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『428 ~封鎖された渋谷で~』発売から10周年。映画・小説・ゲームが渾然一体となった本作にしかない魅力は、どのようにして生まれたのか

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 ファミ通紙上で実施された同誌の読者投票企画「ゲームジャンル別総選挙」のアドベンチャーゲーム部門で、歴代の名作を押しのけて『STEINS;GATE』に次ぐ2位を獲得。メディアからの高い評価と、プレイヤーから現在に至るまで根強い人気を誇るアドベンチャーゲームが存在している。

 そのゲームこそ『428 ~封鎖された渋谷で~』(以下、『428』)である。本作は2008年12月4日にWiiで発売されてから10年が経った。Wii発売以後、さまざまなプラットフォームに移植され、今年になってもPS4版とSteam版、そして海外向けにも『428: Shibuya Scramble』が発売されるなど、発売以来、長らく支持されている本作。10周年を機会に、あらためてその魅力について振り返ろう。

 『428』は渋谷で起こった誘拐事件を中心に、4月28日の朝10時から夜20時までの主人公5人のストーリーを、それぞれサウンドノベル形式で連続的に描いている。5人の主人公にはそれぞれの時間軸が存在し、別の主人公に視点を切り替えることによって、登場人物の思惑や事件の真相が立体的に浮かび上がってくる。

 本作は、異なる場所で同時に起きているふたつ以上のシーンを交互に描くことによって緊張感を醸し出す、映画における「クロスカッティング」と呼ばれる編集技巧をビデオゲームで擬似的に再現しているのだ。

 誘拐事件の背後でうごめく陰謀、登場人物や事件が同時刻に動いている同時多発的な感覚、登場人物たちの運命が交錯する瞬間など、物語を読み進めれば読み進めるほど、本作は加速度的に面白くなっていく。

『428 ~封鎖された渋谷で~』発売から10周年。映画・小説・ゲームが渾然一体となった本作にしかない魅力は、どのようにして生まれたのか_001
(画像はSteam | 428 〜封鎖された渋谷で〜より)

 また『428』のもうひとつの特徴は、実写を使っていること。さまざまなロケーションで撮影された風景から、外見だけでなく内面においてもひと癖もふた癖もある登場人物ばかりが登場する。

 実写を使った映画のような映像的な体験、テキストを読むという読み応えのある小説的な体験、そしてプレイヤー自身が主人公の視点を任意に切り替えたり、選択肢を選ぶというインタラクティブなゲーム的な体験。
 このすべてが備わっている本作は、まさにさまざまなメディアからいいとこどりをした集大成的・総合エンターテイメント的な作品といえるだろう。

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(画像はSteam | 428 〜封鎖された渋谷で〜より)

 『428』の企画のスタートは、開発をした当時のチュンソフトの中村光一氏から実写のサウンドノベルをふたつ作りたいとい提案があったこと。このふたつの企画はのちに『忌火起草』、『428』として結実する。この両作品は、イシイジロウ氏がプロデューサー、北島行徳氏がシナリオを書いているなど、スタッフに共通しているものがある。

 チュンソフトの実写サウンドノベルといえば、高い評価を得ている『街 -運命の交差点-』だが、商業的に不振だったこともあり、それよりも新規のプレイヤーに遊んでもらいたい方向で、『街』の良さを引き継ぎつつ、新しいゲームとして制作された。

 『街』が5日間の出来事を描いているのに対して、当時流行っていた海外ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』を意識した方向性もあり、『428』は1日だけの出来事を描くことになった。

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(画像はSteam | 428 〜封鎖された渋谷で〜より)

 登場する主人公が多く、プレイヤーが混乱しやすいため冒頭は王道のイメージを反映させてわかりやすくしたという。加納編なら『踊る大走査線』、亜智編なら『I.W.G.P.(池袋ウエストゲートパーク)』、大沢編は『天国と地獄』がイメージされている。

 また主人公のひとり、フリーライターの御法川は、案として『街』で登場した刑事・桂馬を、現在は探偵業をしている設定で再登場させる案も浮上したが、世界観やキャラクターのバランスなどから採用されなかった。

 変わりにイシイジロウ氏と北島行徳氏が以前に手がけた『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』で、新聞記者として登場した御法川を再登場させることになった。

 2ヵ月かけて撮影された映像と12万枚のスチールなど膨大な素材の数々は、ゲームで採用するかしないだけで3ヶ月間かかったという。冒頭の空撮はミニニュアのように見えるように撮影し、非現実的な光景はオープニングの見所のひとつだ。

 またボーナスシナリオでは『かまいたちの夜』の我孫子武丸氏と、『Fate/stay night』の奈須きのこ氏がそれぞれシナリオを執筆。
 特に奈須きのこ氏が手がけたカナン編は、TYPE-MOONが制作しており、ひとつの作品としても成立し得るボリュームで演出も凝っている。実写ではなくビジュアルノベル形式を取っており、ボーナスシナリオとは思えないクオリティを誇っている。

 前述したように、本作はWiiで発売を皮切りに、スマートフォン、PS3、PSP、PS4、Steamとさまざまなプラットフォームに移植され、非常に手に取りやすい作品といえる。10周年を機会に、イシイジロウ氏は1年後の2019年4月28日の渋谷でなんらかの企画をすることも示唆しており、これから『428』を遊ぶ人も十分間に合う。

 10年前に遊んだ人も、これから遊ぶ人も、10周年を機会に本作をプレイしてみてはいかがだろうか。

文/福山幸司

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福山幸司
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman

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