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修正されてしまった『ロマサガ3』HDリマスター版のRTAには、“分身技”という希望が残されていた。プログラムの穴を突いて能力値を参照する技が再び花開く

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 1995年11月11日、『ロマンシング サ・ガ』シリーズの3作目としてスーパーファミコン向けに発売されたのがRPG『ロマンシング サガ3』(以下ロマサガ3)である。

 シリーズの魅力である自由度の高い「フリーシナリオシステム」や、戦闘中に新たな技を閃く「技閃き」、味のあるキャラクター同士のやり取りなど、当時としてはほかのRPGではあまり見られない独自の要素に満ちていた同作。昨年11月にはHDリマスター版が現世代のハード向けに発売され話題となり、なお根強い人気があることを見せつけた。

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(画像はロマサガ3周回用プレイ(8周目モニカ)の0:00:24より)

 そんな本作はすでに発売から20年以上が経ったこともあってか、ただゲームをクリアするだけでは飽き足らず、さまざまな超人的やり込みの対象となっていることでも有名だ。

 シンボルエンカウントで遭遇する雑魚敵を一切倒さずクリアするメニューを一度も開くことなくクリアする一度もダメージを受けることなくノーセーブでクリアする。長年研究され続けてきた知識の蓄積をもとに多くの偉業が達成されてきた。

 新たに発売されたHDリマスター版でも、当然のごとく歴戦の勇士たちが実時間でゲームをできるだけ早くクリアする「リアルタイムアタック」(RTA)に挑戦したが、実はそこにはスーパーファミコン版とは異なる展開が待ち受けていた。この記事では、発売以降のHDリマスター版『ロマサガ3』のRTAについて、その挑戦の一幕を伝えていこう。

文/もか
編集/ishigenn
協力/わいなぎ


 まず、オリジナル版に当たるスーパーファミコン版『ロマサガ3』のRTAについて簡単に紹介しよう。同作のRTAでは別々の記録カテゴリが用意されており、それぞれ使用してよいバグなどに関するルールが制定される状況だ。

 長年の研究の結果、オリジナル版では著しくゲーム性を破壊する“実体化”と呼ばれるバグを用い、デバッグルームからラストバトルに直行することで最速30分以内にゲームをクリアできるようになっている。RTAでの記録更新を目指すには、もはや通常のゲームプレイとはまったく異なる攻略法が要求される。

 たとえばセーブ&リセットからタイトル画面でのデータロードを含めて決まった操作を入力することで乱数を固定する“状況再現”。アイテム欄にカーソルを合わせてから防御を行って特殊カウンターによる大ダメージを与える“アイテムカウンター”。最後に参照された値をもとにダメージを計算して攻撃することができる“分身技”など。
 RTAを有利に進めるためのバグとも仕様とも判断がつかないテクニックが多くが存在する。

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(画像はロマサガ3周回用プレイ(8周目モニカ)の0:03:42より)

 ではHDリマスター版『ロマサガ3』はどうだったのか。発売から調べられた結果、残念ながら当然HDリマスター版ではこれらのRTAに役立つ“抜け道”のほとんどは修正されていた。そのため当初は、早くクリアするための主人公選びや、敵ランクの上昇を待たずして戦うことのできる固定敵での早期キャラクター強化などが注目を浴び、それらの要素がHDリマスター版のRTAの鍵を握ると思われた。

 だが、発売から有志たちが検証を進めた結果、RTAに有用なバグのほとんどは修正されていたものの、なぜか“分身技”だけは一部が修正されずにそのままHDリマスター版でも残っていることが判明する。

 分身技とは、剣技の“分身剣”や斧技の“ヨーヨー”など、武器レベルが高くなることで威力や攻撃範囲が増大していく技の総称だ。技を使用するキャラクターの能力値を一切参照せずにダメージ計算をする点が最大の特徴となっている。

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(画像はロマサガ3周回用プレイ(8周目モニカ)の0:18:12より)

 そもそも分身技をどのように活用するのかを知るには、まず『ロマサガ3』の通常攻撃のダメージ計算について知らなければならない。武器が剣ならキャラクターの“腕力”を、小剣ならキャラクターの“器用さ”を参照して攻撃するというように、『ロマサガ3』では技を使うキャラクターの能力値を参照して、その値をもとに実際に敵に与えるダメージ量を算出する。

 たとえばキャラクターのひとり「ノーラ」は腕力の値が「23」で器用さの値が「24」となっている。通常のキャラクターの腕力や器用さの値は高くて20、低いと10台なこともあるため、これらの値はかなり高いほうであると言える。彼女は最初から棍棒の技を持っており初期装備も棍棒だが、これらの能力値から剣や小剣を使っても強い万能なキャラクターであることがわかる。

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 これに対し分身技は、使用するキャラクターの武器レベルにより技のモーションが変わって威力が増大するという特徴のほか、キャラクターの能力値ではなく直前に参照された値でダメージが計算されるという仕様を持つ

 筆者が作成した上記画像の例で説明してみよう。ユリアンが使用する分身剣とノーラが使用するヨーヨーはどちらも分身技である。ユリアンが使う剣とノーラが使う斧はどちらも腕力依存の武器であるため、本来ならばユリアンは自身の腕力18を、ノーラは自身の腕力23を参照してダメージを計算するはずである。

 だが、実際のダメージ計算にはそれらの能力値は用いられず、それぞれ直前に参照されたモニカの器用さと詩人の腕力をそのまま引き継いで攻撃している。ユリアンの場合は本来の18よりも高い値が、ノーラの場合は本来の23より低い値が参照されているということになる。

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(画像はロマサガ3周回用プレイ(8周目モニカ)の1:35:02より)

 先程の例だけだと仲間のキャラクターの値を参照するだけのようにに思えるが、分身技が真価を発揮するのは敵の能力値も参照できてしまうというところだ。敵が自身の能力値を参照して攻撃しダメージが計算された直後、分身技を使うことでその敵が参照した能力値を用いて攻撃することができる。

 通常のキャラクターだとダメージ計算に用いる能力値は高くても20台後半ほどだが、敵の能力値はそれをはるかに上回ることも多い。通常プレイで意図していなくても参照してしまいやすいものとして例を挙げると、黄京突入直後に戦うことになる「ドラゴンルーラー(赤)」は“火炎”という全体攻撃技を使ってくることがある。

 火炎は自身の体力を参照して攻撃する技で「ドラゴンルーラー(赤)」の体力は45となっている。45となると通常のキャラクターの2倍以上の能力値となり、これを参照できるとかなりの高威力で攻撃できることになる。

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(画像はロマンシングサガ3 NewGame+ Remastered RTA 1:23:14の0:37:59より)

 この分身技を使う際に参照する上でもっとも真価を発揮する値は、特殊な戦闘下での「グゥエイン」の体力だ。ストーリー上で必ず戦うことになる四魔貴族の「ビューネイ」戦だが、ゲームの進め方によってはルーブ山地に住む巨龍グゥエインと共闘することもできる。

 共闘時のグゥエインの体力は“99”となっており、自身の体力を参照してダメージを与えることができる“火炎”、“冷気”、“電撃”を使うと99を参照することができる。ビューネイは熱防が高く火炎ではダメージが通らないため、実質冷気と電撃の二択になるが、体力を参照する技を使ってビューネイにとどめを刺すことで99という値が戦闘のあともメモリ上に残り続けることになる。

 ビューネイ戦のあとは敵に一度も攻撃されることなく、かつ分身技などの自身の能力値を参照しない行動のみを選択し、99という値を維持したまま通常攻略では有り得ない大ダメージを出し続ける。そうやってラストバトルまで駆け抜けるのが、RTA上での戦略だ。

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(画像はロマサガ3周回用プレイ(8周目モニカ)の1:19:02より)

 常に先制して敵に攻撃されることなく分身技を使って戦闘を終わらせ続ければ、グゥエインから参照した99を保ち続けることができるが、全キャタクターで最高ダメージを叩き出しても1ターンのうちに倒せない敵も存在する。

 そんなときに役立つのは、四魔貴族の「フォルネウス」を撃破すると取得できるようになる「クイックタイム」という術だ。この術を使うと敵を強制的にスタン状態にして敵の攻撃をキャンセルすることができ、かつ術を使用するときになんの能力値も参照しないので、99の値も維持できる。

 さらに「クイックタイム」は、使用する時点での術ポイント「JP」が16以上の場合は敵の攻撃をキャンセルし、かつ次のターンも必ず先制できるという特性を持っている。JPを意識し、常に先制して敵の行動をキャンセルし続けるようプレイすれば、そのままエンディングまで99の値を維持することが可能だ。

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(画像はロマサガ3周回用プレイ(8周目モニカ)の0:03:39より)

 しかし、冒頭で「一部が修正されずに」と伝えたように、リマスター版では一部の分身技の仕様が変更されている。とくに厄介なのは、分身剣から派生して閃くことのできる“残像剣”が、自身の能力値を参照してダメージ計算するよう修正されたことだ。

 オリジナル版では残像剣も自身の能力値を参照しない仕様だったため、仮に閃いてしまってもグゥエインの参照値をそのまま維持することができたが、HDリマスター版では分身剣を使用して残像剣を閃いて攻撃を放つと、それまで参照していた99という値が上書きされてRTAの戦略が破綻してしまう。

 分身技の中でRTAにもっとも適し、かつ高威力を出せる技が剣の通常攻撃から閃くことのできる分身剣なのだが、残像剣の仕様が変更されたことでそれに対応する戦略を組む必要が出てきてしまった。

 HDリマスター版ならではの対応策としては、グゥエインとの共闘の前に残像剣を極意化して閃かないようにしておく、分身剣の次に有用な分身技である斧技のヨーヨーを用いて攻略するようにする、技欄を8つをすべて埋めきって残像剣を閃くことができない状態にしておくなどがある。

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(画像はロマサガ3周回用プレイ(8周目モニカ)の1:45:01より)

 なおHDリマスター版では修正パッチも頻繁に配信されており、残像剣がオリジナル版の仕様に戻る可能性、もしくは分身剣も残像剣と同じ仕様に修正される可能性もある。

 発売元のスクウェア・エニックスは有益なバグは潰さないとの方針で修正パッチを配信しているが、自身の能力値を参照せずに攻撃するという仕様はやりようによっては0を参照して無益なものにすることもできるため、それがどう判断されるかは今後の展開次第だ。

 ちなみにSteam版では過去のバージョンでRTAを行うことが広く認められており、もし分身技の仕様に修正が入ったとしても過去バージョンを使えばよいため、分身技の使用に応じてカテゴリを分ければ今まで達成された記録が無駄になることはないだろう。

 分身技が使えることが判明したHDリマスター版ではRTAは一気に前進。タイムアタックの記録を集積している「speedrun.com」によると、現在はRTAの計測終了箇所となるスタッフロール終了後のタイトルロゴ表示まで2時間20分程度でクリアできるようになっている

 敵味方共通のメモリを参照して行われるダメージ計算、最後に参照した値を用いて攻撃する分身技、さらに敵キャラクターの中で唯一99という体力を持つ共闘時のグゥエインの存在が合わさり、奇跡的にRTAに使える戦略として昇華されたのが『ロマサガ3』のRTAだ。

 ニューゲームから最速クリアを目指す「Any%」(※進行度を問わないカテゴリ)のほかにも、引き継ぎ有りのRTA、さらに追加ダンジョンのボスを倒すまでのRTAも盛んだが、それぞれのカテゴリでは分身剣を使わない戦略も開拓されている。このような強力な仕様があるにも関わらず他の方法を取ったほうが早くなることもあるとは、『ロマサガ3』というゲームの器の大きさを感じるところだ。

ライター
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小学校の頃にゲーム雑誌でタイムアタック特集を見てこんな遊び方もあるんだと感動し、RTAという言葉が生まれる以前からゲームの早解きを行い続けて現在に至る。
Twitter:@moka_peer
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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