1994年にスーパーファミコンで発売されたラバーリングアクションゲーム『海腹川背』の生みの親である酒井潔氏が、ゲームが現在の形になる前に試作されたふたつのプロトタイプを紹介するナレーション付きの映像を公開した。
プロトタイプが動作しているプラットフォームは初代『海腹川背』が発売されたスーパーファミコンではなく、1987年にシャープから発売されたパソコン「X68000」だ。
プロトタイプはそれぞれ1992年の3月と4月に制作され、どちらも現在よく知られている『海腹川背』とはかなり異なったゲームとなっている。ただ、主人公である海腹川背さんのキャラクターイメージは初めから固まっていたということで、主人公のグラフィックやアニメーションに関しては現在の『海腹川背』とのつながりを感じることができるだろう。
なお同作のキャラクターデザインは近藤敏信氏が担当しており、氏は現在の『海腹川背』シリーズを手がけるスタジオ最前線の代表取締役社長でもある。
1992年3月に制作されたプロトタイプ1は、水源の周りにプレイヤーが自由に水路を掘り、水を流して敵を退治するという内容の見下ろし視点のアクションゲームだ。
“『ディグダグ』をほぼ丸パクリした”と述懐している通り、水路というオリジナリティがあるものの、ゲーム性は『ディグダグ』とそこまで変わらない。一方でこのバージョンが没になったのは、プレイヤーが自由に制作できる水路の処理が複雑である点が大きかったためのように見える。
プロトタイプ1の1か月後に作られたプロトタイプ2は、水路を作るという基本コンセプトは変更せず、今度は迷路内の壁を壊して水路をつなげるという、ある程度最初から水路のデザインが固定される方式へと転換している。
敵との戦闘を検証することを主目的として開発されており、プロトタイプ1では見られなかった敵の姿も登場している。ジャンプで敵を気絶させ、敵をマップ外へと投げ捨てれば倒せるようになっている。
しかしプロトタイプ1と同様、“面白くなりそうな気配がない”ということで没になったという。
最終的にこれらのプロトタイプで常に意識されていた「水流で敵を流す」という要素は完成版『海腹川背』では排除されている。しかし、プロトタイプ1での遠くの敵を攻撃するという要素、プロトタイプ2での敵を気絶させてゲームから除外するといった要素は、製品版にも引き継がれている。
1994年にスーパーファミコンでリリースされ、2015年にはSteamでもリリースされ、2019年には新作『海腹川背 Fresh!』がNintendo Switchで発売されるなど現在も愛され続けている『海腹川背』シリーズだが、その背景にこういった試行錯誤が存在していたことがよく分かる。この動画を見れば、さまざまなプロトタイプを経て生まれた『海腹川背』を、より一層面白く感じられるだろう。
文/古嶋誉幸