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『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑

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『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_001

「……黄昏時となりました。
 
 フレイグ、あなたの盾を
 そこに置きなさい。
 
 これを指さすことで、
 『誰も犠としない』
 選んだものとみなします」

 僕は従った。
 それ以外の選択などない。

 僕は剣で、巫女に従う力。
 それ以外の意志はいらない。

 意味不明な記憶も、
 狂気とかも、
 いらない。

「何か、疑問などはありますか?
 念を押しますが、この段で
 何者かへの疑いを誘うことは
 重大な禁忌で、許されません。
 
 何も、ないようですね。
 
 それでは、始めます」

 この手続きに、
 ほとんど意味なんてない。

 僕を選ぶだけの手続きだ。

 それは、そうだろう。

 僕でさえ、思い始めてる。
 僕が『犠』となるべきだと。
 
 それでも、巫女の剣としての
 使命を果たすべく、
 疑わしい誰かを指さすか。

 それとも、『狼』はもういない
 と信じ、『誰も犠としない』を
 選び取るか。

 よく考えて、決意した。

『ヴァルメイヤよ、
  我らを導く死体の乙女よ!
  信心と結束をいま示します!
  ご照覧あれ!』

 
 血と肉と骨にかけて──
 
   みっつ!
 
     ふたつ!
 
       ひとつ!」

 そして、
 みんながそれぞれ、
 意志を示した。

 ジジイが指さしたのが、僕。

 ゴニヤが指さしたのが、盾。

 そして、
 ビョルカさんが指さしたのが、

 ジジイだ。

「──なぜじゃ、ビョルカ!
 なぜワシを指さした!!
 
 分かっとるはずじゃろう!!
 怪しいのはただ一人!
 フレイグの小僧じゃと!!」

「やめて、ウルじい!
 ゴニヤは、ゴニヤは……
 もうだれにも、
 しんでほしくないわ!
 
 でもビョルカも、なぜ!?
 なぜ『だれもえらばない』
 ささなかったの!?」

「……ゴニヤ。
 あなたの気持ちは分かります。
 いやなことを直視したくない、
 という気持ちは。
 
 しかし、この状況下で
 最も変わってしまったのは、
 やはりウルヴルだと、
 私は考えます」

「勇士とは、我ら皆のために
 剣を執(と)る役目です。
 我らの先頭で身を危険に晒し、
 血を浴びる役目です。
 
 『村』では難しい立場ですが、
 この苦境にあって、
 誰よりも敬意を受けるに
 値すると私は思いますし、
 
 先程の苛烈(かれつ)な戦いの中でも、
 フレイグは気高い役目を
 わきまえていると、
 私は見ました」

「翻って、今のウルヴルには、
 勇士への敬意も、感謝も、
 感じられません。
 むしろ屁理屈で、立場の弱い
 勇士をおとしいれよう……
 そんな魂胆さえ見えます。
 
 だから私は思ったのです……
 今日の『儀』の選択は、
 フレイグに委ねるべきだと」

「僕に……委ねる……?」

「はい。
 ウルヴルがフレイグを、
 ゴニヤが盾を指さすことは、
 およそ想像できました。
 むろん私の選択は、
 私の良心に沿ったものですが、
 これで指名は、奇しくも均等に
 分かれます。
 
 あとは勇士フレイグが
 誰を指さすかにかかる。
 最も我らに尽くす彼が、
 誰を選ぶかにかかるのです。
 
 これが私の考えた、最善です」

 そんな

 そんなビョルカさんの
 大それた発想なんて
 知るよしもない僕は

 選んでしまった
 もう 選んでしまった

 その結果は──

別離(c)

「こたび各々が指さされた数は、
 ウルヴル、1人。
 フレイグ、1人。
 この私、1人。
 誰も犠としない、1人。
 
 割れましたね。
 この場合……」

「ま、待て!
 
 小僧、きさま何故……」

 なぜ、
 僕がビョルカさんを選んだか?

 ……分からない……

 自分でも分からない、
 衝動みたいなものがあって、
 気付いたら
 ビョルカさんを指さしてた!

 ただ、違和感だけは
 ずっと付きまとっている。

 ビョルカさんの信仰が大きく
 ブレてるとは思わないけど、
 細かい部分では、ジジイや
 ヨーズに圧されてブレている。

 本来はあくまで優しい人だ。
 だから揉め事を解決するのに
 意見を押し通すのでなく
 間をとりたいのは分かる。

 でも……だとすれば、
 今日の『儀』
 正当性はあったのか?

 だって、昨晩は
 誰も死ななかったんだぞ?

 『誰も犠としない』なんて
 選択を用意してまで、
 行う必要があったか?

 ……まさか、とは、思うけど。

 ブレてるフリをして、
 僕らが殺し合うように
 誘導してる……とか……

 ……ぼ、く、は、

 何を考えてるんだ……!?

 今日『儀』が行われるのは、
 僕が疑われるようなことを
 したからだろ!?
 ジジイの疑いは妥当だよ!
 なんせ……僕だって、
 僕が怖いと思い始めてる!

 ……僕は、疑われるのが
 恐ろしくて、こともあろうに
 ビョルカさんに罪を着せよう
 としてるのか!?

 冗談じゃない!!
 冗談じゃないぞ!!

 死ぬべきは
 ビョルカさんじゃない、僕だ!

 それを言おうとしてるのに、

 口が動かない……!!

「……いいのです。
 フレイグはよく考え、
 自らの信念に基づいて、
 私を指さしたはず。
 そこは、信じていますから」

「さあ、『儀』を決しましょう。
 指さされた者を除けば、
 決めることができるのは……
 ゴニヤだけですね」

「……ゴニヤは……」

 ジジイが言葉に困り、
 僕がなぜか口をきけなく
 なってる間にも、
 事態は進んでいく。

 進んでいってしまう。

『……ヴァルメイヤよ、
  改めて、ご照覧あれ!』

 
 血と肉と骨にかけて──
 
   みっつ!
 
     ふたつ!
 
       ひとつ!」

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_002
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(──ああ、なんてこと。
 
 ゴニヤは、自分のなかの
 うたがいの心に、まけた。
 
 『誰も犠としない』
 えらべばよかったのに、
 
 フレイグを信じたかったのに、
 
 もしフレイグが『狼』なら、
 ここで止めなきゃおわりって、
 
 ああ、『死体の乙女』さま、
 ゴニヤは悪心をもちました──)

 ああ、

 よかった。

 ゴニヤが指さしたのは、

 僕だ。

「ゴニヤ……
 お前、『誰も犠としない』を
 選んどったのに、どうして……」

「……ごめん、なさい……
 
 でも……おかしいでしょう?
 
 ゴニヤのしってるフレイグは、
 ビョルカをえらばないもの!」

「ゴニヤ!
 あなたはまたそうやって、
 フレイグの名誉を──!」

 いいんです、と言うつもりが
 まだ口が回らない
 ので

 僕は代わりに
 ビョルカさんの
 お怒りを遮(さえぎ)るように

 ゴニヤにそっと
 手を差し出して

 震えている頬に
 そっと手のひらをあてた

「──────だいじょうぶ。
 
 僕の、願ったとおりの選択だ。
 
 えらいぞ、ゴニヤ」

 なんとか、言えた。

 ゴニヤの両目がみるみる潤む。

 僕はゴニヤの肩を軽く叩くと、

 巫女に向き直り、ひざまずく。

 お手数を、おかけします。

 そう小さく呟いて。
 自分の剣を、捧げ持った。

「……見事な振る舞いです。
 勇士フレイグ。
 
 あなたの魂を、
 ヴァルメイヤは必ずや、
 『館』に迎えるでしょう」

 穏やかな声に、想う。

 幸いな人生だったと。

──本当に?

 疑問が鎌首をもたげた一瞬で、

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_003

 慈悲深い刃が落ち、

 僕の魂を、
 背信から救ってくれた。

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_004

 【フレイグ死亡】

 【2日目の日没を迎えた】

 【生存】
 ウルヴル、ゴニヤ、ビョルカ

 【死亡】
 フレイグ、ヨーズ、レイズル

幻惑

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_005

 フレイグを弔ったのち、
 私たちは野営に臨みました。

 彼のことを思うと、
 胸が張り裂けそうです。

 彼は、ヴァルメイヤ信仰の
 最も過酷な体現者でした。
 それゆえに、この未熟な私を
 熱狂的に支えてくれた。

 それだけ?
 ……ええ、もちろん。
 それ以上の感情を抱く資格は、
 私にも彼にもありません。

 最期まで、彼は立派に
 ふるまってくれました。
 その姿は、迷い続ける
 ウルヴルやゴニヤを、
 きっと正しい道へと導いて
 くれるはず。

 そうあらねばなりません。
 『館』の死者たちもまた、
 我らと共にある。
 レイズルも、ヨーズもそう。

 誰一人として捨てないのが、
 ヴァルメイヤの慈悲ですから。

「……ビョルカや、
 そのう、大丈夫かの。
 
 さっきから、
 ベッドロールを持ったまま、
 少しも動かんから……」

「ええ、もちろん、大丈夫です。
 
 早く、行って下さい。
 昨晩と同じようにしないと、
 ヨーズやフレイグに申し訳が
 立ちませんから」

「……おやすみなさい、
 ビョルカ」

 2人は去ってゆきました。

 私は、フレイグから引き継いだ
 『護符』を握りしめます。
 この魔法の力も今夜いっぱいで
 失われてしまう。
 明日が、最後の好機。
 逃せば、この夜が、
 オスコレイアのごとく我らを
 飲み込むことでしょう。

 強さを取り戻さないと。

 明日までは、
 偽りの強さを、保たないと。

 ベッドロールに潜り込み、
 魔術のランタンの灯りを
 見つめると……

 いつかの光景が、
 光の中に見える気がしました。

 のろまのビョルカ。
 おろかなビョルカ。
 巫女のお姉さま方から笑われ、
 時には突き飛ばされ、
 足蹴にされている、
 言葉通りに愚鈍で無様な娘。

 私はできそこないの娘でした。

 だから、はたちを超えても、
 巫女の見習いでしかなかった。

 だから、『村』が襲われた時、
 祭壇から離れた場所で雑用を
 していた私は、
 巫女のお姉さま方のように
 殺されずに済んだのでした。

 ……私が巫女として
 ふるまいだしたのは、
 囚われの身となった後のこと。

 残り6人となった同胞たちを
 まとめ、励まし、活かすのが、
 曲りなりに巫女であった自分の
 使命だと思ったのです。

 ……皆さんも、私を認め、
 巫女として扱ってくれました。
 『村』にいるころから、
 私のような者にも、
 分け隔てなく付き合って下さる
 優しい人たちだったから。

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_006

 特に、フレイグは、
 こんな私でも、
 熱心に支えてくれて。

 巫女として立つことも、
 あんなに喜んでくれたのに……

──それより先は不要なり

 え、と、思わず口に出ました。

 誰かが耳元で、いや、
 もっと近くで囁いたような……

 ……でも、確かにそうですね。
 これ以上私情を交えるのは、
 不要なばかりか有害でしょう。

 考えをやめ、眠りましょう。

 ……

 眠れませんね……

 まだ宵の口です。
 少し不格好ですが、
 誰かと話してみましょうか。

 そうだ、
 ゴニヤと話しましょう。
 『ヴァリン・ホルンの儀』
 言動で、少し不安定に
 なっているようでしたから。

 大粒の雪がちらつく中、
 私はベッドロールから
 這い出ました。

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_007

 ……昨晩はじっとしていた
 わけですが、
 日没後の山は不気味ですね。

 巫女のお姉さま方は、
 オスコレイアの恐怖を払って
 このような場所で清めを
 行っておられたのか……

 そんなことを考えながら、
 歩いていたのですけども。

 み……見つからない……

 本当に、
 近くにいるのでしょうか……

 これ以上下手に動くと、
 彼らが『護符』の有効範囲から
 外れてしまうかも……

 諦めて戻ろうとした、その時。

 がささ! という音が
 近くの茂みでし、驚いた私は
 飛び上がってしまいました!

「ほっっっっっっっ
 
 ゴニヤでしたか!!」

「あっ、うっ、
 ビョルカ……!?」

シークレットを見る(Tap)
  • (ゴニヤが慌てるから思わず
     隠れてしもうたが、
     ビョルカなら隠れる必要は……
     
     いや、あるのか……?
     自分たちが怪物なら、
     ビョルカとは相容れん……
     手を組み、排除し、
     生き残るしか……
     
     ……これ以上、子供を矢面に
     立たせるわけにはいかん。
     
     ここからは、自分が立つ。)

 ゴニヤでしたか……

 ほっと胸をなでおろします。

 すぐに少し離れます。
 巫女が雪山で他人と会うのは
 伝統に従うならば
 避けるべきですし、
 『狼』かと驚かすのも
 よくないですから。

「こほん、驚かせてすみません」

「あなたのほうが
 おどろいていたわ。
 いえ……それより、
 なんのごよう?」

「……いえ、
 あなたのことが少し、心配で」

「……いえないわ。
 すんだことで、なやんだり、
 まよいをくちにしたりしたら、
 道からはずれてるって
 立派な巫女に言われるもの。
 
 それとも、夜の間は、
 巫女じゃなくて、
 みならいのビョルカに
 もどってくれるのかしら?」

「……あはは、
 あなたにそう言われると、
 巫女の私も形無しです。
 
 『村』はずれで修行にはげむ
 私をゴニヤは何度も励まして
 くれました。
 
 つい先日のことのように
 思い出します」

「ええ、だって、
 ついせんじつだもの。
 
 巫女のおばさまがたに
 いじわるされて、はんべそで
 洗濯をしてたビョルカに
 ベリーを分けてあげたら
 泣きながらぜんぶ
 たべちゃったわよね」

「……そうでした、が、ゴニヤ!
 そんな恥ずかしい話を
 持ち出すなら、私にも考えが
 ありますよ?
 
 そう、たとえば、
 そうして頑張っていた洗濯には
 しばしば、ごく最近まで、
 ゴニヤがしたおねしょの
 片付けも含まれていた
 こととか……」

「まあ、ビョルカったら!
 そうだった、わね!
 悪かったわ。
 さっきのことは
 おたがいのひみつ、ね!」

「ええ、女の約束ですよ!」

「ふふ……
 
 ……でも、今はビョルカにも
 立場があるものね。
 
 ゴニヤなら、だいじょうぶ。
 めいわくはかけないわ」

「ゴニヤ、それは違います。
 理不尽な悩みを持つのは
 人として自然なこと。
 子供ならなおさらです。
 
 責は私が負います。
 悩みを聞かせて下さい。
 オスコレイアの時間も近い
 ことですし、多少の不作法は
 ヴァルメイヤも目を
 つぶってくれるでしょう」

「……
 
 ゆびがね。
 いたく、ないの」

 予想もしなかった言葉に、
 少し、動揺しました。

「崖から落ちた時の、ですか?
 ウルヴルが手当てをしてくれた
 とはいえ、痛くないはずが……
 
 もしや、凍傷になり始めて
 いるのですか!?」

「ううん。もとから、
 ぜんぜんいたくないの。
 
 おかしいでしょう?
 
 それで、こわいの」

「フレイグが、フレイグじゃない
 みたいだって、
 ゴニヤはいったけれど、
 
 ゴニヤも、ゴニヤじゃないかも
 しれない……
 
 それのこわさから
 めをそむけたくて……
 
 フレイグを、わるくいった、
 かもしれないわ……」

 私は、言葉を失いました。

 ただの心の悩みでも、
 受け止める自信はないのに、

 ゴニヤはより深く、
 恐ろしい悩みを抱えていた。

 ……よもや、ゴニヤこそが
 『黒の軍勢』
 『狼』だとでも?

 そうだとして、
 私はどう振舞えばいい?

「……大丈夫ですよ。
 ヴァルメイヤは『儀』を通じ、
 全てをご存知です。
 
 あなたは選ばれなかった。
 まだその時ではないのです。
 
 その時がくれば、謹んで、
 乙女の手をとればいい」

──自分でも、驚きです。

 巫女として立ってから、
 それらしい言の葉が、次々と
 口をついて出てくるのです。

 去りし巫女の先達は、『館』に
 あって我らを導くはずですが、
 こうも直接的に、
 導いて下さるものでしょうか。

「あなたに罪はありませんし、
 あったとしても浄化されます。
 悩むことは、ないのですよ」

「……うん、
 ありがとう、ビョルカ。
 少し、きがらくになったわ。
 
 ビョルカもどうか、
 よくやすんでね」

「……ええ。おやすみなさい」

 そこから少し離れた場所で、
 改めて休むことにしました。

 私は、巫女としてやっていける
 でしょうか。

 もちろん、
 やっていくしかありません。

 安心ではなく、
 決意による疲労が、
 私に眠気を
 もたらしてゆきました。

──それでよし

 汝に迷いも
 人を頼る弱さも
 不要ゆえに

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_008

 ……間もなく、夜が明けます。

 吹雪もじきに止みそうですが、
 『護符』は限界のようですね。
 全身がけだるいのは、
 どうやら寒さが体を蝕み始めた
 ためのようです。

 などと、呑気にしている間は
 ありませんね……
 早く皆さんの無事を
 確認しないと。

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_009

 【3日目の夜明けを迎えた】

 【誰も犠牲とならなかった】

 【生存】
 ウルヴル、ゴニヤ、ビョルカ

 【死亡】
 フレイグ、ヨーズ、レイズル

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_010

「良かった……!
 これで本当に、何も心配は
 なくなりましたね!」

「そうじゃな……
 流石にもう、『狼』など
 おらんじゃろ……」

「……ずいぶん疲れていますね、
 ウルヴル。
 眠れませんでしたか?
 無理もありませんが……」

「そりゃあの……
 ゴニヤや、
 お前は大丈夫じゃったか?」

「ええ、へいきだわ。
 
 けがも、もうだいじょうぶ」

「何よりです。
 さあ、進みましょう!
 今日こそ人里に辿り着き、
 この苦難を終わらせるのです。
 
 我らなら、可能です!」

「私の気勢(きせい)に、
 2人も応じてくれます。
 ゴニヤも休んだおかげか、
 悩みが消えた様子。
 
 これならきっと、
 今日という刻限(こくげん)も、
 乗り越えられることでしょう。
 
 3人の犠牲を
 無駄にはしません。
 必ず」

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_011

 正午過ぎ。
 道がひどくなってきました。

 ウルヴルによれば、
 林と平野(へいや)から成る台地を抜け、
 険しい山脈地帯に
 差し掛かりつつあるとのこと。

 この辺りから『辺境領』
 呼ばれる地域で、『聖域』
 影響は薄まっていくそうです。

 山々の合間に、人里が現れる
 こともでてくるはずだ、とも。

 進行は困難を極めています。
 なにせ、老人と幼い子供。
 私も非力でどんくさく、
 厳しい野外での行軍(こうぐん)には
 慣れていないのです。

 途中何度も、
 危険な瞬間がありました。
 崖から足を踏み外しかけたり。
 倒木の折れた枝で
 怪我をしかけたり。

 死んでしまった3人がいれば、
 進行はずっと容易だった
 ことでしょう。

 しかし、そんな弱音を吐く者は
 誰一人いません。

 彼らは今ここにはおらず、
 しかし『館』にて必ず我らを
 支えてくれているのですから。

 日が少しずつ、傾いてゆく。

 焦りが少しずつ、迫ってくる。

 それでも、慌てず、着実に。

 安全な一歩の積み重ねだけが、
 苦難の道程を成すのですから。

 そして、遂に──

『ギ・クロニクルif』別離c~幻惑_012

「……見て下さい! 二人とも!
 
 集落です! 大きな!」

 いくつ丘と崖を越えたか
 分からなくなったころ、
 とうとう、見つけたのです。

 まだずっと遠くですが、
 はっきりと見える、
 森のはざまにしっかりと佇む、
 石畳と石壁の町並みに。

 『村』よりもずっと、
文明的な集落のようです。

 農具や毛皮の束を手に、
 忙し気に行き交う人々の姿。

 久しぶりに見る
 「生活」の光景に、
 胸が締め付けられる思いです。

 ……自分たちは、受け入れて
 もらえるのでしょうか。

 暮らしぶりに近いものは
 あっても、おそらく文化や
 考え方は大きく違うでしょう。

 少し不安を覚えましたが、
 他に手はありません。
 大丈夫、誠意をもってあたれば
 きっと話は通じるはず。

 意を決し、振り返りました。

「──行きましょう、皆さん!」

「ああ、そうじゃな……
 
 その前に、ビョルカ。
 
 最後の
 『ヴァリン・ホルンの儀』を、
 済ませんかの?」

 え、と口ごもりました。

 2日連続で、
 『狼』の犠牲者は
 出なかったというのに、

 まだ、彼は納得していないと
 いうのでしょうか。

「ああ、すまんすまん!
 別に何か疑っとる
 わけじゃあ無いんじゃ」

「ただここまで、
 『死体の乙女』の思し召しに
 従ってきたじゃろう?
 
 けじめとして、
 『誰も犠としない』
 皆で選んで、終わりとせんか?
 『死体の乙女』の意をいちばん
 汲めると思うんじゃ」

「まあウルじい、
 すてきな考えね!
 
 色々あったけれど、
 ゴニヤたちの考えがまた、
 ひとつになる、というわけ!」

「……皆さん……!
 
 それは、とっても良いですね!
 さっそくやりましょう!
 
 では……フレイグから
 受け継いだ『護符』を、
 地面に置きます。
 
 これを指さし、
 『誰も犠としない』を
 皆で選ぶこととしましょう!」

「よいしょっ、と……
 
 よいですね?
 
 『ヴァルメイヤよ!
  信心と結束をいま示します!
  ご照覧あれ!』

 
 血と肉と骨にかけて──
 
   みっつ!
 
     ふたつ!
 
       ひとつ!」

【ルート分岐:到達】

遂に我らは、人里へと辿り着きました。
それを喜ぶにも、犠牲となった3人をいたむにも、けじめは必要です。
旅の終わりをヴァルメイヤに告げるため、『儀』を行いましょう。
もちろん、私の指さす先は……

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