口のなかに入った金属のドリルが勢いよく回転し、子どもの泣き叫ぶ声がこだまする……。老若男女を問わず、「歯医者さん」に負のイメージを抱く人はけっして少なくないだろう。
そんなイメージを払拭する取り組みとして、世の中には無痛手術や子ども向けの遊具ルームが存在しているが、新たに愉快な絵で歯の知識を伝える神奈川県の歯医者さんが話題となっている。
https://twitter.com/KASAMASHINTARO/status/1036733112644845568
特に話題になっているのが、『ストリートファイターII』で親知らずの抜歯手術を説明するというイラストだ。絵のなかでは、エドモンド本田が「親知らず」、ガイルが「歯科医」。
小パンからの流れるような容赦ない攻撃セットで、エドモンド本田こと親知らずが処理されていく様子が描かれている。
この絵を投稿したのは、神奈川県海老名市、海老名駅から徒歩8分の場所にある「かさま歯科クリニック」の公式Twitterアカウント。描いたのも院長の笠間慎太郎氏とのことで、ツイートの掲載許可をいただくとともにお話を聞いてみた。
取材・文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn
──どうして親知らずの抜歯手術を本田対ガイルで説明しようと?
笠間氏:
親知らずって横から突っ込んでくるイメージだったので、そうなると本田なんですよね。対戦相手は最初は春麗だったんですけど、春麗で本田のスーパー頭突きを落とすという絵が思い浮かばなかったんです。
そしたらガイルの小パンが強かったと思い出して、小パンから当て投げして、ソニックブームで飛ばせてサマーソルトキックで締めればいいじゃないかと。つまり、ハメたかったんですね(笑)。
──ダイヤグラム的にはガイルにガン待ちされるとエドモンド本田は厳しいですね(笑)。親知らずをハメで完封するという。
笠間氏:
そうですね(笑)。
──『ストII』やゲームはよくプレイされてきたんですか?
笠間氏:
『ストII』は小学生のころ、スーパーファミコンから入ったんです。『ファイナルファイト』とかもやっていたりして、ゲームセンターにも同じゲームがあるんだという認識でした。
で、時間があると駄菓子屋の前の『メタルスラッグ』をやったりして。ゲーセンでは『ストIII』とか『バーチャロン』とかやりまくっていました。僕はいま36歳で、中学生のころはゲーセンに入り浸ってた世代で、なんか発想がそっちに寄りなんでしょうね。
──昔からかなりやり込まれていたんですね。ちなみに持ちキャラは?
笠間氏:
すいません、リュウなんです(笑)。当時は筐体で基礎コンを一通りできてました。今回はガイルと本田だったので、絵を描くときはかなり気をつけましたね(笑)。今のところ「間違えてるぞ」というお叱りはないです。
──本田を小パンで落とす発想を思う浮かべる人が間違えることはなさそうですよね。
笠間氏:
めちゃくちゃ強かったですからガイルの小パン。初期小パンはチート級でしたから。
──今はあまりゲームをプレイされていなかったり?
笠間氏:
そうですね。僕はもともとCGをやっていて、リトポとかもできるんです。だから『ファイナルファンタジーXV』のCEDECでの講演の内容を真似て、自分の顔を作って学会で発表とかしましたね。
まったくゲームから離れたというよりは、中身のレンダリングエンジンでどうするかとか、技術方面に興味がいった感じです。
https://twitter.com/KASAMASHINTARO/status/1035383081790656512
──ちなみに今回の『ストII』以外にも、『シャイニング』のジャックなど、いろいろな作品を使って楽しく歯のことを伝えられていますよね。
笠間氏:
そもそも、口のなかって何をされてるかわからないんですよね。歯医者に来て、口のなかをいじくられて、痛いことされて、嫌な印象だけが残る。
その流れを視覚化できないんです。そのまま歯のことを描いた真面目な絵ならいくらでもあるんですけど、わかんないよねと。で、ああいう絵で同世代の人の反応を見てみようと遊んでみたんです。
──今後も同様の絵を描かれるんでしょうか?
笠間氏:
どうなんでしょうね。僕の引き出しにも限度があるんで(笑)。『キングオブファイターズ』で描いてくれって言われて、しょうがなくチョイとチャン・コーハンで描いたりしたんですけどね。
https://twitter.com/KASAMASHINTARO/status/1037651126852571136
──しかし歯の知識をわかりやすく伝えようという考えはすばらしいと思います。
笠間氏:
歯科医はイメージ先行なんですよ、「行ったら歯を全部抜かれる」みたいな。だから僕も最近は開き直っていて、いろいろやってみようと。どうせ嫌われてるし……。
──(笑)。
笠間氏:
細かく技術的なことを難しく考えてもらうよりも、最近は「この歯医者、ゲーム好きなんだ」と思ってもらえばいいのかなって。「歯医者だってゲームやるよ!」という話です(了)。
子どもから大人まで多くの人が持つ「歯医者さんは怖い」というイメージ。エドモンド本田とガイルで例えられた抜歯手術のイメージは、何人かのそんな怖い気持ちを解きほぐしてくれるのかもしれない。
このほかにも笠間医院長は、「ザ・ドリフターズ」や「吉本新喜劇」など幅広い年齢層に向けた絵を公開しているので、気になる読者はぜひかさま歯科クリニックの公式Twitterアカウントをチェックしてみてほしい。
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