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川上量生×GOROmanが語る「VRとAIがもたらす最適化された世界」とは?──仮想現実がディストピアになるほど人類は幸福になる!

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 そう遠くない未来、我々は現実世界ではなく、仮想現実に生きているという。とすると、その未来には一体何が待ちうけているのだろうか──?

 これまで人類は、そうした仮想現実に対して、例えば『マトリックス』『ソードアート・オンライン』などSF作品を中心にその想像力の翼を思う存分に広げてきた。
 だがその一方で「実現性がある近未来」としての仮想現実の話は、あまり語られてこなかったように思う。

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(画像はAmazon | マトリックス [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [Blu-ray] | 映画 より)

 そんな中、2018年。

 ふと周りを見渡してみると、テレビ出演や声優デビューまで果たし始めた「VTuber」なる存在の爆発的増加、『サマーウォーズ』のOZ(オズ)のような世界「VRchat」で睡眠を始めた人々の出現、そしてまさに本対談の実施日にTwitterトレンド入りをした「バーチャル出社」が話題を呼ぶなど──いよいよそうした仮想現実の“実像”について語るべきタイミングがきたようにも思う。

 そこで話を伺ったのが、Oculus創業者のパルマー・ラッキーにまったく予定になかった「Oculus Japan」を立ち上げさせたという逸話を持つ日本VR界の風雲児・GOROman氏。そして、現在はカドカワ社長やドワンゴCTOなどを歴任する川上量生氏である。

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バーチャルキャスト

 ドワンゴは先日、”VR総合プラットフォーム”を提供する「株式会社バーチャルキャスト」をインフィニットループと設立したばかりだ。そのメイン事業となる「Virtual Cast (バーチャルキャスト)」はVR空間でバーチャルキャラクター同士のコミュニケーションができるもので、ニコニコ生放送のようにリアルタイム配信することができる。

 実はほぼ面識がなかったお二人だが、まだ外が明るい時間に始まった取材は予定時間をはるかに超過し、暗くなっても語りが尽きぬほどの盛り上がりをみせた。

 それゆえ話のラインナップは多岐にわたるが、特に印象的だったのが、後半になるにつれ増していくその“ディストピア感”である。
 全裸で会議にでたり、おじさんを抱きしめたり、AIに媚を売りながら課金したり、「生身の人間が気持ち悪い」と言い放ったりもして……そのキワドい(?)発言の数々が示す恐るべき未来像は、ぜひ本文を確認していただければと思う。

 まさに“放談”といった趣の長時間にわたる取材だったが、ほとんどの話題はカットするには惜しく、あえてその多くを残すことにした。一見冗談めかしい語りの中にも、VRやAIなど未来に関わる鋭い洞察が散りばめられているからだ。
 ぜひお昼休みや移動時間など、時間があるときにゆったりと楽しんでいただければ幸いだ。

聞き手/TAITAI
文/まなべ
編集/クリモトコウダイ
写真/佐々木秀二


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GOROman氏(写真左)と川上量生氏(写真右)

鈴木Pと共に体験したVRの衝撃

──今日の取材は、以前お二人が初対面でお話をされたとき、あまりに盛り上がってしまい「これをぜひ記事に残そう」となったのがキッカケと聞きました。

川上量生氏(以下、川上氏):
 そうそう。経緯としては、僕がGOROmanさんに会いに行ったんだよね。名前をよく聞くから、「たぶん、この人のことを知っておかないといけないんだろうなあ」と思って。

 その結果、「この会話、世に残らない状態でするのはもったいない」ってなってしまって、どちらからともなく話を途中でやめたんですよね(笑)。

GOROman氏:
 あのときは、もうぶっ通しで昔のオンラインゲームとか、バーチャル世界の未来を無限にしゃべっちゃう勢いでしたからね。

 ただ僕と川上さんって、実は数年前に間接的に会っていて。僕がFacebook(Oculus Japan)社で仕事をしてたときに、川上さんがそこにいろんな人を連れてきていたんですよ。当時は2016ごろだったのですが、Oculus Touchのデモを川上さんが体験して「会議はこれから全部VRになるね」とおっしゃられていたのを憶えています。

※OculusTouchのデモ『Toybox』の映像。後述の、鈴木Pが熱中したというパチンコの様子は0:22〜から。


川上氏:
 あ、そうでしたね。そのとき『Toybox』っていう、VR空間で積み木やパチンコを遊ぶデモを体験したんですけど、それがあまりに衝撃的で。それでたしか、スタジオジブリの鈴木さんとか宮崎吾朗さんとかを連れていって、「これからこうなるんです」と説明したんですよ。

──鈴木プロデューサーもそんな早くからVRを体験されていたんですね。

GOROman氏:
 鈴木Pは延々とパチンコをやっていましたね。印象的だったのが「全部自分でやりたい」という感じで、誰かが壊すとちょっとムッとするんですよね(笑)。
 だからあの時はVR空間の鈴木Pを20分間、みんなでじっと見守り続けるという時間を過ごしましたね。反対側の部屋にいる社員の女の子なんて、いつ終えていいかわからなくなって困ってましたもん。

一同:
 (笑)。

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川上氏:
 そうそう(笑)。鈴木さんって結構テクノロジー好きなんですよね。

VRの世界1:夢のような物理法則に

──さて、今日の話のメインは仮想現実(=VR空間)ですが、それこそ『マトリックス』から最近だと『レディ・プレイヤー1』まで仮想現実をテーマにしたフィクションはあるんですが、これから実際に実現する仮想現実の話となると、あまりイメージがわかないなとも思ってて。今日はそのへんの話から始めていけれればと思います。

川上氏:
 それでいうと、僕は『Toybox』のデモを初めてやったときに「VR空間に現実のシミュレーションなんかいらないんだ」と、人生観のレベルで考えが変わったんですよね。
 ずっとVRで現実を完璧に再現するには今のCPUパワーじゃ足りないと考えていたんですけど、そもそも、現実の正確な物理演算なんて人間の脳は認識したくなかったわけですよ。

──どういうことでしょう?

川上氏:
 例えば、VR空間でオブジェクトを手に取るとき、手を近づけたらシュッってモノが手に吸い付くとかできるわけですよ。それって普通に考えたら現実とは違う物理法則だけど、実際にやってみるとすごく脳にとって快適なんだよね。

──確かに、VR空間ではいちいちモノの形を把握して、それに合わせて手を動かして力を入れて、みたいな手間が全くなくなるわけですよね。

GOROman氏:
 逆に20分くらいやった後に現実に帰ってくると、ペットボトルとかがちゃんと掴めなくなって「うわあああ!」ってビックリすることがあるんです。

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 つまり、VR空間の物理法則の方に、人間の脳が慣れちゃうんですよ。だから、数十年かけて現実と全く同じ空間をつくる暇があったら、人間をSFの超能力者にしちゃえばいい世界なんです。

川上氏:
 その話で思い出したんですが、僕は小さい頃から何度も「同じ夢」を見ることがあって。その夢というのが、高いところから落ちているんですが、地面にぶつかる直前に「うわあああ」って力むと、ギリギリで空を飛べるという内容なんです。

GOROman氏:
 カービィが踏ん張って飛ぶみたいな感じですかね(笑)。

川上氏:
 で、最初は現実の知識に引きずられていて「飛べるわけがない」と夢の中でも思っているんですけど、段々とその物理法則に納得してくると「あー本当はこうだったんだ」と思って自由に飛べるようになるんです。
 何がいいたかったかというと、VR空間もその夢みたいな感じで、脳の構造にとって気持ちいい物理法則に最適化していくと思うんですよ。

GOROman氏:
 そういう脳に気持ちいい物理法則って他にもありそうですよね。『スーパーマリオブラザーズ』のマリオみたいに、ジャンプ中に後ろにちょっと移動できるとか。

川上氏:
 そうそう。あとは、「渋滞につかまったら思わず前の車をバズーカで吹き飛ばしたくなる」みたいな、そういう破壊的な衝動もVR空間なら実現できる。

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GOROman氏:
 僕も満員電車とかに遭遇すると「ドアを全部開けて、急カーブして振り落としてえ」とかって思います(笑)。でも、そういうストレスって、ある意味「この現実は脳に負担がかかっている」という警告でもあると思うんですよね。

──だからこそ「脳にとって気持ちいい」というのがひとつの基準になる、と。そう考えると、むしろVR空間ならではの普遍的な物理法則ってどうなるんでしょうかね。

GOROman氏:
 まず、重力を無視できるのが大きいですね。現実世界ってかなり重力に依存してできていますけど、VR空間だったら、モニターとかを最も見やすい位置に浮かべられるわけですよ。それに加えて、自分の視線の先についてきてくれるヘッドロック機能がつくとだいぶ快適ですね。

 あとはインベントリ【※】 が常に呼び出せるといいなと思っていて。例えば僕は会社に机がないんですが、その理由って、机があるとついつい巣作りして周りがガジェットだらけになっちゃうからで……。

※インベントリ:主にゲームなどに使われる、アイテムを収める場所

──これはなかなかに病的ですね(笑)。

GOROman氏:
 こんな状況だから工具とかドライバーを探すのも一苦労で、結局見つからないから新しいドライバーを買ってしまう。
 そのせいで今オフィスにはドライバーが7セットくらいあるんですけど(笑)。VR空間だったら「ドライバー」って言ったらヒュンって飛んできてくれるわけですよ。

VRの世界2:ジブリアニメのような情報量へ

──VR空間は脳にとって快適な方に最適化されていくという話がでましたが、だとしたら、例えばVR空間におけるビジュアルなんかも、現実とは全く異なるんでしょうか?

川上氏:
 そこでは、僕はジブリのアニメーションと同じことが起きると思うんですよね。

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 まず、アニメの特徴って情報量が少ないことで、だから子供に好まれる映像表現として発達してきたわけです。
 小さい子にとって、現実空間というのはあまりに情報量が多すぎて、逆に情報をまったく取り出すことができない。だからアニメのようにデフォルメされた方が、むしろ現実よりもより多くの情報をデコード(復元)することができるんですよ。

──アニメくらい現実がデフォルメされている方がむしろ子供にとっては分かりやすい、と。

川上氏:
 それが例えばジブリ作品とかになってくると、そこから情報量が増えて、大人にも楽しめるものになるわけです。
 しかも、例えば『風立ちぬ』の飛行機って、実写の飛行機よりもずっと鮮明な印象を我々に与えるんです。実際、それは現実の飛行機の縮尺よりも、大きく描かれているそうなんです。

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(画像は映画『風立ちぬ』公式サイトのスクリーンショット)

 で、そうしたある種のデフォルメによって、実写映画よりもジブリ作品の方が人間の脳がデコード可能な情報を多く詰め込むことができる。むしろ脳にとっては「実写よりも情報量が多い」と感じるわけです。
 大人の脳にとっても現実の情報量ってノイズが多いので、記号化して詰め込んだほうが、客観的な情報量は一見減っているようでも、人間にとって理解できる情報量が逆転する可能性があるわけです。

──ちょっと補足をすると、川上さんの著書『コンテンツの秘密』ではそうした脳が気持ちいいと感じる情報量のことを「主観的情報量」という言葉で説明されていますよね。
 今の話って、そうしたジブリアニメと同じような感じで、いずれ
VR空間の「主観的情報量」が現実を上回るようになっていくはずだということですよね。要は、現実よりもVR空間の方が人間の脳にとって気持ちいい場所に最適化していく、と。

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※川上氏によるアニメーションにおける情報量の話は『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』に詳しい
(画像はNHK出版新書 458 コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと | NHK出版より)

川上氏:
 そう。だから、仮想現実が全部『マトリックス』の世界みたいにリアルなビジュアルになる必要はなかったということなんですよ。

GOROman氏:
 むしろアメリカ人とかの考えるVR空間って、現実を実質的にコピーしようという方向のものが多いと感じますね。

──「リアル志向の欧米に対して、デフォルメを得意とする日本」みたいな話は、よく言われる日米の違いですよね。

川上氏:
 日本って2次元の世界の方に感覚が適応してしまって、2次元の美少女の方に性欲を感じる人とかも増えているわけですよ。これからは「VR空間の方がむしろ現実世界だ」と思う人が増えることで、その感覚が自然なことになっていきますね。

 ただ、実は世界的には今、アニメーションやCGは現実の再現の方に近づいているんです。でも、あれってまだ僕らが現実世界に生きているせいだからで、過渡期の現象じゃないかと僕は思ってるんですよね(笑)。

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 逆に、現実より“もっとリアル”なビジュアルも出てくるとも思います。今も高画質な4Kテレビなんかが、もはや現実よりも鮮やかに見えたりするじゃないですか。
 ああいうものがある種のケレン味として多用されることはあるでしょう。ただ、そういう緻密な世界にずっといるのはしんどいので、人間は長い間その中にいることはないだろうというのが僕の考えですね。

──VRコンテンツは長時間できない」とよく言われますが、確かにビジュアルの客観的な情報量が多いと疲れそうですよね。

フラットデザイン化するキャラクター

GOROman氏:
 要するに、VR空間ってヘッドフォンとかのノイズキャンセリング機能の“視覚バージョン”になるんですよ。いらない雑味やノイズが、どんどんなくなっていくんです。

 例えば、昔のiPhoneのOSって、電卓やメモ帳が革のデザインになっていたりして、現実の物質をメタファーとしてUIに取り込んでいましたよね。そういうのをスキューモーフィックデザインというんですが、そこからだんだんと、今のiOSやWindows10みたいにフラットデザイン化していったわけですよ。

 で、それはアニメキャラやVTuberのビジュアルでも同じなんです。実際、80年代から今に至るまでのアニメの主流を見ていくと、だんだんと鼻が小さくなっていくんですよ。
 たぶん鼻は作画上、表情を構成するのに使えない要素だから退化していったのかなと思っているんですけど。

川上氏:
 リアルな人間の化粧とかってやっぱり限界があって、骨の構造まで変えるのは難しいじゃないですか。でもアニメとかだと自由に描けるので、人間の好みがフィードバックされて最適化していくんですよね。

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(画像はANIME(アニメ)|SPECIAL|聖闘士星矢より)

 しかもその結果、どんどん画一化していくんですよ。

 例えば、車田正美って『リングにかけろ』の時は個性的なキャラが出てくるんですが、『聖闘士星矢』になるとみんなイケメンになっちゃうんですね。
 そこで面白いのが、イケメンばかりが登場する『聖闘士星矢』は、登場人物が増えているにも関わらず、みんな区別できない程に同じ顔をしているんですよ。

──川上さんが著書に書いていたエピソードで、宮崎吾朗さんが「イケメン・美女というのは特徴のない顔なんだ」みたいなことを言っていたという話に近いかもしれませんね。みんなが理想とする顔はだいたい同じになるというか。

川上氏:
 そうそう。それって違いがわからない人にとっては、「全部同じじゃないか」というふうに見えるんですよ。

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 だけど実は、ある程度詳しい人間はそれを見分ける能力も同時に発達しているから、むしろ多様性のある世界に見えるんですよね。

──AKB48や『ラブライブ!』のμ’s(ミューズ)みたいなアイドルグループに対して、「全部一緒に見える」みたいな感想を持ってる人は多いですけど、ファンからしたら全然違う個性的なメンバーに見えている、みたいな話ですよね。

川上氏:
それが未来のVR空間でも起きると思っていて、その違いがわからない人間にはものすごいディストピアに感じるわけです(笑)。

GOROman氏:
 それに近い話で、僕が体感して「これはやばい」と思った現象があって。ある時、SHOWROOM東雲めぐちゃんみたいなフラットデザインの究極系を延々と見ていたんです。

 で、そこに生身のアイドルの女の子がぱっと出てきたんですが、その瞬間「気持ち悪い」と反射的に思ったんですよ。「いきなり生の牛肉がでてきた」みたいな感じで……って、これってこのまま記事にするとヤバい発言ですよね。

一同:
 (爆笑)。

川上氏:
 確実にヤバい人扱いされますね(笑)。間違いなく人類はその方向に進化するはずなんだけど、今それを声高に記事にしちゃうと……まあでも、電ファミの対談だから大丈夫か。

──ど、どうなんでしょう(笑)。

GOROman氏:
 「生身の人間は雑味があって気持ち悪い」みたいなこと言っていますからね。

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現実空間の再現はダメ──反面教師の『エバクエ』

──一旦ここまでの話をまとめると、物理法則にしろビジュアルにしろ、VR空間は現実の模倣ではなくて「脳にとって気持ちいい」方向に最適化していく、という感じですかね。 

川上氏:
 そう。それでいうと、そのゲームでの分かりやすい反面教師になるのが『エバークエスト』【※】だと思ってて。あのゲームって一回戦ったら体力を回復するのに1時間くらいずっと待つ必要があったんですよ。

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※『エバークエスト』……Sony Online Entertainment社が1999年にリリースしたMMORPG。種族、職業、信仰の異なるプレイヤーキャラクターが闊歩するノーラスと呼ばれる世界を冒険。坂口博信氏をはじめ、『FFXI』の開発スタッフたちが入れ込んでプレイしていたエピソードが有名。
(画像は(画像はEverQuest – Mediaより)より)

──戦いの傷が癒えるまで、みんなでじっと待つんですよね。

川上氏:
 なんでそこで現実に寄せちゃったのかなと。もうこれ、ゲームじゃないじゃんと思って(笑)。だからVR空間も、現実空間によせる方向に進化したら絶対ダメですね。
 「そんなことにリソースをつぎこむのはアホだ」というのを、あの作品が逆説的に証明してくれていますから。

記号化でむしろ恐ろしさが増した『ローグ』

──逆に良い例として、先程のジブリアニメみたいに、現実によせないことで「主観的情報量」が多くなっているゲーム表現ってあるんですかね。

GOROman氏:
 ちょっと違う話ですが、昔『ローグ』というゲームがあって、そこでは主人公が「@」でドラゴンが「D」と表示されるんですよね。
 だから画面に「D」って文字が出た瞬間「死ぬ!!!」と思って、めちゃくちゃ緊張するんです。でもふと冷静になって見ると……それってただの「D」なわけですよ。

一同:
 (爆笑)。

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オリジナルの『ローグ』バージョン5.4を日本語化・Mac用に移植した『 jRogue for macOS』のプレイ画面

GOROman氏:
 ただ、僕の脳内には名状しがたいほど超巨大なドラゴンがいるわけですよ。

川上氏:
 『ダークソウル』の巨大なドラゴンと『ローグ』の「D」では、ひょっとすると「D」の方が脅威を認識する速度が速いかもしれないよね。もはや複雑なデコードも必要とせずに「D」が直接入ってくる(笑)。

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(画像は Movie and Images – DARK SOULS REMASTERED | ダークソウル リマスタードより)

GOROman氏:
 普通だったら、映像でドラゴンを認知して、「こんなに大きい」と脳内で計算して、それでやっと「これは倒せない」と思うわけですからね。 

──「女医さんがマスクしてると美人に見える」みたいな感じで、全貌が明らかになってない分、見えない部分をその人なりの想像力で最適化しちゃうみたいな話ですかね。

GOROman氏:
 将棋とかもそうだと思うんですが、それくらいの方がむしろ本質的なリアリティを感じられると思うんです。

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 ゲームって最初ドットで、それがポリゴン化してリアリティが増していったじゃないですか。でも、どこかでそうした「想像の余地」がなくなっちゃったタイミングがあったんじゃないかと思いますね。
 僕なんかは『バーチャファイター2』くらいが一番いいと感じるんですが、そういう、「不気味の谷」ならぬ「リアル化の谷」のようなものはある気がします。

川上氏:
 『ウォークラフト2』とかって、オーガメイジがブラッドラストするとめちゃめちゃ怖いじゃないですか。あれって『エイジ オブ エンパイア』とかに比べてほとんどアニメーションしてなかったけど、すごく怖かったよねえ。

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『ウォークラフト2』
(画像はBlizzard Entertainment:Classic Gamesより)

GOROman氏:
 あれもビジュアルじゃなくて、声なんですよね。「うおおおお!!!」っていう。

川上氏:
 確かにあれが怖かったのは声ですねえ。

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──話が少々マニアックになってきましたが(笑)、でも確かに想像力を喚起する要素として、むしろリアルにしすぎないようにしたり、音といったものを使うのはVR空間にも応用できるような感じがしますね。

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