日本時間1月7日午前1時半から13日の15時ごろまで行われた世界最大規模のRTA(リアルタイムアタック)イベント「Awesome Games Done Quick 2019」(以下、AGDQ2019)が盛況のうちに閉幕した。「AGDQ2019」はゲームのRTAを途切れることなく披露し続け寄付を募るチャリティイベント。イベントの期間は約1週間、披露されるゲームタイトルも約140本で、集まる寄付金も200万ドル以上と非常に規模の大きいイベントとなっている。
今回はその「AGDQ2019」で最後のトリを務めたゲームタイトル『スーパーメトロイド』のRTAについて読み解いていこう。ただのRTAではなく、今回採用されたのは“リドリーを真っ先に倒してしまう”というボス攻略ルートを逆にした特殊なルールだ。
『スーパーメトロイド』は「メトロイド」シリーズの3作目として1994年3月19日に発売されたスーパーファミコン用ソフトである。本作品は熟練プレイヤーたちによって、発売から20年以上が経った今なお最速クリアの方法が研究されている作品であり、ゲームをクリアするための方法も多岐に及んでいる。
許可されるバグ技やテクニックなどに応じてRTAのルールに相当するカテゴリも分かれているが、アイテムを全て集める「100%」や、逆にアイテムを可能な限り集めない「low%」、さらにはゲームを破壊する多くのバグ技を許可して最終マップに最序盤から突入してクリアする「Any% Glitched」など、さまざまなカテゴリが存在している。
今回の「AGDQ2019」で採用されたカテゴリは「Reverse Boss Order」(RBO)というもので、多くのバグ技を禁止しながらも、本来の想定ルートとは逆順に大ボスを倒していくルールとなっている。
大ボスを逆順に倒していくとなると、本来なら最後に倒す大ボスである「リドリー」に最初から挑むことになる。初期状態では当然「リドリー」には太刀打ちできないため、倒すための必要最低限のアイテムを集めることになるが、最初に立ちはだかるのは特殊武器でしか開かない扉の存在だ。
そもそも『スーパーメトロイド』には「スーパーミサイルでしか開かない扉」、および「パワーボムでしか開かない扉」が存在する。扉の先には強力なアイテムが残されている場合が多い。
だが、スーパーミサイルもパワーボムも、通常の攻略ルートにおける小ボスである「スポア・スポーン」や最初の大ボスである「クレイド」を倒してからようやく入手できるアイテムとなっており、大ボスを倒すとそもそも逆順にボスを倒すというルールから外れてしまう。
そんな条件下でクリアを目指すためには、正規ルートを無視して特殊武器を入手していくことが必要だ。例をひとつ挙げると、たとえば最初に取得するスーパーミサイルはダッシュ状態を維持したままボール状態で駆け抜けることができるテクニック「Mockball」を使用して入手する。
上記動画のマップは、本来ならスピードブースターというダッシュ状態をさらに加速させる能力を取得していないと先へ進めない。だが、ダッシュジャンプ状態で下を向きながら着地した瞬間、わずか数フレームの猶予の間にボール状態になることで、ダッシュの速度を維持したまま進んで障害物を避けることに成功している。
「Mockball」以外にもさまざまなテクニックが存在し、それらを駆使して正規ルートでは入手できない場所にあるパワーボムやエネルギータンクと言ったアイテムも集め、強敵リドリーを倒す準備を整えていくのだ。
アイテム集めを終えたらいよいよボス攻略だ。最初の難関として立ちはだかるのがノルウェア深部となる。本来ノルウェア深部に辿り着くころにはバリアスーツやグラビティスーツを取得しているが、RBOのルートだと何もない初期状態のスーツのまま進むことになる。
『スーパーメトロイド』をプレイされた方なら記憶にあるかもしれないが、ノルウェアではフロアが高温で満たされている場所が非常に多く、初期状態のスーツだと高温のフロアにいるだけで熱ダメージが毎秒15ダメージずつ入っていく。本来であれば高速で減っていくエネルギーを見て慌てて引き返すのだが、RBOのRTAでは受け続けるスリップダメージに耐えながら、ひたすら先へ進んでいくことになる。
タイミングよく配置されているエネルギータンクや敵を倒すとランダムに出現するHP回復を拾いながら進んでいき、さらにリドリー戦では回復ポイントがないため、一度も被弾せず、かつ一度もこちらの攻撃をミスできないという過酷な戦いが要求される。
ふたつ目の難関としてはマリーディアが挙げられるだろう。本来ならグラビティスーツという、水中でもかろやかに動けるようになるスーツを入手した上で攻略するマップだが、初期状態のスーツだと独特な慣性と非常に動きの鈍い状態に悩まされながら進んでいく必要がある。
というよりもグラビティスーツを装備した動きが前提のマップとなっているため、一部のマップでは一度そこに入ったらそもそも正規の攻略手段ではマップから脱出できないということが起こり得る。1フレーム単位の精度が必要なテクニックを使用しながら強引に進んでいくことになるが、プレイヤーの腕前がさらに要求される区間だろう。
マリーディアを抜けたら、あとは道なりにプレイしていけばよい。難破船のボスである「ファントゥーン」やブリンスタのボスである「クレイド」などは、通常攻略より楽に倒せると感じるくらいだ。最後のボスとなる「マザーブレイン」戦では、壁抜けを成功させた後にダメージを多く受けすぎない必要こそあるが、ノルウェア深部やマリーディアよりは簡単と言えるだろう。
『スーパーメトロイド』のRBOカテゴリをプレイするスピードランナーたちは、speedrun.comで確認する限り記事執筆時点で66人確認できる。本作はスーパーファミコン用ソフトだが、WiiやWii U、ニンテンドー3DSのバーチャルコンソール、さらに「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」でもプレイできるため、それらの機種でRTAすることも可能だ。
実際に『スーパーメトロイド』をAGDQ2019でプレイされたアーカイブも視聴でき、本家版はこちら、有志による日本語再配信版はこちらとなっている。AGDQ2019の配信は『スーパーメトロイド』以外の作品も全てアーカイブ化されているので、興味があるタイトルがあれば是非ともご覧いただきたい。
文/もか