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Googleのクラウドゲームサービス「Stadia」がついに始まる、現地での評判は? 技術的には及第点も将来性は不透明

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 Googleは11月19日、クラウドゲームサービス「Stadia」の先行販売を、北米や欧州の14か国にて開始した。

 本格的なサービス展開が始まる2020年までは、スターターキットの「Premiere Edition」として129ドルで販売され、これには「Stadia」専用の公式コントローラーと、 ディスプレイのHDMIポートに接続するストリーミングデバイス「Chromecast Ultra」、そして月額9.99ドルのプレミアム会員「Stadia Pro」の利用権が3か月分含まれている。なお、現時点で日本はサービスの対象エリアに含まれていない。

 テック業界やゲーム業界の情報を伝えるアメリカの主要メディアは、スターターキットの販売開始を皮切りにStadiaのレビュー記事を、各社一斉に公開した。

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(画像はTwitterより)

 批評のポイントは大きく分けて、Googleが謳う「4K、60fps、HDR、サラウンドに対応した高品質なストリーミング体験」は技術的にクリアできているのか、推奨された通信環境で既存プラットフォームと同等に快適なゲーム体験はできるのか、そしてタイトルのラインナップやビジネスモデルに他社のサービスと競えるアドバンテージはあるかに焦点が当てられている。

その目に映るのは本当に4Kなのか

 テクノロジーに敏感な人々がもっとも気になるのは、最新の家庭用ゲーム機やハイエンドなゲーミングPCがなくても、本当にGoogleが描くような次世代の高品質なゲーム体験が可能なのかどうかだろう。この点については、まさに賛否両論だった。

 100Mbps以上の推奨速度を大幅に超える理想的なインターネット環境においては、解像度や描画速度の品質はクリアしていると、Venture BeatArs Technicaをはじめとした多くのメディアは伝えている。しかし、WiFiの無線環境ではストリーミングが安定せず、解像度や描画速度が頻繁に低下したり、ゲームプレイが続行できない状態に陥ったりしたという、ForbesPolygonのような否定的な報告もある。

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(画像はTwitterより)

 一方で、The VergeはStadiaがディスプレイに描いている映像が、本当に4Kと言えるクオリティなのかどうかについて議論している。同メディアの記者はレビューの中で、Stadiaの最高設定による『Shadow of the Tomb Raider』のグラフィックスと、GeForce GTX 1080を搭載したゲーミングPCで描画したグラフィックスを比較。結果、キャラクターモデルの輪郭描写やオブジェクトのテキスチャ解像度において、明らかにPC版のグラフィッククオリティへ軍配が上がっている。

 また、『Destiny 2』を使ったテストでは、Xbox One Xビルドの4K映像と比較。Chromecast Ultraによる4Kストリーミングは、1080pと大差ないクオリティだったと報告している。これは、実際に『Destiny 2』が1080p解像度でレンダリングされていることが原因だと、開発元のBungieが認めている。同作の4Kストリーミングでは、1080pでレンダリングした映像にさまざまな処理を施して、総合的な視覚効果を底上げしているのだという。

ゲーマーなら何より気にする操作の遅延

 こうした4K問題に加えて、多くのメディアが特に注視しているのが、オンラインゲームを遊ぶ上で絶対に避けられないレイテンシーの問題だ。特に格闘ゲームやファーストパーソン・シューティングでは、フレーム単位の入出力差が正確なコンボの成否や撃ち合いの勝敗に大きく影響するので、Stadiaがサーバーとの通信にミリ秒単位でも余計な時間を費やすだけで、たちまち快適なゲームプレイなど台無しになってしまう。

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(画像はTwitterより)

 今回は22作品のローンチタイトルから、多くのメディアがFPSの『Destiny 2』と対戦格闘ゲームの『Mortal Kombat 11』を選んで、Stadiaのレイテンシーについて言及している。The Guardianをはじめ、いくつかのメディアは著しい遅延は確認できなかったと報告したが、The Washington Postの検証映像では『Destiny 2』および『Shadow of the Tomb Raider』で記者がスペースキーを入力してからキャラクターが実際にジャンプするまでに、コンマ数秒のタイムラグが生じている様子が確認できる。

 ただ、Stadiaのテレビ接続はChromecastと専用コントローラーが同一のローカルエリアネットワークで繋がっていることを前提にデザインされていることから、WPA2 Enterpriseといったオフィス内のネットワーク環境をサポートしていない。前述した検証映像では、職場のイーサネットケーブルを繋いだPC内でChromeブラウザを使用しており、Googleが動作を保証している通信環境の対象外となる。

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(画像はTwitterより)

 実際にどれくらいの遅延が生じているかについては、EurogamerがStadiaとXbox One Xを使ってレイテンシーテストを行っている。レイテンシーはプラットフォームやゲームエンジン、キャラクターアクションの特性によって幅広く異なるため、一部のタイトルやアクションによって一概に比較することはできないが、同じ60fpsで動作させた『Shadow of the Tomb Raider』におけるララ・クロフトのジャンプを見れば、その差は一目瞭然だ。

 Xbox One Xで83ミリ秒を要しているのに対し、Stadiaでは130ミリ秒。その差は56ミリ秒と決して小さくはない。個人差はあるだろうが、これは実際にプレイしていて肌で遅延が感じられる程度と言える。しかし、だからといってプレイに堪えないレベルというわけではない。実際、The Washington Postによるテストプレイでも、Google Pixel 3a XLとWiFi通信を使った環境では、遅延の程度は致命的とは言えないレベルに改善している。

独立したエコシステムの落とし穴

 確かにストリーミングの画質やレイテンシーは高品質なゲーム体験を語る上でもっとも重要な項目かもしれないが、プラットフォームの普及を支えているのはゲームタイトルのラインナップやビジネスモデルであるということを忘れてはならない。

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(画像はTwitterより)

 現時点で、Stadiaのラインナップは貧弱そのものだ。先行販売を目前に提供数を約2倍の22作品に増やしたといっても、『Red Dead Redemption 2』のような目玉タイトルでも発売からすでに1年近くが経過している。現在、『Gylt』のように唯一のStadia限定タイトルもあるが、ほとんどのゲームはPS4やXbox One、PCでもプレイできる。すでに画質やレイテンシーで不利なだけに、ゲームソフトのダウンロードが一切必要ない手軽さやコントローラーのデザインを除いて、あえてStadia版を選ぶメリットはあまり見出だせないのが現状だ。

 特筆すべきは、ゲームソフトのデジタルコピーもしくは物理媒体を購入している一般的な既存プラットフォームと違い、Stadiaではゲームのストリーミングへアクセスする権利を得ているに過ぎない点だ。もしGoogleがStadiaのサービスを終了してしまえば、ユーザーの手元には何も残らないことになる。

 しかも、『Destiny 2』のように「Stadia Pro」のサブスクリプションで無償提供される一部タイトルを除いて、既存プラットフォームのユーザーはほとんどのゲームタイトルを定価で買い直さなければならない。

 もちろん、すでに所有しているSteamライブラリのゲームをStadia経由でプレイするといった遊び方はできない。また、PlayStation PlusやXbox Live Games With Gold、Origin Accesのようなプレミアム会員向けのバラエティに富んだ無料のゲームライブラリもない。完全に独立したエコシステムを形成しているのだ。

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(画像はTwitterより)

 今後、2020年の本格展開にあわせてラインナップは間違いなく拡充していくだろうが、いまのところ既存プラットフォームとのクロスプレイにも対応しておらず、オンラインゲームのプレイ人口にも不安が残る。

 何よりも将来的に確実に脅威となるのが、Microsoftが計画しているクラウドゲームサービス「xCloud」の存在だ。同社にはすでにユーザーベースが確立されており、所有済みのゲームライブラリやXbox Game Passのラインナップを、Stadiaと同じ条件で利用できるという明らかな強みがある。

 Googleが新たに参入したゲーム業界で生き残っていくためには、山積する技術的な課題を克服するだけでなく、PlayStationやXbox、Steamといった歴戦の強豪たちからユーザーベースという生命の源をもぎ取らなければならない。これまでいくつもの企業が失敗してきたクラウドゲームサービスという特異な分野だけに、今後の行方が注目される。

ライター/Ritsuko Kawai

ライター
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Ritsuko Kawai
ライター・ジャーナリスト。カナダで青春時代を過ごし、現地の大学で応用数学を専攻。帰国後は塾講師やホステスなど様々な職業を経て、ゲームメディアの編集者を経験。その後、独立して業界やジャンルを問わずフリーランスとして活動。趣味は料理とPCゲーム。ストラテジーゲームとコーヒーが大好き。
 
Twitter: @alice2501

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