『Fate/stay night』から15年シリーズが続いた裏には、『Fate/Zero』の存在があった。『FGO』第2部へと続くその歴史を各種文献で振り返る

 2004年1月30日に発売された『Fate/stay night』から、2019年で『Fate』シリーズが15周年を迎えた。これまで入手が困難だったPC版は再販が発表。また今年の冬にはそれを記念し、「TYPE-MOON展 Fate/stay night -15年の軌跡-」が開催されることが決まっている。

『Fate/stay night+hollow ataraxia 復刻版』が6月28日に発売決定。入手、起動困難だった名作がWindows 10にも対応して蘇る

 7人のマスターによって、使い魔として召喚される7人の英霊たちが、万物の願いをかなえる願望機「聖杯」を求めて戦い合う。『Fate/stay night』は、民族や国の神話に登場する英雄たちが一同に介し、バトルロワイヤルとして聖杯の覇権を握る伝奇ビジュアルノベルだ。

 同作はTYPE-MOONの中心人物である奈須きのこ氏のシナリオと、武内崇氏のイラストによって生み出された。2004年に誕生したひとつのアドベンチャーゲームは、作中で語られた英霊たちのバックグラウンドといった背景によって、ゲーム、アニメ、映画、小説、マンガ、シリアスなものからコミカルなものまで、膨大な数に及ぶ派生作品を生み出している。

(画像は『Fate/stay night』(2004)より)

 その『Fate』シリーズの背景を語る文献としては、各作品の設定資料集「material」シリーズ「アレ本」などが発売されてきた。本記事ではこれらに加えて、奈須氏のブログ「竹箒日記」、各種雑誌のインタビュー、小説のあとがきなどを参考資料にしつつ、『Fate』15周年を機会にこれまでのシリーズの制作背景に迫ろう。

ライター/福山幸司
編集/ishigenn


高校生のときに書かれた原型の小説『Fate』

(画像は講談社コミックプラス | 『魔界転生』(石川 賢)より)

 『Fate/stay night』は、もともと奈須氏が高校生のときに書いた未完の小説『Fate』にまで遡る。このプロトタイプ版『Fate』は、石川賢氏による漫画版『魔界転生』を奈須氏が読んだことがきっかけで、過去の剣豪が蘇る設定から着想を得ている。

 セイバーは男性、士郎は女性、ギルガメッシュが最初から登場するなど細部の設定が違っており、物語はセイバーとアサシンが柳洞寺の山門で対決するシーンまで描かれていた。未完の作品ではあるものの、武内氏はその後の展開やラストの構想は当時すでに奈須氏から聞いていたという。

(画像は『Fate/stay night』(2004)より)

 時を経て、ふたりは同人サークル「TYPE-MOON」を結成し、武内氏は奈須氏を創作に専念させ、その間は自身の貯金を切り崩しながら奈須氏を支え続けた。そして、それが結実したノベルゲーム『月姫』が、完全版として2000年の冬に発売される。

 これが2001年1月中旬にインターネットで噂になりはじめ、同月20日の同人即売会「サンシャインクリエイション」では、多くの人が『月姫』を求めて訪れるようになった。さらに口コミ的に拡散した結果、ネットオークションで『月姫』は高騰。2001年10月8日には『月姫』オンリー即売会「月姫祀~秘初~」が開催されるなど、『月姫』は同人ゲームとしてひとつのムーブメントと化していった。

(画像はAmazon.co.jp | 真月譚 月姫(1) (電撃コミックス)より)

 『月姫』発売後の年明け、実家へ戻るための電車の中で次回作をどうするかという話になり、奈須氏が「次もゲームをやりたい」と話すと、武内氏から「それでは学生時代の小説『Fate』をゲームにしないか」という提案があった。

 しかし、奈須氏は一度中断した物語を再構成する作業を面白いと思わず、乗り気にはなれなかった。それにもめげず、武内氏はその後も何度も『Fate』リメイク案を奈須氏にプッシュし続ける。なぜこれほどまでに武内氏が『Fate』はこだわったかというと、そもそも『Fate』は武内氏が奈須氏の小説を好きになるきっかけの作品であり、自分自身があの『Fate』の物語の結末を読んでみたいと思ったからだという。

 小説版『Fate』は、もとより物語が殺伐としており、戦闘がメインのため、18禁ビジュアルノベルというジャンルにそぐわないと奈須氏は思っていたが、武内氏から、主人公を男性に、セイバーを女性にして性別を入れ替えてみてはどうかという案が出た。これには奈須氏も驚き、当初は拒否していたが、いざ設計図を描いてみると「いける」と確信を抱いた。

 次第に構想のアイデアが浮かぶようになり、ついにはゲーム版『Fate』を完結させることを承諾する。なお、小説版『Fate』の男性・セイバーに対する素直になれない女性・主人公という関係性は、『Fate/stay night』のアーチャーと遠坂凛の関係性として引き継がれることになる。

『Fate/stay night』の制作がスタート

(画像はAmazon.co.jp | 忍法剣士伝 忍法帖 (角川文庫) Kindle版より)

 こうして『Fate/stay night』は、「月姫祀~秘初~」開催と同時期である2001年10月に制作が本格的にスタートした。当初は『月姫』よりボリュームが短いか、あるいは同程度のものを目指していたが、そこから2ヶ月かけて完成したプロットの量は『月姫』をはるかに上回るものとなった。構想段階ではサーヴァントの勝敗によって、ストーリーが分岐する案や、遠坂凛が仲間になるかならないかで分岐する案も考えられたという。

 もともと漫画版『魔界転生』に着想を得たのは前述した通りだが、制作途中でスタッフから山田風太郎の小説『忍法剣士伝』を薦められ、奈須氏があらためて山田風太郎作品に向かい合う中で『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』に衝撃を受け、それも『Fate/stay night』のバトルロワイヤルとしての方向性で大いに参考になったという。

(画像は駿河屋「Colorful PUREGIRL」2002年9月号より)

 『Fate/stay night』の膨大な背景を、TYPE-MOONを商業化して外注に頼むか、それともクオリティを落として同人のままでいるかの判断に迫られる段階になり、以前から武内氏より提案があった商業化を奈須氏がついに決断。有限会社ノーツとして法人化し、TYPE-MOONはブランド名として継続した。

 プロット完成後、各ルートのシナリオ執筆に着手。そして2002年9月号「Colorful PUREGIRL」で、『Fate/stay night』が初発表。イラストも初公開され、セイバー、遠坂凛、間桐桜、ランサーのキャラクターデザインはすでに完成されていたことが伺える。武内氏のインタビューでは、「少年が異国の少女に出会って冒険が始まるボーイミーツガールもの、それに伝奇アクションに味付けしたいというのが初期衝動」、「バトルロワイヤルを奈須が描いたらこうなるよ、というところですね」と説明されている。

(画像は『Fate/stay night』(2004)より)

 「Colorful PUREGIRL」の初発表時では、冬が舞台の物語なので冬に発売したいという目論見もあり、2003年初頭の発売を予定していた。だが、同人誌『空の境界』『MELTY BLOOD』『月箱』などの制作も平行し、さらに本編も肥大化していったため、TYPE-MOONは多忙を極めた。なお、冬であるにも関わらず物語でクリスマスが登場しないのは、クリスマスのシーンが印象的な『魔法使いの夜』までに取っておくべきだという、武内氏の判断である。

 2003年2月に、桜ルートの前に入るはずだったイリヤルートをカットし、桜ルートとして1本にまとめることが決断される。また奈須氏の中にはライダー編の構想も少し浮かんだが、その名残りは桜ルートで見られることになる。しかしその分、演出や絵に対するこだわりは強化され続け、OPではアニメが使われることになった。

(画像はPlayStation | 輝く季節へより)

 もともと奈須氏は『ONE ~輝く季節へ~』のPS移植版『輝く季節へ』をプレイし、文字のバランスや演出のタイミングなど、視覚的に「ひとつの絵」として成立する美しさに魅せられていた。特に『輝く季節へ』の里村茜ルート、『Kanon』の川澄舞ルートに感銘を受けたという。

 そのため『月姫』でも文字色を変えるなど、ビジュアルノベルの視覚的演出は意識していたが、今回は描いた絵を演出するのではなく、演出ありきの画面作りを当初から目指した。そのため、ゲームエンジンは『月姫』で使用された「NScripter」から「吉里吉里」に変更され、ノベルゲーム用スクリプト「KAG」が使われている。それ以外にも画面に動的な効果を出すために、さまざまなスクリプトが導入されており、オープンソースであるKAGを『Fate/stay night』用に特別に改造している。

 火花や眩暈の表現、揺れ、ノイズ、画面の拡大、また背景やキャラクターデザイン。それらが渾然一体となって、バトル描写をまるで動的なように盛り上げることに成功し、『Fate/stay night』は『月姫』からさらに迫力あるアクション・ノベルゲームへと昇華した。

(画像は『Fate/stay night』(2004)より)

 またテキスト面で奈須氏が吉里吉里にすることでこだわったのは、特にルビ表現だったという。他にもサーヴァントのステータスメニューと武器辞典によって、より特色あるノベルゲームとして研ぎ澄まされていった。このビジュアルノベルの視覚効果への挑戦は、その後の『魔法使いの夜』に到るまで続くことになる。

『Fate/stay night』から『Fate/Zero』へ

 『Fate/stay night』は、テックジャイアン2003年12月号に付属された体験版を経て、2004年1月30日に発売された。シナリオの量は文庫本20冊分、スクリプトを除くテキストデータは約6メガバイトに及び、マスターアップは元旦あたりだったという。

 2004年だけで15万部を販売するほどのノベルゲームとしては破格の売れ行きを見せ、すぐにファンディスク『Fate/hollow ataraxia』が企画された。ファンディスクは、当時はデスクトップアクセサリーを収録したアイテムという印象が強く、それを覆そうする意気込みで制作がスタート。

 奈須氏はメインシナリオだけを務め、別のさまざまなライターにサブシナリオを任せることになったが、結果的に本編に出てこないキャラは奈須氏が受け持ち、サブシナリオも増大することなったので、制作には1年半を要することになった。

(画像は『Fate/hollow ataraxia』(2005)より)

 このときサブシナリオの大物ライターとして、ニトロプラスの虚淵玄氏を呼ぼうと武内氏が提案した。そもそものTYPE-MOONと虚淵氏の出会いは、まだ『Fate/stay night』が世に発表されていない2002年5月にまで遡る。『空の境界 ドラマCD ~俯瞰風景~』に付属するブックレットの対談企画が、奈須氏と虚淵氏が最初の出会いだ。

 ゲームの文章として意識せず、虚淵節全開の『鬼哭街』に驚嘆したという奈須氏の感想から始まるこの対談は、収録が終わった後も近所のファミレスに移って長い間話し合うほど、ふたりは意気投合した。

 その後、奈須氏はセイバールートを書き終える直前に体を壊し、2002年夏に入院。のちのちイリヤルートをカットする判断をしたように、奈須氏ひとりで『Fate/stay night』を書ききれるのか不安がよぎっていたため、武内氏から信頼するライターに士郎以外の視点である「interlude」を任せてみてはどうかと提案される。

 そして奈須氏から虚淵氏にその話を持ちかけ、虚淵氏は快諾。だが結果的に、『Fate/stay night』は奈須氏ひとりで書き上げることができた。なお、このとき奈須氏は制作中の『Fate/stay night』のプロットを虚淵氏に明かしているため、虚淵氏はアーチャーのネタバレを食らったという。

(画像は『Fate/hollow ataraxia』(2005)より)

 このような流れがあっため、『Fate/hollow ataraxia』でさまざまなライターを呼ぶ際、武内氏はひとつの大きな目玉として、番外編の複数のエピソードを虚淵氏に頼んでみてはどうかと奈須氏に提案した。奈須氏はひとりのファンとして虚淵に頼むなど恐れ多いと静観していたが、武内氏は奈須氏と虚淵氏が同席している会食で、直接、虚淵氏にそのことを切り出した。

 奈須氏は横で武内氏の肝っ玉の大きさに驚いていたが、それを受けての虚淵氏の返答は、それならば『Fate/Zero』として言峰綺礼と衛宮切嗣の対決シーンを書きたいという、さらに驚くべき内容だった。

(画像はAmazon.co.jp | Fate/Zero(1) 第四次聖杯戦争秘話 (星海社文庫) より)

 虚淵氏は、『Fate/stay night』のプロットをいち早く知ってしまった身だったが、製品版にも感銘を受けたようである。特に幾多の物語から3つを切り取ってきたような奈須氏独自の世界観の広がり、膨大に作りこまれた設定は、『月姫』のときから感銘を受けていた。さらに『Fate/stay night』の時代無視の英雄バトロワというアイデアには痛く刺激を受けていたという。

 さらに虚淵氏は2004年5月号「Colorful PUREGIRL」で、「『Fate/stay night』をやり終えて――」として、「第四次聖杯戦争を希望 『Fate/Zero』を希望」という短文を寄稿している。

「正義を求め聖杯を求め、そして最後にはすべてを見失ってしまう切嗣の物語はライブで見たいっす。凛パパの末路も気になります。神父もね(中略)内なる葛藤に回答を見出せなくて、いい感じに悶えてたんじゃないかと思うのですよ。(中略)きっと第四次聖杯戦争は、信念に生きた男たちの敗北と再生の物語になるんじゃないでしょうか。超燃えっすよ!そういうワケなんで奈須さん、ひとつヨロシク」

2004年5月号「Colorful PUREGIRL」、「第四次聖杯戦争を希望 『Fate/Zero』を希望」より

 会食の席では言峰綺礼と衛宮切嗣の対決シーンのみの話だったが、虚淵氏の構想はどんどん膨らみ始め、虚淵氏は1~2週間程度ですぐに7人分のネタを提出し、「第四次聖杯戦争」全体を描く内容に決まっていった。

 奈須氏からの条件として、サーヴァントは西洋縛りということだったが、虚淵氏の中にはランサーは関羽、アサシンは中国の仙人が頭によぎったこともあった。この中国史への想いは、後に虚淵氏がシナリオを手掛けた『Fate/GrandOrder』第2部3章「Lostbelt No.3 人智統合真国 シン 紅の月下美人」で結実することになる。

 実は『Fate/Zero』第一巻に相当する原稿は早い時期に書きあげており、『Fate/stay night』が発売した同年の冬、つまり2004年冬にはすでに脱稿していた。『Fate/Zero』第一巻が発刊したのは2006年の冬コミであり、なんと2年間寝かせていたことになる。

あらためて『Fate』と向き合い始めた2008年

 虚淵氏による単行本全4巻による『Fate/Zero』の執筆が終盤に差し掛かっているころ、奈須氏はPS2移植版『Fate/stay night [Réalta Nua]』に着手していた。もともと奈須氏はひとつのコンテンツの寿命を3~4年と考え、特定の作品に長く携わるのは良いことと考えていなかった。また『Fate/hollow ataraxia』の疲れもあり、『Fate』から少し距離を取りたい気持ちになっていたようだ。

 だが、武内氏の『Fate/stay night [Réalta Nua]』へのモチベーションは高く、「セイバールートのトゥルーエンド」という提案には奈須氏と対立し、一日喧嘩になったほどだという。結果的に奈須氏は根負けし、本編のテーマがさらに際立つシナリオを執筆した。

※映像は2012年に発売されたPS Vita版『Fate/stay night [Réalta Nua]』のトレイラー。

 2006年のアニメ化を経て、2007年4月19日に発売した『Fate/stay night [Réalta Nua]』では、武内氏としても『Fate』に終止符を打つつもりだった。しかしそんな当人たちの想いをよそに、アニメ版の声優を採用した『Fate/stay night [Réalta Nua]』は、キャラクターたちにさらなる息吹が宿り、『Fate』の人気はますます確固たるものとした。

 2006年にアニメ『Fate/stay night』が放映、小説『Fate/Zero』は完結し、四コマ漫画『氷室の天地 Fate/school life』の連載が開始された。また2007年には『Fate/stay night [Réalta Nua]』が発売され、漫画『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』が連載開始。2008年には対戦格闘ゲーム『Fate/unlimited codes』がアーケードで稼動を始めた。

(画像はAmazon | Fate/stay night 1<通常版> [DVD]より)

 こうした状況もあって、2008年ごろに奈須氏の心境の変化が訪れる。虚淵氏には早い段階から『Fate』を「アメコミにしちゃえ」「サザエさん」と言っていたが、奈須氏はその言葉にいまひとつピンときていなかった。

  しかしこのように派生作品が増えていき、特に虚淵氏が最大のスピンオフを提したことによって、奈須氏は虚淵氏の真意を理解し、『Fate』は数年ではなく一生付き合っていく作品になると心変わりした。

存在感が増した『Fate/EXTELLA』、そして『Fate/Grand Order』へ

 そして『Fate/stay night』の発売から15年経った現在、『Fate』の派生作品は膨大に渡る。だが、大別すると派生元は5つに分けられるだろう。まず原型であるプロトタイプの小説『Fate』からはアニメPV『Fate/Prototype』やスピンオフが登場した。シリーズの主幹となる『Fate/stay night』からは、あらゆる派生作品が生まれている。

『Fate Prototype』の前日譚である『蒼銀のフラグメンツ』
(画像はAmazon | Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ 1 (単行本コミックス) より)

 本編の前日譚にあたる、第四次聖杯戦争を描いた『Fate/Zero』からは、小説『ロード・エルメロイII世の事件簿』。未来の聖杯戦争を描いたパラレルワールドの外典『Fate/EXTRA』からはゲーム作品や、奈須氏が脚本に携わっているアニメ『Fate/EXTRA Last Encore』など。

 特異点の人類史を正すため聖杯探索を描く『Fate/Grand Order』からは、アニメ『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』や、映画『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』といった具合にである。

(画像はAmazon | ロード・エルメロイII世の事件簿 1 「case.剥離城アドラ」 (TYPE-MOON BOOKS)より)

 今後、『Fate/hollow ataraxia』が重要な派生元として浮上してくる可能性もあるし、大規模オンライゲームの構想の企画が小説として結実した『Fate/Apocrypha』が大きな派生元となり得ることもあるだろう。しかし出自としては正典といえる『Fate/hollow ataraxia』が重要な派生元としてはなっていないことが、この『Fate』シリーズのユニークなところといえる。

 たとえば『Fate/EXTRA』は、TYPE-MOONに持ち込まれた企画であって、奈須氏が最初は主導したわけではない。赤セイバーは、イスカンダルとは違った方向性の暴君として生まれ、真紅のドレスはヴェスヴィオス火山がモチーフとなった本作を象徴するサーヴァントだ。当初こそイレギュラーな外典であったが、形を変えてRPGからアクションゲームへと、現在では『Fate』シリーズの重要な立ち位置を占めている。

 そして『Fate/Grand Order』だ。破格の文字数、時間の束縛を感じさせないイベント時間という方針は、ソシャゲにおける新たなノベルゲームを生み出した。現在ではそのボリュームは500万字を超えているという。

 この長大でクオリティの高いシナリオは、奈須氏を中心として、東出祐一郎氏、桜井光氏、星空めてお氏、水瀬葉月氏、三田誠氏、円居挽氏、虚淵氏といった、これまでさまざまな派生作品を携わってきたシナリオライターたちの手によるもの。

 さらにイラストレーターは武内氏を中心として、『Fate/EXTRA』のワダアルコ氏、『Fate/Apocrypha』の小説版イラストの近衛乙嗣氏、漫画版の石田あきら氏と、多種多様なキャラクターデザインが並置されて入り混じることが、『Fate/Grand Order』の強みと化している。なおヒロインのサーヴァントであるマシュは、2006年の『Fate/stay night』アニメ化のときにすでにアイデアとして存在していたものを復活させたのだという。

 本作は、ソーシャルゲームならではのリアルタイムで楽しむ連載形式のノベルゲームを追求したことでも賞賛を浴びている。第1部の最終シナリオでは、実際の暦の移り変わりに連動させ、イベントの参加資格を最新シナリオをクリアしたユーザーだけに絞った。だからこそ、それをリアルタイムで経験したユーザーの体感の質は向上し、イベントは特別な祭りへと昇華した。

 『Fate/Grand Order』が第2部によって完結することは、すでに告知されている。第1部のイベントの大成功により、奈須氏は完結することに巨大なプレッシャーを感じているそうだ。プレイヤーの期待は高まるばかりで、ある意味、プレイヤーにとって『Fate/Grand Order』自体が巨大な願望器と化しつつあるようだ。

 しかし、しばしば終わりのないソーシャルゲームにおいて、終わりがあることを積極的に表明し、それに向けて冷静に着手する奈須氏の言動からは心強さを感じることができる。『Fate/stay night』からこれまで歩んできた歴史が宝具のように結実し、『Fate/Grand Order』のグランドフィナーレを迎えるに違いない。


 最後に、『Fate』がシリーズとして派生作品を爆発的に生み出すきっかけともいえる『Fate/Zero』が決まった奈須氏と武内氏と虚淵氏の会食の場面には裏話がある。

 実は当時、ニトロプラスが鋼屋ジン氏のデビュー作『斬魔大聖デモンベイン』が成功する傍ら、虚淵氏自身の企画は何度も頓挫していた。自身の方向性に悩み始め、バッドエンドしか書けないことを呪いのように受け止め、ある種のスランプに陥っていたという。虚淵氏はその悩みを会食の場で奈須氏と武内氏に告白するつもりでいた。しかし、その前に武内氏から『Fate』のシナリオ執筆を依頼されることになり、これがきっかけで『Fate/Zero』を着手したのは前述の通りだ。

 『Fate/Zero』の第1巻が驚異の速筆で書き上げられたことは、虚淵氏自身、物語を書く喜びをあらためて実感して作家として救われたと気持ちになったと、あとがきで綴っている。しかし『Fate/Zero』によって救われたのは、虚淵氏だけではなく、『Fate』シリーズに向き合う決意をした奈須氏も同様だ。

 『Fate』がここまで多くの派生作品が生み出されたのは、奈須氏の作家性もさることながら、奈須氏を支え続け、要所で決め手となる決断をし続けた武内氏、そして世界観の広がりを早くから見抜いていた虚淵氏という、この三者がキーマンとなって『Fate』は濃密な15年間の歴史を歩むことができたといえるのではないだろうか。

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ライター
福山幸司
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
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