あの日君が見せたゲームのデモシーンは、製品版には実装されなかった。幻の『Halo 2』E3 2003デモが公式配信で再披露へ

 2003年5月、米カリフォルニア州ロサンゼルス。そこでは深い緑色のスクリーンを背後にしたスタッフらが、記者や業界人たちに新作ゲームと始まったばかりのオンラインサービス……Xbox LIVEの先進性を、熱く語りかけていた。
 それはE3 2003のMicrosoftプレスカンファレンスで、Bungieが手がける人気FPSの続編『Halo 2』は、その大トリとして初めて本格的なお披露目がなされた。

 このデモシーンは、その熱い内容もさることながら、製品版には一切収録されず幻の存在と化したことでもファンに知られている。現在の『Halo』シリーズを開発する343 Industriesは、現地時間11月15日の配信番組でこのデモのウォークスルーを中継予定だと発表した。

 残念ながら幻のE3デモシーンは公式映像で残っていないが、その内容を記してみよう。地球外のコヴナントによる襲撃を受ける地球都市、上空を突っ切る一台のペリカン降下艇。初代では軍曹という名でしかなかったエイブリー・J・ジョンソンと同船していた無敵の主人公マスター・チーフは、一言も語ることなく雄大に街に降り立つ。

 目的地まで歩く道中、血を流し介抱を受けていた地球軍の兵士たちが垣間見せるいくつものミニドラマが、劣勢を強いられている戦地の状況を多層的に描写していた。

※Bungieが公開している『Halo 2』メイキング映像。当時のPVの一部と閲覧した人々のリアクションを垣間見ることができる。

 一息つく間もなく目の前に現れた敵の一団。マスター・チーフの持つ光学スコープ付きバトルライフルが、情け容赦ない中距離射撃で敵を一体一体、確実に撃ち抜いていく。両手に持ち替えたサブマシンガンが無慈悲な銃撃音を鳴らすと、近くのコヴナントがまるでダンスを踊るかのように四肢を揺らし次々と倒れていった。

 ワートホグの銃座に乗り込むと、視聴者を奮い立たせるべくオーケストラBGMが戦いの高揚感を演出する。深くえんじ色に輝くチーフのミョルニル・アーマーが三人称視点で映し出される。両手で支えるガウスキャノンから、超高速25mm砲弾の鉄槌が敵勢へ叩き込まれる。

 運転手の命をいとも簡単に奪った新たな敵種族ブルートに、銃床を打ち付ける、打ち付ける。血をぬぐう暇もなく、敵のゴーストを奪取して街なかを走ると、上空からは無数の降下ポッドが押し寄せてきた。宿敵のエリート種族と対峙するチーフが右手に装備するのは、かつて敵が装備していた絶命必死の武器エナジーソードだ。

※Digital Foundryによる製品版とE3 2003デモの比較映像。

 カンファレンスやE3会場でこのデモシーンを見た人々からは、大きな喜びと歓声で迎え入れられたことが、当時の複数の映像や記録で残されている。しかし前述したように、このデモシーンが製品版に収録されることはなかった。武器の二丁持ちや敵車両の強奪といったシステムは継承されたものの、ここで描かれた戦いは、一切なかったことになったのである。

 これはBungieの大きく野心的な姿勢に起因するものだった。当時、E3 2003で素晴らしいプレゼンテーションを示すことに尽力した同スタジオだったが、それは“やりすぎ”とも捉えられるレベルだったのかもしれない。最終的に、そのデモとグラフィックスエンジンは、Xbox上で動作させることが難しかったという。

(画像はTwitter@Haloより)

 そのことは上記のメイキング映像で開発者たちが当時の苦悩を吐露しているほか、2010年に過去を振り返ったリードエンジニアChris Butcher氏によっても語られている。氏はEurogamerに対し、5分間のデモを作り上げるために「地獄に身を投じる」ような開発に取り組んだものの、最終的にできあがったのはどんなエンジンでもプレイできないデモだったと語っている。

 最終的に、この丁寧に隅々まで環境から作り上げられたデモはゲームで採用されることなく、グラフィックスエンジンは一から作り直されることになる。安心してほしいのは、『Halo 2』は2004年11月に無事発売され高い評価を獲得、現在も続く長寿人気シリーズになっているということだ。

※2014年に発売された『Halo: The Master Collection』には、ビジュアルとサウンドを大幅にパワーアップさせたリメイク『Halo 2 Anniversary』が収録された。映像は実写ローンチトレイラー。

 ゲームデザイン上の理由や経緯不明のケースもあるが、このように公開されたトレイラーと製品版が大きく異なる例は歴史的に見ても少なくない。『メタルギア ライジング』は開発体制とそのタイトル名を変えて当初披露されていたものとは異なる作品が開発され、『Aliens: Colonial Marines』は発売前に示されたものとあまりに違うビジュアルでユーザーから集団訴訟を起こされた。

 近年では動画の配信が当たり前となり、解像度の高い映像が簡単に見られるようになってか、発売前と発売後の微妙なグラフィックの差異でユーザーから問題提起されることもある。発売後に「トレイラーよりも大幅にダウングレードしている」と『Watch Dogs』で手痛い批判を浴びたUbisoftは、その後イベントなどに出展するデモがプレイアブル状態であることを厳守すると宣言した。高い評価を得たCD Projekt REDの『The Witcher 3』でも、トレイラーと製品版のグラフィックスが違うと詳細に比較され、ダウングレードだとの指摘に対しスタッフが釈明することもあった。

 ただ考慮しておきたいのは、ゲームが開発経過によってその姿を変えるのは、ごく自然なプロセスだということだ。コンセプト段階からゲームを実際に動くものへと落とし込んでいく際に、現実可能なことを把握し、ゲームデザインやパフォーマンスを考えて削ぎ落としていく事例や、あるいはコストを見据えて適正な開発規模を選択する話は多数語られてきた。
 これは開発者やパブリッシャー、あるいはゲーマーの誰が悪いのかというケースごとの議論ではなく、開発途中で大きく姿が変わる可能性があるにも関わらず、基本的に完成前から映像やスクリーンショットでプロモーションしなければならない、ゲームという媒体の難しい部分の話である。

※E3 2012で公開されたプレスカンファレンスの『Watch Dogs』の映像は、細部や光源などが製品版とは大きく異なる内容だった。

 デモシーンを通じた開発者とファンのやり取りは、恋人たちが結婚前に描く未来に例えられるかもしれない。ひとりは将来設計をまじめに語るが、いざ結婚すると仕事が上手くいかなかったり、体調が崩れたり、あるいは信じられないような事故に見舞われたりして、プランは破綻していく。もうひとりは「話が違う」と、過去に見せられた夢を相手に要求し続け、こんなはずじゃなかったと暗い顔でうつむく。
 ふと、隣の家を覗くと、あちらの夫婦は仲睦まじい。上手くやっているカップルも多い。だが、今後も仲違いしてしまうカップルが生まれる可能性はあるのだろう。

文/ishigenn

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インタビュアー・編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
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