『ヤマト』の宇宙はなぜ青い? 『コードギアス』に人型ロボットが出る理由は? 制作者が作品に落とし込む宇宙SFの“リアリティ”とは

『ヤマト』の宇宙はなぜ青い? 『コードギアス』に人型ロボットが出る理由は? 制作者が作品に落とし込む宇宙SFの“リアリティ”とは

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SF作品に組織や世界観のリアリティが生まれ始めた。

谷口氏:
 小松さんの小説は、アニメーションに相当の影響を及ぼしたと思っているんですよ。あの発想とか考え方に関しては。こういった現象が起きたときに、社会はどのように対応していくのか。その視点がある。

小倉氏:
 怪獣がやってくると、お約束のプロセスとして防衛軍が出てくる。その通常兵器で対抗できないから、次は超兵器のロボットが出撃する。そこで描かれる社会は、この程度しかない簡単な組織構造だった。
 これに切り込んで“兵站”(ロジスティクス)を採り入れていったのは富野さんの『ザンボット3』あたりからだと思うんだけれど。

『無敵超人ザンボット3』。1977年の富野由悠季監督によるロボットアニメ。サンライズ初のオリジナル作品であり、後の『ガンダム』や『イデオン』に通じる、正義に対する疑念、残酷描写など、富野由悠季の作家性がはじめて発揮された作品と評される。
(画像は無敵超人ザンボット3 コンプリート DVD-BOX (全23話, 575分) 日本サンライズ アニメ [DVD] [Import] [PAL, 再生環境をご確認ください]より)

谷口氏:
 そうですね。その前のところで私として評価したいのは『ガッチャマン』がありまして。

『科学忍者隊ガッチャマン』。1972年に放映したSFアニメ。タツノコプロが制作。少年少女たちで結成された科学忍者隊が世界征服をもくろむ秘密結社ギャラクターに立ち向かうのを描く。
(画像はAmazon | 想い出のアニメライブラリー 第93集 科学忍者隊ガッチャマンII [Blu-ray]より)

小倉氏:
 あーなるほど。

谷口氏:
 『ガッチャマン』は南部博士が予算とかいろいろ勝手に操作して作っちゃった、とんでもない組織ですけど(笑)。敵の組織が、ちゃんと給料とか休みがしっかりしている秘密結社で説得力があったんです。

小倉氏:
 ギャラクター【※】ってそうなんですよ。

※ギャラクター
『科学忍者隊ガッチャマン』シリーズに登場する敵の秘密結社。総裁Xをトップとして、その下に首領ベルク・カッツェ、各種指揮を務める隊長、末端の戦闘隊員と、階級や指揮系統がしっかりしたものとして描写された。

谷口氏:
 当時は敵の組織にしてもギャラクターの構成員になるか、パンサークロー【※】の構成員になるかって葛藤遊びができて(笑)。
 ギャラクターだとプロレスラーみたいに自由に自己主張できるマスクがもらえる幹部になれる。パンサークローだと上司が必ず国際モデル級の綺麗なお姉さん。究極の二択ですね。

※パンサークロー
『キューティーハニー』に登場する秘密犯罪組織。 幹部や怪人は美しい女性ばかりだが、下級戦闘員は男性で構成されている。

(画像はAmazon | キューティーハニー VOL.1 [DVD]より)

イシイ氏:
 パンサークローの下っ端は、それなりにお洒落だった気がします。

小倉氏:
 お姉さんはね。男は相変わらず、ショッカーの服みたいな感じですよ

谷口氏:
 組織としてしっかり描かなきゃいけないという考えが生まれたのは、大きな流れがあったがゆえ、と思うんですよ。

小倉氏:
 氷川竜介さん【※】が言っていたのは、『ウルトラセブン』地球防衛軍っていう言葉が出てきたときに、世界観という概念が生まれたと。

※氷川竜介
アニメ・特撮評論家、研究家。理系的な分析で知られる。

谷口氏:
 なるほど。

小倉氏:
 最初期の世界観に対する認識は、主人公たちの上部組織があって、別の部署から親友がきたり、幹部の外国人がいたりとか。

谷口氏:
 画面外にも世界が広がっている感覚がありましたね。

小倉氏:
 画面の外を匂わせる演出があったんですよね。

谷口氏:
 当時の間違った日本人の認識で、国連は平和組織である、と思い込んでいた(笑)。その間違った認識から、国連を発展していくといい組織ができる、っていうことに繋がっちゃったという反省点もありますが。

イシイ氏:
 もし国連を戦勝国連合と翻訳し、それが定着していたとしたら、どんな世界が見えていたのかって思いますね。

小倉氏:
 United Nationsって、要するにそういうことですからね。戦勝国連合。

イシイ氏:
 「戦勝国連合から派遣されてきた○○大佐です」とか言われたら、日本人にとっては屈辱のイメージありますよね。

谷口氏:
 マッカーサーがパイプをくわえてやってきたような(笑)。

小倉氏:
 だから最初の『ヤマト』には階級の呼称はなかった。

谷口氏:
 ああ、そうか、そうか……。

小倉氏:
 なになに班長っていうね。

イシイ氏:
 敬礼のポーズも含めて軍隊色を薄めてうまく表現していますよね。

小倉氏:
 階級による呼称が出てきたのは『ガンダム』や『マクロス』くらいからですよ。

明るい未来観と暗い未来観から、硬直した未来観への転換

──国連の話を戻すと、21世紀は20世紀的なものがもっと進歩して、世界市民のようになるだろう、といった幻想が当時はあったのでしょうか。

イシイ氏:
 ジーン・ロッデンベリー【※】イズムみたいなものはありましたよ。『スタートレック』が目指した未来はすごいヴィジョンでしたね。

※ジーン・ロッデンベリー
『スタートレック』シリーズのプロデューサー、脚本も務めることがある。最初の企画立案者であり、名実とも『スタートレック』シリーズの生みの親。 

小倉氏:
 1960年代にはその夢があったんです。手塚(治虫)さん【※】にも通じる、楽観主義っていったらいいのかな。

※手塚治虫
『火の鳥』や『ブラックジャック』といった作品で知られる漫画家。1989年没。

谷口氏:
 未来はやっぱりよくなっていくんだろうっていう。そこには行かずに『レディ・プレイヤー1』【※】みたいな世界になっちゃいましたけど。

※『レディ・プレイヤー1』
2018年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督によるVRを題材にしたSF映画。

──1980年代の別の潮流、よく言われるのが、それまでは綺麗な宇宙だったけれど、『スター・ウォーズ』が宇宙船に汚しを入れたとかありますが……。

イシイ氏:
 でもカウンターは『ブレードランナー』ですよね。

『ブレードランナー』。1982年公開のアメリカ映画。フィリップ・K・ディック原作。酸性雨が降り注ぐ超高層ビルが立ち並ぶ未来のロサンゼルスを舞台に、人間に偽装したレプリカントと呼ばれる人造人間を、特務刑事が追う。
(画像はAmazon | ブレードランナー クロニクル [DVD]より)

谷口氏:
 『ブレードランナー』ですね。

小倉氏:
 やっぱり『ブレードランナー』ですよ。『スター・ウォーズ』は確かにリアリティの演出として、古い宇宙船もあるんだって感じですね。

──未来の世界観までいくと『ブレードランナー』になると。

谷口氏:
 それまで宇宙船は格好いいもの、強いものっていう希望があったと思うんですよ。『ブレードランナー』ではただの移動手段になっていますからね

イシイ氏:
 『猿の惑星』とか『バイオレンス・ジャック』とか『マッドマックス2』とか、ディストピアもの、核戦争後の世界はあったんです。もしくは戦争は起こらなくて発展する未来。
 どちらかですよね。理想的な未来になるか、核戦争で滅んで、とんでもないディストピアがくるかの二者択一。ところが案外、縮小していくんじゃないか、っていう空気が出てきたのがいつからか、ですよね。

『猿の惑星』。1968年に第一作が作られた、ピエール・ブールの小説を基にした映画シリーズ。猿が支配する惑星に辿り着いた宇宙船乗員達の物語。
(画像はAmazon | 猿の惑星 35周年記念 アルティメット・エディション [DVD]より)
『バイオレンスジャック』。1973年連載開始の永井豪のマンガ。関東地獄地震と呼ばれる巨大地震によって壊滅し、混沌と化した関東を舞台にしたポストアポカリプスもの。
(画像は連載再現版 バイオレンスジャック(1) (KCデラックス)より)
『マッドマックス2』。1981年公開のオーストラリア映画。戦争で文明が崩壊し、砂漠のように荒廃した未来で、モヒカンヘアーの暴走族が水やガソリンを奪うために跋扈している世界観は、マンガ『北斗の拳』や、ゲーム『フォールアウト』シリーズに影響を与えた。
(画像はAmazon | マッドマックス2 [DVD]より)

小倉氏:
 当時、酸性雨とか環境問題が取り上げられはじめましたね。

谷口氏:
 『ゴジラ』シリーズですら環境問題を扱いましたもんね。

イシイ氏:
 『ゴジラ対ヘドラ』は、ディストピアものでしたからね。

『ゴジラ対ヘドラ』。1971年公開のゴジラシリーズ第11作目。工業化が進み公害が社会問題化していた当時の日本の世相を反映している。ヘドラはヘドロから生まれている。
(画像はAmazon | ゴジラ対ヘドラ 東宝DVD名作セレクションより)

谷口氏:
 そういう意味だと、ノストラダムスの大予言は完全にディストピアでした。

小倉氏:
 終末ブームというか、1999年に世界が終わるという風潮がね。

イシイ氏:
 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のときも、まだ未来は明るかった気がします。『さよならジュピター』『パトレイバー』『AKIRA』【※】もそれなりに明るかった。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。マイケルJフォックス主演のハリウッド映画。自動車で時間を過去に遡り現代を変えていくという明解かつ小気味よいストーリーと全編に渡って張り巡らされた伏線が多くのファンに愛され、三部作が制作された。
(画像はAmazon | バック・トゥ・ザ・フューチャー [DVD]より)
『さよならジュピター』。小松左京脚本の映画、あるいは同氏名義の小説。興行的な失敗に終わった映画版と対照的に小説版は星雲賞を受賞するなど高い評価を受けた。
(画像はAmazon | さよならジュピター 東宝DVD名作セレクションより)
『機動警察パトレイバー』。ヘッドギア原作のメディアミックス作品。漫画、映画、テレビアニメ、OVAとそれぞれの物語は比較的パラレルに展開するが、特車二課という警察組織に属する面々が物語の軸に据えられているのは共通している。
(画像はAmazon | EMOTION the Best 機動警察パトレイバー 劇場版 [DVD]より)
『AKIRA』。大友克洋原作の漫画、あるいはアニメ映画。東京湾上の都市ネオ東京を舞台に、主人公である金田が謎の力と対峙していく物語。ちなみに同作品内でも2020年に東京オリンピックが開催予定である。
(画像はAmazon | AKIRA(1) (KCデラックス)より)

谷口氏:
 『ボトムズ』だとカウンターですよね。明るい未来の在り方に対する。

『装甲騎兵ボトムズ』。1983年から放送された日本サンライズのロボットアニメ。ハードボイルドな描写が持ち味のリアルロボット路線の作品。
(画像はAmazon | 装甲騎兵ボトムズより)

──未来戦争が綺麗な戦争ではなくて、ベトナム戦争みたいになっていたら、という話ですよね。

谷口氏:
 それははっきり高橋良輔さん自身が言ってましたからね。『ガンダム』が第二次世界大戦だとすれば、『ボトムズ』はベトナム戦争であると。ちなみに湾岸戦争をもとにしたのが『ガサラキ』ですけど。

『ガサラキ』。1998年に放映された高橋良輔監督によるロボットアニメ。政治的・軍事的なアプローチが徹底的に掘り下げられたリアルロボットアニメとして知られる。谷口氏は副監督として参加している。
(画像はAmazon | ガラサキより)

谷口氏:
 湾岸戦争がはじまったとき、夜間映像とかみんなが観てましたもん。不謹慎ではあるけれど。

イシイ氏:
 僕ら戦後世代としては、湾岸戦争がはじめての戦争。911がはじめて受けた攻撃ですね。

谷口氏:
 1999年とか2000年にひとつ境目があるんじゃないかなぁ、とは思いますけど。なんとなく。

イシイ氏:
 日本は1995年だと思うんですよ。オウム事件、阪神大震災、バブル崩壊、この3つで未来に対してリセットが起きたという感覚があって、日本はそこから未来楽観論がなくなった感じがある。
 僕らの世代でいうと2001年。SFファンとしては、思い描いていた21世紀に全然届いてないという。

──1995年ですと『新世紀エヴァンゲリオン』がありますが……。

新世紀エヴァンゲリオン。90年代を代表するアニメ作品であり庵野秀明監督の代表作。固有の設定をちりばめたストーリーには謎が多く、解釈本ブームの火付け役にもなった。
(画像はAmazon | 新世紀エヴァンゲリオンより)

谷口氏:
 『エヴァ』は昭和の遺産で作っていたと思っているんですね。

小倉氏:
 あー、そうだね。

谷口氏:
 全体の終末観は時代のものだし、市川崑さん【※1】や円谷プロ【※2】的なものとか、20世紀終わりに文化の総決算をしなくちゃ、みたいな。これ、褒め言葉です。あの時代に意識してか無意識かはわかりませんが、よくそんな映像を撮ったな、という……。

※1 市川崑
日本を代表する映画監督の一人。『ビルマの竪琴』、『おとうと』、『犬神家の一族』など代表作も多く、後進に与えた影響も計り知れない。

※2 円谷プロ
特撮の神様円谷英二が築いたプロダクション。『ウルトラマン』シリーズ等を制作。

小倉氏:
 『エヴァ』そのものはウルトラマンだからね。

谷口氏:
 そういう意味では、テレビの『エヴァンゲリオン』は昭和としての記号であって、多分、新しい『エヴァ』で庵野さんが苦労しておられるのは、その記号を部分的に今の時代に変えていかなきゃいけないっていうところなんだとは思っていますね。

小倉氏:
 なるほどね。

──確かにそうなんですよ。新劇場版って終末感じゃないところでやろうとしてますし。

小倉氏:
 根底にはあるんですけどね。

──庵野さんの作品ですと、小松左京さんの『日本沈没』などのシミュレーション小説が『シン・ゴジラ』にも繋がっているのかなと感じいて。

『日本沈没』。1973年に刊行された小説。執筆に9年の歳月を費やされた前後編の長編。日本が自然災害の多発により沈没していこうとしている中、人々はどう考えどう行動するのかの考察をエンターテイメントに昇華した作品。
(画像はAmazon | 日本沈没 上 (小学館文庫 こ 11-1)より)
『シン・ゴジラ』。2016年の現代日本にゴジラが現れるという設定をリアリティーを追求した演出で描き賞賛された庵野秀明監督作品。過去の特撮作品からのオマージュをふんだんに詰め込みながら全体的には誰にでも理解できるパニックエンターテイメント映画として完成されている。
(画像はAmazon | シン・ゴジラ DVD2枚組より)

谷口氏:
 災害映画のジャンルとしては、私は『シン・ゴジラ』の切り口って実はそんなに新鮮とは思っていないんですよ。
 災害映画として順当な、当たり前の切り口であって、国のトップがどういう対応をするんだっていう形になると思うんで。だめだって言っているんじゃなくて、まっとうに作っているから理解できる、という意味ですけどね。

 怪獣映画で、驚いたのは『大怪獣東京に現わる』。田舎の人たちのところに「東京で怪獣が現れたらしいよ」ってニュースだけが流れてきて。
 以降、怪獣が画面に出てこないんですよ。この切り口は考えつかなかった。

大怪獣東京に現る』。1998年公開のコメディー映画。トカゲ型怪獣とカメ型怪獣が現れ猛威を振るうが、関係ない福井では住民が呑気に暮らしていたが進路が福井に向いていると知って危機が現実になっていく様を描いた。
(画像はAmazon | 大かいじゅう東京に現るより)

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