・エフェクト』ではさらに洗練されているように感じました。

 後半のステージ(下記動画03:45〜)で、インドネシアの民族音楽の“ケチャ”のような、たくさんの人間の声で構成された音楽が流れてきました。

 でもじつはそれはBGMではなくて、操作音だった。自分がテトリミノを動かしたり、落としたりする操作のひとつひとつに民族音楽的な声が連動していて、その声の連続が本当に音楽として聴こえたんです。
 「まるで自分が音楽を演奏しているかのように」どころか、「その音楽を自分が演奏していること」に気づきませんでした(笑)。

 操作に対して単純に音のタイミングを合わせるだけでは、ここまで本当にひとつの音楽であるかのように聴こえないのではないかと思います。
 いままでの『テトリス』シリーズ作品の中で、これほど操作音と音楽が連動するようなものはあったのでしょうか?

水口氏:
 ないと思います。『テトリス・エフェクト』が初めてでしょうね。

『テトリス』というフォーマットにはもっと可能性がある

──いままでの『テトリス』シリーズでも、演出を工夫したものはありました。たとえば、テトリミノを一気に消すと花火が上がったり、背景が変わったり。
 でも『テトリス・エフェクト』では、「そういった単純な演出とは全然違う見せかたを提示しているのかな」と感じました。

水口氏:
 そうですね。ここまで徹底的に演出を構成することを考える人は、おそらくいないと思います。
 逆に、僕らはなぜそこまでして『テトリス』を作り込んだのかというと──「『テトリス』というフォーマットにはもっと可能性があるのに」という歯がゆい思いがあったからです。

 もちろん『テトリス・エフェクト』はVR専用ゲームではありませんが、たとえば『テトリス』をVRにしたら、先ほど遊んでいただいたときのように新しい体験になったわけです。
 だから、「もっといろいろやれる余地があるんじゃないか」と思ったんですよ。「こういうものがあったら世の中がもっと先に進むんじゃないかなあ」と。

──水口さんたちは“『テトリス』というゲーム”を作るというより、新しく“『テトリス』という体験”を作られているように感じます。
 水口さんがやりたいことと『テトリス』の相性がいいということなんでしょうね。実際にプレイしてみると、確かにすごく自然に没入できるんです。

水口氏:
 やっぱり「新しい体験を作りたい」という気持ちがいちばん大きいのですが、「それを『テトリス』でやったらうまくやれるんじゃないか」という直観が確かにあったんです。

 その直観にまっすぐ向き合ってみたら、「そこに答えはあった」ということですね。

──「『テトリス』を媒介にすることで、自分たちの表現したいことは、むしろもっとたくさんの人に届くようになる」と。

水口氏:
 より広く届くというのもありますが、『テトリス』という仕組みに僕らの表現したいことが“磨き上げられている”感覚もありますね。僕らの持っている感覚や、いままでやってきたことが当初の狙いを超えて、さらに高みへと向かっているような。

 『テトリス・エフェクト』の制作を通じ、自分たちの感性や演出力をはじめ、音楽も、ずっと開発し続けている“シナスタジア・エンジン”も、さらに磨かれているんじゃないかという気がしますね。次はもっと遠くまで行けるんじゃないかな」とも思います。

──これより先の境地ですか。それが『テトリス』の“可能性”なんですね。

『テトリス』で“ゾーン”を実現したかった

──「『テトリス』にはもっと可能性がある」という観点から、水口さんがなぜ『テトリス』を作ったのか、もう少し具体的に教えてください。

水口氏:
 『テトリス』は世界で知らない人がいないぐらいの、真の「誰もが知っている」ゲームです。
 しかも、シンプルの極みなんですよね。ゲームの教科書レベルのわかりやすさじゃないですか。

 だから、誰も手をつけられないというか……「モバイルやオンラインのような方向の進化しか残っていないんじゃないか」と考えたくなるんです。
 でも、その『テトリス』という誰もが知っているゲームを、仮に僕がまったく違うものに生まれ変わらせることができるのだったら、それは腕を振るって「やってみたい」という思いがあって。

 『テトリス』をプレイしていると、いわゆる“ゾーン”【※】に入っていくような感覚になるときがありますよね。頭の中が真っ白になっていくという。

 その“ゾーン”的な感覚をうまく活かして、僕らの持ち味である音楽的・ビジュアル的な拡張を施すことで、「『テトリス』をまったく新しく生まれ変わらせるようなチャレンジができないか」と思ったんです。

※ゾーン
おもにスポーツの世界において、極度に集中した状態を指す。「ボールが止まって見える」など、時間の流れが緩やかに感じられたり、五感が非常に研ぎ澄まされた状態になったりすると言われている。

──その“ゾーン”的な感覚を、『テトリス・エフェクト』ではまさしく“ゾーン”という名前のシステムとして組み込んだわけですね。

水口氏:
 そうですね。
 テトリミノを消していくとゲージが溜まっていき、最大まで溜まると“ゾーン”が発動できます。
 “ゾーン”に入ると時間の流れがゆっくりになり、テトリミノは自動的に落下しなくなる。「自分ですべてをコントロールできる」というわけです。

上記動画01:42〜より“ゾーン”発動時の様子が確認できる。

 いままで単線的だった『テトリス』の流れに、“ゾーン”というまったく異なった流れを合流させたんです。
 そのふたつの流れを組み合わせた結果、ある種の“ゆらぎ”のような、音楽的にも体験的にも新しいものが生まれていると思います。

『テトリス・エフェクト』は14年越しのプロジェクト

──「『テトリス』に“ゾーン”を組み込もう」という試みは、最初からの構想だったのでしょうか?

水口氏:
 最初から「“ゾーン”はなんとかして組み込もう」と思っていました。
 「“ゾーン”を作ることで新しい体験ができないか」ということだけが最初にあって、そのためにたくさんの実験を重ねました。「これがいちばん気持ちいいね」という形に落ち着くまでに、もう何度実験したかわからないです(笑)。

 構想だけで言えば、僕が『Rez』を作り終えたあと──PSPが発売された2004年ごろに、「『テトリス』で“ゾーン”的な構造を作ってみたいな」と思ったことはあったんですね。
 ただ、あのときはすでにテトリス・カンパニーがエレクトロニック・アーツにライセンスを下ろしていたので、実現には至りませんでした。そのこともあって『ルミネス』を作ったとも言えますね。
 ですから、『テトリス・エフェクト』は14年越しの企画になります。

──あのトレーラーが発表されたとき、「なぜ水口さんが『テトリス』を?」と疑問に思ったのですが、14年越しのプロジェクトとお聞きすると唸りますね。そういえば発表を受けてすぐに『塊魂』高橋慶太さんが「ずるい」とツイートしていました(笑)。

水口氏:
 彼も作りたかったんですよ、『テトリス』を。
 まあ、僕のほうがずっと作りたいと思っていたんだけどね(笑)。

『テトリス・エフェクト』にはいままでの集大成的な側面も

──ともあれプレイして、水口さんの作品の集大成的なものといいますか、いままでやってきたものの積み重ねの延長線が見え、「このアプローチで来るか」と思いました。

水口氏:
 確かに、自分たちのいままでの経験で──それは『ルミネス』だったり、『Rez』だったり、『Child of Eden』だったりしますが──「その経験を活かして『テトリス』をよりよいものにしよう」という意図のもとで、今回の『テトリス・エフェクト』を開発しています。

 この『テトリス・エフェクト』を作ることは、僕らにとってすごく意味のあることなんです。さらに先へと進むための、いろいろなものの集大成が織り込まれている感覚は確かにありますね。

──『テトリス・エフェクト』は、発売の前に一般の方が体験できる機会を設ける予定はあるんでしょうか?

水口氏:
 アイデアとしてはいろいろありますね。
 僕らも「やっぱり触ってもらわないとね」という思いもあります。どうしたらそれが実現できるかを、いまは考えているところですね。

──もし何かご一緒できることがあれば喜んで協力させていただきます。(了)


 過去の電ファミのインタビューで『Rez』の制作経緯を伺った際、水口氏はどこから『Rez』の着想を得たのかについて、次のように語っていた。

 まず最初に、漠然とだけど「シナスタジア(共感覚)」のコンセプトがあったのね。例えば、さっき話したMTVのミュージックビデオのように、オーディオやビジュアルが連動した瞬間の気持ちよさみたいなものをイメージしてた。

 

 昔、授業をサボって『ゼビウス』をやりながら、シューティングのSEが音楽のように聞こえたことがあって、「これがそのまま演奏にならないか」と妄想したりとか。

 『テトリス・エフェクト』を体験してからこのインタビューを読み返すと、はっきりとわかる。
 これこそが、水口氏の作りたいものの、そして実際に作り続けてきたものの原点なのだと。
 「ゲームをプレイしているはずが、いつのまにか音楽を演奏している」。そんな体験ができるゲームを、水口氏は若いころから自覚的に作りたかったのだと。

 そう考えると水口氏の試みはじつに一貫している。『スペースチャンネル5』、『Rez』、『ルミネス』、『Child of Eden』、『Rez Infinite』、そして『テトリス・エフェクト』。水口氏が表現したいものは、技術やハードが発展するにつれ、その表現の解像度をどんどん高めていった。

 その解像度は、『テトリス・エフェクト』において、ひとつの頂点に達したのではなかろうか。その証拠に、本稿の冒頭でも述べたように、ゲーム中に流れる音楽と操作によるSEが、自分が演奏していることに気づかないほど自然な融合を遂げていた。

操作音が音楽として聴こえたステージでは、祭壇に向かって祈りを捧げる民衆のようにパーティクルが集合する。

 確かに『ルミネス』や『Rez Infinite』でも、“あたかも音楽を演奏しているような感覚” を体験することがあった。
 『ルミネス リマスター』のインタビューでも触れたように、その感覚、その気持ちよさは徹底的な計算のもとに作られている。単純に操作と音を合わせただけでは気持ちのいい音楽にはならないだろう、ということは理解できる。

 しかしながら、『テトリス・エフェクト』は──それらとは「何か」が違っているのだ。単純に「映像や音楽、演出や技術のレベルが進化したのだ」とは到底言うことができない。
 そんな言いかたでは『テトリス・エフェクト』の本質を明らかに取り逃がすことになる。

 その「何か」とはいったい何なのか。どうして違っているのか。
 表現するのがとても難しいことだが、その「何かが違っている」理由のひとつを挙げるなら、「『テトリス・エフェクト』が『テトリス』をベースにしているものだから」ということが言えるかもしれない。

 『Rez』/『Rez Infinite』も『ルミネス』も新しい種類のゲームだった。言い換えるなら、誰にとっても未知の体験だった。だから、慣れるまでにはどうしてもある程度の時間がかかる。

 誰も経験したことのないゲームであるがゆえに、そこには一定の距離があった。
 それはルールを把握したり、操作やプレイに慣れたりするまでの距離であり、ゲームを真の意味で「体験」するまでに通過する必要のある距離だと言える。

 一方で『テトリス』は、誰もが知っている。いまさらルールを説明し、チュートリアルを設ける必要もない。

 だから『テトリス・エフェクト』は『Rez』や『ルミネス』に比べて、「体験」するまでの距離が短く、プレイヤーにとってはより近い存在だと言える。
 つまり、プレイを始めるとすぐさまゲームに没入でき、音楽や操作の手触りを気持ちよく感じるにまで至りやすいのではないか。

 もうひとつ“ゾーン”についても言及したい。もともと、“ゾーン”という現象はプロスポーツ選手などの、いわば「凄腕」のプレイヤーによく見られるものだ。
 みずから意識的に“ゾーン”に入ることは、普通のプレイヤーには難しいだろう。

 とはいえ、『テトリス』のようなパズルゲームをプレイしていて「頭が真っ白になっていく」ような“ゾーン”的な感覚はゲーマーであれば何度か経験したことがあるはずだ。

プレイデモの“ゾーン”では背景が“真っ白”になる演出が入る

 “ゾーン”に入ったとき、プレイヤーは何を感じているのか。「頭が真っ白になる」という表現が意味するのは、思考やロジックを介していないということだ。
 頭が真っ白になっていくときは、落ちてくるテトリミノの形を認識し、次いで積まれたテトリミノの形を確認し、ちょうどよく嵌まる場所へと動かす……といったようなことを逐一考えているわけではない。
 むしろテトリミノを落とす位置や形、そして必要な回転の数は一瞬のうちに理解され、無意識的に手が動いている。

 映像だけでなく音についても同様だ。普通にプレイしている場合、私たちは耳に入ってくる音を、それとなく「BGM」や「SE」と区別して聴いている。
 しかし“ゾーン”に入った場合、それはもはや「BGM」や「SE」ではなく、あたかもひとまとめの音楽のように感じているのだ。

 つまり“ゾーン”に入ったとき、私たちは音楽や映像を“耳で聴き、目で観ている”というよりも、まるごと“体験”しているのだ。
 奇妙な言いかたをするなら、“目で観て、耳で聴く前に”、映像や音楽が身体に入り込み、非言語的に浸透しているのである。

 そして、この“ゾーン”下での音楽や映像の“体験”こそが、水口氏の表現したいゲーム体験なのだろう。
 だから恣意的に“ゾーン”を再現することで、そこまで入り込みにくい普通のプレイヤーでも、“ゾーン”的な体験を容易に味わえるようにしたのだ。
 だからこそ『テトリス・エフェクト』をプレイすることは、“『テトリス』というゲーム”のプレイではなく、むしろ“『テトリス』という体験”と呼ぶべきものになっているのではないだろうか。

 個人的には、“ゾーン”の体験から「チル」という言葉を思い浮かべた。
 これは英語の”chill out”から来た言葉で、「落ち着く」、「リラックスした」、「まったりする」といったような意味を指す。

 新しく使われ始めた言葉なので明確な意味や用法はまだ定まっていないが、とりわけ音楽の分野では、アンビエントやダウンテンポの落ち着いた音楽を指して「チルい」と形容することが多く、その名を冠した“chillstep”なるジャンルも生まれている。
 これまで筆者は「チルい」と呼ばれている音楽を聴いてみても、その内実はよくわからなかった。「こういう感じの曲をチルと呼ぶのだな」という程度にしか感覚をつかむことができなかったのだ。

 しかし、『テトリス・エフェクト』を体験して初めて、「チル」という言葉の本質を教えられたように感じた。
 『テトリス・エフェクト』をプレイしたときに流れ込んできた感情を──安らかで穏やかで、あたかも瞑想に入ったような──形容する言葉が、まさしく「チル」なのだと。

 水口氏は今回の取材で、自分たちの作るもののコンセプトは“週末に疲れを癒やすように、リラックスしてゆっくりプレイできるような”ゲームだと語った。
 それは言い換えるなら「チル」なのではないだろうか。そして『テトリス・エフェクト』は、まさしくそのために作られたゲームであるように思える。

 いい映画を観て、爽やかな気分に浸る。暖かい風呂に入って、鼻歌交じりにくつろぐ。寝る前に落ち着いた音楽を聴いて、安らかな気持ちで眠りにつく。
 そのような憩いのひとときを──まさしく”chill out”しているような時間を──『テトリス・エフェクト』では味わうことができる。

 私たちはまだ開発中のゲームを数十分ほど体験したにすぎないのだが、それでもゲームによって言葉の意味を教えられるような経験は初めてのことだった。
 『テトリス・エフェクト』は最高に「チル」なゲームである。いや、より正確に言うのなら──「チル」という言葉の本質は、『テトリス・エフェクト』の中に含まれている。
 拙い言葉で恐縮だが、『テトリス・エフェクト』がもたらした新たなゲーム体験の可能性の一片を感じ取っていただければ幸いだ。

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インタビュアー
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
インタビュアー・著者
哲学科を卒業後、ディオゲネスのような暮らしを送っていたが、2017年11月より電ファミニコゲーマー編集部に加入。
ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。自分にとっては、人生で最初に触れた芸術作品がビデオゲームでした。小説や映画の批評がごく当たり前に存在しているように、ゲームを語りゲームを批評することがもっと広がってほしいと思っています。
Twitter:@ex1stent1a
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