北米などで1989年に発売されたNES(Nintendo Entertainment System)版『テトリス』で、前人未到の「レベル33」に到達したプレイヤーが現れた。プレイヤーの名はJoseph Saelee氏、『テトリス』の世界大会「Classic Tetris World Championship」の2018年チャンピオンだ。
近年の『テトリス』をプレイするプレイヤーには、ミノの落下スピードが遅いように見えるかもしれない。だが、NES版『テトリス』はテトリミノを接地してからズラしたり回転させる猶予がないほか、ミノを保有できるホールド機能もなく、高レベルでは見た目以上に難度が高い。事実、レベル30以上に到達できるプレイヤーは世界に数人しかいないと言われているほどだ。
NES版『テトリス』は近年までレベル29がキルスクリーン【※】、最終面だと信じられてきた。本作では、レベル0でのテトリミノの落下速度は1ブロック分につき48フレーム(0.8秒)となり、以降、レベルが上がるにつれて落下速度が増していく。レベル29では、テトリミノの落下速度は1フレーム(1/60秒)で1ブロック分という速度に達する。1フレームで1ブロック、「1G」と呼ばれる速度だ。テトリミノが上から下まで20ラインを落ちるのには、たったの1/3秒の余裕しかない。
※キルスクリーン:プログラムのバグや設計ミスでそれ以上プレイできなくなるレベルを指す。バグで右半分が見えなくなる『パックマン』の256面や、開始直後にマリオが必ず死ぬ『ドンキーコング』の22周目が有名。
そして、テトリミノの移動は俗にDAS(Delayed Auto Shift)、日本語では「横タメ」と呼ばれるシステムが設定されている。簡単に説明すると、ミノを横移動させようと入力を入れっぱなしにすると、まずその瞬間にその方向へとテトリミノが1ブロック分動き、そのあとに“規定の間”をおいてからさらにテトリミノが1ブロックずつ“短い間隔”で移動していくというシステムだ。これにより、方向キーを押し続けることでテトリミノの移動を可能にしている。
しかしNES版『テトリス』では、この1ブロック動いたあとの規定の間が16フレーム、そして移動を開始したあとの短い間隔が6フレームに設定されている。単純に考えると、レベル29ではテトリミノの落下までに最大20フレームの猶予しかなく、通常プレイではテトリスを左右に2ブロック分動かすことしか出来ない計算になる。レベル29から30に行くには、この状態で10ライン消さなければならない。これがレベル29がキルスクリーンだと長年考えられてきた理由だ。
だが、これらのシステムを利用、あるいは無視するためにさまざまな技術が編み出されている。たとえばJoseph Saelee氏も使う「ハイパータッピング」は、ボタンを高速で連打することで設定された規定の間16フレームを無視することが出来る。DASに縛られた状態では達成不可能な速度でテトリミノを移動させることが出来るため、レベル29を超えるために必須のテクニックと言える。
通常プレイではテトリミノを動かすことすら難しいレベル29以降だが、これらのテクニックを習熟してクリアするプレイヤーは現れ始めている。1990年に行われたニンテンドー・ワールド・チャンピオンシップ優勝者のThor Aackerlund氏が初めてレベル29を超え、31まで達した人物だと言われている。その後、Janutzska Brandy氏や日本のコーリャン氏がレベル30に到達した数少ないプレイヤーとして記録される。Aackerlund氏やコーリャン氏も上記のハイパータッピングの使い手だ。Joseph Saelee氏は2018年にレベル31に達したビデオを投稿しており、今回さらなる記録更新となった。
ここで気になるのが、「はたしてNES版『テトリス』にはレベルの上限があるのか」という問いだ。これに関しては答えが出ており、ツールを使ってレベル255に達するビデオが公開されている。このレベルを超えると最終的に表示レベルは00に戻るため、ここが最終レベルだと考えられる。
1989年11月のリリースから今年で30周年を迎えるNES版『テトリス』。いまだに研究が行われ、記録が更新され続けている。はたして、次はどんな驚くべき記録が達成されるのだろうか。
ライター/古嶋誉幸