2017年12月5日に投稿され、バーチャルYouTuberの歴史を変えた“とあるブログ記事”のことをご存知だろうか──?
『キミは「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」を知っているか!?』と題されたそのブログは、日ごろの閲覧数を上回る爆発的なヒットをし、当時300人程であった当該キャラクターのYouTubeチャンネルの登録者数をわずか数日あまりで9000人にまで押し上げる“事件”となった。
しかも、その“バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん”なるキャラクターの動画を開くと、見た目の美少女っぷりにも関わらず、キャラクターは「男性の声」でしゃべっている。
そしてこれは企業ではなく、どうやら「一介の個人」が制作しているものらしい。その異質なキャラクターの持つ不思議な魅力と可能性に、当時、ネットの一角がにわかにざわつき始めたのだ。
まさにそのブログ記事が公開された2017年12月に、後に「バーチャルYouTuberブーム」とも名付けられるムーブメントが勃興していく。そして、ついには2018年のネット流行語100の第2位、ネット流行語大賞の1位に輝くまでの拡がりを見せていった──その世間的な注目の高さについてはあらためて言うには及ばないだろう。
……だがブーム到来以来のこの一年、バーチャルYouTuber界隈でいったいどんなことが起きていたかについて、「よく知らない」という方は結構多いのではないだろうか?
そこでこの年の瀬に際し、「バーチャルYouTuberの一年を駆け足で振り返る」という趣旨の対談を試みることとなった。登場いただいたのは、先に紹介したブログ記事を書いた張本人でネット廃人の「にゃるら」氏と、紹介された張本人で「バーチャルのじゃロリ狐娘“元”YouTuberおじさん」こと、「ねこます」氏のおふたりだ。
鮮烈なデビューから一年。バーチャルYouTuberはどんな進化を遂げたのだろうか。
マスメディアへの進出や、その水面下で着実に進んでいた「個人」を支援する文化的、技術的な進歩とは? そして来年2019年のバーチャルYouTuber、ひいてはVR業界がどうなっているのかの展望も訊ねてみた。モノがモノだけに、動画多めでお届けしよう。
なぜ「個人勢の希望」が生まれたか(2017年12月)
──今日は、ねこますさんがブレイクした2017年の12月からのこの一年の「バーチャルYouTuber」について放談していただこうという趣旨でお集まりいただきました。よろしくお願いいたします。
そもそもバーチャルYouTuberというものが認知され始めたのが一年前。この一年ですっかり定着しましたね。
ねこます氏:
はいどうもー。そうですね、バーチャルYouTuberって文化的に語るなら、ネットのこれまでのさまざまな文化をものすごい勢いで再生産していったものですよね。歌い手文化、配信文化、ゲーム実況文化……など。
一年を振り返るといっても、もう本当にたくさんの切り口があるわけで。それこそ文化的な側面だけではなく、技術的な側面も同じくらい重要です。
──なるほど。今日はそうした、あまり世間には知られていない部分の歴史についても伺えればと思っています。
ただ、あえてとくにおふたりに伺いたいテーマを掲げるなら、この一年のバーチャルYouTuberの動向のうち、「個人勢」の台頭について何よりも訊いてみたいと思うんです。
……というのも、広くは知られていないかもしれませんが、今年一年は全体のシンボルであるキズナアイ【※】さんを始めとした企業系バーチャルYouTuberの積極的なメディア露出の裏で、濃いファンコミュニティを基盤にした、意欲的な「個人勢」の活躍の年でもあったと思うからです。
にゃるら氏:
ねこますさんは「個人勢の希望」と言われている、まさにその当事者ですからね。
まずは、そのねこますさんご自身が、バーチャルYouTuberを個人で始めようと思った経緯を聞くのがいいんじゃないでしょうか?
ねこます氏:
その話にしても、技術的な文脈がけっこう重要なんですよねー。
そもそもはUnityというゲームエンジンがあり、キャラクターを動かすプログラムがUnityのアセットストアで売られていて、そうしたところにキャラクターを動かすことにも使えるOculus Touch【※】というデバイスが2016年に出てきたことで、個人でもバーチャルYouTuber的な表現が可能になった……というのが始まりです!
──初っ端からなかなか難しめですが、まずは背景として、技術的な要因によるものが文化的なものよりはるかに大きかったと。
ねこます氏:
そう思います。キャラクターを使った「なりきり」は、それ以前も自分にとってはよく見知ったものだったんですが、ただひとつ違ったのは、「オリジナルキャラクターを使った作品」を作っている人がそれまでいなかったということ。それができる人として、たまたま個人バーチャルYouTuberという形で世に出たのが自分だったというだけです。
──そうした技術的な文脈で現れた「個人バーチャルYouTuber」の登場に脚光を当てたのが、にゃるらさんのブログ記事だったわけですよね。
にゃるらさんは、最初にねこますさんの動画を見たときはどう思ったんでしょうか?
にゃるら氏:
それまでにいたキズナアイさん【※】やミライアカリさん【※】などは、広い目で見れば万人向けのフォーマルなキャラクターじゃないですか。
なのに、ねこますさんは、初めて「性癖を前面に押し出してきた!」と感じたキャラクターだったんです。「のじゃロリ」って、正直、一般受けはしない属性じゃないですか(笑)。
※キズナアイ
2016年12月から活動を開始したバーチャルYouTuber。最古参のバーチャルYouTuberのひとりかつ、全体のシンボル的な存在。
※ミライアカリ
2017年10月27日から活動を開始したバーチャルYouTuber。「バーチャルYouTuber四天王」のひとり。バーチャルYouTuber芸能事務所「ENTUM」に所属している。
ねこます氏:
まあ、そうですね(笑)。
にゃるら氏:
さらに「キツネ娘」を足している。しかも「バーチャル」と「YouTuberおじさん」っていう、めちゃくちゃ胡散臭い言葉でそれが挟まれているわけですよ。
──(笑)。かえってめちゃくちゃキャッチーなネーミングですよね。そこまで狙って付けた名前だったんですか?
ねこます氏:
いや……単純に動画の自分を形容しようとしたら、「バーチャル」で「~のじゃ」としゃべる「ロリ」で「狐娘」で「YouTuber」で「おじさん」だって思ったからですね。書いてみたら字面が面白かったので、「まあいいっか」と思って(笑)。
ですから初投稿動画は、最初の15秒で「バーチャルろじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」の「ねこます」と名乗ってネタ終了、という感じなんです。
でも、SEO(検索エンジンへの最適化)対策としても、それらのワードから動画にアクセスされる可能性があるうえ、字面のインパクトで「どんな動画なんだろう?」と思わせられるものだったのは、よかったですね。結果論ですけど(笑)。
にゃるら氏:
自分もキズナアイちゃんの動画を観たときにサジェストで出てきて、まさに「何だこいつは!?」と思いましたから(笑)。いまとなっては慣れましたが「美少女キャラで声がおじさん」というようなスタイルも、当時は見たことがなくて。
とくに最初の数本はきちんと短い時間でテンポよくまとめ、自分で字幕を付ける……というYouTuberのスタイルを、じつはきっちり踏襲していたことも目を惹きました。
さっそくこの一年の振り返りにもなっちゃいますが、最近のバーチャルYouTuberでは生放送が主体になっていくことで、そういったYouTuber的なスタイルはあまり見なくなりました。
でも当時としては、間口の広さを考えると、この動画編集のセンスは強力な武器だったと思いますね。
──なるほど。正統的なYouTuberスタイルがよかったと。
ねこますさんとしては、動画を出したときに「これはイケる!」という気持ちはあったのでしょうか?
ねこます氏:
そんなの全然ありませんでしたよ(笑)。……ただ、5%ぐらいは「最初にやっちゃっておきたい」という打算的な気持ちがありました。
当時は下手でしたけど、自分はキャラクターデザインも、3Dモデリングも、Unityも、動画編集もできて機材も持っていたわけです。その状況で「もしも自分以外の人が個人で、いまでいう「バーチャルYouTuber」のようなものを始めて注目を集めたら、めちゃくちゃ悔しいだろうな」と思ったんですよ。
やっぱり、誰かがやった後に「あれとこれを組み合わせれば簡単じゃん」なんて言ったところで、どうしようもない。「どんなに低クオリティーだったとしても、最初にやった人が正義になるな」と思ったんですね。
──実際、先駆者として多くの個人勢からリスペクトを受けてきましたよね。
にゃるら氏:
当時、ねこますさんが啓蒙するわけじゃなく言った「やらなければ、はじまらない……」というセリフが流行ったんですよ。
その言葉は、それまでキズナアイちゃんやミライアカリちゃんを眺めていただけの、表現がしたかった人たちに、希望として響いたと思うんです。ねこますさん自身がその言葉を体現された方だったので、充分な説得力もありましたしね。
──なるほど。ちなみに「残りの95%」の動機は、何だったのでしょう?
ねこます氏:
じつは「Unityを勉強する動機がほしかった」というだけなんです。Unityってゲームエンジンなので、素直に考えたら「ゲームを作ろう」と思うはずなんですね。
でもゲームって、どうしても開発に時間がかかります。でも、動画だったらソフトウェアのアップデートそのものがいいネタになるし、そのぶん「作品発表のサイクルが早くなるな」と思ったんですよ。
にゃるら氏:
実際に最初の動画をよく見ると、耳も動かなければ、袖も動いてませんからね。そこから進化しているんですよ!
ねこます氏:
ですから、当初はゆっくりとスキルアップしながら制作を続けて、「動画が自分のポートフォリオ的な役割を担ったらいいなあ」とぼんやり思っていただけでした。
言ってみれば、再生数がそんなに増えなくてもよかったんです。……というか、もし本気で「売りたい」と思っていたら、絶対にかわいい声の女の子を付けるじゃないですか(笑)!
──まあ、そうですね(苦笑)。
ねこます氏:
だから自分の声を充てたのも、「作品として作り込むと動画公開のサイクルが遅くなってよくない」と思ったからであって、「それがウケそう」などと考えてやったわけじゃないんですよ。
にゃるら氏:
でも得てして爆発的に流行るものって、本人がわざと狙っていないようなものですよ。
実際この一年で「バーチャルYouTuberでこうすればヒットする」というような作戦を密に立てた企業は腐るほど出てきましたが、正直、だいたい外していったわけです。個人勢でも、ねこますさんの真似をしたようなものが大量に生まれては速攻で消えていきましたしね。
──それは、ねこますさんが個人勢にとってのロールモデルになっていたわけですね。
にゃるら氏:
間違いなくそうでした。でもこの一年見てきて思うのが、バーチャルYouTuberが注目されるためにいちばん重要なことって、やっぱり「サプライズ」なんですよ。
「とんでもないものが突然出てきた」、「放送事故が起きた」というようなことがないと──僕らはバーチャルYouTuberを追っているので別ですが──普通の人が動画を開く動機にはならないんです。
僕が初期のバーチャルYouTuberで「狙って、本当にうまく当てたな」と思うのは、猫宮ひなたちゃん【※】だけですね。彼女は「美少女なのにFPSがめちゃくちゃ巧い」という、非常にキャッチーなギャップを打ち出して急激にのし上がった。
その意味では、猫宮ひなたちゃんは、ねこますさんと対極の存在だと思いますね。同じけもみみですが(笑)。
※猫宮ひなた
2018年2月16日に活動を開始したバーチャルYouTuber。バーチャルYouTuber事務所「ENTUM」に所属。FPS/TPSにおいてトップゲーマーと遜色ないレベルの腕前を持つ一方で、脱力系のボクっ娘キャラクターというギャップにより人気を博している。
にじさんじの登場と「2D」の隆盛(2月)
──「四天王」と呼ばれる5人【※】が出揃ったのもちょうどそのころだと思うんですが、そこから年が明け、次に特筆すべきとしたら何になるでしょう?
※「四天王」と呼ばれる5人
キズナアイ、輝夜月、ミライアカリ、電脳少女シロ、バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん(ねこます)の5人のこと。バーチャルYouTuberブームの火付け役となった初期の功労者として、こう呼称されている。
ねこます氏:
それは2月の「にじさんじ」【※1】と“月ノ美兎”ちゃん【※2】の登場じゃないですかね。バーチャルYouTuberを文化的な視点で見たら、この一年で絶対に語らなくちゃいけない存在です。
※2 月ノ美兎
2018年1月31日に活動を開始したバーチャルライバー、バーチャルアイドル。いちから株式会社が運営する「にじさんじ」の8人の初期メンバーのうちのひとり。自称「清楚」で、見た目どおりの委員長キャラとしてデビューしたものの、初の雑談配信において「ムカデ人間を見たことある?」という視聴者からの質問に対し、映画の内容を解説するなど、当初の設定を大きく逸脱する自由なトークを展開。そういうキャラクターを持ち味としている。
──月ノ美兎さんは何かと話題になっていましたが……あえて言うなら、どういう点がいちばん重要だったのでしょう?
ねこます氏:
それまでのバーチャルYouTuberって、3Dであるのが当たり前だったんですよ。ところが、「にじさんじ」と月ノ美兎ちゃんの登場は、そうした風潮のところに「2Dでも面白ければいい」ということを示したんですね。
──2Dだから、最初は揶揄される場面もあったでしょうけど、それをコンテンツの力で見事に覆していったわけですね。
ねこます氏:
ええ。このインパクトは凄まじく、これによって、3Dのために高価な機器や技術がなければ参入できないという当時の壁が大幅に除かれ、個人勢の勢いが増したんですよね。
──ねこますさんの存在が、個人勢にとって「やらなければ、はじまらない……」と希望を示したのだとしたら、「にじさんじ」は、そこからさらに「2Dでいい」と敷居を低くする役割を果たしたわけですね。
ねこます氏:
いまのバーチャルYouTuberって、生放送がかなり主流になりつつあるんですが、じつはそうなった理由も「2Dであること」に起因しているんです。
というのも、3Dだったら身体を使った企画動画などが作れて映えるんですが、Live2D【※1】だと、そういう見栄えが若干落ちますよね。だから「Facerig【※2】を起動してしゃべる」というコンテンツにどれもならざるを得なかった。
いわば、みんなが生配信を選んだのではなく、システムが生配信というコンテンツを選んだわけです。
※1 Live2D
株式会社Live2Dが開発した、「2Dのモーフィングによるアニメーション表現」を可能にするための関連ソフトウェアの総称。3Dよりも低コストで制作ができ、かつ原画の雰囲気を壊さない状態でキャラクターを動かせる。2011年に『俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル』に採用されたことで注目を集めた。
※2 Facerig
ユーザーの顔の表情をWebカメラなどで読み取り、それをリアルタイムにアバターに反映させて動かすことができるソフト。
そうした生配信の中で最大にヒットしたコンテンツが『月ノ美兎の放課後ラジオ』ですね。これは、4月23日に行われた第2回で同時接続数が4.5万人以上を記録したという、凄まじい怪物番組です。
──比較するのもヘンな話ですが……たとえば今年のフジロックフェスティバル中継の最大同時接続数が約8万人でした。すると、たったひとりのバーチャルキャラクターがその半数を動員していたということですね? すごい。月ノ美兎さんの魅力とはいったいなんなのでしょう?
ねこます氏:
美兎ちゃんには「誰かを楽しませたい」という強い意志や関心の持ちかたが根底にあるんですよね。
彼女のような独特の企画やモチベーションを持つ女の子って、やっぱりなかなかいないわけです。根本的にいわゆる普通の子とは違う物の見かたをして生きているんだと思います。
あと、YouTuberとしての適性も抜群にあるんですよね。たとえば生配信番組ををするにしても、美兎ちゃんは、ちゃんと凝ったオープニング動画を作ってきたりするわけです。
そうした「潜在的に映像を作るのが好きなこと」だったり、「時間があったらあっただけ、なるべく工夫を凝らす」ような努力って、エンターテイナーとしての素質だと思います。
──それもYouTuberへのリスペクトのように思えますね。そういう方は、ほかにいないのでしょうか。
ねこます氏:
この一年を経た最近で「一線を超えているな」と思ったのが、エイレーンさん【※】ですね! 彼女の活動って、YouTube文化を尊重しつつ、バーチャルをうまく融合させているんです。
編集のしかたなどは完全にYouTuberと同じだし、企画も「【実験】10000個のマッチで魚焼いたら食べれるんじゃない!?」みたいなことをやっていたりする。
そして最近は、もはや実写の自分の素手なども映しちゃっていて、バーチャルの壁をひとつ越えて新たな可能性を示している気がする!
※エイレーン
2014年3月1日に活動を始めた2次元YouTuber。ミライアカリ、ヨメミの生みの親でもあり、とりわけ最近は「萌実 & ヨメミ – Eilene」で準主役的な立場で活動をしている。
──バーチャルとは?(笑)。
ねこます氏:
いやいや、最近でとくによかったのが、「5万円を新人VTuber(登録者1000人以下)に投げ銭してみた!!!」という企画ですね。
チャンネル登録者数が500人程度の子の生配信に突然現れ、めちゃくちゃ褒め、お金を渡し、しかも動画で紹介していくんですよ。
これって、いまのバーチャルYouTuber界だと企業間の問題があり、なかなかできないことなんですよ。
さらにすごいのが動画の内容で、やっぱり「投げ銭」ってお金がストレートに絡むので、ネガティブなイメージが付きやすい。それこそそうしたければ、意図的にネガティブな動画を作って炎上させ、安直に数字を伸ばすことだってできたはずなんです。
でも動画を見ると、夢や可能性があるというか、アメリカンドリーム的に面白く仕立てていて、基本的にポジティブだし、そこに登場した子のチャンネル登録者数も実際に10倍以上に増えているんです。そういうことができるプレイヤーって、じつはあまりいないんですよ。
ねこます氏:
バーチャルYouTuberを名乗っている以上、どこまでもYouTuberの流れからは逃れられないと思います。するとやっぱり動画をコンスタントに作り続けられる才能ってかなり大事なんですよ。
どんなに適当な動画を作ろうと思っても、カットして、字幕を入れて、最低限のエンコードをしていたら2時間は当たり前にかかるし。その手間や時間を「面白い!」と思って、のめり込んでやれる人じゃないとYouTuber活動は続かないでしょうね。
2D/3Dの垣根を超えた「キズナアイ杯」(5-8月)
──ねこますさんや「にじさんじ」などが文化面で「個人勢」へ与えた影響を伺いましたが、そのほか、この一年で文化面で特筆すべき点はあったのでしょうか?
にゃるら氏:
個人勢に大きな影響を与えたという意味で、5月ごろに始まった「キズナアイ杯」はすばらしい企画でしたね。
3Dや2Dの垣根なく参加でき、いちおう「アイちゃんと共演している」と言える形になっていて、出演した人にフォーカスが当たり、しかも技術的障壁も少なく大量の人数を受け入れられるものでした。
そこには公共的とも言える正しさがあったし、観ている人にとっても面白いコンテンツだったと思います。
──視聴者として見ると、あれはアイちゃんが初めて個人勢たちと絡む瞬間でしたね。それまでアイちゃんって、やっぱり「バーチャルYouTuberのトップとして、ほかの人たちを相手にしないんじゃないか」という、勝手な妄想というか、なんとなく怖いイメージや不安がありましたから(笑)。
にゃるら氏:
アイちゃんがキズナアイ杯によって「ここまで降りてきてくれた」というのは、意味合いが大きかったですよね。
そうしたバーチャルYouTuberの象徴としての活動の一方で、個人的には、アイちゃんとヒカキンのコラボが逆に衝撃的な事件でしたね。
というのも動画の内容は、ふたりで仲良くおしゃべりしているというもの。
ですが僕らがアイちゃんとヒカキンに求めていたのは、バーチャルYouTuberとして、あるいはYouTuberとしての凝った企画だったんですね。そのどちらかでもいいから見せてほしかった。
ねこます氏:
──そうですね。
にゃるら氏:
本当は、アイちゃんがバーチャルの技術をヒカキンに教えたり、紹介したりしていくというのが正しい形だったんじゃないかと思うんです。
「バーチャルだったらこういうことができるんだぞ」ということをやってヒカキンが驚く、というところに意味があったはず。あるいは「ヒカキンの部屋にアイちゃんがいる」みたいなことをしたほうがワクワクしたはずですよね。
──6月に電脳少女シロ【※】がE3会場から生配信をしたとき、リアルタイム合成がなされ、シロちゃんが本当に実際にその空間にいるみたいな、よくできたARが作られていました。それこそ、ああいうものをやってほしかったということでしょうか。
※電脳少女シロ……
2017年6月28日と比較的早くから活動をしているバーチャル少女。「バーチャルYouTuber四天王」のひとりであり、株式会社アップランドによるバーチャルYouTuber事務所「.LIVE」に所属している。
にゃるら氏:
でも、次にキズナアイちゃんとコラボしたYouTuberは東海オンエア【※】だったんですけど、僕はその企画は大好きなんです。
東海オンエアのみんながアイちゃんの動画を観ているときに、突然アイちゃんが「オイッ!」って怒って、東海オンエアの人たちがびっくりするというドッキリになっているんですよ。
それって、いつもアイちゃんがモニターから話しかけているからこそできる芸当で、すばらしい内容でした。